【プレスリリース】国内外23の環境NGO、バイオマス発電の事業計画策定ガイドライン改訂に関する共同声明発表

バイオマス2023.7.10
原料となる木材が木質ペレット工場に向けて運ばれる様子(写真:Dogwood Alliance)


本日、国際環境NGO FoE Japanなど国内外23の環境NGOは共同声明を発表し、2021年4月に改訂されたバイオマス発電の事業計画策定ガイドラインについて、「気候変動対策や生物多様性の保全等の観点から不十分である」とし、早急な温室効果ガス排出抑制と燃料の持続可能性に関する基準の強化を求めました。

声明では、今回の改訂で盛り込まれなかった、ライフサイクルにわたる温室効果ガス排出評価及び基準の設定をすること、パーム油をFITの対象から除外すること、木質バイオマス燃料に持続可能性基準を設定すること、持続可能性の証明に関する透明性やガイドライン遵守の確認を徹底することを求めるとともに、農作物の収穫に伴って生じるバイオマスの認証取得期限が1年猶予されたことを批判しています。また、今年度のバイオマス持続可能性ワーキンググループを早急に招集し、これら問題点を議論することを強く求めています。

共同声明の全文は、以下をご覧ください。

共同声明>PDF版(日本語、英語)


2021年4月13日

2021年事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)改訂に関する共同コメント

私たちは、経済産業省が4月1日に発表した、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)の改訂は、気候変動対策や生物多様性の保全等の観点から不十分であることから、温室効果ガス(以下、GHG)排出抑制や燃料の持続可能性に関する基準強化を早急に行うことを求めます。

背景

2020年10月、日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを達成することを表明しました。一方で、2012年に開始された再生可能エネルギーの固定価格買取制度は、GHGの排出量に関する評価を行っていません。特に火力発電であり、森林に影響を与える可能性のあるバイオマス発電については、ライフサイクルにわたりGHGを排出し、生態系及び生物多様性などへの環境社会影響をもたらすことが懸念されます。

このことから、FITにおけるバイオマス燃料の持続可能性について、資源エネルギー庁のもとに設置された持続可能性ワーキンググループで議論が続けられてきました。しかし残念ながら、事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)(以下、ガイドライン)の今回の改訂では、昨年から大きな変更がなく、日本の2050年の気候目標の達成と森林の保全及び持続可能な利用が困難になる可能性があります。

日本によるバイオマス燃料輸入の急速な拡大は、国際的な関心を集めています。2021年2月には、500名以上の科学者が菅首相をはじめとする世界の指導者に宛てた、森林破壊につながるバイオマス燃料の使用に警鐘を鳴らす書簡(英語日本語)を発表しました。また、2020年9月には、米国の17の環境保護団体が森林への影響を懸念し、木質ペレットを固定価格買取制度の対象から外すよう求める書簡(英語日本語)を日本政府に送付しています。2020年12月には、国内外34の環境NGOが燃料を輸入する大規模バイオマス発電について、「生物多様性を脅かし、気候変動を加速させる」として、中止を求める共同声明を発表しました。

ライフサイクルでの温室効果ガス排出量の制限を導入すべき

ガイドラインは、GHG排出量の制限をしていません。気候変動に対応するためには、早急にすべての種類のバイオマス燃料のライフサイクルにおけるGHGの排出量に厳しい上限を設ける必要があります。特に、森林由来のバイオマス燃料(主に木質ペレットや木質チップ)の燃焼は、森林に固定されていた炭素を大気に即時に放出すること、膨大な時間をかけて土壌に蓄積された炭素の排出に繋がるリスクがあること、伐採後、たとえ森林が元通り再生したとしても、それまでに数十年から百年以上という長い時間がかかることを考えれば、炭素中立とはいえません。

また、バイオマス燃料生産によって土地利用の変化や森林の転換があった場合、GHGの排出量はより大きくなります。さらに、日本におけるバイオマス発電事業の多くは、海外から燃料を輸入していますが、輸送により多くのGHGを排出します。2021年度のバイオマス持続可能性ワーキンググループにおいて、2050年カーボンニュートラルの達成に貢献するためには、ライフサイクルにわたるGHG排出評価および排出基準の設定が求められます。

パーム油をFITの対象から除外すべき

私たちは、今回の改訂で新規に検討の対象となる燃料が、農産物に関しては「非可食の副産物」に限定されたことを歓迎します。しかし「可食の主産物」であるパーム油は、既にFITの対象として認められています。これは大きな矛盾であり、パーム油はFITの対象から除外すべきです。ガイドラインでは、パーム油の持続可能性を担保するためにRSPO認証油もしくはRSB認証油に限り利用が認められていますが、どちらの認証も食料競合の問題を解決することができないうえに、RSPO認証には、GHG排出量の基準がありません。

全てのバイオマス燃料に持続可能性の基準を

バイオマス持続可能性ワーキンググループが発足して2年、パーム油とPKSについては持続可能性に関する認証が要件づけられました。一方でFIT認定を受けた多くのバイオマス発電所が、木質ペレットや木質チップなどの木質バイオマスを燃料利用しているにもかかわらず、森林生態系や生物多様性を守るために必要な木質バイオマス燃料に関する持続可能性基準については明確に記述されていません。天然林を植林地などに転換しないこと、伐採によって森林減少・劣化を引き起こさないこと、森林生態系を破壊しないこと、森林の炭素ストックを保護すること、生物多様性の保全など、対処すべき多くの課題があります。

