公的金融機関は途上国への原発輸出を支援できるのか?安全性・経済性の確認は事実上不可能

 2023年に開催された第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)で、アメリカ主導で「2050年までに世界の原発の発電容量を3倍にする」という趣旨の宣言が出され、日本を含む23か国が賛同しました[1]。宣言は、原子力への投資を促し、世界銀行、国際金融機関、地域開発銀行の融資方針に原発を含めるよう、それぞれの出資者に対して呼びかけています。また、小型原子炉(SMRs)の開発支援にもコミットするとしました。

 産業界や一部の国は、運転時の温室効果ガス排出量が少ない原子力発電を低炭素電源と位置付け推進しています。しかし、事故やトラブルのリスク、放射性廃棄物の処分、核セキュリティ、放射能汚染等の問題が大きく、建設・安全対策、維持にかかるコストが膨大であるため、原子力発電を利用しない国の方が多く、2024年現在、原発力発電を利用しているのは32カ国です[2]

 FoE Japanは、世界銀行や複数の地域開発銀行の出資者である日本政府に対し、日本政府の立場について2024年6月6日開催の財務省NGO定期協議で問い、口頭での回答を得ました(議事録は後日JACSESのウェブサイトにて公開予定)。

現在、国際開発金融機関(MDBs)は原発に対して投融資を行わない方針

 日本政府は、複数のMDBs(世界銀行、アジア開発銀行、アフリカ開発銀行、EBRD、IADB)に出資をしています。これらの機関の原発に関する融資方針についてたずねたところ、「いずれのMDBsにおいても、現在のエネルギー戦略において、原発への融資は行わない方針」とのことでした。財務省によれば、原発への融資は特殊な専門性を必要とすることから、これらのMDBsはいずれも原発を支援の対象外としてきたとのことでした。

例:アジア開発銀行

ADB will not finance investments in nuclear energy. ADB recognizes the role of nuclear energy in the low-carbon transition given its ability to provide low-carbon baseload electricity, and will include nuclear analysis in the development of long-term energy plans and climate strategies, as appropriate. However, ADB will not finance investments in nuclear power given the many barriers to its deployment, including risks related to nuclear proliferation, waste management and safety issues, and very high investment costs relative to ADB’s resources.(ADB, June 2023

ADBは原子力に金融投資を行わない。ADBは原子力が低炭素ベースロード電源として低炭素転換で果たす役割を認識し、長期エネルギー計画および気候戦略の開発において原発に関する分析を適切な範囲で含める。しかし、核拡散、廃棄物管理、安全性、ADBの資源に対し非常に多くの投資コストがかかるなど、原発の利用に関する多くの障壁を認識し、ADBは原子力に対する金融投資を行わない。(ADB, June 2023

ADB, June 2023

例:アフリカ開発銀行グループ

2.3.6. Nuclear energy: The financing of nuclear plants is not an area of comparative advantage for the Bank. Accordingly, the Bank will not provide financing for these types of plants. (AfDB)

2.3.6 原子力:原子力は銀行が比較優位を持つエリアではない。よって原発への融資は行わない。

AfDB

運用実績のない小型原子炉を審査・融資することができるのか

 日本政府が100%出資する国際協力銀行(JBIC)は、どうなのでしょうか?

 2022年4月、JBICはアメリカ合衆国法人NuScale Power(以下、ニュースケール社)への出資を行いました。しかし、翌年、ニュースケール社は、米西部アイダホ州での小型モジュール原子炉(SMR)の建設計画を中止することを明らかにしました。原因の一つは、電力の予定買取価格が高すぎて、買い手がつく見込みがなかったことにあると考えられます。

 このようにSMR事業は、環境社会的なリスクのみならず、経済合理性にも疑義がある事業です。こういった事業に公的資金をつぎ込むことの責任について、財務省の見解を尋ねたところ、第6次エネルギー基本計画等、日本のエネルギー政策上の意義があるとの回答でした。

