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プレスリリース・意見書
2020年東京オリンピックを前に市民団体が人権侵害、熱帯林破壊、違法伐採のリスクをIOCに警告
40を超える団体が国立競技場などの会場建設が人権侵害や環境破壊に関わるおそれがあるとの書簡をIOCに送付
(写真提供:Bruno Mansar Fund)
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スイス・ローザンヌ――2020年東京オリンピックの経費削減策の議論が続く[1]なか、国際NGOなど44団体が賛同し、東京の新国立競技場や他の会場に予定される施設の建設に、違法で持続不可能な熱帯雨林木材が使われる可能性が高いと警告する書簡が、冬季理事会開催中のIOCに今日手渡された。市民団体は追加の予防措置やデューデリジェンス対策がとられなければ、生物多様性や気候変動、そして森林への正当な権利をもち森林に依存して暮らす地域コミュニティに深刻な影響を与えかねないと警鐘を鳴らしている。
その木材消費が熱帯林破壊の原因になっているとして、市民団体や国際社会から長年、日本は批判されてきた[2]。日本は世界最大の熱帯合板の輸入国で、その多くがマレーシアやインドネシアの森林から供給されている。NGOは特に日本の輸入合板のほぼ半分を供給するマレーシア・サラワク州の状況に焦点を当てている。サラワクは森林減少のペースが世界でもっともはやい地域の一つであり、違法伐採の発生率が極めて高い[3]。サラワクの先住民族コミュニティは先祖伝来の土地を守るため何十年もの間、伐採会社と闘ってきており、ときに死者が出ることもあった[4]。
ある独立の調査によれば、新国立競技場の施工を担当する大成建設が使用している合板と、極めて破壊的な伐採活動のために世界でもっとも急速に森林減少が進むサラワク州の生物多様性ホットスポットの関わりが指摘されている[5]。「サラワクの伐採会社は私たちの森を破壊し、飲み水を汚染した。私たちの先住民族としての権利を侵害し、生計を奪った」とSarawak Dayak Iban Associationのニコラス・ムジャ氏は語っている。
「東京2020大会関係者は先住民族の権利侵害、違法伐採、熱帯林破壊に関係する木材の使用を避けるために十分な対策をとっていない」と国際環境NGO FoE Japanの三柴淳一は述べる。「東京オリンピックの会場建設に違法で持続不可能な木材を使うことになれば、持続可能性を堅持するとのオリンピック関係者の誓約に反し、とんでもないレガシーが残されることになる」と話す。NGOはIOCが大会関係者に対して、「持続可能性を、オリンピックの開催計画の策定と、開催運営のすべての側面に取り入れることを保証する」というIOCの誓約と矛盾しない、より厳しい基準を要求するよう求めている[6]。12月4日に開催された専門家による会合において、小池百合子東京都知事はこの問題に対して認識をしており、「発注者として声をあげていく」と発言している[7]。
東京オリンピックの企業スポンサー数は過去最高となっているが、こうしたオリンピック会場建設に資金が使われるとなれば、深刻なレピュテーション・リスクを抱えることになるかもしれない。「森林減少ゼロにとりくむ企業や政府が増えているときに、これは大きな後退になる。IOCとスポンサーは東京2020大会関係者に対し、オリンピック会場建設に使われるすべての木材が合法で持続可能な供給地から、地域コミュニティの自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)を尊重した上で供給されるよう対策をとるべきだ」とレインフォレスト・アクションネットワーク(カリフォルニア州)のハナ・ハイネケン氏は指摘している。
※IOCへの書簡を渡す現地写真は12月6日の欧州時間午後1時(日本時間午後9時)以降に、以下で利用可能になる予定
https://www.dropbox.com/sh/vgmtiy969qyhnku/AABdZWkpHze000BL-o8TPlK1a?dl=0
【問合せ】
地球・人間環境フォーラム 坂本有希(sakamoto@gef.or.jp、03-5825-9735)
国際環境NGO FoE Japan 三柴淳一(mishiba@foejapan.org、03-6909-5983)
[1]www.olympic.org/news/in-the-wake-of-rio-s-marvellous-games-tokyo-makes-strong-strides-towards-2020
[2]Friends of the Earth,From policy to reality: ‘Sustainable’ tropical timber production, trade and procurement,2013,109ページ.www.foei.org/wp-content/uploads/2013/12/From-policy-to-reality.pdf
[3]グローバル・ウィットネス,「衝突する二つの世界」2014年,www.globalwitness.org/olympicsjp/
[4]マーケット・フォー・チェンジ・熱帯林行動ネットワーク(JATAN),「フローリングへと変貌する熱帯林」,2016年,https://www.marketsforchange.org/forest_to_floor_japanese,The Straits Times,June 21 2016,www.straitstimes.com/asia/se-asia/opposition-pkr-politician-shot-dead-in-sarawak
