声明:処理汚染水の海洋放出 東電の本格工事開始に抗議するー「関係者」の理解は得られていない
本日、東京電力は福島第一原発の汚染水の海洋放出のための海底トンネルなどの設備工事を開始したと報じられている。
FoE Japanは、これまでも、①放射性物質は集中管理が原則であり、環境中に放出すべきではないこと、②モルタル固化処分等有効な代替案が提案されていること、③トリチウム以外の放射性物質の総量が示されていないなど基本的な説明がなされていないこと、④漁業関係者や市民から強い反対の声が上がっていること、⑤海洋放出方針決定以降、公聴会・説明会等が開催されていないなど合意形成プロセスに問題が多いこと――などの理由で、処理汚染水の海洋放出に反対してきた。改めて東電のなし崩し的な工事の開始に強く抗議する。
政府・東電は、処理汚染水に関して、「関係者の理解が得られなければ、いかなる処分も行わない」と書面で約束してきた。昨年4月の政府による海洋放出決定以降の一連の流れは、関係者の意見もきかずに、海洋放出を「既成事実化」するものだ。さらにいえば、「関係者」である漁業者の外堀りをうめて孤立させ、あきらめさせ、最終的に同意せざるをえないような状況を作り出そうとしているようにも見える。
福島県漁業連合会、全国漁業連合会は、繰り返し反対の意思を表明してきた。福島県漁業協同組合連合会の野崎会長は、「地元の海洋を利用し、その海洋に育まれた魚介類を漁獲することを生業としている観点から、海洋放出には断固反対であり、タンク等による厳重な陸上保管を求める」と強く反対している。
反対しているのは漁業者だけではない。昨日、福島県を中心とした市民から構成される「これ以上海を汚すな!市民会議」は、福島県の工事の事前了解に対して「理解と合意なき汚染水の海洋放出設備工事の事前了解に抗議します」と題する声明を発表し記者会見を行った。このように、福島県内外の市民から、処理汚染水の海洋放出に対して根強い反対・疑問の声があがっている。2018年8月に福島県と東京都で開催された説明公聴会では、意見を述べた44人中42人が海洋放出に反対した。なお、政府が海洋放出の方針を示して以降、公の場での説明会・公聴会は開催されていない。
政府・東電がいう「関係者」や「理解」の内容は定かではないが、「関係者」には漁業者のみならず、福島県内外の市民も含まれるべきである。また、「理解」は開かれた場での十分な議論に基づく合意であるべきであり、政府・東電の方針の押しつけであってよいはずはない。
政府やメディアは、処理汚染水の海洋放出の影響を「風評被害」に限定し、矮小化している。しかし処理汚染水の海洋放出は、放射性物質を環境中に放出することである。本来、原発事故は人災であり、その加害者は国及び東電である。「風評被害」のみを強調する政府の手法は、海洋放出の影響やリスクについて指摘する人をあたかも加害者のようにみなし、健全な議論を封じることにつながる。
政府・東電は、今からでも放出する処理汚染水に含まれるすべての放射性物質とその総量について説明した上で、代替案およびリスクについても含め、開かれた議論を行うべきである。