世界各国の17名の科学者がIPCCへバイオマスをめぐる炭素会計に関する書簡を提出-「抜け穴」への懸念と適切な算定のためのガイドライン策定を要請

4月3日、世界10カ国の17名の科学者および研究者が気候変動に関する科学的知見を評価する国連の機関である気候変動に関する政府間パネル(IPCC)へ書簡を送付しました。

この書簡は、以前より問題が提起されていた森林の炭素会計に関するものです。現在バイオマス燃焼時の炭素排出量は、土地部門(森林等の炭素ストック)の排出量との二重計上を避けるために「ゼロ」とされており、実際の排出量を算定しなくてよい構造になっています。しかし実際には、バイオマスの燃焼により、大気中の二酸化炭素は増加し、放出された炭素が森林等に再吸収されるまでに、数十年から数世紀かかる可能性があります。今回の書簡では、科学者がバイオマスの炭素会計に関する「抜け穴」に懸念を示し、適切な算定を促すため、ガイドラインへの明確な記載を求めました。
実際に送付した書簡はこちら

以下は書簡をFoE Japanで日本語訳したものです。

私たち、署名した科学者一同は、IPCCのガイドラインにおける現在の炭素会計に抜け穴があることに対し、深刻な懸念を示す。土地部門とエネルギー部門における炭素会計が分離されているため、ライフサイクル全体における実質の炭素排出量には反映されていないにもかかわらず、各国が二酸化炭素排出量の削減を主張し続けている。これは大気中の二酸化炭素濃度に悪影響を及ぼすにもかかわらず、再生可能エネルギーとしてバイオエネルギーへの依存につながっている。以下に記載したように、科学界や市民社会から、繰り返し変革を求める声が上がっている。ローマでのIPCC会合、UNFCCCの会合(SB64とCOP31)に先立ち、私たちはIPCCに政府と政策決定者へ森林バイオマスの伐採および燃焼における炭素会計の明確で包括的なガイドラインを提供することを求める。バイオエネルギー事業の純排出量は全て算定されなければならず、大気中の二酸化炭素濃度における全体的な影響は透明性をもって明らかにされなければならない。

ご存じのように、バイオマスの燃焼時に発生する年間数百万トンの二酸化炭素の排出は京都議定書に由来するルールによって正当化されている。これらのルールにより、燃焼時点での生物由来の排出量はエネルギー部門において「ゼロ」として計上することが認められている。なぜなら、これらの排出は土地部門においてすでに計上されているはずであり、二重計上もしくは土地部門で再度計上されるべきではないと想定されているからである。一方で、バイオマスは「カーボンニュートラル」であると主張されることも多い。これは収穫されたバイオマスが再生する際に、放出される炭素が相殺されると想定されているためである。しかし、多くの研究ではバイオマスの再生により放出された炭素が再吸収されるまでに、数十年から数世紀かかる可能性があることが示されている。その結果、純排出量は計上されず、森林由来のバイオマスはカーボンニュートラルとみなすことはできない。

バイオマスの燃焼に伴う本質的な排出量の多さは、大気中のCO2濃度を上昇させることにつながり、その上昇は収穫された炭素が再吸収されるまで続く。この「炭素回収期間」が経過するまで(研究では75年〜100年以上の長期間を要すると示されている)、化石燃料の燃焼と比較して、排出の本質的な減少効果は得られない可能性がある。この期間は地球規模のティッピング・ポイントを超えないために必要な行動を起こすという極めて短い時間枠とは対照的である。現在と同等、もしくはさらなる産業での森林バイオマスの燃焼が続く限り、たとえ化石燃料の代替としてバイオマスが活用されたとしても、大気中の炭素量は増加するだろう。この傾向は既存の森林の炭素吸収源が排出源に転じることでさらに悪化し、森林伐採によって各国の炭素吸収源は減少しているのである。

つまり、森林バイオマスの燃焼は大気中のCO2を増加させる一方で、土壌の炭素吸収源や生物多様性に富む森林の減少も招く。国際的な森林バイオエネルギーの活用は2021年から2030年の間に3倍になることが予想されていることは、非常に憂慮すべき事態である。EUでは、輸入および国内の森林バイオエネルギーの利用量が、2020年から2050年の間で50%近く増加すると予測されている。一方で、発電向けの木質ペレットの利用は、アジアで増加し続けている(例:2023年に韓国では310万トン、日本では280万トンを輸入している)。

IPCCはこの問題に関して、極めて重要な影響力と権力を持つ立場にある。政府はバイオマス燃焼を行わない決定を下す自由があるものの、炭素会計の抜け穴が残る限り、森林バイオエネルギーはエネルギー企業や政府により気候変動対策としてみなされ、問題は継続もしくは悪化し続けるだろう。IPCCの報告書や文書は政策決定と最終的な森林およびバイオマスの利用と管理に深い影響を与える。IPCCの科学者は最も明確で反論の余地のない事実を、抜け穴のない方法で提示するために、自らの専門性を活かす独自の義務がある。

