インドネシア・ドンギ・スノロLNG事業とは?

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1.事業の概要

目的:3つの陸上ガス田から供給されるガスから液化天然ガス(LNG)を生産・販売
 ・ガス液化設備の建設・操業
   生産能力=年間約200万トン (1系列)
   約65%は日本へ輸出
 ・LNG貯蔵タンク=17万キロリットル(有効容量)
 ・陸上パイプライン(各ガス田からガス液化設備への輸送)
* LNGの他、コンデンセートも生産・販売=原油換算約 47,000バレル/日

サイト位置:中スラウェシ州バンガイ県(事業用地約100 ha)

総事業費:約29億米ドル
    (上流事業は含まず、中流事業のLNG生産・販売のみ)

事業実施者:

<中流事業>(ガス液化、LNG販売)
・PT Donggi Serono LNG(ドンギ・スノロLNG社/DSLNG社)
  - スラウェシLNGディベロップメント社59.9%(三菱商事75%、韓国ガス公社25%)
  - プルタミナ・フル・エナジー社29%
  - メドコLNGインドネシア社11.1%
※三菱商事=DSLNG資本比率は44.9%

<上流事業>(ガス生産・供給)
・マティンドック鉱区=プルタミナE&P社100%
  - マティンドック・ガス田およびドンギ・ガス田のガス生産施設から
    計8,500万立法フィート/日をDSLNGに供給
・スノロ・トイリ鉱区=プルタミナ・フル・エナジー・トモリ・スラウェシ社50%、
            メドコE&Pトモリ・スラウェシ社30%、
           トモリE&Pリミテッド20%(三菱商事51%、韓国ガス公社49%)
  - スノロ・ガス田のガス生産施設から2億5,000万立法フィート/日をDSLNGに供給
※三菱商事=鉱区権益10.2%を保有

オフテーカー:JERA(100万トン/年。13年間)、九州電力(30万トン/年。13年間)、韓国ガス公社(70万トン/年。12年間)

融資機関:国際協力銀行(JBIC)、韓国輸出入銀行(KEXIM)、民間銀行団(三井住友、三菱UFJ、みずほ、韓国民間2行)

保険機関:日本貿易保険(NEXI)、韓国輸出入銀行(KEXIM)

被影響住民:バンガイ県バトゥイ郡、南バトゥイ郡、西トイリ郡の漁民および農民
     (上流事業を含む)

2.日本との関わり

公的機関の関わり:

・国際協力銀行(JBIC)
  - DSLNG社への協調融資総額約15億2,700万米ドルのうちJBIC分7億6,300万ドルの融資(2014年11月)
  - 三菱商事に計3億1,370万ドルの貸付(2015年1月)

・日本貿易保険(NEXI)
  - 三井住友銀行(エージェント行)、三菱UFJ銀行、みずほ銀行による融資(計3億8,200万ドル)に対する11年間の保険引受(2014年11月)
  - 日揮に対する輸出保険引受
  - 三菱商事出資分に対する投資保険引受

・独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)
  - 三菱商事、インドネシア国立大のバンドン工科大学(IBT)、パンチャ・アマラ・ウタマ社(PAU)との間で、二酸化炭素回収貯留(CCS)に関するドンギ・スノロLNGプラント近郊での実施可能調査の覚書に調印(2021年3月)

日本企業の関わり:

・三菱商事
  - 上流事業:スノロ・トイリ鉱区のトモリE&Pリミテッド社出資51%(同鉱区権益比率は10.2%)
  - 中流事業:スラウェシLNGディベロップメント社出資75%(DSLNG資本比率は44.9%)

・日揮ホールディングス=基本設計(FEED)、設計・調達・建設・試運転(EPCC)受注

・トーヨーカネツ=日揮の下請け、LNG貯蔵タンクの設計、材料調達、建設。

・民間銀行団(三井住友、三菱UFJ、みずほ)=DSLNG社への協調融資総額約15億2,700万米ドルのうち計3億8,200万ドルの融資

・JERA=100万トン/年のLNG購入(2015年から13年間)。三菱商事、プルタミナ社、メドコ・エナジー社との間で、LNG購入の一部を第三者に販売するためのマーケティング会社設立

