参議院議員選挙を前に、各政党に要望書「ミャンマー国軍を利する経済支援を止めるための政策の後押しを求めます」を提出
環境、社会、人権の問題に取り組む日本のNGO 5団体(メコン・ウォッチ、国際環境NGO FoE Japan、武器取引反対ネットワーク:NAJAT、アーユス仏教国際協力ネットワーク、日本国際ボランティアセンター:JVC)は、2022年7月の参議院議員選挙に向けて、ミャンマー国軍を利する日本の経済支援を止めるための政策の後押しを求める要望書を10政党(与党:公明、自由民主、野党:NHK党、国民民主、社会民主、日本維新の会、日本共産、ファーストの会、立憲民主、れいわ新選組)に提出しました。
詳細は、以下の要望書本文をご覧ください。
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2022年6月9日
各政党 御中
【要望書】
ミャンマー国軍を利する経済支援を止めるための
政策の後押しを求めます
メコン・ウォッチ
国際環境NGO FoE Japan
武器取引反対ネットワーク(NAJAT)
アーユス仏教国際協力ネットワーク
日本国際ボランティアセンター(JVC)
ミャンマーでは、2021年2月1日に国軍によるクーデターが発生しました。国軍が指揮する「治安部隊」の暴力により犠牲になった方たちは、6月7日時点で確認されているだけでも1,906名にのぼります。与党であった国民民主連盟(NLD)関係者や、ミャンマー国軍の力による現状変更に対し抗議する人々のうち、不当に拘束、または逮捕状が発行された人は延べ13,769名とされ[1]、国軍と各地の武装勢力との戦闘や国軍の掃討作戦に関連する死者は正確には把握されておらず、5,600名を超えるという報道もみられます[2]。
ミャンマー国軍の凄惨な暴力は、クーデター以降に始まったものではありません。軍政時代の1988年と2007年に民主化運動の弾圧を行ったことはよく知られていますが、2017年8月には、数週間にわたりラカイン州でロヒンギャ・ムスリム住民が暮らす数百の集落を襲い、殺害、レイプ、恣意的拘束、民家への大規模放火を行なっています。国連人権理事会が設置した国際独立事実調査団(IIFFMM)はこの襲撃に関する報告で、国軍による人道に対する罪のほか、戦争犯罪に相当する国際人道法違反があったと述べています[3]。この事件の以前から、国軍は特に少数民族居住地域で、重大な人権侵害を繰り返してきました。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2022年5月30日時点で国内避難民(IDP)の推計値は1,037,800人、うち2021年2月のクーデター以降のIDPは推定691,200人、近隣国へ避難している難民は59,000人に上っています[4]。
日本政府はクーデター以降、国軍に対する非難声明は出すものの、2021年5月21日に、茂木元外相が記者会見で「状況次第では、ODA(政府開発援助)を見直さざるを得ない、あるいは、民間企業が投資したくても投資できなくなるという可能性がある点をミャンマー側に伝達し、事態の改善に向けた働きかけを行っている[5]」と述べてから、1年以上、経済支援に関して何ら具体的な見直しを行っていません。
まず、新規案件について、外務省はこれまでNGOやメディアの問合せに対し「ミャンマー国軍が主導する体制との間で新たに決定したODA案件はなく、今後についても現時点で早急に判断すべき案件はない」と回答しています。これは、早急に判断すべき案件が生じれば、検討・実施すると解釈でき、新規ODAを公式には停止していないこととなります。
また、ODAの継続案件について、有償資金協力(円借款)は2011年の民生化以降、累計1兆3千億円以上の借款契約をミャンマーと結んでいます[6]。これらの案件は停止しておらず、日本政府はクーデターを起こした国軍に対し「変わらず支援を続けている」というメッセージを発する状態になっています。
さらに、2020-2021年のミャンマーの経済成長率はマイナス18%と予想され[7]、その後も厳しい状況が続いています。現状での円借款の継続は、ミャンマーの市民の生活向上や民主化にも貢献せず、逆に厳しい経済状況の下で人々に莫大な負債を強いる結果となります。2011年からの民政化に伴うミャンマーへの大量の開発資金の流入は、日本の財務省の強いリーダーシップにより、ミャンマーの過去の国際金融機関への債務を日本が一時的に肩代わりし、また3千億円近い日本の債権を放棄したことで実現したものです[8]。日本政府には、ミャンマーの債務増加に関して、ミャンマーの市民及び日本の納税者に対する大きな責任があります。
私たち市民団体は繰り返し、日本政府に対し、国軍との経済的な関係を断ち切るよう要請を行っていますが[9]、日本政府はこれに対し、具体的な対応を示しておらず、日本から国軍に資金が流れる構図は変わっていません。したがって、貴党が来る参議院議員選挙における公約、また今後の外交政策において、以下の点を考慮・反映していただけるよう要望いたします。
1. 政府開発援助(ODA)に関して
1.1 入札に至っていない円借款事業の停止と情報公開
ODAを所管する外務省と、実施機関である国際協力機構(JICA)は、有償資金協力のうち、「借款契約を締結済みであるものの入札に至っていない案件」については、一切の手続きを停止していることを対外的に公表すべきです。
1.2 実施中の円借款事業の停止
実施中の案件も貸付を一旦停止し、その措置によって不利益を被る当該事業に関連する企業への補償等、必要な経費がどれほどになるのか精査、公表し、どのような処理が可能かを国会で議論してください。
1.3 バゴー橋建設事業の停止
既存の円借款案件のうち、特に、国軍系企業と繋がるバゴー橋建設事業は一旦停止すべきです。開発協力大綱では、「I. 理念 (2) 基本方針 ア 非軍事的協力による平和と繁栄への貢献」において、「開発協力の軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避するとの原則」の遵守が掲げられています。バゴー橋建設事業では、そのサプライチェーンにおいて、国連の調査団が関係を持たないよう勧告してきた国軍系企業、ミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)と資材の下請け契約が結ばれています。MECの収益は国軍の重要な資金源となっているとみられ、米国、EUの制裁対象となっています。また、2021年6月のG7会合の首脳コミュニケでは、ミャンマーに関し日本政府は「我々は、開発援助又は武器売却のいずれについても国軍を利することがないよう確保する我々のコミットメントを改めて表明し、ビジネスに対し、貿易及び投資を行う際に同様のデュー・ディリジェンスを実施するよう強く求める」と発表しています[10]。バゴー橋建設事業の継続はこの約束に反し、日本の外交の評価を毀損する恐れもあります。
2. その他の政府資金(OOF)について
