国際協力銀行にアルゼンチン・炭酸リチウム開発プロジェクトへの懸念を表明する書簡を提出

アルゼンチンのサルタ州で行われている炭酸リチウム開発プロジェクト(リンコン事業)に対して、国際協力銀行(JBIC)が融資を検討していることを受けて、アルゼンチンの市民社会団体であるTierra Nativa(FoEアルゼンチン)とFoE Japanで共同で懸念を表明する書簡を送付しました(PDF: スペイン語原文/FoE Japanによる日本語訳)。

同事業は、アルゼンチン北部のサルタ州にあるリンコン塩湖からリチウムを採掘し、炭酸リチウム生産を目的としたものです。塩湖はアンデス地域の標高3,725mと非常に高く、乾燥した地域に位置しています。

この事業は2025年10月16日にJBICのウェブサイトに掲載された、融資検討中のプロジェクトの環境社会配慮において、最もリスクの高いAとしてカテゴリ分類されています。書簡では、塩湖でのリチウム開発による一般的な環境、社会的影響、また特に当事業の環境影響評価(EIA)で言及されている水資源等への影響についての懸念が表明されています。

詳細は以下の書簡(FoE Japanによる和訳)をご覧ください。

アルゼンチン、サルタ州の炭酸リチウム開発プロジェクト(リンコン事業)に関する公開書簡

2026年2月25日

国際協力銀行 代表取締役総裁 林 信光 様

私たちは、アルゼンチンの採掘活動、特に同国北西部のリチウム採掘の拡大によって影響を受けている地域の人びとの人権と環境を守るために長年活動してきた市民社会団体と、日本の公的機関等が支援する海外の大規模資源開発事業による環境・社会・人権問題に現地団体と取り組んできた市民社会団体です。

今回、この書簡を通じて、現在貴行が支援を検討中1のアルゼンチン・サルタ州にあるリンコン事業に関連する社会環境リスクについて深い懸念を表明し、この事業に対するいかなる種類の融資、支援、または関与も行わないよう、貴行に真摯に要請します。

貴行とリオティント社の間で2025年11月20日に覚書(MoU)が締結2されたことを受けて、貴行がリンコン事業を含むアルゼンチンのリチウム採掘事業に直接的または間接的に参画する可能性が高まっていると認識し、警戒を抱いています。警戒の背景にある事業に対する懸念についてお伝えしたく存じます。

地域への既存事業およびリンコン事業における社会環境影響

これまでに私たちが現場で社会環境に係る紛争を記録してきた経験から、アルゼンチンのアンデス高地の塩湖におけるリチウム採掘の拡大が、既に検証可能である非常に深刻な影響を生み出すことが分かっています。以下、主な影響を挙げます:

➢ 水資源への影響:
この地域の水バランスは数千年をかけて形成されてきましたが、塩湖におけるリチウム採掘は、極めて脆弱で乾燥した生態系において、塩水と淡水の集中的かつ継続的な使用を伴います。リンコン事業の場合、当事業の環境影響評価(EIA)の中で、事業の操業期間中に地下水位が大幅に低下することが認められています。提示された水文地質学的モデリングによると、40年間の操業期間中、最も集中的な採掘が行われる塩湖中央部では40メートル未満の水位低下が予測されています。原水採掘区域では最大16メートル、塩湖の南側および西側の地域では10~17メートルの水位低下が予測されています
(環境影響評価、p.20)。
これらの予測される水位低下は、水文学システムの深刻な変化を示しており、アンデス高地の湿地帯、関連する帯水層、そして地域社会と生物多様性への水供給に不可逆的な影響を及ぼす可能性があります。これらの影響の規模と長期性は、この地域における鉱業活動の累積的な影響に対する懸念を強め、事業単位を超えた評価の必要性を浮き彫りにしています。

➢ 固有の生態系への不可逆的なリスク:
塩湖とそれに関連する湿地は、重要な生態学的機能を果たし、固有種の生息地となっています。これらの生態系の変化は、たとえ「漸進的」または「管理された」ものとして提示されたとしても、不可逆的なものとなり得ます。

➢ 限られた公開情報と協議の偏り:
この地域には、アタカマ民族を含む先住民族コミュニティが多数居住しているにもかかわらず、アルゼンチン憲法とILO条約第169号で認められている、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)の権利が十分に保障されていません。明確でアクセスしやすく、文化的に適切な情報の欠如は、これらのプロセスにおいて常に問題となっています。これに加えて、2025年7月29日にサン・アントニオ・デ・ロス・コブレスで開催された公聴会で起きたように、より遠方の住民は協議で提供された情報やその結果にアクセスできないという問題もあります。

➢ 社会的分裂とコミュニティ紛争:
リチウム事業の導入は多くの場合、内部分裂、経済的圧力、コミュニティリーダーの冤罪、地域の伝統的な組織形態と管理の弱体化を引き起こします。

➢ 力関係の不均衡と司法へのアクセスの欠如:
影響を受けるコミュニティは、環境情報、効果的な苦情処理メカニズム、適切な法的手続きへのアクセスにおいて大きな困難に直面しています。その一方で、企業は財政的、政治的、技術的な支援を享受しています。

