水素基本戦略骨子(案)に対するパブリックコメント 

化石燃料2023.7.10

FoE Japanは「水素基本戦略骨子(案)」に対する意見募集に、以下の意見を提出しました。

提出意見

該当箇所:1−1
意見:脱化石燃料の必要性をカーボンニュートラルの前提として総論に加えるべき。水素・アンモニアなどの活用が温室効果ガスの排出を増やすことがないよう確約することを前提とすべき。
理由:パリ協定の1.5℃目標達成のためには、新たな化石燃料インフラの開発は許されず、既存のインフラについても段階的に廃止する必要がある。IPCCによると、既存の化石燃料インフラからだけで、1.5℃上昇に繋がる二酸化炭素が排出される。現状市場の水素はほとんどが化石燃料から作られている。既存の水素利用について脱炭素化が必要なのは明らかであるが、化石燃料依存を継続させてしまうような水素・アンモニアの利活用は避ける必要がある。また、気候変動対策として、再生可能エネルギーがもっとも有効な対策であるということはIPCCも指摘している。グリーン水素の製造には再生可能エネルギーが不可欠でもあることから、再生可能エネルギーの重要性も追記すべきである。
追記案)2050年までのカーボンニュートラル達成にあたっては、化石燃料への依存からの脱却が前提であり、水素・アンモニアの活用が温室効果ガスの排出を増やすことがないことが重要である。またグリーンな水素・アンモニアの利用の前提となる再生可能エネルギーの促進も行う。

該当箇所:1−2
意見:既存の水素・アンモニア利用において、代替が難しい分野について利用に限ることを明確にすべき。とくにアンモニアは生物多様性や窒素循環の観点から使用を抑制して行く必要がある。
理由:クリーン水素・アンモニアの利用は、まずは既存の水素・アンモニア利用の脱炭素化を目的として行うべきであり、削減効果が見込まれない分野での利用を積極的に進めるべきではない。たとえば自然エネルギー財団のレポートによると、2050年ネットゼロに向けて水素の役割について国際的にも様々な議論が行われてきた。「未だに見解の違いはあるが、共通の結論になってきているのは、第3章で見る EU の水素戦略がいうように、「脱炭素化が難しい(hard to abate)分野で、代替技術がないところに優先して使っていく」というものである。」とし、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)や、EUの水素戦略を紹介している(自然エネルギー財団)。

また、窒素循環について、環境学者ヨハン・ロックストロームらが提唱した「プラネタリーバウンダリー」に関する研究では、9つの分野の生態系の限界のうち、窒素汚染が最も突出している。アンモニアの利用は、人類による窒素循環のかく乱という問題からは無縁ではなく、すでに大きくバランスが崩れている窒素循環にさらに介入し、陸域や水系への負荷を増やすことになる。経済産業省は「NOx抑制技術は20%混焼では完成している」としているが、混焼率を引き上げた場合にも抑制できるか、技術的な裏付けはまだない

該当箇所:2−1
意見:コストも高く、当面は輸入水素の活用が見込まれるため、そもそもS+3Eに当てはまらない。また、Environmentについて、脱炭素社会実現のためには低炭素水素ではなく、再生可能エネルギー由来のいわゆるグリーン水素を追求しその導入促進とすべき。
理由:1−1意見と同。

該当箇所:3−1 a
意見:水素等の製造は、できる限り国内を優先するべきである。
理由:海外での大規模製造は、当面化石燃料からの製造であり、その時点および輸送過程で大量の温室効果ガス排出を伴う。CCSを伴って「ブルー」とするとしても、現時点でその実現は見通せていない。仮にグリーン水素を視野に入れる場合でも、輸送に大量のコストとエネルギーがかかることは変わらない。当該国での利用が優先されるべきである。
意見:設定された導入量の根拠が希薄
理由:経産省の資料では「IEAの世界の水素需要の見通しでは、2040年の世界全体の水素需要は、1億3650万トンに到達する見込み。このうち世界の名目GDP上位10か国における日本の割合(約8%)が日本の需要量と仮定すると、約1033万トンになる見込み。」としているが、根拠にかける。

意見:水素・アンモニアの用途を、代替品がない分野に限るべきである。社会の脱炭素化のためには、脱炭素水素・アンモニアの導入が不可欠である。また利用範囲も、既存の水素・アンモニア需要でかつ代替がない分野に限るべきである。
理由:例えば自然エネルギー財団は、産業や運輸部門では水素利用の優先度が高い分野があるが、これまで他の方法での排出削減が難しいとされてきた用途でも、近年、電化の可能性が進展し、水素利用の優先度が低下してきていると指摘している。需要の見極めが必要である。