IPCCの国家温室効果ガスインベントリタスクフォース(2024)は、「IPCCのガイドラインはバイオマスが持続可能な方法で生産されたと考えられる場合であっても、バイオマスのエネルギー利用を自動的に「カーボンニュートラル」としてみなしたり、もしくは想定するものではない」と述べている。また、IPCCは「バイオエネルギーの持続可能性もしくは、カーボンニュートラル性」については結論を出すことはできないと述べている。既存の科学的根拠の深さと広さ、およびバイオマスのカーボンニュートラル性については、議論の余地があると表明された立場にもかかわらず、同ガイドラインは依然として各国がバイオマス排出量をゼロとして計上することを容認している。

これは科学者および政策専門家による数多くの査読付き論文、論評および書簡の中で、バイオエネルギーの算定に関する懸念が示された最新の事例である。例えば、2012年の”Energy Policy”や2019年の”Global Change Biology Bioenergy”において、疑問や提言が提起され、2020年にはアメリカ議会へ200名の科学者による書簡が、そして2021年には国際的な指導者たちにも別の書簡が送られた。

IPCCの文献ではすでに報告プロトコルがもたらす意図せぬ結果について指摘され、例えば、第5次評価報告書(AR5)の気候変動と土地部門の章において、2.6.1.2、 2.6.1.5 および 6.50などで言及されている。 Cross-Chapter Box 7 では、「UNFCCCの報告プロトコルに基づき、バイオエネルギーに関する温室効果ガスの総フラックスを評価する際の課題の一つは、バイオエネルギーのライフサイクルの異なる側面から生じるフラックスが、それぞれ異なる部門で報告されており、相互に関連付けられていない点にある。~中略~したがって、バイオエネルギーの全体のライフサイクルにおける温室効果ガスの影響は、各国の温室効果ガスインベントリからは容易に把握できない」と結論づけている。結果として、「バイオエネルギーに関するライフサイクルの排出量における影響は大きな不確実性が伴い、状況によってはネットゼロ排出との整合性が取れない可能性がある」(第7章)。バイオエネルギーの急速な拡大と気候変動緩和におけるバイオエネルギーの懐疑的な文献が存在するにもかかわらず、第6次評価報告書(AR6)では、驚くべきことに、この問題に対してこれ以上言及していないどころか、文献における「炭素債務」や「返済」に関する問題の既存の言及さえも省略してしまった。

この盲点は、IPCCが求める「温室効果ガスの排出を直ちに、迅速かつ大規模に削減する」という要請とは対照的である。この目標を達成するうえで、バイオエネルギーの排出量を適切に算定することが最優先課題の一つでなければならない。IPCCはこの問題について、明確な情報発信を行い、公式及び非公式の両面から取り組む機会が数多く存在する。

ご存じのように、IPCCは現在複数の報告書の作成、もしくはその計画を進めている。これらは二酸化炭素除去技術、炭素回収・利用・貯留を網羅する温室効果ガスインベントリの方法論に関するレポート(CDR報告書、2027年公表予定)や短寿命気候強制因子のインベントリに関する方法論の報告書(SLFC報告書、2027年に公表予定)および第7次評価報告書(AR7、最終統合報告書は2029年に公表予定)が含まれる。

IPCCの科学者らが今年4月にローマでCDRとSLCF報告書の進捗状況について協議することから、私たちは森林のバイオエネルギーに関する記述を精査し、炭素の適正な算定が未解決なまま土地から煙突へ、そして再び土地へ押し付けられることが二度とないよう、強く要請する。

私たちはIPCCメンバーに対して、2026年6月にボンで開催されるUNFCCCの会合において、バイオエネルギーの炭素会計に関する議論を提案し、この問題をめぐる混乱を解消する公式ガイドラインの策定に向けて取り組むよう奨励する。

私たちは第7次評価サイクルが2030年までの活動が計画されていることを認識している。私たちはIPCCメンバーにすでに計画されている会合や執筆過程の中で、この書簡で概説した課題に取り組む機会を活用し、またこのサイクルを超えた継続的な取り組みを強く要請する。

なお、2027年にはIPCCの総会が日本の横浜市で開催されることが決定しています。議題は二酸化炭素除去(CDR)技術・炭素回収利用及び貯留(CCUS)に関する報告書の承認とされているため、直接的にバイオマスの炭素会計に関するものではありませんが、誤った気候変動対策を促すことがないよう、私たちは引き続き情報収集をしていきます。

(中根杏)

 

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