水素社会推進法案の概要と問題点

気候変動2024.7.5

2024年2月13日岸田政権は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案(水素社会推進法案)」と「二酸化炭素の貯留事業に関する法律案(CCS事業法案)」の二つを閣議決定した。
水素やアンモニア、CCSは、日本政府が掲げる2050年までのネットゼロ達成のためのGX政策(グリーントランスフォーメーション)の一環としても推進されている。
両法案は今国会に提出され、審議されている。
https://www.meti.go.jp/press/2023/02/20240213002/20240213002.html

ここでは、水素社会推進法案(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法案)の背景や問題についてまとめた。


☞CCS事業法案についてはこちら
CCS事業法案の問題点 | 国際環境NGO FoE Japan

水素社会推進法案とは

水素社会推進法案とは、化石燃料由来のものも含めて水素やアンモニア等を「低炭素水素等」と定義し、その活用促進を掲げるものである。
低炭素水素等を国内で製造・輸入して供給する事業者や利用する事業者が計画を作成し、認定を受ければ、化石燃料よりも高額となる費用について国が支援、また拠点整備に関わる支援も行うことを定めている。
ところが、どの基準で「低炭素」とするのかについては「経済産業省令で定める」としているが、その時期などは示されていない。仮に定められても、当面は化石燃料由来の水素等に対しても支援を行い、遡及適用はしないこととなっている。
日本政府による概要PDFはこちら

水素社会推進法案の問題点

1)「低炭素」の基準が未定であり、当面化石燃料由来の水素等に支援が行われる

審議会での議論では、「天然ガス改質の際の水素製造に係る CO2排出量と比較して、約70%の排出削減を実現する水準として 3.4kgCO2/kg-H2が適当との考え方が示されているが、具体的な水準については、さらに検討を進めていく必要がある。」と、2024年1月29日に出された「中間とりまとめ」に書かれている。しかし、いつまでにどのように定めるのかは決められておらず、基準が定められるまでの当面の間は高炭素でも可であり、「遡及適用は行わないものとする」とされている。

また、「天然ガス改質の際の水素製造に係る CO2排出量と比較して、約70%の排出削減を実現する水準」は、化石燃料からの製造にCCSを組み合わせることを前提としたものである。国内・国外の別や製造方法について区別することなく、製造時のCO2排出量のみを基準として定めるべきではない。輸送時のCO2排出量をどのように考慮するかに関する検討も行われていない。

再生可能エネルギー由来の水素・アンモニア等を海外から輸入する場合にも、高価格、輸送時のCO2排出もあり、エネルギー構造の海外依存は改善されない。さらに、原子力由来の水素・アンモニアについても、原子力発電自体の依存度を低減する政策や、原子力発電自体の不安定性・不確実性に鑑み、推進すべきではない。

・総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 水素・アンモニア政策小委員会/資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会/産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 水素保安小委員会 合同会議 中間とりまとめ(2024年1月29日)
20240129_1.pdf (meti.go.jp)

2)CCSの利用が前提となっている

国内で再エネ由来の水素等を製造するプロジェクトも、福島県浪江町や山梨県内などにあるが、それらはごく一部に過ぎない。
日本で現在想定されている水素・アンモニア等のプロジェクトは、大半が海外で化石燃料由来で製造するものである。
化石燃料由来の水素・アンモニア等を「低炭素化」するには、CCS(炭素回収貯留)を組み合わせることが必要である。そのため今回、CCS事業法案がセットで議論されている。
CCSについても、技術的課題、立地の課題、コストの課題が未解決である。

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3)混焼により、石炭火力・LNG火力の利用を延命・推進する

水素社会推進法の前提として、前述の「中間とりまとめ」には、「水素・アンモニア等はhard to abete分野(脱炭素化が困難な分野)に使うべきであるが、それだけでは大規模なサプライチェーンを構築するほどの利用量とならないため、まずは発電分野で需要を見込む」旨が書かれている。


化石燃料由来の水素・アンモニア等を支援し、一度設備の建設や製造、サプライチェーンの構築を行えば、数十年にわたって使い続けることになる。それを化石燃料への混焼という形で発電に用いることは、石炭火力も含めた化石燃料発電の利用を当面、すなわち少なくとも数年から10年以上にわたって継続させてしまう。

水素・アンモニアの発電への利用は、2030年度までに20%程度、2040年度までに50%程度が見通されているにすぎず、仮に専焼が実現するとしても2050年に近い年である。それほどの年月、化石燃料、特に石炭火力の利用を温存することは、気候危機への対策という観点から全く許されない。


4)化石燃料由来を含む水素・アンモニア等への支援は、省エネ・再エネへの投資を妨げ遅らせる

水素・アンモニア等は、化石燃料に比べて大幅に価格が高いことがネックで、導入が見通せないことが大きな課題だった。そのため、この価格差を政府が、政府が15年間にわたり約3兆円、GX移行債を用いて支援することを定めるのが今回の法案である。

高コストでかつCO2削減効果の低い、もしくは逆にCO2排出を固定化する恐れのある水素・アンモニア等に支援をすることは、本来優先すべき省エネ・再エネへの投資を妨げ遅らせることとなりかねない。
特に、発電分野への支援に関しては、一刻も早く方針転換すべきである。

まとめ・提言

現状の「低炭素水素等」の推進・支援は化石燃料から製造する水素等に対しても支援を行うこととなる。また、発電分野に対しても支援を行うことは、化石燃料発電の維持・継続を許すものである。特にアンモニアについては、石炭火力発電の維持・延命につながる。

水素等に対して支援を行うとすれば、国内で再生可能エネルギーから製造する小規模・分散型の水素等のみとし、また発電ではなく、代替不可能な分野での使用に限るべきである。


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