アンモニア混焼と輸入木質バイオマス発電の課題〜JERA石炭火力発電所の視察から〜
2月初旬、愛知県にある碧南火力発電所と武豊火力発電所を、気候ネットワーク主催のスタディツアーで視察しました。この2つの発電所は、日本最大の火力発電会社であるJERAによるものです。
碧南火力発電所は、石炭火力発電所としては国内最大で、2024年3月からアンモニア実証実験の開始が予定されています。また、武豊火力発電所は、輸入木質バイオマスの混焼を行なっており、2024年1月31日に火災事故がありました。
碧南火力発電所とは?
愛知県には、石炭火力発電が11基あります。このうち、碧南火力発電所(愛知県碧南市港南町2-8-2)は、井浦湾に面する愛知県碧南市の南部に位置します。1991年10月に1号機が営業運転開始して以来、中部エリアをはじめとする各地へ電力を供給してきました。2002年には5号機が営業運転を開始し、総出力が410万kwと石炭火力発電所としては国内最大、世界でも最大級の発電規模になりました。
約160万m²という広大な敷地の中には、ボイラー、タービン、発電機に加え、貯炭場、灰捨地などの設備が並んでいます。タービン建屋の壁面には、三河湾の青い海に浮かぶヨットをモチーフにしたというデザインが施されており、発電所の仕組みを展示する電力館(訪問時は工事のため休館)やヒーリングガーデン、エコパークなども併設されています。
碧南火力発電所の構内見学
碧南火力発電所の見学ツアーでは、発電所内を車で移動しながら、4・5号機のタービン建屋、3・4・5号機の中央制御室、貯炭場をまわりました。
タービン建屋について、一つの建物に2つのタービンが入っていることから、4号機のものはオレンジ色に、5号機は青色に色分けされていました。発電所内ではJERA以外の人も働いており、発電員(発電所で働いている人々)が、それぞれの担当すべきタービンが一目でわかるようにするための工夫とのことです。また、原則タービン建屋には誰もおらず、1日に1~2回、発電員が1人で巡視するとのことでした。
続いて、中央制御室へ向かいました。制御室内には入室できませんでしたが、窓越しに発電員の姿と発電機の制御盤を見ることができました。発電員は、タービンの巡視以外の時間は基本的にこの中央制御室にいるとのことです。一つの発電機につき、8名の発電員が配置され、12時間交代(7:30-20:40/20:30-7:40。10分の重複があるのは引き継ぎのため)で発電状況の監視にあたっているそうです。また、中央制御室の制御盤には、その日使用している石炭の輸出国の国旗が貼られており、複数の国の石炭を混ぜ、最も燃焼効率が良くなるようにしているとのことでした。
タービン建屋の見学のあとは貯炭場へ。碧南石炭火力発電所の貯炭場は屋外にあり、大小様々な大きさの穴が空いた遮風壁で囲まれています。いろんな種類の石炭を混ぜやすいという理由から屋外貯炭をしており、入荷した石炭を貯炭場のどこに置くかは、そのときの在庫の石炭と新規石炭の相性を考えて貯炭されるとのことです。「近隣からの粉塵への苦情はないのか?」と疑問に思い尋ねたところ、苦情はないとのことでした。また、石炭の粉やばいじんが飛び散らないよう、定期的に石炭の上に散水しているそうです。
その後、石炭輸送船の発着場の横を通り過ぎながら、最初に訪れた施設へと戻り、質疑の時間を持ちました。
アンモニア混焼、本当にクリーン?
さて、この碧南火力発電所はアンモニア混焼が行われるということで注目されています。JERAはテレビ広告などで大々的に「CO2の出ない火を作る」と宣伝していて、JERAがスポンサーを務めるプロ野球セ・リーグの試合や、TOHOシネマズの映画館でも上映前に頻繁にその広告が流れています。
JERAは、アンモニアは燃やすときにCO2を出さないため、石炭火力発電所で石炭と一緒に燃やす(混焼)ことで、削減できた石炭の分だけCO2の排出を抑えられる、と主張します。最終的に石炭の代わりにアンモニアだけ燃やせるようになれば「CO2の出ない火」ができる、というわけです。
しかし残念ながらこの主張は正確ではありません。というのも現在商用的に確立しているアンモニアの製造方法は、天然ガスなど化石燃料を原料としたものです(天然ガスに含まれる炭化水素と大気中の窒素を反応させて製造するハーバーボッシュ法)。最新鋭の設備を用いても、1トンのアンモニアを製造するのに約1.6トンのCO2が排出され、「脱炭素」燃料とはいえません。
こちらの図を見てもわかるように、アンモニア混焼をしても石炭だけ燃やした場合と比べて大きなCO2排出削減効果がないことが見て取れます。(アンモニア混焼の問題点について詳しくはこちら)
つまり「燃やす」時にCO2がでなくても、「つくる」時にCO2が出てしまうアンモニア燃やしてできた火は、結局「CO2が出る火」というわけです。
JERAの「ゼロエミッション2050」ロードマップでは、50%混焼を2040年頃、専焼の実現は2050年頃と大まかに示されています。すなわちそれまで、石炭の燃焼が続くということでもあります。
