今さら石炭火力の延命計画!?「GENESIS松島計画」の環境アセス配慮書に意見を提出しました
こんにちは。FoE Japanの高橋です。
9月28日、電源開発株式会社(以下、J-POWER)が、長崎県西海市の松島石炭火力発電所の一部の設備を、石炭ガス化複合発電の設備を備え付けるという計画について、計画段階環境配慮書への意見募集を開始しました。
この計画は、1981年から稼働してきた旧式(超臨界圧)石炭火力2機のうち第2号機に、石炭をガス化する設備をつけ、今後も使い続けるというものです。
この事業者であるJ-POWERは、昨年10月の菅前首相によるカーボンニュートラル宣言以降、加速化するカーボンニュートラルの流れを受け、2021年2月に「J-POWER “BLUE MISSION 2050"」を発表しました。そして、立て続けに、2021年4月には、J-POWERの中期計画において、既存設備にガス化設備を付加することにより、水素を利用した高効率な発電システムへの「アップサイクル」を進めるという「J-POWER GENESIS Vision」を発表しました。今回の松島火力発電所での計画は、その「アップサイクル」の第一号の計画です。
気候危機が加速する中、これ以上の気候変動による深刻な被害を防ぐためには、迅速かつ確実に温室効果ガスの削減につながる対策が求められています。今年の8月には、IPCCの第6次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)が公表され、それを受け、国連事務総長アントニオ・グテーレス氏は、
「2021年以降、石炭火力発電所は新設されるべきではないこと」
「経済協力開発機構(OECD)加盟国は2030年までに、他のすべての国々も2040年までに、既存の石炭火力発電所を段階的に廃止しなければならないこと」
「各国は化石燃料の新たな探査と生産をすべて中止し、化石燃料への補助金を再生可能エネルギーに振り替えるべきであること」
を訴えています。
また、いよいよ来週からのCOP26の議長国英国のジョンソン首相も、10月13日の電話会議にて、岸田首相に対し国内の石炭火力をやめるよう要求しています。
このような背景も踏まえ、FoE Japanもこの「GENESIS松島計画」に対し、下記の通り意見を提出しました。
PDFはこちらです。
1. 石炭火力事業はそもそもおこなうべきではない。パリ協定1.5℃目標の達成を遠ざける。
気候変動による深刻な被害が広がりつつある現在、気候変動によるこれ以上の損害を防ぎ、パリ協定の1.5˚C目標達成のためには、迅速かつ確実に温室効果ガスの削減につながる対策が求められている。今年6月に開催されたG7では、G7各国の首相は石炭火力を最大の温室効果ガス排出源として認め、国内電力システムの大幅な脱炭素化や、石炭火力輸出に対する公的支援の停止にコミットしたさらに、2021年8月に公表されたIPCCの第6次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)を受け、国連事務総長アントニオ・グテーレス氏は下記のことを訴えている。
- 2021年以降、石炭火力発電所は新設されるべきではないこと。
- 経済協力開発機構(OECD)加盟国は2030年までに、他のすべての国々も2040年までに、既存の石炭火力発電所を段階的に廃止しなければならないこと
- 各国は化石燃料の新たな探査と生産をすべて中止し、化石燃料への補助金を再生可能エネルギーに振り替えるべきであること。
石炭火力発電所からの脱却は、世界の要請である。石炭ガス化複合発電という形であっても、石炭を使用し続けることにはかわりなく、気候危機をさらに加速させるものであると言わざるをえない。
2. 同事業はJ-POWERのカーボンニュートラル方針と矛盾する。
2050年カーボンニュートラルを約束した「J-POWER “BLUE MISSION 2050”」の名の下、新たな化石燃料の探査と生産を伴う同事業は、「ゼロエミッションウォッシュ」そのものである。真にカーボンニュートラルを目指すのであれば、石炭の使用を前提とした石炭ガス化複合発電や、石炭由来の「CO2フリー水素」の製造、新たな化石燃料の探査と生産を伴うアンモニアに依存したゼロエミッション火力ではなく、再生可能エネルギーによって2050年にCO2ゼロエミッションを目指すべきである。
3. 設備の「アップサイクル」による温室効果ガス排出削減量の定量的データが示されていない.