2.1 ヤンゴンにおける不動産開発事業(通称Yコンプレックス)支援の停止
国土交通省所管の官民ファンドである海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)が出資し、財務省所管の国際協力銀行(JBIC)が融資する、ヤンゴンで建設中の複合施設Yコンプレックスについては、事業地(軍事博物館跡地)賃料がミャンマー国軍の利益となる恐れが非常に強いため、JOINは出資を引き揚げ、JBICは関連企業への貸付実行を停止し期限前償還を求めるべきです。この事業の敷地は国軍が所有しているとされており、環境アセスメントに添付された契約書から、賃貸人が米国・英国・カナダの制裁対象となっている兵站局の副局長で、賃料は「防衛口座 (Defence account)」という名義の口座に振り込まれることが明らかとなっています[11]。
2.2 海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)のミャンマー投資案件の見直し
JOINの資金の9割以上は、国税を原資としています。JOINがミャンマーで出資・保証をしているランドマーク事業[12]、ティラワ港湾ターミナル事業[13]への出資は、国軍との経済的関係を断つ対策をとり、JOINがその結果を公表するよう働きかけてください。国軍への資金流入が避けられない場合は、事業から撤退するよう働きかけてください。
2.3イェタグン・ガス田からの責任ある撤退
経済産業大臣は、イェタグンガス田開発に参画するJXミャンマー石油開発への出資を通し、イェタグンガス田開発事業の権益を保有しています。本年5月に、オペレーターを含む海外の全企業の同ガス田からの撤退が発表されていますが、共同事業者であり、国軍の統治下に置かれているミャンマー石油ガス公社(MOGE)に収益をもたらし、かつ、関連諸税を支払うことで、国軍が支配する「国家統治評議会(SAC)」にも利益をもたらします[14]。MOGEは本年2月にEUの制裁対象となっています。EUは「MOGEは国軍に支配されていて、国軍のために収入を生み出しており、その結果ミャンマー/ビルマにおいて民主主義と法の支配を弱体化させる活動を行う国軍の能力を助長している[15]」と指摘しています。撤退にあたっては国軍への資金流入が起きない手立てをとること、また、近い将来枯渇するとみられる同ガス田の廃坑に責任を持つことが強く求められます。
更に、喫緊の課題として、ミャンマー市民が切望している食料援助等の純粋な人道支援を、ミャンマー国軍を通さない形で継続的に実施することを、貴党からも強く支持していただくようお願いいたします。
また、選挙前でご多忙とは存じますが、お時間いただけるようでしたらご説明に伺いますので、ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。
本件の連絡先
特定非営利活動法人 メコン・ウォッチ
〒110-0016 東京都台東区台東1-12-11青木ビル3F
contact@mekongwatch.org
[1] 政治囚支援協会. 2022年6月7日. https://aappb.org/?p=21733
[2] Radio Free Asia. “New civilian death toll since coup ‘unprecedented’ in Myanmar’s history”
https://www.rfa.org/english/news/myanmar/toll-05172022210115.html
[3]Report of the independent international fact-finding mission on Myanmar, September 17, 2018,
pp. 374, 37.
[4] UNHCR. “MYANMAR EMERGENCY UPDATE as of 1 June 2022”.
https://reliefweb.int/report/myanmar/myanmar-emergency-update-1-june-2022
[5] https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken3_000069.html
[6]ODA国別データー集(2020). https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/100271618.pdf#page=30
[7] JETRO (2021/7/28). 「世界銀行、ミャンマーの経済成長率をマイナス18%に下方修正」https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/07/de57c29edbfbb0b9.html
[8] ミャンマーに対する円借款債権に係る遅延損害金の免除について(2012/5/26)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000005193.pdf
[9]これまで、8通の共同要請書を提出している。例えば、【共同声明】ミャンマー:クーデターから半年 日本政府は国軍の暴挙を止めるための具体的な行動を (2021/8/1)
http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20210801.pdf
[10] https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100200083.pdf
[11] メコン・ウォッチ. ヤンゴン市内都市開発(通称Y Complex事業)
http://www.mekongwatch.org/report/burma/ycomplex.html
[12] JOIN. ランドマーク事業. https://www.join-future.co.jp/investments/achievement/index.php?c=investment_view&pk=1603182636
[13] JOIN. ティラワ港湾ターミナル事業.
https://www.join-future.co.jp/investments/achievement/index.php?c=investment_view&pk=1603178647
[14] 【プレスリリース】日本政府・企業に対し、重ねてイェタグン・ガス田からの責任ある撤退を求める(2022.3.26). http://www.mekongwatch.org/PDF/pr_20220326.pdf
[15] EU. COUNCIL DECISION (CFSP) 2022/243 of 21 February 2022.
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32022D0243&from=EN