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インドネシア・インドラマユ石炭火力発電事業
国会審議:住民の反対、違法判決、人権侵害のなかでも続く援助ーJICAは貸付停止を
「生活の糧である農地や漁場が奪われる」と懸念する住民が、強い反対運動を続けている西ジャワ州インドラマユ石炭火力・拡張計画(1000 MW × 2基)。地元の裁判で住民が勝訴したものの、住民リーダーが不当逮捕されたり、大勢の警察・軍が配備されるなか工事が強行されるなど、深刻な人権侵害がつづいています。
そうしたなか、国際協力機構(JICA)が、インドネシア政府の進める同拡張計画(1000 MW分)の基本設計(東電設計等が受注)に対し、円借款の貸付を継続していたことがわかりました。
3月22日、参議院「政府開発援助(ODA)等に関する特別委員会」で、井上哲士 議員(日本共産党)が同問題を取り上げました。
井上議員は、昨年12月6日にバンドン地方行政裁判所が住民の訴えを認め、同拡張計画に対する環境許認可の取消判決を言い渡した後、明らかに違法性のリスクを抱え、事業の見通しが不確定であるにもかかわらず、JICAが12月15日から7回に分けて、同拡張計画の基本設計に対して約2億円の貸付を実行していたこと、また、そのうち6回は12月17日の住民の不当逮捕後の貸付であった点を指摘。「(JICAは住民の)懸念を(インドネシア政府側に)伝えていると言いながら、やっていることが違う。」と厳しく批判しました。
これに対し、JICA北島理事長は、「発電所本体への借款検討のタイミングで環境社会配慮上の要件を満たしていることを確認することが想定されている。したがって、反対運動、人権侵害への懸念、環境許認可の無効判決といった状況だけをもって、(基本設計への)借款の貸付実行を停止する理由にはならない。」と答弁しました。
JICAは同拡張計画に関し、2009年度に協力準備調査を行ない、2013年3月に発電所の建設に先立つ基本設計等に充当されるエンジニアリング・サービス(E/S)借款契約(約17.27億円)をインドネシア政府と締結。これまで、約5億円をインドネシア国有電力会社(PLN)に貸付けてきました。今後、発電所の建設本体に対し、千数百億円にのぼる借款要請がインドネシア政府から日本政府になされる見込みです。
井上議員は同審議のなかで、以前の調査時やE/S借款契約時と同事業をとりまく事態が変わっているなか、「請求がくれば義務だから払う」というのではなく、貸付を停止すべきとJICAに求めました。
この他、同審議では、気候変動対策の観点からパリ協定の下、国際的に「脱炭素」の流れが強まるなか、日本政府が石炭火力発電所の輸出を推進していることについても疑問が呈されましたが、河野外務大臣からは、高効率である「超々臨界以上の(石炭火力)発電整備」を輸出する日本政府の方針が説明されました。
(同様の答弁は、翌3月23日の参議院・外交防衛委員会でも、岡本 外務大臣政務官からなされました。詳細はこちら)
地元では、すでに同拡張計画の関連設備の土地造成作業が始まり、事業予定地の周辺にフェンスを設置する作業が始まるなど、小作農や農業労働者が生活の糧を失うという死活問題に直面しています。日本政府・JICAは、「誰のためのODAか」を問い直すとともに、現場の実態を直視し、違法リスクや気候変動リスクもある同拡張計画への援助を早急に停止すべきです。
以下、同問題に関する2018年3月22日の参議院・ODA等に関する特別委員会での質疑内容全文です。
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参議院・政府開発援助等に関する特別委員会(2018年3月22日)
>インターネット審議中継の映像はこちら [発言部分 01:14:00~]
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php
●井上哲士 議員(日本共産党):
インドネシア西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電所事業について聞きたい。外務省とJICAはインドネシア政府とともにこの事業をODAで推進しているが、まず、計画の出発から契約などの事実関係、そして現在までの経緯について説明してほしい。
●JICA江島理事(東南アジア・大洋州部、インフラ技術業務部):
インドラマユ石炭火力発電事業は、インドネシアの西ジャワ州インドラマユ県に超々臨界圧技術を活用した石炭火力発電所、発電容量1000MWを建設し、電力需給逼迫の緩和、および、供給の安定性の改善を図り、投資環境の改善などを通じて、西ジャワ州地域の経済発展を図るものである。
JICAでは、2009年11月から2010年9月にかけて、本事業のF/Sを支援するための協力準備調査を実施した。2011年8月に日本政府とインドネシア政府との間で、E/Sに係る交換公文が締結されたのを受けて、2013年3月にJICAではインドネシア政府との間で借款契約を調印した。2016年1月に実施機関である国有電力会社PLNがE/Sに係るコンサルタント契約を締結し、現在、コンサルタントによる基本設計を実施しているところである。
●井上議員:
E/Sの借款契約について、貸付の実行状況はどうなっているか。
●JICA江島理事:
