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インドネシア・バタン石炭火力発電事業
バタン石炭火力発電所に関する住民組織からJBICへの緊急要請書
(2014年3月14日付)
国際協力銀行
代表取締役総裁 渡辺 博史 様
インドネシア・中ジャワ州バタン石炭火力発電所に関する緊急要請書
ウジュンネゴロ村、カランゲネン村、ポノワレン村、ウォノクルソ村、ロバン村の7,000人から成るUKPWR協会(Paguyuban UKPWR)を代表し、国際協力銀行(JBIC)に対し、インドネシア・中ジャワ州バタンにおける石炭火力発電所事業への資金供与を拒否するよう要請する。最近、ビマセナ・パワー・インドネシア社(BPI)と政府は、2014年4月の総選挙前に事業用地収用を完了させるため、地元住民を分裂、相争わせようとし、より厳しい圧力を地元住民にかけてきた。会社側にとって、JBICの融資なく、バタン石炭火力発電所事業を実施することは困難であることに鑑み、バタン石炭火力発電所関連の問題が悪化し、社会の安寧と秩序が阻害されるのを防ぐため、私たちはJBICがただちに必要な措置をとるべきだと信じる。
私たちは2011年から、地元やジャカルタでの22回のデモなど、バタン石炭火力発電所事業を断固として拒否してきた。バタン石炭火力発電所事業によって、生計手段の喪失、環境破壊、子どもや孫など次世代への健康影響など、多大な影響が懸念されるからである。私たちの先祖から受け継いだ肥沃な土地、豊富な水産物のある村々を守ることは、私たちの権利であり、希望である。
ロバン村を除き、地元の住民の大多数は、自作農、小作農、農業労働者として、主要な生計手段である農業に依存している。私たちの土地は非常に肥沃で、生産性が高い。たとえば、私たちの水田からの収穫高は、ヘクタールあたり7~8トンにのぼる(2012年FAO統計によれば、全国平均は5.136トン)。灌漑用水によって1年間に3回稲作が可能で(灌漑は1980年代から)、生活することができている。もし、この事業が実施されつづけるなら、事業地内の適切な生計手段が、私たちの暮らしから奪われてしまうだろう。事業地外だったとしても、灌漑用水が農地に届かないことも懸念される。いくつかの灌漑用水は、バタン石炭火力発電所事業地を通っているからだ。
バタン県ロバン村には、約2,000人の漁民が暮らしており、バタン水域の富に依存している。海域社会としてのロバンの可能性はとても高く、私たちはカニ、イカ、エビを獲って暮らしを立ててきた。石炭火力発電所事業が実施される海岸地帯は、ジャワ北海岸線でもっとも漁獲高の大きい地域のひとつである。それどころか、ウジュンネゴロ=ロバン海岸地帯は、2008年政令第26号や区画に関する2010年中ジャワ州条例第6号によって、海洋・観光保護地区として保護されてきた。石炭火力発電所からの排水が海岸地帯を破壊し、私たちの唯一の生計手段が奪われることを懸念している。
バタン石炭火力発電所事業によって、私たちの暮らしがよくなると言われるが、事業がなくても、私たちは豊かに暮らしてきた。バタン石炭火力発電所事業があることで、職業訓練が実施されたとしても、職業機会を得ることができるのは、教育を受けた一部だけだ。農民や漁民の多くは、小学校、中学校、もしくは高校を卒業していない。つまり、農民や漁民である私たちの主要な生計手段が奪われれば、私たちの暮らしがより悪くなるのは確実である。
私たちの懸念や見解について、BPIや政府と話し合ってきたが、彼らは、環境、社会、健康影響など、事業による負の影響について、一度も説明したことがない。それどころか、2012年に各村で開かれた公聴会より以前に、彼らは土地所有者と個別に交渉し、土地収用を開始した。このような不適切なプロセスの結果、透明性はまだなく、土地に対する補償金の基準もなく、補償金額も不公正でそれぞれ異なるものになった。何人かの土地所有者は、国軍などの脅迫により、土地を売らざるを得なくなった。一方で約50人の土地所有者は、いまも土地を売ることを勇敢にも拒否している。
環境影響評価に関する公聴会への参加プロセスも疑問である。選ばれた人びとのみが、公聴会に参加できる招待状を受け取った。公聴会の場は、1,000人以上の兵士・警察官によって厳重に警戒され、大多数の住民はその場に入ろうと思っても抵抗できなかった。さらに、ロバン村では公聴会も開かれなかった。BPIは、ロバンの漁民が利害関係者だと認めたことがないためである。いかにして、私たちの力が無視されてきたかを示している。2013年12月の環境影響評価について、私たちの代理人がおこなった異議申し立ては、添付した資料を参照されたい。
私たちはまた、会社と政府による人権侵害についても、JBICに注意を払っていただきたい。上記で述べたとおり、各土地所有者への交渉において干渉したり、国軍・警察が展開されたりしたほか、地方政府・国軍は、2013年7月30日に許可なく農地のボーリング作業を行おうとする会社を阻もうとした住民に対し、暴力を行使した。この結果、約15人が負傷することになった。地元住民への嫌がらせもある。たとえば、住民指導者の2人が不当な事件で起訴され、最近禁固7カ月の判決に処せられた。
JBICがバタン石炭火力発電所事業への融資を考慮していると理解しているが、私たちは上述のように深い懸念を伝えたい。バタン石炭火力発電所は人権を侵害し、環境社会配慮ガイドラインにも沿わないものである。影響を受ける人びとの適切な参加がなく、十分な透明性がなく、影響を受ける人びとから補償金額の合意を得るため適切な話し合いもない。
そのため、私たちは、JBICが実地調査をおこない、上述の懸念について事業実施主体や中央・地方政府に確認するだけでなく、事業の影響を受ける住民から直接話を聞くことを求める。そうすることで、JBICが、バタン石炭火力発電所事業に融資しないという賢明な決定をくだすと信じている。
検討いただくことに感謝をするとともに、見解をお聞かせいただけることを期待している。
(13名のリーダーによる署名)
Cc:
安倍晋三 首相
麻生太郎 財務相
岡藤正広 伊藤忠商事株式会社代表取締役社長
前田泰生 電源開発代表取締役会長
北村雅良 電源開発代表取締役社長
ガリバルディ・トヒル アダロ・エネルギー社長
瀬下健一 ビマセナ・パワー・インドネシア社長
國部毅 三井住友銀行頭取兼最高執行役員
佐藤康博 みずほ銀行取締役
平野信行 三菱東京UFJ銀行頭取
(翻訳:インドネシア民主化支援ネットワーク(NINDJA))