本事業は、カーボンニュートラルに向けた流れの加速化に伴い、発電方法を改善するものとして計画されているが、どれほど温室効果ガス排出量が削減されるのかの具体的数値が示されていない。現状の温室効果ガス排出量のほか、設備の「アップサイクル」による温室効果ガス排出削減量の定量的データを記載するべきである。
4. 温室効果ガスの排出量が、配慮事項として考慮されていない。
配慮書では、「アップサイクルにより効率の向上を図り、発電量あたりの二酸化炭素排出量を低減することから、配慮事項として選定しない」との理由から、計画段階配慮事項から温室効果ガス等の項目を削除している。気候変動が加速する中、どのような事業であれ、温室効果ガスの測定が求められているため、温室効果ガスの排出量も、計画段階配慮事項に選定すべきである。
5. 複数案の検討結果が明記されていない。
配慮書では、「複数案の設定を検討したが、環境影響に有意な差がある複数案はなく、計画段階環境配慮書における事業計画案は単一案とした」と記載されているが、太陽光や風力、潮力などの再生可能エネルギーによる発電方法を検討すべきである。なお、気候変動が加速する中、温室効果ガスの更なる増加をもたらす化石燃料やバイオマスによる発電方法や、放射性廃棄物の問題がある原子力発電については、検討案として入れるべきでない。
6. 事業想定区域の動物の生息調査について、現地確認がなされていない。
事業想定区域の動物の生息調査について、文献その他の資料調査に留まっている。事業区域内の動物の生息調査は、現地確認もすべきである。
7. 事業で検討されている技術はいずれも環境負荷の高いものである。
本計画は、1981年に石炭火力発電所として稼働していた松島2号機(出力50万kW)を、石炭ガス化設備を新設し、また、アンモニアやバイオマスも燃料として活用しながら、将来的には石炭由来の「CO2フリー水素」をつくってカーボンニュートラルと目指すというものである。しかし、同計画で予定されている技術には、どれも問題が多い。それぞれの問題点について以下に示す。
- ガス化施設
2012年以降大崎クールジェンにて実証実験されてきたガス化技術を、今回初めて商用化するとしている。しかし、石炭をガス化して効率を高めたとしても、発電時にCO2を排出することにはかわりないため、問題である。
- CCS
「ガス化技術は、CCUS/カーボンリサイクルと高い親和性を持つ」と書かれているが、本配慮書において、発電所から排出されたCO2の分離回収設備については新設設備の一覧に記載されておらず、また、温室効果ガスの回収率はどの程度なのか、回収したCO2をどこに貯留するのか、どのように再利用するのかの記述が一切見当たらない。そもそも、CCSは、回収した炭素を埋めるために広大な土地を必要とする。さらに、仮に石炭火力発電所にCCSを設置しても、温室効果ガスの回収率は9割程度と完全ではなく、回収に際しては莫大なエネルギーが必要となる上に、現時点では実用化には高いコストがかかるため、商用化は現実的でない。
- アンモニア混焼
カーボンニュートラルを実現するために、将来的にはカーボンフリー燃料である燃料アンモニアの混焼をあげている。しかし、水素、燃料アンモニアについては、現状、化石燃料から生成される予定であることが、官民協働燃料アンモニア協議会の中間取りまとめ資料にて記載されている。化石燃料から水素や燃料アンモニアを生産する際には、化石燃料採掘時や水素やアンモニア生成時多くの温室効果ガスを排出する。この時に排出された温室効果ガスを回収した「ブルー水素」「ブルーアンモニア」も検討されているが、回収時に莫大なエネルギーを使うため、石炭よりもブルー水素・ブルーアンモニアの方がカーボンフットプリントが多くなるという研究もある。また、海外で燃料アンモニアや水素を生産し、それを輸送することになると考えられるが、現時点では輸送時にも温室効果ガスが発生する。以上の観点から、ライフサイクル全体で見た際に、温室効果ガスを低減できていない燃料アンモニアは、発電の燃料として使用すべきでない。
- バイオマス
混焼のための燃料として、アンモニアの他にもバイオマスがあげられている。バイオマス発電は、燃料となる植物の燃焼段階でのCO2排出と、植物の成長過程における光合成によるCO2の吸収量が相殺されるとされ、「カーボン・ニュートラル」であると説明されることが多いが、これは「燃焼」という一つの段階のみをとりあげ、燃料を生産した植生が元通り再生されるという前提にたっている。バイオマス発電は、燃料の栽培、加工、輸送といったライフサイクルにわたるCO2排出を考えれば、実際には、「カーボン・ニュートラル」とは言えない。また、燃料の生産にあたり、森林減少など土地利用変化を伴う場合がある。その場合、森林や土壌に貯蔵されていた大量の炭素が、CO2の形で大気中に排出されることになる。つまり、バイオマス発電の促進が、地表での重要な炭素ストックである森林や土壌を破壊し、むしろCO2排出の原因となってしまうこともある。さらに、燃料生産のために伐採した森林が、もとの状態に回復したとしても、回復には数十年以上かかることが多く、それまでは森林に固定化されていた炭素が燃焼により大気中に放出されるため、大気中のCO2の増加に寄与していることになる。
- “ネガティブエミッション”の認識の誤り
配慮書では、「バイオマスの使用に加えて、CCSを実施した場合、光合成を通じて大気中のCO2を固定したバイオマス燃料により発生するCO2を分離・回収して地中に埋めることになるため、発電所の運用によりCO2排出量を実質ゼロにする”ネガティブエミッション”が可能」書かれている。しかしこの考え方は、数万年単位の時間をかけて作られた化石燃料を燃焼することによって排出されたCO2は、数時間〜数百年の時間のサイクルで循環する大気・海洋・陸地における生態系による炭素循環とは違う時間軸での排出であり、生態系による炭素循環の中に組み込まれないという重要な性質を見落としている。
*カーボンニュートラルの問題点については、次を参照されたい。
・FoE Japan, 「“カーボンニュートラル”のまやかし」, 2021/10/18
・FoE Japan, 「翻訳レポート発行『カーボンユニコーンを追いかける〜炭素市場と「ネットゼロ」のまやかし〜』」, 2021/10/25
8. その他、意見募集のあり方について
意見提出のあり方について、今回の配慮書への意見提出方法は、郵送のみを想定したものとなっている。より広範な市民からの意見を募集する観点から、郵送だけでなく、電子メール、電子フォーム等を活用することが望ましい。方法書以降の手続きでは、意見募集方法を改善することを要望する。
締切は10月29日!皆で意見を出そう!
本件について、気候変動に取り組むたくさんの仲間が意見を出しています。
意見提出の期限は今週金曜日です。提出方法は、今回郵送のみと限られており、期限までの時間はわずかですが、実際に配慮書に目を通したり、他の団体の意見もぜひ参考にしたりして、意見を届けましょう!
▼事業者が公表した計画段階環境配慮書はこちら
環境アセスメント GENESIS松島計画(J-POWERのHP)
▼他団体の提出意見等についてはこちら
・気候ネットワーク:「GENESIS松島計画」に対する環境アセスへの意見提出を(2021/10/15)
・350 New ENEration:https://www.instagram.com/350neweneration/
(高橋英恵)