E/S借款はプロジェクトの実施に必要なコンサルティング・サービスを建設資金向けの借款に先行して融資するものである。このE/S借款では、基本設計・入札補助・施工管理などを対象としている。現在、これまでのところ、約5億円の貸付実行を行なった。
●井上議員:
全体17.27億円の契約と承知しているが、手元に毎日新聞の2月28日付の記事を配布している。この事業を巡って、現地で激しい反対運動が起きている。建設予定地の周辺には非常に豊かな農地が広がっていて、地権者の下で小作農が営まれている。隣接地にすでに火力発電所が建設されていて、その際に農地収用などが行なわれ、漁業にも漁場の制限であるとか、温排水、運搬船による漁網切断の大きな被害があったし、環境被害も起きている。新たな火力発電所の建設で、1500人にのぼる農民が農地から追い出されることや、一層の環境、農業・漁業被害の懸念が広がっているが、こういう現地住民による反対について、JICAはどのように把握しているか。
●JICA江島理事:
これまで、現地住民との協議やいただいた書簡等を通じて、現地で反対運動が起きていることは承知している。現在、国有電力会社PLNが反対派の住民の皆さんに対し、補償する生活水準の維持の提案を行ない、事業に対する理解を得るべく取り組んでいるところである。JICAからも国有電力会社PLNに対しては、反対派住民の皆さんから寄せられている懸念を累次伝えてきている。
●井上議員:
懸念を累次伝えているということだが、元々、国際環境NGO FoE Japanの調査によると、現地では、インドネシアの公共事業の土地収用法に基づいて行なわれた住民協議に当初、地権者とか、宗教リーダー、村長など選ばれた者しか招待されなかった。農民や漁民など、同法で規定される、影響を受けるコミュニティーの参加が確保されなかったと言われている。そして、協議では、この事業による農地・漁場・健康へのマイナスの影響についても説明されなかった。それから、この反対派の住民のネットワークは、土地収用法に基づいて事業に対する異議申立てを西ジャワ知事に提出したが、回答はないままに立地許可を承認した。こういうことが続いている。こういう事態は、社会的合意の確保やステークホルダーの参加を求めたJICAの環境社会配慮ガイドラインに適合していないと思うが、どうか。
●JICA江島理事:
JICAの環境社会配慮ガイドラインにしたがった検討は、今後、発電所の建設に対する、いわゆる発電所そのものに対する円借款支援の要請がなされた場合には、適切に行なっていく。国有電力会社PLNに対しては、この本体事業への借款供与を望む場合には、JICA環境社会配慮ガイドラインの遵守が本支援の条件となることを累次説明してきている。
●井上議員:
本体のときにはこの適合が考えられるが、今のこのE/S借款のときにはいいという、こういう話だが、現地ではすでにさまざまな被害が起きている。声があがっているわけである。私はこれはやはり問題であると思う。
補償の点でもさまざまな問題があるとされている。適切な価格交渉の機会が与えられないままに合意を強要されたとか、それから、地権者から小作農に作物補償を手渡したことから補償に不公平が生じたりと、これもガイドラインに反しているのではないかと思う。
しかも、重大なことは、いま、非常に看過できない人権侵害が言われている。2016年3月以降、反対派住民ネットワークのリーダー等に対し、軍や警察等のさまざまな干渉があったし、手元の新聞にもあるように、昨年の12月17日には地元警察がこの住民グループの農民を国旗侮辱罪ということで逮捕している。国旗を上下逆さまに掲げたという、こういう理由だった。その後、保釈されたが、毎週、出頭報告を課せられるということになっている。2月2日には大量の警察や軍を動員して、反対派住民を押さえつけて建設作業が進められた。こういうことも起こっている。これらは、やはり反対派住民を黙らせようとする深刻な人権侵害だと思う。公権力によって反対の声が封殺されるような、そういう案件を推進するのは、これもガイドライン上問題だと思うがいかがか。
●JICA江島理事:
これまで、現地住民との協議やいただいた書簡等を通じて、現地で警察等の関与が指摘されていることは承知している。インドネシア側には、警察等の関与に係る懸念は累次伝えてきている。
●井上議員:
懸念は累次伝えていると言うが、やっていることは違う。本件の環境アセスメントが不備だとする住民の訴えに対し、昨年12月6日、バンドン行政裁判所が環境許認可の取消判決を言い渡している。これは、上級審で判決が変わらずに、違法な計画になる可能性もある。事業の見通しは極めて不確定である。ところが、この判決が出た後、12月6日、その直後の12月15日から7回も、このE/S契約の貸付が実行されている。2億円。そして、そのうち6回は先ほど述べた12月17日の不当逮捕の後にも貸付が実行されている。懸念を伝えていると言いながら、日本政府はその一方では、JICAは推進の貸付をしている。これは本当に住民の皆さんも怒っている。言っていることとやっていることが違うのではないか。これは中止するべきではないか。
●JICA江島理事:
コンサルタントが行なった設計業務の対価として、実施機関である国有電力会社PLNから貸付実行の請求がなされたものに対して、確かにJICAは貸付実行を行なった。実施機関から提出された請求内容が適切である限り、JICAは契約に基づいて貸付実行を行なう義務がある。環境許認可の有効性が認められなかった判決をもって、ただちに借款契約上の事項の不履行が生じて、貸付実行を停止するという状況にはないと判断した。
