インドネシア・バタン石炭火力発電事業でおきている人権侵害に関し、緊急要請書を提出

脱化石燃料2024.7.17

スタッフの深草です。FoE Japan・開発金融と環境プログラムでは、公的資金で支援されたプロジェクトが現地の環境や社会に負の影響をもたらすことがないよう、調査や政策提言を行っています。

現在もいくつかのプロジェクトをFoEスタッフがモニタリングしていますが、インドネシアのバタン石炭火力発電所事業をめぐって、人権侵害の問題が深刻になっています。現地からの報告をお伝えします。

バタンの発電事業を巡っては、日本の国際協力銀行(JBIC)が融資を検討中。JBICが環境社会面の現地調査を実施した直後に、事業者による新たな人権侵害が起きていました。その大変憂慮すべき事態をうけ、 3月7日、日本のNGO4団体(国際環境NGO FoE Japan、インドネシア民主化支援ネットワーク(NINDJA)、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、気候ネットワーク)から日本政府・JBICに対し、早急な事実確認としかるべき対応を求める緊急要請書を提出しました。

同事業については、農業、漁業など生計手段への影響やさまざまな人権侵害を懸念する地元住民が昨年7月にJBICへの異議申立てを行ない、JBICに融資を拒否するよう求めていました。

その後、JBICは「JBIC環境社会配慮ガイドライン」に則った適切な環境社会配慮が行われているか確認作業を続けており、3月初めにも現地調査を実施。異議申立てを行なった住民らとも会合を行ないました。同会合では、住民からさまざまな人権侵害、未売却の農地へのアクセス・灌漑への影響、すでに起きている生計手段の喪失などが報告されるとともに、JBICに対し、改めて融資拒否を求める要請書も提出されました。

しかし、そのJBICと住民間の会合から間もない3月4日、事業者側は未売却の農地へのアクセスを完全に遮断し始めました。事業予定地では土地の売却を拒否している約60名の農民らが、依然として耕作を続けており、収穫期を控えている農地も多くありますが、今回の農地へのアクセスの完全な遮断は、農民に収穫もさせず、農地から締め出そうとする事業者側の新たな脅迫・強制行為に他なりません。

同事業の融資調達期限が4月6日に迫っているなか、事業者側のJBICガイドラインに則った適切な環境社会配慮を実行しようという意思、ひいては、人権に配慮しながら問題解決を図っていこうという意思が明らかに欠如しているような事業に対し、融資拒否という賢明な判断をとることがJBICに求められています。
以下、NGOからの要請書です。

>PDFはこちら
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2016年3月7日

内閣総理大臣 安倍 晋三 様
財務大臣 麻生 太郎 様
国際協力銀行 代表取締役総裁 渡辺 博史 様

インドネシア・中ジャワ州バタン石炭火力発電事業
JBIC現地調査直後に起きている人権侵害に係る緊急要請

現在、国際協力銀行(JBIC)が融資を検討中の「インドネシア・中ジャワ州バタン石炭火力発電事業」について、JBICは『環境社会配慮確認のためのJBICガイドライン』(以下、ガイドライン)に基づく環境レビューの一環として、2016年3月1日に同事業に反対する住民らとの面談を実施されました。同面談では、住民からさまざまな人権侵害の報告がなされたため、JBICが事業者に事実関係を確認し、人権配慮とガイドラインに則った適切な対応を求めるものと私たちは期待しておりました。ところが、JBICが帰国した直後に、未売却の農地へのアクセスを巡り、現場で新たな人権侵害が起きていることが明らかになりました。具体的には、以下のような問題です。

これまで、未売却の農地への自由なアクセスが制限されている、あるいは、通常とは異なるルートで遠く迂回して農地に行く必要があったものの、事業者によって事業予定地周辺に張り巡らされたフェンスの数箇所が開放されていることで、曲りなりにも通行可能な状態にはなっていました。

しかし、現地住民からNGOに寄せられた情報によれば、JBICが反対派住民と面談して間もない同年3月4日から、開放されていた箇所についても事業者側がフェンスを設置し、未売却の農地へのアクセスを完全に遮断する作業を始めたとのことです。また、同作業に伴い、農作物の一部が踏みつけられたり、土で埋められるなどの被害も出ているとのことです。同作業の現場には、事業者の警備要員、警官等が同行し、農民は抗議しようにも為す術がない状況に晒されています。

事業予定地では土地の売却を拒否している約60名の農民らが、依然として耕作を続けており、収穫期を控えている農地も多くあります。彼らは、上記3月1日の面談のなかで、事業者による生計手段の回復措置は効果的でないという考えを示しており、土地の売却にも補償措置にも合意せず、今後も農民として生活を継続していく堅い決意を示していました。また、農地へのアクセスや水供給の制限が、地権者に精神的なプレッシャーをかけて土地を売却させようとする事業者側の脅迫・強制行為の一つであるとも説明していました。今回のような農地へのアクセスの完全な遮断は、農民に収穫もさせず、農地から締め出そうとする事業者側の新たな脅迫・強制行為です。

しがたって、私たちは、以下のとおり、日本政府・JBICに緊急要請をさせていただきます。
(i) 3月1日の反対派住民との面談後、JBICが未売却地へのアクセスについて、事業者に確認した内容、および、事業者に求めた対応について明らかにすること。
(ii) 3月4日から事業者側が未売却地へのアクセスを完全に遮断する作業を行なっているという住民からの報告について、早急に現場での事実確認を行ない、農地への自由なアクセスの確保や被害を受けた農作物に対する補償等、しかるべき対応を事業者に求めること。事実確認は、事業者を通じてのみではなく、JBIC自身、もしくは、第三者を通じても行なうこと。

同事業については、これまでにもさまざまな人権侵害が指摘され、改善が求められてきましたが、今回のように、JBICの現地視察直後においても、事業者が地権者・農民の人権を尊重するどころか、人権侵害を繰り返し、かえって事態が悪化している状況は大変憂慮すべき事態であると考えます。このように事業者やインドネシア政府側に、JBICガイドラインに則った適切な環境社会配慮を実行しようという意思、ひいては、人権に配慮しながら問題解決を図っていこうという意思が明らかに欠如しているような事業に対し、巨額の私たちの公的資金が投じられるべきではありません。

JBICガイドラインでは、「環境レビューの結果、適切な環境社会配慮が確保されないと判断した場合は、適切な環境社会配慮がなされるよう、借入人を通じ、プロジェクト実施主体者に働きかける。適切な環境社会配慮がなされない場合には、融資等を実施しないこともありうる。」と規定されています。現在、同事業の融資調達期限が4月6日に迫っておりますが、ガイドラインの同規定にもあるとおり、環境レビューの結果を融資の意思決定に反映し、同事業への融資拒否という賢明な判断をとっていただけますようJBICに要請致します。

以上

国際環境NGO FoE Japan
インドネシア民主化支援ネットワーク(NINDJA)
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク

Cc: 伊藤忠商事株式会社 代表取締役社長 岡藤 正広 様
電源開発株式会社(J-POWER) 取締役会長 前田 泰生 様
電源開発株式会社(J-POWER) 取締役社長 北村 雅良 様
株式会社三井住友銀行 取締役会長 北山 禎介様
株式会社みずほ銀行 取締役頭取 林 信秀様
株式会社三菱東京UFJ銀行 頭取 平野 信行 様
(以上)

>バタン石炭火力発電事業の詳細については、こちら

 

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