COP28「公正な移行」のゆくえ〜未来へ責任ある行動を選択できるか〜
今回のCOP28では、昨年の第4回パリ協定締約国会合[注1]にて設置が合意された、公正な移行に向けた作業計画(Work programme on Just Transition、 JTWP)についての交渉が進んでいます。
「公正な移行(Just Transition)」は、1970年代の米国での環境正義運動で言われはじめ、2009年のCOP15では、ITUC(国際労働組合総連合)は、気候変動に対応するための産業移行の中で労働者を支援し、彼らの権利を守ることを基にした概念を提唱してもいます。この概念の中には、温室効果ガスの排出が少なく平等で公平な社会、より人間らしい仕事や健全なコミュニティを創出していこうという考えも含まれており[注2]、パリ協定前文にも”Just Transition”は言及されています[注3]。
第4回パリ協定締約国会合(CMA4)の決定文書の中で締約国は、世界的な低炭素社会への移行は、持続可能な経済発展(SDGs)と貧困撲滅の機会でもあることを指摘しており、途上国は「公正かつ公平な移行に向けて、エネルギー、社会経済、労働力、その他の側面が含まれており、そのすべてが達成されなければならない」と強調しています。 また、その「移行においては、国が定めた開発優先事項に基づき、移行に伴う潜在的な影響を軽減するために社会的保護が含まれる」ものとしています。
何を決める?
JTWPは、途上国の長期的な経済移行に対し、国際的な支援を促進させるためのものです。今回のCOP28では、このJTWPの枠組みにおいて、来年以降具体的に「何を」「どれくらいの期間」「どのように議論するか」が決められます。
特に、スコープ(公正な移行の範囲)は大きな論点です。途上国は、公平性と「共通だが差異ある責任(CBDR-RC)」の観点から、持続可能な開発の 3 つの柱 (社会、経済、環境)を網羅し、社会全体と経済全体のアプローチを包含する広範かつ長期的な経済と社会の移行の取り組みであることを主張しています。一方、先進国はエネルギー産業に絞り、その移行の中で、労働力の公正な移行経路に焦点を当て、数年以下の短期で結論を出し作業計画を終えることを望んでいます。また、同作業計画の実施期間に関して、先進国は2〜4年間という期間で設けるべきとしていますが、途上国は期限は設けず継続的に議論すべきと主張しています。そのほか、作業計画の形式・制度的取り決めや、どのような成果物を求めるのか、条約下の他の枠組みとどのように関連させるか、などについても、途上国と先進国で大きな意見の相違が見られます。
気候正義の観点から
気候正義の実現を求める市民社会グループ(DCJ)は、公正な移行は、公平性や歴史的責任に基づいた、世界的な脱炭素社会への移行を目指すべきと主張しています。複数のCOP議題にまたがるエネルギーの移行の論点に関しては、化石燃料の段階的かつ公平な廃止、そして脱化石燃料の進展と併せて、再生可能エネルギーの導入を求めています。同時に、世界的な再生可能エネルギー拡大による鉱物資源収奪を防ぐために、鉱物資源採掘に対するガイドライン(影響軽減対策)を再エネ目標合意に含めること、途上国への資金技術支援を明記することを求めています。そして、この公正な移行に向けた作業計画は、先進国が主張する単なる意見交換や情報共有の場ではなく、具体的な行動につながる決定がなされることを期待しています。
交渉の外でも
12月4日[注4]には、「A Partnership to Support Women’s Economic Empowerment and Ensure A Gender-Responsive Just Transition([仮訳]女性のエンパワメントおよびジェンダーに対応した公正な移行に向けてのパートナーシップ)[注5]」が60か国以上の賛同の下、発表されました。
この新しいパートナーシップでは、COP25で決定されたジェンダー行動計画[注6]も踏まえ、公正な移行がジェンダー平等を促進させるものになるよう、(1)女性の教育・スキル・能力開発、(2)気候変動の影響を最も受けている地域へのより効果的な資金、(3)ジェンダー平等を実現するための質の高いデータの収集と分析、の3つの指針が示されており、COP31にてレビューがなされる予定です。
今後の交渉の行方は
12月1日からこの交渉は始まっていますが、日に日に多くのオブザーバーが詰めかけ、関心が高まっている様子が見て取れます。交渉の場においては、先進国はより早く行動を始めることが重要で作業計画の議論も短期間にすべきで、情報共有の場に限定すべきと主張していますが、途上国は、公正な移行を実現するための能力や資金、技術が不十分な状況を訴え、世界的な公平性の実現も訴えています。
途上国グループは、私たちが20年から30年後にどのような世界を見たいか各自の個人的な信念に立ち返ってほしいと求め、未来に不平等を残すのではなく責任ある行動をしようと呼びかけました。
UNFCCCの根幹である「共通だが差異ある責任」を実現するための議論と決定が、このドバイ会議で求められています。
(髙橋英恵)
[注1] CMA/4, para 50-53; https://unfccc.int/sites/default/files/resource/cma2022_10a01_adv.pdf
[注2] ITUCによる「公正な移行」の定義についてはこちらとこちらを参照。またILOの定義はこちら。
[注3] Paris Agreement 前文, “Taking into account the imperatives of a just transition of the workforce and the creation of decent work and quality jobs in accordance with nationally defined development priorities,”
[注4] COP28議長国によって、12月4日はGender Equalityもテーマとなっている。
[注5] A Partnership to Support Women’s Economic Empowerment and Ensure A Gender-Responsive Just Transition; https://www.cop28.com/en/news/2023/12/COP28-launches-partnership-to-support-women-economic-empowerment
[注6] The Gender Action Plan; https://unfccc.int/topics/gender/workstreams/the-gender-action-plan