COP28における炭素市場交渉に関する要請書

気候変動

 2023年11月30日から12月12日にかけ、アラブ首長国連邦にて、第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)が開催されます。COP28では、CO2排出削減量をクレジット化(金融商品化)し、国際的に取引する際のルールづくりについても交渉が行われる予定ですが、炭素市場やオフセットの利用はむしろ気候変動目標の達成を阻害するものであると懸念を抱いています。そのためCOP28に先立ち、FoE Japanは炭素市場交渉に関する以下の要請書を日本政府に提出しました。

COP28における炭素市場交渉に関する要請書

 2023年11月にアラブ首長国連邦で開催される国連気候変動交渉(COP28)において、炭素市場やオフセット、炭素除去について議論されると理解しております。国際環境NGO FoE Japanは、オフセットや炭素市場の利用は、気候変動目標の達成をむしろ阻害するものであると重大な懸念を抱いています。
 気候変動により、前例のないレベルの危機が社会にもたらされています。今年も熱波、山火事、台風、洪水など、その他多くの気候災害によってコミュニティが破壊されています。気候危機に対する行動が、これまで以上に切実に必要とされています。

 気候変動に対する歴史的責任と公平性の原則に沿い、先進国は率先してすべての化石燃料の段階的な廃止という、抜本的で実質的な排出削減に取り組むことが必須です。炭素市場、オフセット、炭素除去といった手法は化石燃料からの温室効果ガス排出を減らすわけでなく、むしろ脱炭素化を遅らせるものであるため、これらがUNFCCCやその他の国際的なプラットフォームで炭素市場が気候危機の解決策として推進されることを懸念しています。特にパリ協定の第6条2項および4項をめぐる交渉について懸念を抱いており、日本政府代表団におかれましては以下の懸念をご一読いただき、さらなる排出を許す炭素市場の推進を取り止めるようお願いします。

第6条2項(A6.2)
パリ協定第6条2項の下で、各国は二国間協定および多国間協定など国連気候変動枠組の外に設ける制度を通じて、排出削減量、吸収・除去量(大気中から温室効果ガスを生態系や技術で取り除く量)をオフセットクレジットとして取引することができ、パリ協定の下での国別目標(NDC)を達成するために利用できるようになります。これには、各国が自主的に設立し、政府や多国間機関によって運営される炭素取引制度(例:日本政府の二国間クレジット制度JCMやすでに運用開始されている国際航空業界のオフセットメカニズムCORSIAなど)が含まれます。第6条2項は、これらの炭素取引制度を互いに連携させ、締約国が取引するこれらの(オフセット)クレジットをNDC達成に使えるようにするものです。

第6条4項(A6.4)
パリ協定第6条4項は、国連が運営する世界的な炭素市場を設立し、締約国が排出削減量と吸収・除去量を国際的に取引できるシステム(国連メカニズム)です。第6条4項のメカニズムを運用する機関(監督機関)は、第6条4項の国際炭素市場の運用に必要な残りの規定について、COP28に勧告する予定です。勧告案には、吸収・除去活動(「自然に基づく解決策」(NBS)、二酸化炭素回収貯留/利用(CCS/CCUS)、将来の地球工学的手法によるオフセット事業等)に関する規定と手続き、オフセット事業化の方法論や、地域や先住民族の権利や人権の保障を含むガイドラインにあたる持続可能な開発ツール(SDツール)が含まれます。

監督機関は、吸収・除去事業化(及びその方法論)に関する勧告と、NBS、BECCS(CCS付きバイオエネルギー)、DACCS(大気からの炭素直接回収および貯留)、海洋地球工学を含んだ除去に関すする将来の事業化のロードマップを最終化し、COP28での採択を目指しています。

