トタルエナジーズは、どんな犠牲を払ってでもモザンビークLNGを再開する予定である——ただし、その犠牲を払うのはモザンビークの人々である
日本の官民が深く関わるモザンビークLNG事業の再開を、主要事業者であるトタル・エナジーズが決定したことが複数のメディアによって報道されました。これを受け、モザンビークLNG事業に取り組む国際的なNGOの連合体は以下のプレスリリースを発表しました。原文はこちら。
トタルエナジーズは、どんな犠牲を払ってでもモザンビークLNGを再開する予定である——ただし、その犠牲を払うのはモザンビークの人々である
2025年10月27日 — 仏エネルギー大手・トタルエナジーズが、依然として危険な治安状況にもかかわらずモザンビークLNG事業のフォース・マジュール(不可抗力)を解除する決定を下したことは、この事業の治安対策が地域住民の安全をむしろ脅かしているという警告を無視するものだ。この決定は、モザンビークLNGに関する未解決の住民の申し立てや、人権・環境・気候に関わる深刻なリスクに対して、同社がいかに無関心であるかを示している。また、この事業の遅延によって発生する莫大な費用をモザンビーク政府が負担する可能性があり、同国経済を一層圧迫するおそれがある。市民社会組織は、この事業に関与する金融機関および企業に対し、支援を撤回するよう、あらためて強く求める。
4年間にわたる事業中断と深刻な人権侵害のスキャンダルを経て、10月24日、トタルエナジーズはモザンビーク大統領宛の書簡の中で、200億ドル規模のモザンビークLNG事業に関するフォース・マジュールを解除する決定を伝えた。
しかし、我々の組織が確認したこの書簡――トタルエナジーズのCEOパトリック・プヤンネによって署名されたもの――によれば、事業の再開は依然として仏企業が提示した条件にモザンビーク政府が同意することを前提としている。
書簡によれば、トタルエナジーズの新たな開発計画、更新された予算およびスケジュールは、依然としてモザンビーク政府の承認を必要としていることが示されている。パトリック・プヤンネは「この改訂予算の承認により、フォース・マジュールによって発生した45億ドルにのぼる追加コストをカバーすることになる」と述べている。しかし、モザンビーク政府は自国の見積もりをまだ提示していない。
また、トタルエナジーズは、開発および生産期間を10年間延長することも求めている。こうした交渉は、すでにモザンビークにとって極めて不利な条件のもとで行われている。トタルエナジーズは当初から不公正な契約[1]を結び、さらに国際協定における搾取的な投資家保護条項[2]の恩恵を受けている状況であるためだ。
Daniel Ribeiro (Justiça Ambiental)のコメント:
「トタルエナジーズは、再開にあたって極めて有利な条件を得ようと、新たな“力技(tour de force)”を試みている。しかし、同社が要求している莫大な優遇措置は、同時にトタルエナジーズ自身の深刻な失敗を示すものでもある。彼らの投資計画は破綻しており、ガス事業を存続させるためにはモザンビークの支えが必要なのだ。世界で最も裕福な企業の一つが、世界で最も貧しい国の一つを人質に取っている。モザンビーク政府は、トタルエナジーズの事業を守るために治安部隊を提供するよう圧力を受けてきたが、今度は事業の遅延による費用の支払いまで求められている。このことはモザンビーク経済をさらに弱体化させ、国民の生活を悪化させ、そして反政府勢力の活動を一層助長することにつながるであろう。」
2017年10月以来続くこの地域の激しい武装反乱は、社会的不満と、悪化する社会経済状況に起因しており、その引き金となったのはガス資源の発見と、地域住民が恩恵を受けないと考えている採掘産業の開発である。地域の軍事化は一貫して行われてきたが、反乱の鎮圧には失敗し続けている[3]。
7月以降、ガス事業地に隣接するパルマ町や、近隣の港町モシンボア・ダ・プライアを含む州全体で、反乱勢力の活動が活発化している。ガス事業に関する新たな治安体制のため、アフンギのガス開発地に部隊が集中配備されており、事業は孤立した「要塞」と化している[4]。このことにより、地域住民が反政府勢力の攻撃に対して一層脆弱になるのではないかという懸念が強まっている。
モザンビークLNG事業は、パルマ町に対する大規模な攻撃が発生したため2021年4月に中断された。この攻撃では少なくとも1,200人が殺害されたとされる[5]が、軍の保護下にあったガス事業は無傷であった。トタルエナジーズは、この攻撃の際に下請け企業の従業員の安全を確保しなかったとして非難されており、現在フランスで過失致死の疑いにより司法捜査を受けている[6]。また、同社の責任は『ポリティコ』誌が報じた「コンテナ虐殺事件」[7]の疑惑においても問われている。
Lorette Philippot(Friends of the Earth France)のコメント:
