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インドネシア・インドラマユ石炭火力発電事業
JICA支援のインドラマユ石炭火力に反対した農民に実刑判決
――日本政府・JICAに人権状況の改善を求める緊急要請書を提出
インドネシアで国際協力機構(JICA)が支援を続けるインドラマユ石炭火力事業・拡張計画に反対している農民3名が、「国旗侮辱罪」という冤罪で9月から不当勾留されていた件について、12月27日、インドラマユ地裁より判決が言い渡されました。結果は、2名に対して5ヶ月、残る1名に対して6ヶ月という実刑判決。本人とその家族、また、事業にともに反対し、3名の早急な無条件釈放を求めてきた仲間の農民メンバーらにとって、非常に受け入れがたいものとなりました。
写真左:罪状を最後まで否認しつづけた(左から)ナントさん、スクマさん、サウィンさん(2018年12月)
写真右:公判の行われたインドラマユ地裁前で、3名の早急な無条件釈放を求める仲間の農民メンバー(2018年11月)
写真:首都ジャカルタで行われた国際人権デーのアクションに参加し、3名の早急な無条件釈放を求める仲間の農民メンバー(2018年12月)
インドラマユの小作農や農業労働者らは、水田や畑といった農地や小エビが獲れる沿岸の漁場など、自分たちの生計手段が石炭火力発電事業の拡張計画によって奪われることを懸念し、平和的な抗議活動や訴訟を行なってきました。しかし、2017年12月6日にバンドン地裁で同事業の環境許認可の取り消し判決を勝ち取って以降、今回のような「犯罪者扱い」という人権侵害を受け続けています。
行政訴訟は現在、最高裁の判決で住民側の敗訴となっていますが、今後、住民側が再審請求を行なう予定であるため、これまでのように引き続き、政府側が住民を黙らせようと動くことが懸念されます。
JICAはこれまでに本事業の協力準備調査を行ない、現在もエンジニアリング・サービス借款での貸付を行ない続けていますが、このように、日本と関わりの深い援助案件の場で、事業に反対の声をあげている住民が冤罪による心身両面での圧力をかけられる――この公権力の弾圧という深刻な人権侵害が一向に改善されない現状を踏まえ、12月27日、日本NGO3団体は外務省・JICAに対して緊急要請書を提出。今回の3名の実刑判決について、日本政府としてインドネシア政府側に強い懸念を表明し、人権状況の改善を求めること、また、基本的人権の保障や適切な住民参加が確保されていないことから、早急に借款供与の停止を行なうよう求めました。
以下、3団体による緊急要請書です。 >PDF版はこちら
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外務大臣 河野 太郎 様
国際協力機構 理事長 北岡 伸一 様
インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画
事業に反対している住民の長期不当勾留に係る緊急要請書
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
国際協力機構(JICA)が支援するインドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画(以下、同計画)に反対してきた住民グループのメンバー3名が、インドネシア国旗を上下逆に掲げたという「国旗侮辱罪」の冤罪で今年9月から未決勾留されている件については、要請書(9月25日付および10月12日付)や会合(11月8日)等を通じて、日本政府およびJICAに幾度となく不当勾留であること等の懸念をお伝えしてきました。9月から3ヶ月にわたる未決勾留の期間中、10月下旬から毎週、本件に関する公判がインドラマユ地裁で行なわれてきましたが、同住民3名に対する判決が、12月27日、同地裁により言い渡されました。結果は、2名に対しては5ヶ月の実刑判決、もう1名に対しては6ヶ月の実刑判決(各々、未決勾留期間を含む)というものでした。
私たちは、JICAが協力準備調査やエンジニアリング・サービス(E/S)借款で支援してきた同計画に反対している住民が、このように長期にわたり不当勾留されている深刻な人権侵害の状況に対し、改めて深い憂慮の念を表明するとともに、日本政府・JICAに対しては、今回のような冤罪が、国家事業に反対の声をあげる地域住民に対するインドネシア政府側の弾圧に他ならないことを再度注意喚起させていただきます。
これまでにもお伝えしてきたとおり、農地や漁場などの生計手段や健康への影響を懸念し、同計画の反対運動を続けてきた現地の住民ネットワーク JATAYU(インドラマユから石炭の煙をなくすためのネットワーク)のメンバーは、昨年12月6日、バンドン地裁にて、同計画に対する環境許認可取消を求める行政訴訟に勝訴して以降、継続的な「犯罪者扱い」による人権侵害に悩まされてきました。
まず、昨年12月17日に、上述の3名が「国旗侮辱罪」の容疑で一時不当逮捕されました(この時は24時間以内に保釈)。また、4月上旬からは、上述の行政訴訟の原告1名を含む4名が、同計画のためのアクセス道路工事をめぐるインドネシア国有電力会社(PLN)の下請け業者との暴力沙汰の件で未決勾留され、最終的には6ヶ月の実刑(未決勾留期間を含む)を受けました(10月上旬に釈放)。そして、9月下旬、再び「国旗侮辱罪」で同じ3名が不当逮捕され、今回は長期にわたり不当勾留されています。