実際、このJERAの広告は、環境NPO気候ネットワークと環境法律家連盟から公益社団法人 日本広告審査機構(JARO)に対し、このようなミスリーディングな広告を中止するよう勧告を求める申立が提出されています。
ちなみに、この碧南火力発電所では2024年3月からアンモニア混焼の実証実験が開始されますが、そのアンモニアが製造されるのはアメリカ南部のメキシコ湾岸地域です。この地域には、先日のブログでも紹介したキャメロンLNG(三菱商事、三井物産、日本郵船が出資)やフリーポートLNG(JERA、大阪ガスが出資)など多くのLNG施設が集積し、住民の健康被害やエビが取れなくなるなど漁業への悪影響がすでに顕著に出ています。ここでアンモニア製造をすることは、地域の環境や人々の健康に更なる負荷がかかる懸念があります。
全廃からはほど遠い、日本の石炭火力政策
国連事務総長が2021年以降「OECD諸国は2030年までに、途上国も2040年までには石炭火力の全廃を」と呼びかける中、日本では石炭火力発電がいまだに発電量の32%を占めています(2021年度)。そして、2030年度にもまだ19%も使い続ける方針(第6次エネルギー基本計画)です。
2020年7月、「非効率な石炭火力発電所を2030年までにフェードアウトさせる」ことが発表されましたが、大型・高効率のものはむしろ積極的に活用を続ける方針なのです。非効率なものの全廃さえ期限が明示されておらず、2030年にもまだ動き続けている可能性があります。碧南火力発電所でみれば、1、2号機が政府が定義する非効率のもの(超臨界:SC)、3~5号機が政府が定義する高効率のもの(超々臨界:USC)です。1、2号機の廃止時期は示されていません。
日本も2050年カーボンニュートラルをめざす中で、石炭火力発電をそのまま続けるというわけにはいきません。
そこで進められようとしているのがアンモニア混焼ですが、前述のように2050年に専焼にたどり着くか否かというスケジュール、またそのアンモニアを再エネ由来で国内で作ることはほぼ不可能という状況です。莫大なコストと30年近い時間をかけてアンモニア専焼をめざすことは、それまでの期間、石炭火力を使い続けるということです。
アンモニア発電の実装化を石炭火力を使い続けながら待つのではなく、石炭火力発電を廃止し、省エネ・再エネに舵を切らなければなりません。
バイオマス混焼の武豊石炭火力で、1月末に爆発・火災
井浦湾を挟んで碧南火力発電所のちょうど対岸にある、武豊火力発電所(愛知県知多郡武豊町字竜宮1-1)のすぐそばにも行き、外から見学しました。武豊火力発電所は、輸入木質バイオマスを混焼している石炭火力発電所で、1月31日に爆発・火災があったところです。バイオマス燃料の発酵による火災は、近年各地のバイオマス発電所でも起こっています。
黒く焼け焦げた火災のあとは敷地の外からもよく見え、生々しく残っていました。
この発電所は、特に住宅地と隣接した立地で、小さな公園と道路を挟んですぐに住宅が立ち並んでいます。
地元で活動している「武豊町の環境問題を考える会」の方からは、火災を受けて発電所の稼働停止を申し入れたが、回答はなかったとのことでした。
この発電所はもともと重油発電所を廃止し、一時期太陽光発電所になっていたとのこと。
しかし、バイオマス混焼の高効率石炭火力発電所ということで新たに建設され、2022年8月に稼働が開始されたものでした。「太陽光発電のままにしておけば・・・」地元の方も悔やんでいました。
武豊火力発電所の変遷 | |
1966年 1号機運転開始(22万kW) 1972年 2~4号機運転開始(2〜4号機いずれも37.5万kW) 2002年 1号機閉鎖2011年 発電所敷地内に「メガソーラーたけとよ」(7,500kW)運転開始 2015年2月 武豊発電所リプレース計画(1〜4号機の閉鎖、5号機の建設)公表 2016年3月 2~4号機閉鎖 2017年 「メガソーラーたけとよ」閉鎖、川越発電所構内(三重県)に移転 2022年8月 5号機(107万kW)運転開始 |
見学を終えて
気候変動は世界的な問題であり、前述の通り日本は2030年までに石炭火力発電の廃止が求められています。この要請から目を背けず、そもそも省エネなどを通じて消費電力量を減らした上で、石炭火力から再生可能エネルギーへと舵を切ることが、日本のすべき気候変動対策です。その道筋として、未来のためのエネルギー転換研究グループ(JUST)は、2050年に再生可能エネルギー100%の社会を目指すことは可能だという調査報告書も公表しています。
今回のツアーでは、実際に発電所内で働く人々の姿、発電所の周辺地域の様子も目にしました。石炭火力発電の廃止策を実施するうえで、労働者や産業立地地域が取り残されることなく、公正かつ平等な方法で持続可能な社会へ移行することを目指すこと、つまり「公正な移行」は、まさに私たちが直面する課題であると感じました。
(長田大輝、髙橋英恵、轟木典子、吉田明子)