エネルギー憲章条約(ECT)って?何が問題?

脱化石燃料2024.11.27
ECT-Rex Stunt in Brussels Photos (c) Lode Saidane

2024年5月30日、欧州連合(EU)はエネルギー憲章条約(ECT)からの離脱を決定しました。ECTとは、エネルギー分野における投資の保護等について規定している条約です。日本を含む50か国近くが加盟していますが、うちEUや英国は離脱を決定しています。中国やアメリカは参加しておらず、締約国に含まれる先進国は、日本および欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国(ノルウェー、スイス、アイスランド、リヒテンシュタイン)になる見込みです。

EUが脱退を決めた理由として、ECTがEUの気候変動政策と一致していないこと、またECTに含まれるISDS条項によって欧州の政府が次々と訴えられていたことが挙げられています。

ECTは、化石燃料に関する投資も保護の対象にしています。気候変動対策のために化石燃料からの脱却が必要な中、ECTは気候変動対策を阻害すると環境団体からも批判が出ていました。

ISDS条項も問題です。ISDSとは、「投資家と国との間の紛争解決(Investor-State Dispute Settlement)」の略称です。投資や貿易に関する協定において規定される手続で、投資家と投資受入国との間で発生した投資紛争を、国際仲裁等を通じて解決するものですが、企業利益のために欧州の政府が訴えられる事例が相次ぎました。日本の投資家がISDS条項を使ってスペイン政府を訴えるケースもありました。

英国を拠点とするシンクタンクのE3GはISDSが「毎年2ギガトンの排出を保護している」と指摘。さらに、ISDS条項によって保護される事業からの排出量は、英国に次いで日本が2番目に大きいことが明らかになりました。

ECTの内容の近代化が実質合意され、今年中の採択が予定されています。しかし、近代化によってISDS条項が外されたり、化石燃料投資保護が削除されるわけではありません。

ISDS条項が含まれる貿易協定は企業の利益保護を優先し、気候危機対策を遅らせています。コミュニティや人権を守るものにもなっていません。気候危機回避や人権尊重のための貿易協定改革が必要とされています。

2019年に欧州のNGOや労働組合がEU加盟国に提出したECTに関する公開書簡のサマリー
・ECTが化石燃料企業や原発企業が自分たちの利益を守るために使われる事例が増えており、今後も増加が懸念される。再生可能エネルギーやエネルギー効率への投資が後回しに。ECTは気候危機や環境保全、安価なエネルギーアクセスを阻害するものであってはならない。
・近代化プロセスにおいては(注:ECTの内容改訂。2022年に実質合意)、化石燃料保護の条項をなくすべき。またISDS条項も削除すべき。近代化プロセスが気候変動対策に合致せず失敗した場合、ECTから脱退するかECTを停止すべき。ECTの加盟国拡大もやめるべきである。

🖍️ECTの6つの問題点
1)ECTは化石燃料投資と化石燃料インフラを保護しており、気候変動対策に逆行
イタリア政府がイタリア沿岸における新規の石油ガス事業を禁止したことを受け、2017年に英国の企業Rockhopperがイタリア政府を提訴。同様に、フランス政府が化石燃料採掘を禁止する法律を提案したところ、カナダ企業が提訴し、同法案の内容は弱められた。また2019年ドイツの企業Uniperは、オランダが石炭火力廃止の法案を成立させるならば、オランダ政府を訴えると発表。ECTによる「萎縮効果」は気候変動対策に対する現実のリスクである。
2)ECTは国家予算や納税者のお金をリスクに晒す
ECTによる仲裁裁判の結果、政府が企業に賠償金を支払うことになれば、国民のお金が失われることとなる。ECTによって、各国政府はすでに合計516億米ドルの賠償の支払いに合意、もしくは支払いを行っている。
3)ECTは再エネの推進も阻害する
ECTは特定のエネルギー源を推進することに対しリスクとなっている。さらに、ECTはエネルギー効率やエネルギー需要の削減に対する投資は保護対象としていない。
4)ECTは環境保全を阻害する
例えばスイスの企業Vattenfallは、ドイツが石炭火力発電事業に対し環境規制を導入したため、ECTを用いて提訴。ドイツ側が追加の環境規制を行わないことで和解した。Vattenfallはさらにドイツが脱原発を加速させたことに対しても訴訟を損害賠償を求めた。
5)ECTはエネルギーアクセスや公共のエネルギーインフラを攻撃するツールとなる
東欧の国々は、大手エネルギー会社の利益を抑制する措置を講じ、消費者の電力価格を下げたため、ECTのもとで提訴された。
6)ECTに基づく投資家と国家の仲裁は法の支配に反し、国内の法制度を損なう
司法への平等なアクセスの原則に反して、ECTは社会で最も裕福で最も強力な主体の一部、つまり外国投資家のみが利用できる並行司法制度を作り出している。ECTの仲裁は非常に秘密主義で利益相反が往々にして見られる。

参考資料
・ECTに関する公開書簡 https://energy-charter-dirty-secrets.org/2021/07/05/open-letter/
・ビジネスと人権リソースセンター「投資家対国家の紛争解決(ISDS)
・FoE Europeプレスリリース「EU energy ministers greenlight historic exit from the Energy Charter Treaty」2024年5月30日
・法的分析「The Withdrawal of the EU and the Member States from the Energy Charter Treaty: Who will bear international responsibility for breaches of the Treaty?
・外務省「ECTの近代化に関する実質合意内容について
・E3G「The climate crisis requires a new approach to international investment treaties
MIRU「【インタビュー】エネルギー憲章条約(ECT)の元事務局次長、中田眞佐美氏-岐路に立つECTの現状、近代化への展望

(深草亜悠美)

 

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