●井上議員:
その判断はおかしいと思う。ガイドラインに合致しない状況とか、人権侵害と指摘される事案が発生して、かつ、この環境許認可を違法とする判決も出ている。だから、先ほど言った2010年9月の時点のJICAのF/S調査の完了時点、それから、13年3月のE/Sの契約時点とは、事業をとりまく事態がまったく変わっている。それにもかかわらず、言われれば義務だから払うというのはちょっと違うのではないか。理事長はいかがか。E/S借款も中止して、全体を見直すべきと、根本的に、こう思うが、いかがか。
●JICA北岡理事長:
インドラマユ石炭火力発電事業においては、JICA環境社会配慮ガイドラインに基づき、発電所本体への借款検討のタイミングで環境社会配慮上の要件を満たしていることを確認することが想定されている。したがって、反対運動、人権侵害への懸念、環境許認可の無効判決といったご指摘の状況だけをもって、E/S借款の貸付実行を停止する理由にはならないと認識している。つまり、この判決については、被告のPLNや地元政府は控訴しており、どれが最終的なインドネシアの意思であるかを見定める必要があると考えている。インドネシア側に対しては、本体借款の供与を望む場合には、JICA環境社会配慮ガイドラインの遵守が条件となることをちゃんと引き続き説明している。今後、インドネシア政府より発電所の建設に係る円借款の本体の要請があった場合には、JICA環境社会配慮ガイドラインに基づき、個々の状況を確認するということになる。
●井上議員:
少なくとも、判決が確定するまでは、中止すべきであると思う。そして、本体についても、およそ認めるようなものではないと思っている。
最後に外務大臣にお聞きするが、そもそも、石炭火力発電の推進はパリ協定にもまったく整合しないもので、これを成長戦略などとして、世界で推進する日本の姿勢には、国際的にさまざまな批判がされている。また、先ほど予算説明でも触れられた国連の持続開発目標SDGsにおいても、気候変動とその影響に立ち向かうために緊急対策をとるとしていることとも反すると思う。大臣の下で、気候変動に関する有識者会合が本年2月にまとめたエネルギーに関する提言では、パリ協定と調和した脱炭素社会を掲げて、石炭火力発電は最新のものであったとしても、パリ協定の2度C目標と整合しないとしている。そして、国内の火力発電の廃止とともに、途上国への支援はエネルギー効率化と再生可能エネルギー開発を中心としていく、石炭火力輸出への公的支援は速やかな停止を目指すとしている。この指摘にしたがえば、ODAで石炭火力を推進する政策は止めるべきと思うが、いかがか。
●河野外務大臣:
まず、JICAの環境社会配慮ガイドラインは、制定するときにNGOをはじめ、市民社会に深く関与してもらい策定した。これは、非常に国際的にも高く評価されているものだろうと思う。この環境社会配慮ガイドラインは、手続きについても定めているので、JICAのプロジェクトはこの手続きを含め、ガイドラインに則って行なわれなければならないというのは言うまでもない。外務省の有識者会議について、今ご提起いただいたが、国際的な動向と気候変動やエネルギーに関する最新の知見を踏まえて、有識者がつくって、とりまとめてもらったものだ。パリ協定をみれば、この化石燃料からどう脱却するかは、非常に大事なことで、石炭に頼るべきではないというのは今後の一つの方針になろうかと思うが、その上で、エネルギーの安全保障、あるいは、経済性の観点から、石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り、当該国から我が国の高効率石炭火力発電への要請があった場合には、OECDのルールに則って、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、このOECDの2015年11月の合意内容に則って、超々臨界以上の発電整備について、導入の支援を検討するということもある。今後、このJICAの環境社会配慮ガイドライン、あるいは、このOECDルールを踏まえた検討が当然行われていくことになろうかと思う。
●井上議員:
時間なので終わるが、先ほど言ったように、有識者会合の提言は、石炭火力発電は最新のものであったとしても、パリ協定に整合しないと言っているわけなので、この提言をしっかり生かしてもらいたい。
(以上)
(※)インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業
2,000 MW(1,000 MW ×2基)の超々臨界圧石炭火力発電所を建設(275.4 haを収用)し、ジャワ-バリ系統管内への電力供給を目的とする。1号機(1,000 MW)に国際協力機構(JICA)が円借款を検討予定(インドネシア政府の正式要請待ち)。すでにJICAは2009年度に協力準備調査を実施し、エンジニアリング・サービス(E/S)借款契約(17億2,700 万円)を2013年3月に締結。E/S借款は「気候変動対策円借款」供与条件が適用されたが、2014年の第20回気候変動枠組条約締約国会議(COP20)では、同石炭火力事業を気候資金に含んだ日本政府の姿勢が問題視された。
詳細はこちら → https://foejapan.org/aid/jbic02/indramayu/