COP21報告会 Climte Justice Now!

気候変動2024.7.17

スタッフの深草です。先週2月18日に Climate Justice Now! パリ合意で気候と人々の生活は守られるのか?を東京で開催しました。ウェブサイトに資料も掲載しています。

昨年2015年12月にパリ協定が合意され、ポスト京都の新しい法的枠組みが生まれました。
このパリ協定や気候変動を巡る動きなどについて、東北大学の明日香寿川先生とFoE小野寺ゆうりから気候の公平性や気候の正義という観点から報告がありました。私からはフィリピンで調査した気候変動影響による損失と被害の様子を報告しました。動く→動かすの稲場雅紀さんからはSDGsとCOPの関わりや、SDGsの最新情報について報告がありました。

Climate Justice (気候の公平性)とは、先進国に暮らす人々が化石燃料を大量消費してきたことで引き起こした気候変動への責任を果たし、すべての人々の暮らしと生態系の尊さを重視した取り組みを行う事によって、化石燃料をこれまであまり使ってこなかった途上国の方が被害を被っている不公平さを正していこうという考え方です。

気候の公平性の観点から、今回のパリ合意が人々や気候を守る事ができるのか?
今回パリ協定において、気候変動の影響、いわゆる「損失と被害(loss and damage)」については、独立した条項が設けられました。気候変動による損失や被害そのものは認められたものの、その損失や被害に対する’補償’に関しては、協定内には盛り込まれませんでした。その背景にはアメリカの強固な反対があり、決定文(合意文の方とはちがい法的拘束力はない)の中では「この協定が損失と被害に対し、補償の根拠になるものではない」と付け加えられました。ただし決定文の中の話なので、今後の交渉によってはかわっていく可能性があります。

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明日香先生は、パリ合意は残念ながら「自主的」な取り組みにまかされた部分が多いが、ビジネスや司法へのインパクトは大きいと評価されていました。
興味深かったのは、気候変動による被害によって生じている人権侵害が訴訟に発展し、実際に勝訴しているケースもあるという事です(例えばオランダの市民団体が温室効果ガスの削減目標が低すぎるということでオランダ政府を訴えたケース。一審で市民側が勝訴し、政府は上告しているそう)。こういったケースが増えてくると、今後気候変動と訴訟リスクといった観点の補償の議論もすすむかもしれません。
ビジネスにおいては、ここ数年化石燃料関連に投資されていたお金からを撤退させる(ダイベストメント)が進んでいます。たとえば、ノルウェーやオランダの政府年金基金はダイベストメントに賛同して化石燃料セクターへの投資からの撤退を表明しています。年金基金だけでなく、大学や保険会社、銀行もダイベストメントに賛同するところが増えています。

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FoE小野寺から、パリ合意にいたるプロセスにおいてもアメリカの意向が大きく反映されたものであったと報告がありました。アメリカの合意は不可欠ですが、米国議会で拒否されてはアメリカの参加がなくなってしまいます。ということで、議会に否決裁決させないような合意内容にするため、という名目で駆け引きがあったようです。
二国間クレジットや炭素取引のスキームがパリにも引き継がれていることに注意が必要だという指摘もありました。このままでは、日本の原発や高効率石炭火力が’温室効果ガス削減に役立つ’として、クレジットのために輸出されてしまう可能性がありますので、要注意です。
さらに過去には、バイオエネルギーのために穀物用農地をエネルギー用に転換したことから、穀物価格が高騰し、食糧安全保障が脅かされるという事態にも発展しています。

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私からは昨年行ったフィリピン調査の報告を行いました。
フィリピンではカテゴリー4や5(5はスーパー台風とも呼ばれ、家屋が倒壊したり甚大な被害がでるレベル。4も浸水や家屋被害などがでる威力の強い台風です)の台風が増えており、繰り返し被害を受けるので、なかなか回復できず貧困の連鎖から抜け出せない人も多くいます。
たとえば、2013年にフィリピンを襲った台風ハイヤンですが、その時に家を失った人がいまだに仮住まいにすんでいたり、住宅補償や生活手段再建の支援がない状態にあります。(詳しくはこちらで報告しています)

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動く→動かすの稲場さんからはSDGs(持続可能な開発目標)の話がありました。
SDGsもパリ協定と同じ2015年に国連で採択されました。これまでのMDGs(ミレニアム開発目標)にかわる新たな枠組みです。持続可能な社会にむけて17の大きなゴールを定めています。
17の目標のうち、目標13が「気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策をとる」です。基本的に気候変動問題はUNFCCC-COP(国連気候変動枠組条約締約国会議。所謂COP21パリ会議など。)の場で決められるので、SDGsにおいて気候変動に対して何か具体的に決まったりする事はありません。
SDGsの主題は「我々の世界を変革する Transforming our world」でした。
印象的だったのは、SDGsでスローガンであった’leave no one behind(誰も取り残さない)’が裏を返せば自分が取り残されないために、このままじゃ自分が取り残されるという方向で推進力にもなっているという話でした。これでは自国中心・競争原理から抜け出せていない、変革にはつながりません。稲場さんのまとめの中で「SDGsをオルタナティブとして、国レベルでの格差と貧困の解消、誰も取り残さない原則にこだわる」必要性と、オルタナティブ思考の市民社会を構築する必要性があげられました。市民社会の重要性は確かですが、強固な市民社会を構築するためにはNGOの役割が重要になってくるのではないでしょうか。

会場の方に回答していただいたアンケートをみると「FoEの見方は悲観的すぎる」「代替案の提示にかけるのでは」といった意見を頂きました。確かにそうかもしれません…COP21やパリ合意に対しFoEグループは厳しい見方をしています。ただ、合意が結ばれたことで完全に満足している環境団体や活動家はいないのではないかというのも私の実感です。協定の細部を検証し、評価出来る点はのばし、不十分な点は変えていく必要があります。気候変動の被害を被って来た人々が補償されるような仕組みづくりの為には政策提言や、被害の可視化といった活動を続ける必要があると感じます。

ただし、明日香さんのお話にもあったように、ビジネスや金融セクターの中で、気候変動をリスクとして捕らえる動きは確実にあるように思います。
パリ協定は始まりにすぎません。

(文責:スタッフ深草)

 

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