こうした「犯罪者扱い」のケースが、何故JATAYUのメンバーの身にのみ繰り返し起きるのか――一連のケースが、同住民グループによる同計画の反対運動と一切関係性がないと説明することは、かえって不自然です。現地NGOのWALHI(インドネシア環境フォーラム)によれば、現在、本件のように開発事業(多くは鉱山開発)等の環境問題を訴え、「犯罪者扱い」されている住民のケース(収監中、控訴中、公判中、保釈中などのケースを含む)は、インドネシア全体で15件(計57名)に上るとのことです。国家の後押しする開発事業に反対の声をあげた住民に対し「犯罪者扱い」することで圧力をかけ、黙らせようとする「公権力による弾圧」が、依然としてインドネシアで起きている実態を日本政府・JICAは看過すべきではありません。
現に、インドラマユで、こうした弾圧の直接の対象となっている当人、および、その家族にとっては、日々の生活を奪われるとともに、経済的にも一家の収入に打撃を受け、心身両面で大きな負担を抱えることになっています。他のメンバーにとっても、毎週続く公判の準備・参加は、時間的にも経済的にも負担を強いられるものであり、このように事業反対派の住民を「犯罪者扱い」することが、住民の反対運動の勢いや力を削ぐための正に有効な弾圧手段の一つであることを示しています。
同計画については、上述の行政訴訟の最高裁判決が出たところではありますが、住民グループ側は依然反対運動を止めることなく、再審請求を行なう予定であるため、今後もこれまでのように、住民グループのメンバーが「犯罪者扱い」あるいは「冤罪」の被害に遭い続けることが憂慮されます。
前回までの要請書にも記したように、同計画に反対する現地住民らが、裁判や平和的な手段で抗議しているにもかかわらず、このような公権力による弾圧を受けるといった状況は、許されるべきではありません。また、こうした公権力による強硬な行為は、現地住民のなかに恐怖感を植え付けるとともに、少なからぬ住民に萎縮効果をもたらし、反対運動への参加や自由な意見表明を妨げる可能性もあり、人権擁護の観点からも大変憂慮されます。このまま深刻な人権侵害の状況が改善されなければ、JICA 環境社会配慮ガイドライン(以下、ガイドライン)の規定する「ステークホルダーの意味ある参加」や「社会的合意」が確保されないまま、抑圧的な形で同計画が進められてしまうことが大変危惧されます。
また、日本政府の開発協力大綱でも、「開発協力の適正性確保のための原則」として、「当該国における民主化、法の支配及び基本的人権の保障をめぐる状況に十分注意を払う」ことが明記されており、日本政府は、現地住民が自由に反対の声をあげることができない、つまり、表現の自由など基本的人権や適切な住民参加が確保されていない状況にある事業への支援を決してすべきではありません。このような状況で資金供与をすれば、人権侵害に加担していることと同じであり、現在の人権状況を日本政府が容認しているという誤った認識を相手国政府に与える恐れもあります。
したがって、私たちは、日本政府・JICAに対し、可及的速やかに以下の対応をとるよう要請します。現地住民の反対・懸念の声と深刻な人権侵害の状況について日本政府・JICAが真摯に受け止め、本件について賢明かつ早急にご対応くださいますよう宜しくお願い申し上げます。
1. インドネシア政府・PLNに対して、同計画に反対してきた住民3名の長期にわたる不当勾留の件に関し、引き続き事実関係の確認を行なうとともに、今回の3名に対する実刑判決について、強い懸念を表明すること。また、同計画に反対している住民、および、その支援者に対するこうした「犯罪者扱い」の再発防止を含む、人権状況の改善を繰り返し求めること。
2. インドネシア政府・PLNに対して、日本が支援している事業地での地元の軍・警察関係者の関与も含む人権侵害について引き続き強い懸念を表明するとともに、深刻な人権侵害が起きている事業への支援はできぬ方針であることをしっかりと明確な形で伝えること。
3. 開発協力大綱の原則である基本的人権の保障が確保されておらず、かつ、JICAガイドラインに違反している状況がみられるため、現在供与中のE/S借款の貸付を早急に停止すること。また、相手国政府から要請があった場合でも、本体工事への円借款供与の検討を行なわないこと。
以上
【連絡先】
国際環境NGO FoE Japan
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9
Tel:03-6909-5983 Fax:03-6909-5986
(※)インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業
2,000 MW(1,000 MW ×2基)の超々臨界圧石炭火力発電所を建設(275.4 haを収用)し、ジャワ-バリ系統管内への電力供給を目的とする。1号機(1,000 MW)に国際協力機構(JICA)が円借款を検討予定(インドネシア政府の正式要請待ち)。すでにJICAは2009年度に協力準備調査を実施し、エンジニアリング・サービス(E/S)借款契約(17億2,700 万円)を2013年3月に締結。E/S借款は「気候変動対策円借款」供与条件が適用されたが、2014年の第20回気候変動枠組条約締約国会議(COP20)では、同石炭火力事業を気候資金に含んだ日本政府の姿勢が問題視された。
詳細はこちら → https://foejapan.org/aid/jbic02/indramayu/