「トタルエナジーズは、2021年の3か月間にわたり、自社のガス開発地で数十人の民間人を拘束・拷問したとされる兵士たちに資金を支払っていた[8]。少なくとも150人のうち、生存が確認されたのはわずか26人にすぎないと報告されている。しかし、被害者たちがいまだに正義を求めているにもかかわらず、パトリック・プヤンネは彼らの声と苦しみを一蹴した[9]。これらの重大犯罪の疑いは、関係者が誰であれ決して不処罰であってはならず、トタルエナジーズが再び同じ混乱の再現――すなわち、2019年以降モザンビークで続けてきたように、地域社会の安全よりも自らの利益を優先するやり方――を行うことを防がなければならない。」
トタルエナジーズによれば、フォース・マジュールの解除には、2020年7月にモザンビークLNGに対する149億ドルの資金提供に参加した31の金融機関それぞれの承認が必要であったという[10]。
Rieke Butijn(BankTrack)のコメント:
「私たちは、労働者や地域社会を危険にさらし、モザンビークにもほとんど利益をもたらさないという事実を示す詳細な報告書、専門家の証言、そして地域住民の証言を金融機関に対して提供してきた。フォース・マジュールの解除を受け、いまこそこれらの金融機関は事態の重大さを理解していることを示し、唯一の責任ある金融判断――すなわちモザンビークLNG事業への支援を撤回すること――を下すべき時である。」
関与する金融機関の中では、英国輸出金融機関(UKEF)およびオランダ政府が2025年に「コンテナ虐殺事件」に関する調査を開始したが、その結果はまだ公表されていない。
Isabelle Geuskens(Milieudefensie)のコメント:
「ガス開発地域の治安状況が極めて深刻な中で、トタルエナジーズがモザンビーク政府に圧力をかけ、フォース・マジュールを解除するなどという行為は衝撃的である。地域住民は再びコミュニティから避難しており、人々が殺害され、暴力の激化により一部の援助団体は撤退を余儀なくされている。モザンビーク市民に起きていることに完全に無関心でいることは、まさに言語道断である。現在、輸出信用機関による事業支援の再評価を行っているオランダ政府は、公的金融機関として責任ある行動をとり、このガス事業への支援を中止すべきである。オランダの納税者の資金が、この裕福なフランス企業の汚れた事業――世界で最も貧しい地域の一つであるカーボ・デルガード州の人々の権利と生活を危険にさらしている事業――を支えるべきではない。」
Simone Ogno(ReCommon)コメント:
「石油・ガス企業および金融機関は、結果を顧みず、あらゆる代償を払ってでもモザンビークの天然資源の搾取を進めようとしている。その結果として、人権侵害(戦争犯罪に相当する可能性もある)、住民の強制移転、そしてモザンビークの公的財政への負担が生じている。さらに、沖合事業による海洋環境および気候への潜在的な影響も加わる。これは、モザンビークLNG事業だけでなく、同事業と土地使用権やインフラを共有しているロブマLNG(エクソンモービルおよびENI)やコーラル・ノースFLNG(ENI)にも当てはまる。いずれもモザンビークの人々の犠牲の上に成り立つ危険な賭けである。2021年に報告された人権侵害が事実であると確認された場合、その責任は、主にSACEを含む輸出信用機関など、事業の金融支援者にも及ぶことになる。」
Sonja Meister(urgewald)のコメント:
「シーメンス・エナジーは、モザンビークLNG事業の再開において重要な鍵を握っている。同社がガスタービンやその他の主要設備を納入しなければ、プロジェクトの再始動をさらに遅らせる主要なボトルネックとなるだろう。ドイツ銀行はすでに複数回にわたり、トタルエナジーズの新たな資金調達を支援しており、その資金はこの事業の資金源として利用される可能性がある。ドイツ企業および銀行は、この破滅的な事業に加担したくないのであれば、モザンビークLNGおよびトタルエナジーズへの支援を直ちに撤回すべきである。」
深草亜悠美(FoE Japan)のコメント:
「数々の住民からの申し立てや人権侵害の報告、治安状況が改善していないにもかかわらず、事業を進める判断を下すなど考えられない。日本の公的金融機関や民間銀行、企業はモザンビークLNG事業に深く関わっており、日本の責任も非常に大きい。モザンビークLNG事業から生産されるLNGの多くが日本を含むアジアの企業によって取引される予定だが、モザンビークの人々や環境を犠牲にすることは許されない。」
Contacts :
連絡先:
- Daniel Ribeiro, Justiça Ambiental / daniel.ja.mz@gmail.com
- Lorette Philippot, Friends of the Earth France / +33 640188284 / lorette.philippot@amisdelaterre.org
- Sonja Meister, urgewald / +49 176 64608515 / sonja.meister@urgewald.org
- Rieke Butijn, BankTrack / henrieke@banktrack.org
- Antoine Bouhey, Reclaim Finance / antoine@reclaimfinance.org