・九州電力=JERAと同期間に30万トン/年のLNG購入

3.主な経緯

動き
2007年12月28日ドンギ・スノロLNG(DSLNG)社設立
2010年10月中部電力(当時。現JERA)がDSLNG社と売買に関する基本合意書締結
2011年1月九州電力がDSLNG社と売買に関する基本合意書締結
2011年1月三菱商事が最終投資決定
2011年1月日揮が設計・調達・建設・試運転(EPCC)受注を発表
2011年6月10日トーヨーカネツが請負業者として参画
2014年10月スノロ・ガス田のガス生産施設からDSLNGにガス供給開始
2014年11月12日銀行団がDSLNG社と貸付契約締結
2015年1月16日銀行団が三菱商事と貸付契約締結
2015年1月29日銀行団が三菱商事と貸付契約締結
2015年6月24日LNG生産開始
2015年8月2日プルタミナ社のアルン基地に向け第一船出荷
2016年4月ドンギ・ガス田のガス生産施設で操業開始
2017年4月マティンドック・ガス田のガス生産施設で操業開始
2021年3月三菱商事、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、インドネシア国立大のバンドン工科大学(IBT)、パンチャ・アマラ・ウタマ社(PAU)がCCSに関するドンギ・スノロLNGプラント近郊での実施可能調査の覚書に調印
2021年12月8日第250船出荷

4.主な問題点

(1)漁民の生計手段への影響と適切な住民協議の欠如

a)中流事業による漁業への影響

DSLNGが立地するバトゥイ郡ウソ村の沿岸では、かつて多くの「ルンポン」(集魚装置)が一面に設置されていたという。カツオなど多様な魚が豊富に獲れ、手漕ぎの小型漁船で1~3人で漁に出る者もいれば、中型漁船(パジャラ。15名程が乗船)で漁網の引き揚げに従事し収入を得る者もおり、多くの住民が漁業に携わっていた。

しかし、LNGの生産開始以降、DSLNG事業地から半径約1km程に及ぶ沿岸海域およびLNGタンカーの航路が立入禁止区域に指定され、当該区域内での漁業活動は一切できなくなった。ルンポンを仕掛けてもすぐに撤去される状況である。さらに、周辺漁場へ向かうために同区域を通過することも認められておらず、わずかでも立ち入れば警備がスピードボートで来て追い払われる。警察が同行し、ライフル銃で漁師を狙う動きを見せたこともあるとの報告もある。

また、立入禁止区域周辺で漁を試みても、DSLNG事業地から発せられる強い光が広範囲に及ぶため、以前のように夜間に松明などのわずかな光で魚をおびきよせることが困難になった。さらに、より沖合でルンポンを仕掛けても、同海域ではニッケル鉱石の大型運搬船の航行が始まったことで、ルンポンが損傷したり喪失したりしている。こうした状況のもと、小中規模の漁船が利用できる漁場は、多様な産業開発により益々狭められているのが現状だ。

現在、ウソ村の漁師たちの中には5〜7時間かかる漁場まで出かけている者もいる。しかし、沿岸で漁をすることができた以前に比べて漁船の燃料費は4〜6倍に膨らみ、燃料費自体も2倍近くに高騰している中、燃料費を借金し、漁獲後に返済しなくてはならないこともあるという。漁に丸一日以上の時間を費やしても、純益が以前の10分の1以下に落ち込むケースも報告されている。ウソ村の漁師たちは経済的に非常に厳しい状況に追い込まれており、漁業に携わる住民の数は明らかに減少している。漁師らからは、立入禁止区域のない自由かつ安全な漁場を取り戻すことを切望する声があがる一方、それが実現されないのであれば相応の補償がなされるべきとの主張も聞かれる。

b)上流事業による漁業への影響

上流事業である港湾設備を有するスノロ・ガス田のガス生産施設周辺の沿岸域においても、立入禁止区域が設定されている。南バトゥイ郡シノラン村の漁民グループによれば、当該施設周辺には監視カメラが設置され、企業の警備員に加え、銃器を携行した軍・警察が配備されており、常時漁業活動が禁止されている。さらに、大型船の入港時には、当該区域を漁船で通過することすら認められていないという。

