G7:日本の置かれている立場と求められる取り組みとは
2022年6月にドイツで第48回G7サミットが開催されます。
議長国ドイツは気候変動分野を重要な議題の一つに据えていますが、「脱石炭」を声明に盛り込む議長案に日本政府だけが反対しているとの事前報道がありました。また、5月25〜27日にかけて気候・環境・エネルギー大臣会合が開催されています。
参考:
朝日新聞「日本に難題、石炭火力「30年廃止」 G7環境相会合声明原案」2022年4月26日
日経新聞「「脱石炭」孤立深まる日本 G7、米独が歩み寄り「全廃」削除要求は1カ国」2022年5月22日
気候変動とG7、そして日本の置かれている状況についてまとめました。
脱石炭の重要性
気候危機を食い止めるためには温室効果ガスの排出が最も多い石炭火力発電所の廃止が求められてきました。昨年のCOP26(気候変動枠組条約締約国会議)でも脱石炭の重要性が再認識され、多くの国が脱石炭を宣言しています。例えば脱石炭火力を目指す国などの連合PPCAには現在48の国が参加しています。
パリ協定の1.5℃目標達成のためには、先進国は2030年までに、それ以外の国も2040年までに脱石炭が求められており、今回のG7会議で議長国のドイツが2030年までの国内石炭火力の全廃をG7各国に打診していると報道されています。
日本政府は現在、効率の低い石炭火力発電所のみを廃止する方針を掲げており、さらにアンモニアやバイオマス燃料を混焼することで、効率を上げたとみなす方針で、脱石炭とはほど遠い状況です。また横須賀などで、新規の石炭火力発電所の建設も進んでいます。
海外への石炭火力発電の輸出に対する公的支援に関しては、すでに過去のG7首脳コミュニケに原則停止が明記されています。しかし、日本政府は国際協力機構(JICA)の支援で新たに建設が進められようとしているバングラデシュ・マタバリ2石炭火力発電事業およびインドネシア・インドラマユ石炭火力発電事業を例外扱いしており、公的支援を継続する姿勢を崩していません。
写真:既存のインドラマユ石炭火力発電所。この隣接地で新たな発電所の建設計画が進む。
<参考:2021年のG7首脳コミュニケ抜粋>
公的資金の流れをグリーンに
石炭以外の化石燃料への補助金や公的支援についても、過去のG7やG20、COPなどで議論されてきており、資金の流れを1.5℃目標に合致したものにシフトしていく重要性は今回のG7でも取り上げられると見られています。
米国のNGOオイル・チェンジ・インターナショナルの調査によると、現在も多額の公的資金がG7諸国から化石燃料に流れており、中でも日本による支援はトップクラスです。
出典:OCI G7ファクトシート
一方、昨年のCOPで「クリーンエネルギーへの移行のための国際的な公的支援に関する声明」が発表され、化石燃料事業への国際的な支援を2022年末までに停止することが明記されました。
この声明には日本を除くG7諸国が署名をしており、この点でも日本政府に対する圧力は高まっています。
ロシアのウクライナ侵攻と化石燃料
ロシアのウクライナ侵攻をうけて、ロシアからの化石燃料の輸入停止がG7やEUなどで、進められています(例えば、EUはロシア産の石炭に続き、石油についても輸入を停止する方針を表明しています。日経新聞2022年5月4日付「EUが対ロシア追加制裁案 年内に石油禁輸へ」)。化石燃料の輸出はロシアの歳入の36%を占めており、プーチン政権を支えてきたと考えられます。欧米企業がロシアでの事業から撤退を決める中、日本の官民の動きは鈍いままです。例えば、日本が官民をあげて推進した「サハリン1」「サハリン2」といった石油・ガス事業に関して、欧米の石油メジャーは撤退を表明しましたが、日本の官民は継続する方針を明らかにしています。
今、日本は一次エネルギーの約9割、電力の75%を化石燃料に依存しています。LNGや石炭、原油など化石燃料の価格は国際的にも2021年から上昇し、ウクライナ侵攻の影響で今後さらに上がる見通しです。それは当然、家計にも影響します。特にコロナ禍ですでに影響を受けている生活困窮者などへの負担増が懸念されます。
このような状況の中「エネルギー安全保障」の議論では、原発再稼働や石炭火力の維持などの声も強くなっています。しかし、原発は、莫大な安全対策費が必要で、燃料も輸入に依存しています。事故やトラブルも多く、戦争やテロの攻撃対象になるリスクもあります。「エネルギー安全保障」とは真逆のものです。海外産の化石燃料への依存こそ、エネルギーコスト上昇に結びついてきました。
気候変動対策のためには化石燃料依存を断ち切らなければなりません。解決不可能な核のごみをはじめ、さまざまな問題を抱える原子力発電の再稼働、新設や新型炉の開発も、行うべきではありません。早急に進めなければならないのは、エネルギー政策の根本的な見直しと、省エネの徹底など短期の需給状況への対策です。
EUは先般RePowerEUという政策パッケージを発表しましたが、これはロシア産化石燃料への依存脱却とともに気候変動対策も追求する内容になっています。
最後に
来年は日本がG7の議長国です。日本政府が、気候変動政策などでG7の中で孤立していると報道されていますが、来年のG7でリーダーシップを発揮するためにも、日本政府には気候変動対策の強化、脱化石燃料に向けた強いコミットメントが求められます。(深草亜悠美)
参考:
- ”OPINION: G7 must seize opportunity to shift public finance from conflict-fuelling gas into clean energy” https://news.trust.org/item/20220525064817-1fvro/
- OCI, FoE Japan, FoE US, APMDD, IISD ”Opportunity to Shift G7 Finance From Fossils to Clean Energy”