- Simone Ogno, ReCommon / simoneogno@recommon.org
- Isa Geuskens, Milieudefensie / isabelle.geuskens@milieudefensie.nl
Notes :
出典等:
[1] https://www.e3g.org/publications/the-failure-of-gas-for-development-mozambique-case-study
[2] https://stopmozgas.org/report/report-isds-mozambique-2024/
[3] https://issafrica.org/iss-today/cabo-delgado-insurgency-persists-amid-failed-military-strategy
[4] https://www.zitamar.com/shut-out-of-fortress-afungi/
[5] https://www.alex-perry.com/palma-massacre/
[6] https://www.lemonde.fr/en/le-monde-africa/article/2025/03/15/french-prosecutors-launch-manslaughter-probe-against-totalenergies-over-mozambique-attack_6739177_124.html
[7] https://www.politico.eu/article/totalenergies-mozambique-patrick-pouyanne-atrocites-afungi-palma-cabo-delgado-al-shabab-isis/
[8] https://www.lemonde.fr/afrique/video/2025/01/28/comment-des-soldats-payes-par-totalenergies-ont-sequestre-des-civils-au-mozambique_6520247_3212.html
[9] Statement by Patrick Pouyanné in June 2025, questioned on Mozambique LNG as part of an Inquiry Commission in the French Parliament. https://www.youtube.com/watch?v=tU5z9Rxq2Xw
[10] https://www.reuters.com/business/energy/totalenergies-further-delays-20-bln-mozambique-lng-project-ft-reports-2025-01-22/ 31 financial institutions participated in the USD 14.9 billion financing to Mozambique LNG in July 2020.
公的金融機関:
米国輸出入銀行(US EXIM)/国際協力銀行(JBIC)/英国輸出金融機関(UKEF)/タイ輸出入銀行(Thai Exim)/イタリア輸出信用機関SACE(Servizi Assicurativi del Commercio Estero)/日本貿易保険(NEXI)/南アフリカ輸出信用保険公社(ECIC)/オランダ輸出信用機関アトラディウス・ダッチ・ステート・ビジネス(ADSB)/カッサ・デポジティ・エ・プレスティティ(Cassa Depositi e Prestiti)/アフリカ開発銀行(AfDB)/アフリカ輸出入銀行(African Export Import Bank)/南部アフリカ開発銀行(Development Bank of Southern Africa)/南アフリカ産業開発公社(Industrial Development Corporation of South Africa)/韓国産業銀行(Korea Development Bank)/韓国輸出入銀行(KEXIM)/米国国際開発金融公社(DFC)。
民間金融機関:
ソシエテ・ジェネラル(Société Générale)/クレディ・アグリコル(Crédit Agricole)/みずほ銀行(Mizuho Bank)/JPモルガン(JP Morgan)/スタンダード・チャータード銀行(Standard Chartered Bank)/三菱UFJ銀行(MUFG Bank)/三井住友銀行(Sumitomo Mitsui Banking Corporation)/三井住友信託銀行(Sumitomo Mitsui Trust Bank)/SBI新生銀行(SBI Shinsei Bank)/日本生命保険(Nippon Life Insurance)/ABSA銀行(ABSA Bank)/ネッドバンク(Nedbank)/ランド・マーチャント銀行(Rand Merchant Bank)/スタンダード銀行(Standard Bank)/中国工商銀行(ICBC)。