【NGO 共同声明】石炭火力発電のバイオマス混焼および専焼化はグリーンウォッシューー気候変動を加速させ森林生態系を破壊する
国際環境NGO FoE Japanなど気候変動や森林問題に取り組む国内外の環境NGO 90団体は、本日4月11日、5月に広島で開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)のホスト国を務める日本政府に対し、バイオマス混焼・専焼に対する支援を行わないことなどを要請する共同声明を発表しました。
木材の炭素排出係数は石炭よりも大きいにも関わらず、日本政府は「カーボンニュートラル」とみなしており、バイオマス燃焼時のCO2排出量は計上されていません。このため、日本では現在、石炭火力発電でのバイオマス混焼およびバイオマス専焼転換が急速に進められています。日本政府も、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)で石炭火力発電のバイオマス混焼設備を支援するほか、グリーン・トランスフォーメーション(GX)実現の政策として、石炭火力自家発電所等の燃料転換においてバイオマス混焼を推進しています。
木質バイオマス燃料の大部分は、東南アジアや北米からの輸入が占めており、すでに木質バイオマス燃料を生産するために北米の天然林が皆伐される事例も報告されています。バイオマス燃料生産による森林減少・劣化や生物多様性喪失などの生態系への影響は計り知れません。
こうしたことから、バイオマスの混焼・専焼は、気候変動の加速や森林生態系の破壊を引き起こすグリーンウォッシュであり、看過することはできません。共同声明は以下の通り。
【NGO共同声明】
石炭火力発電のバイオマス混焼および専焼化はグリーンウォッシュ
気候変動を加速させ、森林生態系を破壊する
現在、石炭火力発電でのバイオマス混焼およびバイオマス専焼転換が急速に進められている。既に大手電力の石炭火力の約半数にあたる31基が混焼を実施している[1]。 また、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が認定するバイオマス発電設備のうち少なくとも40件が石炭火力のバイオマス混焼設備であり、うち35件は非効率石炭(亜臨界圧(Sub-C)もしくは超臨界圧(SC))であることが分かっている[2]。また、グリーン・トランスフォーメーション(GX)実現の政策として、石炭火力自家発電所等の燃料転換においてバイオマス混焼が含まれている[3]。
木質ペレットは、石炭火力のバイオマス混焼で利用される主な燃料の一つである。FIT制度によるバイオマス発電の普及により、木質ペレットの輸入量は過去10年で61倍に増え、2022年には約441万トンに達した[4]。石炭火力発電の設備容量は一般的なバイオマス発電よりも桁違いに大きいため、石炭火力による混焼の促進に伴い、木質ペレット輸入量のさらなる増加が予想される[5]。木質ペレット需要の増加は、直接的・間接的に関わらず、森林へのさらなる負荷となる。
私たち気候変動および森林問題に取り組む環境NGOは、以下の理由で、石炭火力発電のバイオマス混焼及びバイオマス専焼への転換に反対する。
1. 気候変動を加速させる
1) バイオマスを燃焼するとCO2が排出される
バイオマス発電は火力発電であり、バイオマス燃料の燃焼により大量のCO2が大気中に排出される。木材の炭素排出係数は石炭よりも大きいにも関わらず[6]、日本政府は「カーボンニュートラル」とみなしており、燃焼時のCO2排出量は計上されていない[7]。また、バイオマス燃料を生産するために森林が伐採された場合、森林が長期にわたって樹木や土壌などに蓄えてきた炭素が大気中に放出される。伐採された森林が元の状態に回復する保証はなく、回復したとしても、大気中に放出されたCO2を回収し終えるまでには、数十年から数百年の長い年月を要する。これに加えて、伐採・加工・輸送の各段階において、化石燃料由来のCO2が発生する。日本は木質ペレットの多くを輸入に依存しており[8]、輸送においても大量のGHGを排出する。これらライフサイクル全体におけるCO2排出と森林の回復に要する年月および森林が回復しない可能性を度外視し、バイオマス発電を「カーボンニュートラル」とみなすことは、気候変動を加速させる大きなリスクである。
2) 石炭火力発電所を延命させる
パリ協定の1.5度目標を達成するためには、OECD諸国は2030年までに石炭火力を廃止する必要がある。しかし、経済産業省は、石炭火力の発電効率の算出にあたり、石炭投入量からバイオマス混焼分を控除する計算式を用いることで、見せかけの高効率化による非効率石炭の延命を行っている[9]。専門家の試算では、バイオマスを混焼しない石炭火力発電所のCO2排出係数は0.84kg-CO2/kWhであるのに対し、発電効率38%の石炭火力発電所がバイオマスを5%混焼する場合には0.85kg-CO2/kWhへと増えることが明らかになっている[10]。 さらに、石炭火力のバイオマス専焼への転換および改修の促進も検討されているが[11]、その場合のCO2排出係数は1.03kg-CO2/kWhとなる。
2. 森林生態系を破壊する
大規模バイオマス発電や石炭火力のバイオマス混焼に使われる木質バイオマス燃料は、大部分が東南アジアや北米から輸入されている[12] 。今後、大量のバイオマス燃料を供給しようとすれば、森林伐採の圧力が高まる。バイオマス燃料生産による森林減少・劣化や生物多様性喪失などの生態系への影響は計り知れない。木質バイオマス燃料を生産するために北米の天然林が皆伐される事例が報告されている。破壊された森林生態系がその機能を回復することは容易ではなく、質的に再び同じ生態系に回復することは不可能である。FIT制度の事業計画策定ガイドラインは、木質バイオマス燃料の持続可能性に関する明確な基準がなく、FIT以外のバイオマス発電には適用されない。生態系や生物多様性を脅かすバイオマス発電は、環境への負荷低減を掲げる再生可能エネルギーの根幹を揺るがすものだ。
