火力延命の水素・アンモニア発電、CCSは気候変動対策にならない ー省エネ法等改正案に対する声明ー
>PDFはこちら
3月1日、「安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律案」(通称:省エネ法等改正案)が閣議決定された。この法律案は、エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)、エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(エネルギー供給構造高度化法)、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(JOGMEC法)、鉱業法、電気事業法の5つの法律の部分改正をまとめて行うもので、現在開会中である第208回通常国会に提出された。
省エネ法等改正案の概要
この法案は、第6次エネルギー基本計画(2021年10月閣議決定)を踏まえ、「2050年カーボンニュートラル」や2030年度の温室効果ガス削減目標の実現に向け、日本のエネルギー需給構造の転換を後押しすると同時に、安定的なエネルギー供給を確保するための制度整備を目的とするとされている。しかし実際には、化石燃料の利用継続を認め、そのために特に水素・アンモニア発電やCCS付火力発電を推進するためのものだ。
化石燃料由来の水素・アンモニア発電は「非化石エネルギー」と位置付けるべきでない(高度化法、省エネ法)
「非化石エネルギー」とは現在、原子力と再生可能エネルギーを指している。しかし、原子力発電は廃止し、再生可能エネルギーこそ進めるべきであり、環境団体は以前から、「非化石エネルギー」から原子力を除外すべきであると指摘してきた。さらに今回、水素・アンモニア発電も「非化石エネルギー」として位置づけるという法案だが、水素もアンモニアも、当面主に化石燃料から生産し、化石燃料に混焼して利用される。それは、化石燃料の利用延命を正当化し支援することに他ならない。原子力や化石燃料由来の水素・アンモニア発電を「非化石エネルギー」として位置づけることは、本来省エネや再エネに集中すべき技術や投資が、それらに大きく振り向けられることを意味する。
また、CCS付火力発電も高度化法に位置づけて推進するとしている。しかしCCS(炭素回収貯留)は最大限のエネルギーシフトを実現したうえで、セメントや製鉄など脱炭素化が難しい限られた利用にとどめるべきであり、火力発電とセットで進めることは火力発電の維持・温存につながってしまう。
2月14日に英シンクタンクTransition Zeroが公表した日本の石炭火力政策に関するレポートによれば、日本で推進されるアンモニア混焼や石炭ガス化複合発電(IGCC)、二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術による二酸化炭素の排出削減効果はわずかであり、再生可能エネルギーよりもコストが高いため、脱炭素化に向けた解決策として適切でないと結論付けている(1)。
早急な化石燃料産業からの脱却、そして再生可能エネエルギーへの移行を(法案全体)
2月28日には、IPCC第二作業部会のレポートが報告された。気候変動の影響・脆弱性・適応に焦点を当てた本レポートでは、気候変動はこれまでの予測よりも早く進行しており、今後もより早いペースで深刻化することが指摘されている。また、すでにいくつかの気候変動による被害は修復不可能であり、もし1.5℃を超えてしまったら、多くの国にとって、適応することさえも困難となるとも指摘している(2)。
電気事業法改正案では、発電所の休廃止の事前届出制が組み込まれた。これは、古い発電所の休廃止が進むなか、近年の電力逼迫に備えるためのものである。しかし、そもそも発電所の休廃止によって供給力の不足が危惧されていることも、原発事故後に化石燃料依存構造を抜本的に変えてこなかったことが一つの原因である。
気候変動による被害の甚大化を抑え、1.5℃目標を達成するためには、早急な化石燃料事業からの脱却、そして地域コミュニティに根差した分散型の自然エネルギー社会への移行が不可欠だ。エネルギー大量生産・大量消費型の社会を見直し、日本のエネルギー政策の方向性を早急に、根本的に改めなければならない。今回の法案により、化石燃料由来の水素・アンモニア発電やCCS付火力発電など「誤った」対策を位置づけることは、本来進めるべき省エネルギーと再生可能エネルギーの促進を妨げる。
*参考
経済産業省プレスリリース「安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。>https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220301002/20220301002.html
(1)https://www.transitionzero.org/reports/advanced-coal-in-japan-japanese
(2)https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg2/