加えてガイドラインでは、輸入木質バイオマスに関しては「認証が必要」と明記されているにもかかわらず、実際には森林認証ではなく合法性確認のみで認めるという誤った運用が行われている例があります。また、流通段階における分別管理の認証(CoC認証)のみを確認し、原料が生産された森林自体の持続可能性の認証(FM認証)を確認していないケースもみられます。

上記の問題を解決するため、ガイドラインで求める認証とは何かを木質バイオマスについても早急に明示すべきと考えます。FITの対象となる全てのバイオマス燃料に対し、持続可能性基準の検討と設定を急ぐ必要があります。

求められる透明性と確認体制、遵守の徹底

ガイドラインでは、パーム油発電においては、第三者認証の名称と認証燃料の量及び認証燃料固有の識別番号をホームページ等で公開することが定められています。しかし、識別番号からは第三者が搾油工場や農園の情報をたどることはできず、透明性が確保されているとは言えません。人権侵害や森林減少、泥炭地開発などの重大な問題を回避するためには、調達先の搾油工場および農園情報の公開を条件とする必要があります。輸入される森林由来のバイオマス全体に対して、同様の情報公開が求められます。

また、現在の制度では、FIT認定された事業がガイドラインで求められている事項を遵守しているか確認する仕組みがありません。現在、認証取得を猶予されているPKS等の副産物を燃料とする場合、自主的取り組みの内容及び農園等の燃料発生地点の情報を自社ホームページで公開する事が条件づけられていますが、実際には多くの発電所がこれらの情報を公開していません。また、昨年京都府福知山市および舞鶴市でパーム油発電所が停止・計画中止になりましたが、これらの事例では近隣住民に対する情報公開や協議が不十分だったばかりか、福知山市では近隣住民が騒音と悪臭に悩まされ、公害調停にまで発展しています。今後こうした事態を引き起こさないためにも、ガイドラインと持続可能性確認の遵守を徹底する体制の確立と、不遵守に対する是正措置の確保が必要です。

猶予期間を延長すべきではない

これまで主産物(パーム油)の認証取得は2021年3月31日まで、副産物(PKS等)の認証取得は2022年3月31日までとされていましたが、この要求事項の開始日はさらにそれぞれ1年延長され、2022年3月31日と2023年3月31日となりました。コロナ禍のため、認証品の調達が困難というのがその理由ですが、猶予期間が延長されればされるだけ、その間は、持続可能性が確認されていない燃料が使われ続けることになります。結果、当該バイオマス発電が、森林生態系や生物多様性、人権面での悪影響を引き起こすことも考えられます。コロナ禍といえども、持続可能性が確認されていることは基本であり、猶予期間を延長すべきではありません。

2020年度のバイオマス持続可能性ワーキンググループでは、ライフサイクルにわたるGHG排出量に関して、明確な基準を導入するまでの議論には至りませんでした。また、前述のような木質バイオマスの持続可能性確認に関する問題点を改善するための議論も行われませんでした。私たちは、経済産業省が2021年度の持続可能性ワーキンググループを早々に招集し、GHGの排出基準、木質バイオマス、特に輸入燃料に関する持続可能性基準についての議論を早急に行うことを強く求めます。

呼びかけ団体(五十音順)

国際環境NGO FoE Japan
地球・人間環境フォーラム
バイオマス産業社会ネットワーク(BIN) 理事長 泊みゆき

賛同団体(五十音順)

ウータン・森と生活を考える会
気候ネットワーク
公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン(WWF ジャパン)
石炭火力を考える市原の会
蘇我火力発電所計画を考える会
袖ヶ浦市民が望む政策研究会
プランテーション・ウォッチ
舞鶴西地区の環境を考える会
熱帯林行動ネットワーク(JATAN)
横須賀火力発電所建設を考える会
Fridays For Future Sendai
Australian Forests and Climate Alliance (オーストラリア)
Bob Brown Foundation (オーストラリア)
Dogwood Alliance (米国)
Environment East Gippsland (オーストラリア)
Mighty Earth(米国)
Natural Resources Defense Council (米国)
Partnership for Policy Integrity (米国)
Pivot Point(米国)
Rainforest Action Network(米国)
Solutions for Our Climate(韓国)
Stand.earth(カナダ)
Wilderness Society (オーストラリア)

【関連動画】

【関連資料】

金融機関449社にバイオマス発電融資の持続可能性確認でアンケート実施
プレスリリース:環境NGOグループ、大規模バイオマス発電の中止を求める共同声明発表 「生物多様性を脅かし、気候変動を加速させる」
見解:バイオマス発電は「カーボン・ニュートラル(炭素中立)」ではない
「バイオマス発電をめぐる要請書 FIT法の目的である『環境負荷の低減』の実現を」
「バイオマス発電に関する共同提言」
何が問題? H.I.S.のパーム油発電Q&A
声明:FITバイオマス発電に温室効果ガス(GHG)排出評価を!――学識者ら276人

 

関連するプロジェクト