リンコン事業のEIAでは累積的影響の概念に言及しているものの、流域規模におけるこれらの影響について包括的かつ実質的な評価が行われていません。同EIAでは、同時進行する他事業によりもたらされる影響の完全な把握、複数の同時採掘を考慮した比較シナリオ、そして長期的な傾向に基づく水文学的分析が欠けています。このアプローチは、「環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン」(環境ガイドライン)に定められた基準や、特に先住民族が居住する乾燥地帯や脆弱な生態系における鉱業事業に関して、貴行が参考にしている国際的なベストプラクティスと比較すると不十分です。

貴行の役割の重要性

貴行は、公的な金融機関として、責任ある融資基準の国際的な定義と推進において中心的な役割を担っています。この枠組みにおいて、重大な環境被害や人権侵害を引き起こす事業へのいかなる形態の資金的支援または制度的支援も、貴行の持続可能性、デューデリジェンス、そして社会・環境責任へのコミットメントと相容れません。

よって貴行は、現行の規制枠組みの形式的な遵守だけでなく、地域の現状、既存の社会動向、そしてリチウム採掘の拡大が地域にもたらしている累積的かつ相乗的な影響も評価することが不可欠であると考えます。

これらの側面、特に流域規模での累積的影響の評価の欠如、先住民族コミュニティとの効果的な協議プロセスの不十分さ3、水資源へのアクセスと脆弱な生態系へのリスクに関する包括的な分析の欠如は、貴行の環境ガイドライン、持続可能性、デューデリジェンスの強化、社会的および環境的損害の防止に対する組織的な取り組みに反しています。

最後に

本書簡に御目通しいただき、ありがとうございます。ここで提示した情報を拡充するとともに、対話の促進を通じて、リンコン事業とアルゼンチンのリチウム採掘の社会環境的状況を十分に理解・精査した上で、貴行が支援を行わないよう要請します。

Natalia Salvatico – Programa Agua y Justicia Climática
Tierra Nativa – Amigos de la Tierra Argentina
国際環境NGO FoE Japan

参考資料

・株式会社国際協力銀行「Rio Tintoとの覚書を締結」2025年12月25日
https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2025/press_00140.html
・Tierra Nativa「アルゼンチンのリチウム事業と社会環境紛争の共同マップ」公開情報(各州の鉱業記録、民間団体の報告書、地域調査)に基づいてTierra Nativaが作成したものでGoogle My Maps上で公開。
https://www.google.com/maps/d/u/0/edit?mid=1pZTBNSOf0lKceLyGOPxhyIfdYo8_FG4


1.規制枠組みと国際基準
・先住民及び種族民に関するILO条約第169号(アルゼンチンが批准)
https://normlex.ilo.org/dyn/nrmlx_es/fp=NORMLEXPUB:12100:0::NO::P12100_INSTRUMENT_ID:312314
・先住民族の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)
https://www.un.org/esa/socdev/unpfii/documents/DRIPS_es.pdf
・国際金融公社(IFC)「環境と社会持続性に係るパフォーマンススタンダード」
https://www.ifc.org/en/insights-reports/2012/ifc-performance-standards

・世界銀行「鉱業に係る環境、健康、安全のセーフガードポリシー(EHS)」
https://www.ifc.org/content/dam/ifc/doc/2000/2007-mining-ehs-guidelines-en.pdf
・米州人権裁判所「勧告的意見 OC-23/17(環境と人権)」
https://www.corteidh.or.cr/docs/opiniones/seriea_23_esp.pdf
・エスカス協定(アルゼンチンは締約国):情報へのアクセス、参加、環境正義。
https://www.ohchr.org/es/stories/2025/06/escazu-agreement-protecting-environmental-defenders-latin-america-and-caribbean#:~:text=%E2%80%9CEl%20Acuerdo%20de%20Escaz%C3%BA%20es,Sara%20Nuero%2C%20coordinadora%20del%20proyecto

2.リチウム採掘が塩湖にもたらす影響の科学的根拠
水文学と塩湖について
・Munk, L. et al. (2016). Lithium brines: A global perspective. Economic Geology.
https://www.researchgate.net/publication/303407204_Lithium_Brines_A_Global_Perspective
・Flexer, V., Baspineiro, C., Galli, C. (2018). Lithium recovery from brines: A vital raw material for green energies with a potential environmental impact. Science of the Total Environment.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0048969718318746
・Vengosh, A. et al. (2023). Lithium extraction and water scarcity in arid regions. Nature Reviews Earth & Environment. https://www.nature.com/articles/s43017-023-00415-9

  1. 国際協力銀行「炭酸リチウム開発プロジェクト」2025年10月16日https://www.jbic.go.jp/ja/businessareas/environment/projects/page_00582.html  ↩︎
  2. 国際協力銀行「Rio Tintoとの覚書を締結」2025年12月25日https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2025/press_00140.html ↩︎
  3. Ramírez, S. “Secuelas del extractivismo: la consulta inconsulta a los pueblos indígenas” 4/6/2025. la cigarra Notas sobre Sociedad y Cultura.
    https://lacigarrarevista.com.ar/2025/06/04/secuelas-del-extractivismo-la-consulta-inconsulta-a-los-pueblos-indigenas/ ↩︎

連絡先:
国際環境NGO FoE Japan(担当:佐藤)
お問合せはこちら

 

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