最低限のニーズが満たされるためにコミュニティ内で助け合うことが活動の鍵ーアメリカ・メキシコ湾岸ガス開発現場視察報告(5)

脱化石燃料2024.7.8

アメリカ南東部に位置するメキシコ湾岸。その名の通り、海岸線はアメリカからメキシコへと伸び、湾を出るとキューバ、そしてカリブ海へと繋がっています。生物多様性豊かなテキサス州やルイジアナ州の沿岸地域は、近年巨大化するハリケーンの影響を顕著にうける地域であり、奴隷貿易や黒人奴隷が使役されていたプランテーションの中心地の一つでもありました。2023年10月末、アメリカのメキシコ湾岸周辺で急速にすすむ液化天然ガス(LNG)事業による地域への影響を知るために、FoEJapanはテキサス州とルイジアナ州を訪ねました。ブログシリーズの最終回をお届けします。
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視察の最後に訪れたのはアメリカ南部ルイジアナ州の南西部に位置するレイク・チャールズです。レイク・チャールズではロシェッタ・オゼーンさんが私たちを迎えてくれました。

地図出典:Visit Lake Charles

オゼーンさんは6人の子どもを持つシングルマザーで、ヴェッセル・プロジェクトという事業の運営に加え、様々な団体やネットワークで精力的に活動しています。

オゼーンさんに、LNGの問題に取り組むことになったきっかけについて尋ねたところ、ハリケーンによって受けた影響について話してくれました。

2020年、短期間に、非常に勢力の強い2つのハリケーン、ローラとデルタがルイジアナ州を襲いました(ローラは2020年8月27日に、デルタは2020年10月9日にルイジアナに上陸。ローラはルイジアナ州の観測史上最強の勢力で上陸。)。避難指示が出ていましたが、行政等から十分な支援がなく、避難が困難だった人がたくさんいたそうです。避難する先もわからないまま、オゼーンさんは子どもたちをとにかく車に乗せ、最初はミシシッピ州の方に避難しようとしましたが、最終的に数時間もかけてヒューストンに逃れました。避難の最中、オゼーンさんの娘が、「避難したくてもできない人に金銭支援をします、とにかく連絡して」と知り合いがSNSで呼びかけていたことに気づきます。オゼーンさんが連絡すると直ぐに支援金を送ってくれました。最終的にオゼーンさんたちは避難先のヒューストンのホテルで数週間過ごしました。

その時、オゼーンさんは、「ものごとはこうあるべきだ」と思ったそうです。本来支援をすべき政府は迅速に自分たちを助けてはくれませんでした。支援が必要な人が、必要なときに、適切な支援先に結びつくことができる。迅速に支援してもらった経験がオゼーンさんの心にずっと残っていました。また、支援を必要とする人は自分だけではないはずだと思ったそうです。

ある日、オゼーンさんはフェイスブックに「支援を必要としている人はいますか?」と投稿します。それに対する反応は想像を超えた「クレイジー」なものだったといいます。

オゼーンさんは、コロナ禍のために準備された緊急支援金に申し込み、得たお金を持って、コミュニティの人々を訪ねます。オゼーンさんが住むノースレイクチャールズ地域は多くが黒人で、ハリケーンで壊されたままの家で生活している人や、車で生活している人がいました。オゼーンさんは、そういった人々にホテルに泊まれるように支援し始めます。クレジットカードが使えなくなるまで、支援を続けました。

オゼーンさんはフェイスブックに「支援を必要している人がいる」と訴えますが、「嘘だ」、という人や「ホームレスをしてお金を稼いでいる人もいる」というようなコメントをする人もいたそうです。しかし、オゼーンさんの訴えは徐々に広がり始め、直接支援をしてくれる人が現れ始めました。また、地元の政治家にも市民を助けるように粘り強く訴えかけました。ハリケーンからの復興がままならいまま冬になり、寒波がやってくるという時、市民同士の助け合いにより、300人のホームレスや避難先を必要としている人がホテルに宿泊することができたそうです。オゼーンさんのヴェッセル・プロジェクトはそのようにして始まったのです。

オゼーンさんの車でレイク・チャールズを案内してもらいながら、3年たってもなおハリケーンの影響から復興していない街の様子を伺い知ることができました。

いくつかの家庭にはRV(レクリエーショナルビークル)が泊まっていました。オゼーンさんは、「RVを持っているとお金を持っていると思うかもしれないけど、家を直せないからRVに寝泊まりしているのだ」と説明してくれました。

オゼーンさんは、ハリケーンによって被災したことにより、気候危機や、それを加速させているLNG開発について声をあげるようになったといいます。

ハリケーンだけでなく石油化学産業やLNG開発によって健康被害を受けている人々は黒人の貧困層です。日常から十分な社会補償も与えられず、ハリケーン後の町の再建に十分な支援もありません。そのような状況では、気候危機や企業に立ち向かうことができません。だからこそ相互扶助(ミューチュアルエイド)が必要なのだとオゼーンさんはいいます。

写真:レイクチャールズを案内してくれたオゼーンさん。女子ソフトのグラウンドのすぐ目と鼻の先にタンクが並んでいるのが見える。
写真:レイクチャールズの工場群
写真:昼夜問わずフレアリングが行われている。工場の近くには幼稚園や学校もあった。住居も多く、オゼーンさんは「ここはフェンスラインコミュニティだ」と話す。フェンスラインコミュニティとは、文字通り汚染企業などの工場のフェンス越しにあるコミュニティ。多くの場合、フェンスラインコミュニティは低所得や黒人などのコミュニティと重なっている。

レイク・チャールズには、多くの石油化学企業が密集しています。病気の人も多く、オゼーンさんの子どもたちも肌の病気や気管支系の病気に苦しんでいます。

写真:レイクチャールズの道路沿いにあった広告。「企業による汚染が原因でがんになった人は連絡を」という弁護士事務所の看板。汚染の根本に取り組んでいるわけではなく、汚染を利用して商売しているのでは、と道中オゼーンさんと話す。

もしガス事業や石油化学企業に立ち向かおうと思ったら、地元ですでに苦しんでいる人々に支援が必要です。最初は地域の人々も自分たちの生活が苦しいため、周辺企業がヒアリングを実施していても数人しかそれに参加することができませんでした。しかし今では、そういった活動にも多くの人が参加するようになったといいます。

オゼーンさんとレイクチャールズをみて回った翌日、ニューオーリンズで開催されたFoEUSのカンファレンスでスピーチをしたオゼーンさんは、以下のようにスピーチを締めくくりました。

「誰かがコミュニティにやってきて、あなたたちのためにLNG事業と闘います、支援します、ということではないんです。コミュニティの人々は文字通り、貧困の中で日々生きようと必死です。誰かがやってきてそういった産業と闘うだけでは、コミュニティは脆弱なままです。コミュニティが助け合い、必要な支援を得て、コミュニティ自身が強くなり、彼ら自身が闘うのです。それがヴェセル・プロジェクトで実践している『相互扶助』なのです。」

写真:ロシェッタ・オゼーンさん。

(ロシェッタ・オゼーンさんのお話の部分は、11月8日にニューオーリンズで開催されたFoEUSのカンファレンスでの発言も元に構成)

備考:
・レイク・チャールズでは九州電力が関与するレイクチャールズLNG事業が進んでいるが、バイデン政権による輸出許可一時停止措置により、九州電力は参画判断を延期すると報道されている。
・三菱商事等はレイク・チャールズでクリーンアンモニアの生産事業を行うことを発表している。

(深草亜悠美)

 

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