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ベトナム・バンフォン1石炭火力発電所事業
プロジェクト概要 | これまでの動き
ベトナム・バンフォン1石炭火力発電所事業とは?
1.事業の概要
ベトナム南中部カインホア省ニンホアにあるバンフォン湾に、1320MW(660 MW x 2基)の超臨界圧(SC: Super Critical)石炭火力発電所を建設する事業。
バンフォン湾には経済区があり、同事業もその一部。予定地の近隣にはセメント工場や、造船所が存在する 。またバンフォン湾は水深があることから、国際貿易港の建設地として目されている。
一帯には、ビーチ、サンゴ礁、砂丘、森林などの自然環境があり、一部は観光地化されている。また、養殖や海藻採取も含め漁業が盛んである。
建設地:カインホア省、ニンホア、ニンフックコミューン
(Ninh Phuoc commune, Ninh Hoa, Khanh Hoa province)
発電総容量:1320MW(660MWの超臨界圧石炭火力発電所2基)
事業費:2800億円
事業実施者:住友商事 (BOT、25年の売電契約を締結)
EPC:IHI、東芝、CTCI(台湾)、斗山重工業(韓国)
稼働開始予定:2023年
2.日本との関わり
事業実施者:住友商事公的金融機関 :国際協力銀行(JBIC)が融資、日本貿易保険(NEXI)が付保
民間金融機関:三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友信託銀行、 OCBC(シンガポール)、DBS(シンガポール)、Bank of China(中国) 建設関連:
IHI (ボイラー機器供給と据え付け)
東芝 (蒸気タービンおよび発電機などの設計・製造・供給・据付工事・試運転)
3.主な経緯
年 | 動き |
---|---|
2009 | ベトナム政府が計画承認 |
2011 | ベトナム政府当局がEIA承認 |
2015 | ベトナム政府当局が改訂EIA承認 |
2017.12 | ベトナム政府当局が住友商事に対する投資証書(investment certificate)を発行 |
2017.12 | ベトナム政府により再改定版EIA承認 |
2019.2.4 | JBICが融資検討開始 NEXIが付保検討開始 |
2019.4.19 | JBICが融資決定 NEXIが付保決定 |
4.主な問題点
1. 気候変動影響
2015 年にパリ協定が採択され、地球の平均気温の上昇を 1.5 度〜2度未満に抑えることが国際的に合意された。国連環境計画(UNEP)の排出ギャップレポート によれば、新規の石炭火力発電所建設は、この目標と整合性を持たないことが明らかになっている。
ベトナムは気候変動脆弱性インデックスにおいて、常に上位に位置づけられている国であり、最も気候変動影響に脆弱な国の一つと言える 。2001年から2010年の間には、異常気象や自然災害によって、平均1.5%のGDPに相当する損失が毎年生じている 。石炭火力発電所による温室効果ガス排出は、気候変動がさらを深刻化させ、海面上昇、台風の巨大化、水害などが多発すればさらなる被害が予想される。
2. OECDルールとの整合性
660メガワット(MW)の超臨界圧の石炭火力発電を2基建設するバンフォン石炭火力発電所の計画は、OECD 公的輸出信用アレンジメント(OECDルール) で公的支援の対象外となっている「500MW超の超臨界圧石炭火力発電」に分類される。日本政府もOECDルールに則り、原則超々臨界圧以上の石炭火力発電設備のみ支援するとの方針を示している ため、日本政府の方針にも反している。
3. 大気汚染悪化の懸念
ベトナムでは大気汚染の問題が深刻になっており、石炭火力発電所からの排出も一因とされている 。石炭火力発電所由来の大気汚染が早期死亡率につながっていることも報告されており、ベトナムを含む東南アジア地域で現在計画中あるいは建設中の石炭火力発電所がすべて稼働した場合のシミュレーションによると、ベトナムは 2030 年までに ASEAN 諸国の中で汚染のひどい国の上位に位置づけられ、大気汚染による早期死亡者の数は年間 2万人にのぼると推定される 。
表:バンフォン石炭火力発電事業の大気汚染物質排出値(計画値)
PM | SOX | NOX | |
---|---|---|---|
事業の計画値 | 47 mg/N3 | 300以下 | 360以下 |
ベトナム国内基準 | 140 | 350 | 455 |
国際基準(IFCガイドライン準拠) | 50 | 現地基準(200-850) | 510 |
4. 地域住民の参加・協議と情報公開の問題
現地からの情報によると、同事業の環境社会影響アセスメント(ESIA)が2017年12月にベトナム政府により承認されている にも関わらず、2019年になってからも事業の影響を受ける地域住民には公開されていなかった 。
また、2019年2月に周辺に住む住民に10名程度に対して聞き取りを行ったところ、全員が説明会に呼ばれていないと答えた。
さらにESIAによれば、住民説明会に参加したのは地元の代表者レベルのみであり、その後どのように地域住民に情報共有がなされているのか不明である。地域住民は十分な情報を提供された上での協議、つまり、同事業の意思決定プロセスへの参加ができない状況にあった。
こうした状況は、「環境社会影響評価報告書の作成に当たり、事前に十分な情報が公開されたうえで、地域住民等のステークホルダーと協議が行われ、協議記録等が作成されていなければならない」と規定するJBICのガイドラインに違反している。
また、AFP通信の現地調査によると、移転対象地に居住する住民が立ち退きを拒んだところ、家屋が現地当局の職員によって一家の同意もなく破壊される事態が発生した。一家は、破壊された家屋の後にテントを張り生活をしていた。記事によると、一家は石炭火力発電事業について十分な説明を受けておらず、提示された移転地は農地からも遠かったという 。 非自発的住民移転に関しては、「影響を最小化し、損失を保障するために、対象者との合意の上で実効性ある対策が講じられなければならない」等と規定するJBICのガイドラインに違反している。
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