意見:化石燃料の価格変動の影響を受けづらいサプライチェーンのためには再エネの導入が優先される。
理由:化石燃料の価格変動の影響を受けづらいサプライチェーンのためには、国内の再生可能エネルギー拡大が必須である。一方、再生可能エネルギーはそのまま利用した方が効率的にもコスト的にも合理的であることから、水素アンモニア製造に必要な再生可能エネルギーの量については現実的な需要の算出のもと、利用がはかられるべきである。そもそも利用においては、既存の水素・アンモニア需要でかつ代替がない分野に限るべきである。

該当箇所:3−1 b
意見:化石燃料の利用拡大を防ぐため、化石燃料を原料とする水素・アンモニアの製造ではなく再生可能エネルギー由来の水素・アンモニアのみをクリーンとみなすべきである。
理由:水素の排出強度の2030年目標を3.4kg-CO2e/kgH2としているが、これは天然ガスSMRにCCSを設置したものを想定している。CCSは未だ実証段階であり、CO2回収率も高くはない(詳しくは自然エネルギー財団のレポートを参照)。化石燃料ガス利用を前提とした水素・アンモニア製造は、脱化石燃料の方向性とは一致せず、むしろ利用を継続させてしまう。

グリーン水素・アンモニアの普及拡大を目的とするGreen Hydrogen Organizationは、1kg-CO2/kgH2をグリーン水素のスタンダードとして提案している。水素利用に関する科学者の連合である、Hydrogen Science CoalitionはGHOの定義には問題があるとしつつも、1kgの基準値は妥当であるとしている。また、ブルー水素(CCSを用いて製造した水素)を製造するための化学プラントは、キャピタルコストが高いために通常30年は稼働する。そのため、一度ブルー水素のためのインフラをつくると、短期的な対策とはならず、グリーン水素への移行を妨げかねない。グリーンもしくはブルーに移行するまでの間も排出が増える。

該当箇所:3−1 d
意見:輸入燃料に頼ることとなりエネルギー安全保障に資さない。
理由:輸入の水素・アンモニアにたよることは、燃料に頼ることとなりエネルギー安全保障に資さない。

該当箇所:3−2 a
意見:発電分野においては、水素・アンモニアを用いるべきではない。再生可能エネルギーへの投資に集中すべきである。
理由:水素やアンモニアは現状コストが高く、混焼を行っても削減効果はわずかである。IPCCのレポートにおいても、削減コストおよび効果の高いのは再生可能エネルギーである。

該当箇所:3−3 a
意見:15年間の経済的支援が必要だということは、経済性がないことの証である。化石燃料由来の水素・アンモニアのサプライチェーン構築への支援は行うべきではない。
理由:「2030年頃までに低炭素な水素・アンモニアの供給を開始する予定である事業者」を対象とするとしているが、当面はほとんどが化石燃料由来で、いわゆる「グレー」な水素・アンモニアであり、そこに将来CCSをつけていくことが想定されている。再生可能エネルギーのグリーンな水素・アンモニアは、製造方法やサプライチェーンがまったく異なる。化石燃料由来の水素・アンモニアに15年にもわたり支援することは、グリーンなものへの投資をむしろ妨げる。

該当箇所:3−6
意見:「炭素集約度」を強調するのではなく、化石燃料拡大につながらず、かつ排出の絶対量削減につながる水素・アンモニアのあり方を重要視すべきである。
理由:社会の脱炭素化においては、化石燃料の利用が拡大されないことが重要である。炭素集約度を基準にすると、化石燃料由来の水素・アンモニア拡大に繋がりかねない。

該当箇所:4−2
意見:水素の安全な利活用に向けて、水素アンモニアの危険性やリスクについても十分な情報公開を担保し、また本戦略自体に主要なリスクや危険性についても掲載すべきである。
理由:本戦略の位置付けとして「課題認識と対応の方向性」とある以上、リスクや危険性などの課題についても具体的に書き込むべきである。具体的にはアンモニアの毒性や腐食性、水素の爆発のリスクなどといったことが考えられる。

参考資料

<政府関係の資料>
クリーンエネルギー戦略中間整理 008_01_00.pdf (meti.go.jp)
GX実行会議|内閣官房ホームページ (cas.go.jp)
水素政策小委員会/資源・燃料分科会 アンモニア等脱炭素燃料政策小委員会 合同会議(METI/経済産業省)
水素・燃料電池戦略協議会
燃料アンモニア導入官民協議会 (METI/経済産業省)
エネルギー基本計画について|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

<研究機関等の資料>
気候ネットワーク「水素・アンモニア発電の課題:化石燃料採掘を拡大させ、石炭・L N G 火力を温存させる選択肢」2021年10月
Transition Zero「日本の石炭新発電技術」2022年2月
Climate Integrate「アンモニアの火力発電利用について」2022年7月
Bloomberg NEF 「日本のアンモニア・石炭混焼の戦略におけるコスト課題」2022年9月
自然エネルギー財団「日本の水素戦略の再検討:『水素社会』の幻想を超えて」2022年9月
自然エネルギー財団「CCS火力発電政策の隘路とリスク」2022年4月

 

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