事業の方法論を採用するだけで、すでに廃止が決まった京都議定書のクリーン開発メカニズムの数千の既存のオフセット事業の多くが、来年以降もパリ協定の第6条4項における活動として継続できることになります(注1)。この勧告が採用されれば、第6条4項に基づいた炭素市場メカニズムが運用を開始することになります。炭素市場は、気候変動対策をさらに遅らせ、地域社会や生態系に悪影響をもたらす事業に国連のお墨付きを与え、大規模汚染者や富裕国が汚染(排出)を続けることを可能にします。

炭素市場やオフセットクレジットは機能せず、むしろ地域社会や環境に悪影響を及ぼしていることを示す調査が増えています。今年初め、世界最大手のクレジット認証機関Verraが販売したオフセットの 90% 以上が無価値であることが明らかになりました(注2)。

日本においても、日経新聞の調査報道により実際の削減量を水増しして発行した疑いがある事業のクレジットがLNG(液化天然ガス)のネットゼロ(差し引き実質ゼロ)の達成を主張するために使われていたことが明らかになりました(注3)。

私たちは日本政府に対し、炭素市場、オフセット、除去がもたらすリスクを認識し、パリ協定6条の炭素取引制度の運用ルールの国際交渉を進めないよう求めます。

パリ協定下の炭素市場を認めるべきではなく、特に吸収・除去クレジットを認めるべきではありません(第6条4項)。吸収・除去事業の多くは永続性や追加性に欠け、人々や環境へ悪影響を及ぼすものも少なくありません。また、十分に実証されておらずリスクについても未知数の技術も除去事業の一つとして勧告に含まれており、危険です。
地球工学的な除去を認めないこと。BECCS、DAC、CCS、CCUSやその他の海洋または陸上における地球工学的手法を、パリ協定下で認めるべきではありません。生物多様性条約 (CBD) における地球工学的手法の適用を凍結する決定(モラトリアム)(注4)、ロンドン議定書/ロンドン条約 (LC/LP) (注5)の決定を尊重すべきです。また単一のプロジェクトであっても、地球工学的手法の性質から、場合によっては国境を越えて負の影響が引き起こされる可能性があることを考慮すべきです。
排出回避を認めるべきではない。熱帯林劣化・抑制事業(REDD+)や森林保全による排出回避オフセット事業は大気中の炭素を回収するものではないので、他の場所での排出をオフセットするために使われてはなりません。同様に再生可能エネルギー事業によるオフセットクレジットも、他の場所での排出を許すことにつながります。これらは、ベースラインや発行クレジット量の水増しに繋がり、炭素市場における重大なリスクです。
炭素市場を気候資金にカウントすべきではありません。先進国には気候資金拠出に対する義務があり、民間資金ではなく主に公的資金で賄われるべきです。
・人権尊重と生物多様性影響評価等を含む、影響を受ける地域社会、先住民族など、ステークホルダーのための、独立した効果的な苦情申し立てと救済の制度が設置されていません。

以上、御検討くださいますようお願い致します。

注1:A6.4 バーチャル技術ワークショップ「CDM から第 6.4 条メカニズムへの活動の移行」 https://unfccc.int/sites/default/files/resource/Art6_virtual_6.4_Transition.pdf
注2: The Guardian, “Revealed: more than 90% of rainforest carbon offsets by biggest certifier are worthless, analysis shows”, 2023年1月18日 https://www.theguardian.com/environment/2023/jan/18/revealed-forest-carbon-offsets-biggest-provider-worthless-verra-aoe
注3: 日本経済新聞「「CO2ゼロ」LNG、根拠薄く 水増し疑い削減量で相殺」2022年3月28日https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE20BD90Q1A021C2000000/
注4: 「気候関連地球工学と生物多様性」、「CBD に関連した地球工学に関する技術的および規制事項」、https://www.cbd.int/climate/geoengineering/
注5: 1972 年の廃棄物およびその他の物質の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の 1996 年議定書の A3.1 を参照。https://wwwcdn.imo.org/localresources/en/OurWork/Environment/Documents/PROTOCOLAmended2006.pdf

 

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