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インドネシア・インドラマユ石炭火力発電事業
「平穏な農村の生活を守りたい」
来日した住民が援助停止を求める要請書を日本政府・JICAに提出
4月9~14日まで、国際協力機構(JICA)が税金で援助を続けているインドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画(100万kW)に反対の声をあげている農民らが来日し、日本政府およびJICAに対し、「これ以上、いかなる形態の支援・融資も行なわないよう求める要請書」を提出しました。
> 要請書(原文はインドネシア語)の和訳はこちら(PDF)
(写真)左から内閣官房、外務省、JICAでそれぞれ要請書を手渡すインドラマユ農民
今回来日したのは、インドラマユ県パトロール郡ムカルサリ村を拠点にする住民ネットワーク JATAYU(Jaringan Tanpa Asap Batubara Indramayu:インドラマユから石炭の煙をなくすためのネットワーク)のメンバー4名と、住民の支援をつづける現地NGO「インドネシア環境フォーラム(WALHI)」の弁護士およびスタッフの2名です。
来日中、6名は、記者会見や院内勉強会、セミナー、外務省前での抗議アクション、また、外務省、JICA等との各会合に参加。それぞれが、事業に反対する理由や自分たちが直面している深刻な人権侵害について、時に目に涙を浮かべつつ語り、日本の援助を止めてほしいと訴えました。
(写真左)環境省記者クラブでの記者会見(写真右)参議院議員会館での院内勉強会
(写真左)法政大学会場でのセミナー(写真右)外務省前での抗議アクション
以下、各メンバーが日本に来て、直に語ってくれた話しの主な内容です。
JATAYU顧問 アフマッド・ヤニさん:
同拡張計画で農地や漁場など生計手段を奪われたり、公害による健康被害がひどくなることを懸念し、約3年間、反対運動を続けてきました。私たちの水田はとても生産性が高く、1年に16トン(二期作)のコメが収穫できます。農地が奪われれば、私たちの生活はどうなるのでしょうか。
私たちは、地元の事業予定地からインドラマユ県議会、西ジャワ州政府、そして首都ジャカルタの大統領府前まで、インドネシアのあらゆる場所で同拡張計画の中止を訴えてきましたが、私たちの願いは聞き入れてもらえません。だから、こうして日本の皆さんに援助を止めてもらえるようお願いしに来たのです。
JATAYU代表 ロディさん:
同拡張計画の予定地の隣で2010年から稼働している既存の石炭火力発電所によって、周りのココヤシの木は枯れ、呼吸器系疾患で苦しんでいる子どもも見られます。沿岸で獲れる小エビの量も減ってしまいました。
同拡張計画は既存のものより規模が大きく、みんな、こうした影響がひどくなるのではと心配しています。これ以上の石炭火力発電所を自分たちの村に建設することは断固反対です。日本には援助をすぐに止めてもらいたいです。
JATAYUメンバー サウィンさん(2019年2月まで冤罪で5ヶ月収監):
私たちJATAYUは、同拡張計画の環境許認可の取消しを求める行政訴訟を起こし、バンドン地裁で住民勝訴の判決を勝ち取りました。自分は仲間と勝利を祝い、木曜の夕方に自分の村で国旗を掲げました。
しかし、その翌日、自分の合意なしにその国旗が誰かに持ち去られてしまいました。その後、日曜の夜中1時、突然、長い銃を持った警官5人が家にやってきて、私を逮捕すると言うのです。私の妻は「自分の夫はテロリストでも犯罪者でもない。なぜ夫を連れて行くのか。」と泣き叫びました。罪状は国旗を上下逆に掲げたという『国旗侮辱罪』とのこと。手錠をかけられ、車に乗せられて県警に連れて行かれる私を妻が泣きながら途中まで走って追いかけてくるのが見えました。
この時は幸い、同じ日の夜に保釈されました。これが2017年12月のことでした。しかし、それで終わりではありませんでした。その後、2018年9月になり、また、同じ『国旗侮辱罪』で警察に召喚されたのです。すぐに勾留され、公判が開かれ、5ヶ月の実刑を受けることになりました。
私は農業で家族の生活を支えてきました。私がいない間、妻や子どもは経済的にも精神的にも非常に負担がかかりました。私は事業に反対したというだけで、冤罪で5ヶ月間、身の自由を奪われました。この間の補償を一体誰がしてくれるというのでしょうか。日本の皆さん、どうかこの事業を止めてください。
JATAYUメンバー オダさん(女性メンバー):
私たち女性は農民として、田植えをしたり、紫タマネギの収穫作業をしたり、いろいろな農作業をしながら、家庭の生活を支えてきました。でも、事業で農地がなくなったら、どうやって生活していけばいいのでしょう。
自分は事業予定地内の農地近くに住んでいるので、休憩しにくる農民に軽食や飲み物を出しながら、家計の足しにしてきました。石炭火力発電所が建設されれば、それもなくなってしまい、さらに、私の夫も農業をつづけることができなくなります。私たちは心配でたまりません。
WALHI ロナルド・シアハアンさん(弁護士):
JATAYUのメンバーが続けている行政訴訟は、地裁での勝利後、高裁、最高裁で敗訴が続いていますが、最後の訴訟手続きとなる再審請求をこの4月終わり、もしくは、5月初めに行なう予定です。つまり、同拡張計画の違法性の判断は、まだ結着がついていない状況です。
深刻なのは、現在、インドネシア全体で、インドラマユの住民のように開発事業において環境保護のために声をあげている住民や活動家が次々と冤罪などの弾圧を受けていることです。WALHIが把握しているケースだけでも、今年に入ってから3ヶ月間だけで、103人の住民と25人の活動家がこうした弾圧の対象となっています。日本はインドネシアへの第二位の投資国です。自分たちの関わる開発事業で、こうした人権侵害が起きていないか、しっかり精査する必要があります。
>ロナルド・シアハアンさんの発表資料はこちら(PDF)
WALHI西ジャワ ワヒュディンさん(アドボカシー担当):
現在、ジャワーバリ電力網の供給予備率は30%前後になっています。インドネシア国有電力会社(PLN)自身が出している最新の電力供給総合計画(RUPTL)2019~2028年を見ても自明なのは、電力需要の伸び率を高く見積もってきたことから、電力が余っているということです。また、PLNは現在、多額の負債を抱えており、財政状況がよくありません。
ここで問いたいのは、インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画からの電力が本当に必要なのかということ、また、必要でない電力のためにインドネシアがこれ以上の負債を抱えることが妥当なのかということです。生活を守ろうとしている住民の強い反対の声があることも鑑み、日本はこの事業への支援を早急に止めるべきです。
>ワヒュディンさんの発表資料はこちら(PDF)
(※)インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業
2,000 MW(1,000 MW ×2基)の超々臨界圧石炭火力発電所を建設(275.4 haを収用)し、ジャワ-バリ系統管内への電力供給を目的とする。1号機(1,000 MW)に国際協力機構(JICA)が円借款を検討予定(インドネシア政府の正式要請待ち)。すでにJICAは2009年度に協力準備調査を実施し、基本設計等のためにエンジニアリング・サービス(E/S)借款契約(17億2,700 万円)を2013年3月に締結。E/S借款は「気候変動対策円借款」供与条件が適用されたが、2014年の第20回気候変動枠組条約締約国会議(COP20)では、同石炭火力事業を気候資金に含んだ日本政府の姿勢が問題視された。
詳細はこちら → https://foejapan.org/aid/jbic02/indramayu/