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ベトナム・バンフォン1石炭火力発電事業
国際NGO12団体、JBIC等に緊急要請書提出~融資は日本政府の政策に矛盾する
FoE Japan含む国内外の環境団体12団体は、日本政府および日本の公的金融機関である国際協力銀行(JBIC)および日本貿易保険(NEXI)に対し「ベトナム・バンフォン1石炭火力発電事業からの日本の公的支援撤退を求める要請書」を提出しました。
バンフォン1石炭火力発電事業は、2基の660メガワット(MW)の超臨界圧の石炭火力発電所を、カインホア省ニンホアのニンフックコミューンに建設する計画です。住友商事が出資する同事業に対し、現在、JBICが融資を、NEXIが付保を検討中であり、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行が融資する可能性も報道されています。
OECD公的輸出信用アレンジメント(OECDルール)では、500MW超の石炭火力発電所への支援を制限しており、500MW超の石炭火力発電事業であるバンフォン石炭火力発電所に対し、JBICおよびNEXIは同事業を支援すべきではありません。
また日本の第5次エネルギー基本計画はOECDルールも踏まえ、支援対象を原則、超々臨界圧またはそれ以上の技術を採用する石炭火力発電所にするとしています。バンフォン1石炭火力発電所への支援は、日本のエネルギー政策とも、日本も批准しているパリ協定とも矛盾します。
>要請書本文はこちら(pdf版 日本語/English)
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内閣総理大臣 安倍晋三殿
財務大臣 麻生太郎殿
経済産業大臣 世耕弘成殿
国際協力銀行総裁 前田匡史殿
日本貿易保険代表取締役社長 板東一彦殿
ここに署名する団体は、日本政府および日本の公的金融機関に対し、ベトナム・バンフォン1石炭火力発電事業への支援を行わないよう要請します。日本の公的金融機関である国際協力銀行(JBIC)および日本貿易保険(NEXI)による同事業への支援は、OECDルールにも、日本のエネルギー政策にも矛盾しています。
バンフォン1石炭火力発電事業は、2基の660メガワット(MW)の超臨界圧の石炭火力発電所を、カインホア省ニンホアのニンフックコミューンに建設する計画です。住友商事が出資する同事業に対し、現在、JBICが融資を、NEXIが付保を検討中であり、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行が融資する可能性も報道されています(※1)。また、三井住友銀行が財務アドバイザリーサービスを提供しています。
2019年2月4日、JBICおよびNEXIはそれぞれのウェブサイトに同事業の環境影響評価書(ESIA)および環境許認可証明書を掲載しました。最新のESIAは2017年11月に完了したものです。バンフォン1石炭火力発電事業は、超臨界圧の石炭火力発電所で、その温室効果ガスの排出量は750g~850g/kWhと推定されます。
OECDルール違反
OECD 公的輸出信用アレンジメント(OECDルール)では、500MW超の石炭火力発電所への支援を制限しており、1)超々臨界圧(USC)もしくは2)温室効果ガスの排出が750g CO2/kWh未満の石炭火力発電所に対してのみ、公的信用付与を認めるとしています。これらの条件に照らせば、500MWを超える超臨界圧の石炭火力発電所であるバンフォン石炭火力発電所は公的支援の対象にならず、JBICおよびNEXIは同事業を支援すべきではありません(※2)。
OECDルールには移行期間が設けられており、2017年1月1日よりも以前に「技術フィージビリティスタディーおよび環境影響評価が完了」しており、迅速に申請手続きがなされたものに限り、例外を認めています。
一方、バンフォン石炭火力発電事業については、最初のESIAが2011年に完了し、その後2015年に改訂されているものの、最新のESIAが完了したのは2017年11月です。この最新のESIAは古いものに比べて倍のページ数があることからも、2017年以前に行われたESIAをもって、移行期間の例外要件を満たしているとは言えません。
さらに、最初のESIAの完成は2011年と8年も前のことであり、その改訂も2015年で4年前と、計画当初から今回の支援検討開始までに時間が空いています。従って、移行期間の例外要件である「迅速に対応された」案件には該当しません。
JBICおよびNEXIは低効率かつ温室効果ガスの排出量の多い発電所に対する支援を制限するというOECDルールを、曲解しようとしています。
事業による環境社会・人権への影響
OECDルールの違反に加え、バンフォン1石炭火力発電事業では様々な環境社会・人権面での影響が懸念されています。地元のコミュニティは石炭灰の処理や温排水が湾内の生態系に及ぼす影響を懸念しています。また、事業対象地からの住民移転が行われましたが、被影響住民の生計回復が十分でないとの指摘も出ています。
2017年以降、JBICおよびNEXIは5つの石炭火力発電事業への支援を決定し、またバンフォンを含む7箇所の石炭火力発電事業への融資を行う可能性があります。もしこれらの石炭火力発電所がすべて稼働すれば、7130万トンもの温室効果ガスを排出することになり、この排出量は日本人7400万人分に相当します(※3)。気温上昇を産業革命以前に比べ2度未満に抑え、1.5度以下に抑える努力を追求するとしている、気候変動に関する国際的な枠組みであるパリ協定とも矛盾します。国際エネルギー機関(IEA)の事務局長も「二酸化炭素を排出する発電所を建てる余地は残っていない」と発言しています(※4)。
日本政府は気候変動に取り組むと宣言しています。安倍総理は、2018年の西日本で起きた異常気象や北米やヨーロッパの熱波、フィリピンの台風被害などについて触れながら、気候変動対策を行うと約束しました(※5)。さらに日本の第5次エネルギー基本計画ではOECDルールも踏まえ、支援対象を原則、超々臨界圧またはそれ以上の技術を採用する石炭火力発電所にするとしています(※6)。バンフォン1石炭火力発電所への支援は、日本のエネルギー政策とも、パリ協定とも矛盾します。
私たちはJBIC、NEXIに対して、バンフォン1石炭火力発電事業への支援を決定しないよう要請します。また日本政府がいかなるものであっても新規の石炭火力発電事業を支援しないよう強く要請します。
Cc:
三菱UFJ銀行 取締役頭取執行役員 三毛兼承殿
みずほ銀行 取締役頭取 藤原弘治殿
三井住友銀行 頭取CEO(代表取締役) 高島誠殿
住友商事株式会社 代表取締役 社長執行役員 CEO 兵頭誠之殿
署名団体
BankTrack
Friends of the Earth France
FoE Japan
Friends of the Earth United States
環境持続社会研究センター (JACSES)
気候ネットワーク
Market Forces
メコン・ウォッチ
NRDC
Oil Change International
350.org Japan
350.org Vietnam
(原文英語、翻訳:FoE Japan)
連絡先:
国際環境NGO FoE Japan
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脚注
(※1)Minerva Lau, Project Finance International, ‘Van Phong IPP into due diligence’ (22 June 2018).
(※2)バンフォンへの支援形態は投資金融で、そもそもOECD ルールの対象外ではあるが、JBIC は投資金融に対してもOECD ルールを準用するとしている。
(※3)Friends of the Earth U.S. “Violations of International Coal Financing Restrictions by Japan’s Export Credit Agencies” Nov 13, 2018
(※4)The Guardian “World has no capacity to absorb new fossil fuel plants, warns IEA” Nov 13, 2018
(※5)Prime Minister Shinzo Abe “Join Japan and act now to save our planet” 2018 年9 月24 日 Financial Times
(※6)第5次エネルギー基本計画 2018 年7 月