同事業以前には、現在の立入禁止区域を含む沿岸域で漁が可能であった漁師らは、現在ではより遠方の海域まで出るか、あるいは禁止区域を迂回して漁に向かわざるを得ない。その結果、燃料消費量が約4倍にまで膨らんでいるケースも報告されている。支出が増加する一方で漁獲量はそれに見合わず、しばしば損失を被っている漁師は多い。また、波が高くなる季節には沿岸以外での漁は危険を伴うため、安全面でのリスクも高まっている。シノラン村の漁民グループは、企業による補償や優先雇用の約束が履行されていない点を指摘するとともに、少なくとも船舶の航行がない期間には立入禁止措置を解除し、関連施設周辺での自分たちの漁業活動を認めるべきだと主張している。

c) 海域での立入禁止区域設定に係る適切な住民協議の欠如

ウソ村の漁師の多くは、DSLNGの事業者が設定した沿岸域での立入禁止区域について、実際に漁に出た際にその場で初めて知ったと報告している。これは、DSLNG事業の建設開始前に適切な住民協議が行われていなかった可能性を示唆しており、多くの漁師らは自らの生計手段に影響を及ぼす漁場海域における立入禁止区域の設定について、事前に懸念や反対を表明する機会を与えられていなかった。また、禁止区域の境界を示す浮標は設置されているものの、当該地域での立入禁止区域の範囲を明確に示す地図等はこれまで提示されたことはない。

シノラン村の漁民グループについても、当該地域での立入禁止区域の範囲を示す地図等を提示されていない。さらに、ガス生産施設の操業開始当初に設置されていた禁止区域の境界を示す浮標もすでに無くなってしまっているとのことで、施設周辺の半径何メートルが立入禁止とされているのか、正確な情報を持ち合わせていない状況である。加えて、そもそも、企業側からシノラン村の漁師らに対する説明会(Socialisasi)が初めて開かれたのは、すでにガス生産施設の建設作業が終わり、第一船が入港する前のことであった。そのため、漁師らは自分たちに影響を及ぼすこうした海域での立入禁止区域の設定について、事前に懸念や反対を表明する機会を与えられていなかった。

(2)農作物の収穫や健康状態への影響と大気汚染の可能性

a) 大気汚染による農民の生計手段への影響の可能性

DSLNGが立地するウソ村では、農業のみを専業としてきた農家は多くなく、農業を主な生計手段としつつ農閑期に漁に出てきた者、また漁業を主な生計手段としながらも波の荒い時期には農地で耕作に携わってきた者など、世帯ごとにその従事の程度は多様であるが、盛んに農業が営まれてきたた。ココヤシ、バナナ、カシュー、カカオ、トウガラシ、トウモロコシ、タロイモ、パイナップルなど、栽培している作物も世帯によってさまざまである。

しかし現在、ウソ村では、DSLNG事業開始以前にはみずみずしい緑の葉を付け、順調に生育していた多くの作物において、収穫量の減少や生育不良が見られるようになったという報告が後を絶たない。作物によっては、事業以前は肥料を利用しなかったにもかかわらず、事業開始後は肥料を使うようになり、肥料の投入量を増やしても状況が芳しくないという。

主な被害の例としては、以下のとおりである。
・ココヤシ:収穫できる果実の数が減少。果実が大きくならず小さいまま 等。
・バナナ:果実が大きくならず小さいまま。葉の上部から黄ばんでいき、最終的には乾いて枯れてしまう 等。
・カシュー:果実の部分が焦げたようになり、収穫量が減少 等。
・トウガラシ:以前のように背丈が高くならない。肥料を投入しなくてはならなくなった。収穫量が減少。乾いて枯れてしまう 等。
・トウモロコシ:以前のように背丈が高くならない。肥料を投入しなくてはならなくなった。収穫量が減少 等。
・タロイモ:葉が黄ばんでいき、最終的には乾いて枯れてしまう 等。

