声明:パブリックコメントの形骸化とさらなる制限案に異議ー多様な市民参加プロセスの担保を

3月下旬、政府が2024年度のいくつかの案件での1万件を超えるパブリックコメントについて、「大量投稿」を問題視し投稿の制限などの対策を検討していることが報じられた。

しかし、問うべきなのは「大量投稿」なのだろうか。パブリックコメントは現状、数少ない市民参加の機会である。にもかかわらず、そこに寄せられた意見に対してすら、政府は真摯に向き合わず、内容を具体的に政策に反映しようという姿勢はみられない。パブリックコメントの形骸化こそが問われるべきではないのか。パブリックコメントは本来、政策に対して幅広く市民の意見を聴取するために実施するものである。AIを使った機械的な投稿は論外であるが、多くの意見が寄せられることは国民の高い関心を示しているものである。

そもそも、とくにエネルギー関連の政策において、市民参加の場は非常に限られている。エネルギー基本計画について主な議論を行う審議会、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の委員構成は、産業界や電力業界につながりの強い委員が多数を占め、環境や気候変動、地域、人権などの観点を重視する委員がほとんどいないという偏ったものである。市民参加の機会は、パブリックコメントの前まで開かれる「意見箱」とパブリックコメントにほぼ限られていた。「意見箱」については、今回1000を超える投稿があったが、その内容の分析や反映は行われていない。1月末から2月中旬にかけて全国10か所での「意見交換会」が開催されたが、その議事録の作成・公開もなく、その場での意見を具体的にどのように反映するのかについて、政府からの回答はなかった。


報道によれば、1つのメールアドレスやIPアドレスからの複数投稿を集計対象からはずす、すなわちアドレスあたり1件の意見提出に制限する案も上がっているという。このような状況下で、パブリックコメントの投稿規制を検討するのではなく、意味のある市民参加の機会およびその結果の政策への反映をこそ検討すべきだ。

日本は未批准だが、オーフス条約では「環境に関する情報へのアクセス、意思決定における市民参加、司法へのアクセス」を各国に求めている。日本のエネルギー・環境政策においても、政策形成に関する情報の十分な公開と、プロセスへの多様な形での市民参加を担保するために、抜本的な改革が必要である。

<参考>

・「声明:第7次エネルギー基本計画、地球温暖化対策、GX2040ビジョンの閣議決定に抗議」2025年2月18日
https://foejapan.org/issue/20250218/22944/

・「閣議決定直前!私たちの未来を守れないエネルギー政策にNO!」2025年2月18日
https://watashinomirai.org/20250218/

・「合同記者会見「第7次エネルギー基本計画」の議論開始に向けて議論の枠組みとプロセスを問う 」2024年5月9日
https://www.ccnejapan.com/?p=15272


<報道記事>

・日本経済新聞「パブリックコメント『異常件数』相次ぐ SNSで動員、かすむ民意」2025年3月24日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA128RU0S5A310C2000000/
・NHK「パブリックコメント1万件超も 職員の負担増 AIなど対策検討へ 」2025年3月25日

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250325/k10014759191000.html
・福島民友新聞社「除染土に関する意見公募に20万件超 再生利用基準省令1日施行」2025年3月29日
https://www.minyu-net.com/news/detail/2025032809081134687

 

関連するトピック

関連するプロジェクト