よって、私たちは日本政府に以下を求める
- バイオマス混焼の有無に関わらず、一刻も早く脱石炭を達成すること
- バイオマス混焼・専焼に対する支援を行わないこと
- 廃棄物以外の燃料を使うバイオマス発電を再生可能エネルギーの対象から外し、補助金等による支援を行わないこと
- バイオマスの燃焼段階のCO2排出を発電所ごとに計上するよう義務づけること
- バイオマス燃焼のCO2排出を消費国がカウントし、自国の炭素勘定に含めること
以上
連名団体 (90 団体)
国際環境NGO FoE Japan | 日本 |
国際環境NGO グリーンピース・ジャパン | 日本 |
ウータン・森と生活を考える会 | 日本 |
気候ネットワーク | 日本 |
地球・環境人間フォーラム | 日本 |
熱帯林行動ネットワーク | 日本 |
特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所 | 日本 |
「環境・持続社会」研究センター | 日本 |
Climate Action Network Japan(CAN-Japan) | 日本 |
特定非営利活動法人 地球環境市民会議(CASA) | 日本 |
国際青年環境NGO A SEED JAPAN | 日本 |
国際環境NGO 350.org Japan | 日本 |
Fridays For Future Sendai | 日本 |
Forests, Climate and Biomass Working Group – Environmental Paper Network | インターナショナル |
Mighty Earth | アメリカ |
350 Eugene | アメリカ |
350 Triangle | アメリカ |
AbibiNsroma Foundation | ガーナ |
Australian Forests and Climate Alliance | オーストラリア |
Biofuelwatch | イギリス/アメリカ |
Blue Dalian | 中国 |
Castlemaine Residents Against Biomass | オーストラリア |
Center for Biological Diversity | アメリカ |
Central California Environmental Justice Network | アメリカ |
Coast Range Association | アメリカ |
Coastal Plain Conservation Group | アメリカ |
Comite Schone Lucht | Clean Air Committee NL | オランダ |
Community Partners Across the South | アメリカ |
Conservation North | カナダ |
Consumers’ Association of Penang | マレーシア |
De Bomenbond | オランダ |
De Klimaatcoalitie | オランダ |
Doctors and Scientists Against Wood Smoke Pollution (DSAWSP) | アメリカ |
Dogwood Alliance | アメリカ |
Earth Action, Inc. | アメリカ |
Earth Neighborhood Productions | アメリカ |
EARTHDAY.ORG | アメリカ |
EDSP ECO | オランダ |
Endangered Species Coalition | アメリカ |
Environment East Gippsland inc | オーストラリア |
EPIC- Environmental Protection Information Center | アメリカ |
Federatie tegen Biomassacentrales | オランダ |
Fern | EU |
FIAN Sri Lanka | スリランカ |
Forest Watch Indonesia | インドネシア |
Forum Ökologie & Papier | ドイツ |
Friends of the Clearwater | アメリカ |
Friends of the Earth US | アメリカ |
Gippsland Environment Group | オーストラリア |
Global Justice Ecology Project | アメリカ |
Great Old Broads for Wilderness, Cascade-Volcanoes Chapter | アメリカ |
Green Cove Defense Committee | アメリカ |
Green Longjiang | 中国 |
Green Snohomish | アメリカ |
Himalaya Niti Abhiyan | インド |
Hunter Knitting Nannas | オーストラリア |
Independent Forestry Monitoring Network (JPIK) | インドネシア |
John Muir Project | アメリカ |
Kaoem Telapak | インドネシア |
Kitsap Environmental Coalition | アメリカ |
Landelijk Netwerk Bossen- en Bomenbescherming | オランダ |
Leefmilieu | オランダ |
Maíra Institute | ブラジル |
Natural Resources Defense Council | アメリカ |
Nature Nova Scotia | カナダ |
NC Climate Solutions Coalition | アメリカ |
No Electricity from Forests | オーストラリア |