こうした農作物の被害状況は、概ねDSLNG事業地から半径約2km以内の地域で報告されてきた。農家の間では、因果関係は明確ではないものの、DSLNG敷地内で行われているフレアリングの影響を疑う声も上がっている。

b) 大気汚染による周辺住民の健康への影響の可能性

農作物への影響にとどまらず、ここ数年で呼吸器系疾患や皮膚病の事例が増えていると指摘する住民もいる。降雨時に農作業を行うと皮膚に痒みが生じるようになったなど、降雨との関係を示唆する報告も複数あり、雨天時には外に出ないようにしている、子どもや孫を外で遊ばせないようにしている、以前は飲料用や生活用水として利用していた雨水の使用を止めたなど、降雨と関連して何らかの対処を講じている世帯もみられる。こうした住民の健全な環境に対する権利が脅かされている状況は、ガスのフレアリングによる大気汚染と農作物や健康への被害との因果関係が検証され、適切な対処が行われる必要性を示している。

(3)効果的な生計回復措置の欠如と不十分な雇用機会

DSLNGの事業者はCSR(企業の社会的責任)のプログラムの一環として、一部の漁業従事者への船舶用エンジンの提供や一部の農業従事者への種子や肥料の提供などを行ってきている。しかし、これらの取り組みはいずれも、漁師や農家の生計手段への影響を根本的に解決するものとはなっていない。

300世帯余りの住民を抱えるウソ村では、DSLNGの建設期間中には労働者として雇用されていた者もいたが、LNG生産の開始後にDSLNG関連で雇用されている住民は、多くても30名程度にとどまっている。さらに、雇用された場合でも、警備や清掃など下請け企業での非正規雇用のままであり、安定した雇用は保障されていない。

ウソ村では、生計手段への深刻な影響と同地域の物価高騰に伴う経済的苦境に加え、DSLNG事業地からの騒音や熱波に関する苦情も聞かれている。ウソ村の住民によれば、DSLNGの事業者は建設前に生活の改善を住民に約束していたという。しかし、DSLNG事業以前は自分たちで自立した生活を送ることができていたという同村の住民が、現在では海での漁業活動を制限され、陸でも農地で十分な収穫を得ることができなくなり、十分な雇用機会も与えられていない中で、厳しい生活状況を突きつけられている。子どもの教育費などに頭を悩ませる世帯も少なくない。

(4)気候変動への影響

LNGは化石燃料であり、LNG開発のライフサイクル全体を通じて温室効果ガスが排出される。気候変動への影響を評価する際には、LNG生産という中流行程を担うDSLNG事業の直接的な排出量だけでなく、上流におけるガス採掘・生産段階で発生する大気中へのメタン(CH4)漏出や、下流でのガス燃焼に伴う排出といった間接的な排出量も適切に考慮されなくてはならない。

特に、LNGの主成分であるメタンの地球温暖化への寄与を示す地球温暖化係数(GWP: Global Warming Potential)は、100年スパン(GWP100)ではCO2の29.8倍、20年スパン(GWP20)ではCO2の82.5倍とされている。そのため、比較的短期間で強力な温室効果を持つメタンの気候変動への影響を正確に評価するためには、一般に用いられるGWP100だけでなく、GWP20も併せて考慮する必要性が、近年の科学研究でも指摘されている。

現在、DSLNG周辺地域では、新規ガス田の探査活動が複数の場所で継続的に行われていることから、今後も長期間にわたりDSLNGでのLNG生産の継続が想定されていることが懸念される。国際エネルギー機関(IEA)が2023年の報告書で、2050年までに世界の温室効果ガスの排出を実質ゼロにするためには、ガスを含む新規の化石燃料採掘を行う余地はないとの結論を示していることからも、新たなガス田開発を伴うDSLNGにおけるLNG生産の継続は、パリ協定の目標と整合しないことは明らかである。

5.現在の状況

・DSLNG周辺地域の漁師および農家の中には、生計手段に甚大な影響を受け、生活水準が改善も回復もしていないと訴える者がいる。
・DSLNG周辺地域では、複数の新規ガス田の探査・開発が依然として積極的に進められている。

 

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