 JBICがニュースケール社への出資を決めた際、経済性に加え、FoE Japanが問題視したのは融資の際にどのようにSMRの安全性などを確認したかということです。SMRは日本国内でも実績がまったくありません。

 JBICは随時最新の動向をフォローし、組織として必要な知見の蓄積をしている、また必要に応じ外部専門家をいれると発言していましたが、そもそもJBICがニュースケール社に出資を行った際、個別の案件について審査をしたのか、またどのような内容を審査したのかは情報開示されていません。

 JBICは通常、融資対象案件をカテゴリー分類し、カテゴリーに応じて、環境アセスメント結果の公開等を行います。環境に重大な影響を与える案件はAやBに分類されますが、ニュースケール社への出資はカテゴリーC(環境への望ましくない影響が最小限かあるいは全くないと考えられるプロジェクト)に分類され、環境アセスメント結果の公開は省略されています。ただし、カテゴリーCに分類されたとしても、「出融資等の意思決定以降においても、一定期間、必要に応じ、環境社会配慮が確実に実施されるよう借入人等に対するモニタリングや働きかけを行う。」と規定し「カテゴリ C」案件の場合においても、上記の規定に沿って、必要に応じ、環境社会配慮が確実に実施されるよう借入人等に対する働きかけを行うこととしています(FAQ 4.7)。

途上国にSMRを押し付け?

 2022年、日本政府は米国と共同でガーナにおける実施可能性調査を含めたSMR導入に協力を表明しています。これについても財務省定期協議で問題提起を行いました。なおニュースケールのSMRの導入はフィリピンでも議論が進んでいます。

 2023年に「質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた事業実施可能性調査事業」の採択事業の一つとして、IHIと日揮がガーナにおけるSMR導入の実施可能性調査を行い、ニュースケール社VOYGRTMの導入がガーナ経済に貢献すると結論付けています。一方、ガーナは2022年に債務不履行に陥っています。

 ガーナにおけるSMR事業に対する融資申請がJBICに行われているか、今後行われるのかは明らかではありませんが、コストが高いSMRをガーナに導入させることは、ガーナの財政状況を悪化させる懸念があります。これに加え、日米においても実績がなく、技術的に確立されているわけではないSMRを、ガーナに導入することは、ガーナに技術的、環境社会的なリスクを負わせることになるでしょう。

原発は高コスト・高リスク

 投資会社Lazardの調査によると、電源別発電コストは原発が最も高く、2023年の太陽光のコストは2009年に比して83%減少、陸上風力は同63%減少していましたが、原発のコストは47%増加しました[3]

 原発の建設期間も大幅に長期化傾向です。オルキルオト原発3号機(フィンランド)は、建設に16年以上を要しました。2020年から2022年の3年間で稼働した7カ国18基の原発のうち、当初の予定通りの建設期間だったのはわずか2基でした。2022年に運転を開始した7基の原子炉の建設開始から系統接続までの平均期間は9年で、2023年上半期にベラルーシ、中国、スロバキア、米国の電力網に接続された4基の場合、平均の建設期間は16年です[4]

 日本政府は、原発を脱炭素化の手段として推進していますが、原発はコストもリスクも高く、核のゴミの問題も未解決です。原発事故は終わっておらず、国内でもさまざまな問題が発生しているにもかかわらず、日米の原子力産業による途上国での原発建設支援など行うべきではありません。


[1] Department of Energy, ”At COP28, Countries Launch Declaration to Triple Nuclear Energy Capacity by 2050, Recognizing the Key Role of Nuclear Energy in Reaching Net Zero”, Dec 1, 2023
[2] IAEA PRIS、2024年5月閲覧
[3] Lazard’s Levelized Cost of Energy Analysis—Version 16.0, April 2023
[4] A Mycle Schneider Consulting Project, “The World Nuclear Industry Status Report 2023”

 

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