Ole Siosiomaga Society Incorporated (OLSSI) | サモア |
Pakaid | パキスタン |
Partnership for Policy Integrity | アメリカ |
Pivot Point | アメリカ |
Profundo | オランダ |
River coalition | チェコ |
Sahabat Alam Malaysia (Friends of the Earth) | マレーシア |
Save Estonia’s Forests (Päästame Eesti Metsad) | エストニア |
Scholar Tree Alliance | 中国 |
Snow Alliance | 中国 |
Solutions for Our Climate | 韓国 |
South East Region Conservation Alliance (SERCA) | オーストラリア |
Southern Environmental Law Center | アメリカ |
Spruill Farm Conservation Project | アメリカ |
Southern Forests Conservation Coalition | アメリカ |
Stand.earth | カナダ |
Standing Trees | アメリカ |
Sunflower Alliance | アメリカ |
The Corner House | イギリス |
Thurston Climate Action Team | アメリカ |
Trend Asia | インドネシア |
Utah Physicians for a Healthy Environment | アメリカ |
Wild Nature Institute | アメリカ |
WOLF Forest protection movement | スロバキア |
出典・脚注
[1] 経済産業省, 石炭火力検討ワーキンググループ中間取りまとめ概要, p27,<https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/sekitan_karyoku_wg/20210423_report.html>
[2] FoE Japan, 資源エネルギー庁 事業計画認定情報公表ウェブサイトおよびJapan Beyond Coalデータベースより作成(別添資料1. FIT認定を受けた石炭火力のバイオマス混焼設備一覧)
[3] 経済産業省, GXを実現するための政策イニシアティブの具体化について, p29, p31, p33,<https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/green_transformation/pdf/011_01_00.pdf>
[4] 財務省, 貿易統計, 普通貿易統計, 品別国別表(別添資料2. 木質ペレットの輸入量)
[5] 日本の大手石炭火力 J-Power社と米国の木質ペレット世界大手エンビバ社は、サプライチェーンの共同検討に係る覚書を締結し、年間最大500万tの供給体制の確立に取り組んでいる, <https://www.jpower.co.jp/news_release/2021/11/news211117.html>
[6] 国立環境研究所, 日本国温室効果ガスインベントリ報告書 2022, p.3-16, <https://www.nies.go.jp/gio/archive/nir/jqjm10000017uzyw-att/NIR-JPN-2022-v3.0_GIOweb.pdf>
[7] 企業のGHG排出量算定報告方法のグローバルスタンダードであるGHGプロトコルやSBTiではバイオマスのエネルギー利用時のCO2排出量を企業の排出量として報告することになっている。
i) World Business Council for Sustainable Development, World Resources Institute, ‘ The Greenhouse Gas Protocol -A Corporate Accounting and Reporting Standard, Revised Edition’, p.63, <https://ghgprotocol.org/sites/default/files/standards/ghg-protocol-revised.pdf>
ii) Science Based Targets Initiative, SBTI 企業ネットゼロ基準, p.24, <https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/Net-Zero-Standard_v1.0_jp.pdf>
[8] 財務省, 貿易統計 および 農林水産省, 特用林産物生産統計調査(別添資料3. 木質ペレットの輸入量と国内生産量)
[9] 経済産業省, 石炭火力検討ワーキンググループ中間取りまとめ概要, p1, <https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/sekitan_karyoku_wg/20210423_report.html>
[10] 地球・人間環境フォーラム,ウェビナー「“カーボンニュートラル”の影でーバイオマス発電と石炭混焼のCO2排出量」,資料「バイオマス発電所のCO2排出量」, p.6, <https://www.gef.or.jp/wp-content/uploads/2022/12/bbd4731754105f73e348ee35cca7119c.pdf>
[11] 経済産業省, 資料4 電源投資の確保について, p.28, <https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/061.html>
[12] 日本国内の廃棄物系バイオマスは量が限られており、ほとんどはすでに使われている。