パーム油と森林
プランテーション拡大の影響|パーム油の消費を考えよう|DVD「森の慟哭」
プランテーション拡大の影響
私たちの身のまわりにあふれる加工食品。必ずといっていいほどパーム油が使われています。
需要の急速な拡大とともに生産量が拡大したパーム油。植物油としては世界1位となりました。
近年はバイオ燃料原料としての利用もされています。
パーム油のふるさとである東南アジアでは何が起きているのでしょうか?
●パーム・プランテーションの急拡大
パーム油はアブラヤシ(オイルパーム、パーム椰子)の実からとれる油です。その85%以上がインドネシアとマレーシアの2ヶ国で、世界全体の85%以上を生産しています。両国ではパーム・プランテーションが急速に拡大し、森林生態系や住民の伝統的な土地利用の脅威となっています。
インドネシアでは、1990年の110万haから2002年には3倍以上の350万haに、2005年には500万haに達しています。プランテーションの少なくとも7割が森林を転換(開発)したものだといわれています(注1)。
マレーシアでは、1990年の170万haから2005年には400万haに達しています。これはマレーシア国土のじつに12%にも及びます。プランテーション拡大により、1990-2002年の期間、少なくとも約70万haの熱帯林が消失したとされています(注2)。
アブラヤシ収穫面積の変化 (単位:ha) |
●生物多様性、気候変動への影響
天然林とプランテーション――この2つは全く異なるものです。
天然林は多様な樹種で多層的に構成され、野生生物に採餌場やすみかを提供します。プランテーションの造成の仕方によっては、ある程度の生息地を残すことも可能ですが、基本的には、熱帯林がプランテーションに転換されると、8割から10割の哺乳動物、爬虫類、鳥類が消失するとされています。
もともとの熱帯林 (インドネシア・東カリマンタン) |
アブラヤシ農園 (マレーシア・サバ) |
泥炭地の転換 |
また、天然林のプランテーション化で近年注目され始めたのが気候変動の影響です。とりわけ、泥炭湿地林を伐採したときの影響は甚大です。
泥炭地とは、水に浸かった土壌で植物遺骸の分解が遅れ、堆積して形成される有機質土(泥炭土)で、大量の炭素を貯蔵しています。
泥炭湿地にある森林を伐採すれば、蓄えられている炭素が二酸化炭素として空気中に排出されます。
●頻発する土地争い
プランテーション開発のもうひとつの問題点が、土地問題でしょう。インドネシアのカリマンタン、スマトラ、マレーシアのサラワクなどで、プランテーション開発側と、もともとその土地を利用してきた住民との間で、土地をめぐる紛争が多く発生しています。
開発される土地の多くは、先住民族が暮らすもしくは利用してきた土地・森林であり、たとえ正式な土地権利の書類を持ちあわせていなくとも、慣習的な権利は国際的に、あるいは国内法上で認められています。しかし現実の開発は、土地利用についての適切な調査、あるいは事前の説明・協議が行われないまま進められることも多いのです。
伐採企業と闘うイバン族 |
サラワクでは1997年、プランテーション開発に反対し抗議集会を開いていた先住民族(イバン族)に対し、それを解散させようとした警察隊が発砲、住民3名が死傷する事件が起こっています。また1999年には、別の場所で、先住民族(イバン族)と開発業者の労働者が衝突し、労働者7名が死傷するという事件が起こりました(注3)。
その他、事前の話合いや同意なしのプランテーションの造成、村長のみの同意を形式だけ取り付けている例、土地開発に抗議する先住民族と警察やプランテーション企業との衝突などが報告されています。
問題の背景には、土地法で認められている先住民族の「先住慣習地」が、実際には尊重されていないことが挙げられます。
●知ること・伝えることが第一歩
それでは私たち消費者には何ができるのでしょう?
FoE Japanは、まずは現地で起きている問題を一人でも多くの皆さんに伝えていきたいと思います。プランテーション開発にともなう諸問題は一筋縄でいかないことが多いですが、この問題を消費者として考え、企業に対してメッセージを伝えていくことも重要です。
具体的には、プランテーションの新規開発を抑制すること、少なくとも泥炭林などの保護価値の高い森林の転換を禁止し、先住慣習地を尊重することが必要です。
上映会の開催 FoE Japanでは、サラワクの森林とプランテーション問題を、活き活きとした映像でわかりやすく伝えたドキュメンタリー「森の慟哭」(26分、監督:中井信介)の販売を行っています。 |
注1) Friends of the Earth. 2005. Greasy palms- The social and ecological impacts of large-scale oil palm
plantation development in Southeast Asia
注2) Casson, A. 2003, Oil Palm Soybeans & Critical Habitat Loss
注3) 岡本幸江編、日本インドネシアNGOネットワーク発行『アブラヤシ・プランテーション開発の影』(2002)
プランテーション拡大の影響|パーム油の消費を考えよう|DVD「森の慟哭」