[5]グローバル・ウィットネス「マレーシアの熱帯林破壊と日本:持続可能な2020年オリンピック東京大会へのリスク」2015年12月.www.globalwitness.org/en/reports/shinyang/
[6]オリンピック・アジェンダ2020,提言4
[7]朝日新聞2016年12月5日付.「違法伐採の木材 新国立「防止を」輸入時の確認NGO訴え.www.asahi.com/articles/DA3S12691251.html
会長 トーマス・バッハ様
Château de Vidy
1007 Lausanne Switzerland
拝啓
件名:2020年東京オリンピックに違法で持続不可能な熱帯木材が使用されるリスクについて
下記賛同団体は、2020年東京オリンピックとその関連の建設事業が社会や環境に及ぼす影響に重大な懸念を抱いています。東京の新国立競技場やオリンピック大会会場となる施設の建設において、マレーシアやインドネシアの危機にさらされた熱帯林の違法かつ持続不可能な木材が使われるリスクが高く、その結果、生物多様性、気候変動、森に対する権利を有し森に依存して生計を立てている地域コミュニティに深刻な影響が及ぶことが懸念されます。日本政府及び東京2020大会関係者 による、このようなリスクを軽減するための取り組みはまったく不十分です。私たちは国際オリンピック員会(IOC)に対して、オリンピックが目指す持続可能性の実現という目的を確実に達成するために即座に行動し、オリンピック関連施設の建設・建築に使われる木材が人権侵害や環境破壊というレガシーを後世に残さないようにすることを要請します。
日本は2020年東京オリンピック・パラリンピックを持続可能で環境にやさしい大会にすることを約束したにもかかわらず2)、効果的な調達方針が存在しないこと、また日本における木材調達の現状を考えると、国立競技場を含むオリンピック会場の建設において、違法で持続不可能であり人権侵害に関係する木材が使われる重大なリスクが存在します。
日本は世界最大の熱帯雨林合板の輸入国であり、そのおよそ9割はマレーシアとインドネシアから輸入しています。両国の伐採活動は依然として、違法性、先住民族の権利侵害、貴重な森林生態系の破壊、そして汚職に関係していると指摘されています3)。とくにマレーシア、サラワク州の状況は深刻です。日本の輸入合板の約半分、そして建設現場のコンクリート型枠用の合板の大半はサラワクから供給されています。ある独立の調査は、新国立競技場の施工を担当する大成建設が使用している合板と、極めて破壊的な伐採活動のために世界でもっとも急速に森林減少が進むサラワク州の生物多様性ホットスポットの関わりを指摘しています4)。
組織委員会をはじめとする2020年東京大会関係者は日本の木材サプライチェーンにおけるこうしたリスクを認識し、一定の対策を取ってきました。しかし、現在の措置は不十分です。組織委員会が2016年6月に採択した木材調達方針は、環境、先住民族の権利、労働者の安全に配慮して伐採された合法木材を調達すると誓約しています5)。残念ながら、この方針にはコンクリート型枠については合法性基準だけを確保していれば、持続不可能、または先住民族の権利を尊重しない形で伐採された木材の使用が認められるという例外が設けられています6)。加えて、同方針はグリーン購入法7)にもとづく合法性の検証を認めていますが同法が合法性を保証するものではないことを示す証拠が数多く存在しています8)。
さらに、大会組織委員会が定める最低限の対策が、東京オリンピックの関連建設事業のすべてに適用されるわけではありません。同対策は新国立競技場にも東京都が整備する恒久施設にも適用されません。実際は、新国立競技場と東京都が整備する施設に求められるのは、持続可能性を要件とせず合法性の保証も不十分なグリーン購入法を満たすことだけです9)。このことは、熱帯雨林の破壊と人権侵害に関係する違法熱帯木材が、オリンピック会場となるすべての恒久施設の建設に使われるという重大なリスクが存在することを意味します。そのような帰結は、オリンピックの持続可能性へのコミットメントにとって大きな後退を意味し、残された熱帯林の保護と人権の尊重がかつてないほど求められているときに悲劇的な遺産をもたらすことになります。
オリンピック大会のあらゆる側面において持続可能性を含めるとのIOCの誓約10)を東京大会が堅持することができるよう、私たちはIOCがただちに次の行動をとることを求めます。
(1)すべての東京オリンピック関連建設事業が、人権侵害に関係しない合法で持続可能な木材の使用を義務付ける単一の基準に従うようにすること。
(2)大会関係者に、すべての関連建設事業の木材サプライチェーンの合法性と持続可能性について、十分かつ独立したリスク評価を行うよう義務付け、その評価方法及び結果を公に報告すること。
(3)違法性または持続不可能性のリスクが中程度または高いと判断されるすべての木材製品について、大会関係者に対し、伐採地までたどることのできる完全なトレーサビリティを確立し、使われる木材の合法性と持続可能性について信頼のおける独立した検証を確保し、リスク軽減のためにとった措置について公表することを義務付けること。
(4)伐採されたことのない原生林または保全価値の高い熱帯雨林から産出された木材の使用を禁止すること。そうした木材は持続可能とみなすことはできない。
(5)土地、森林、天然資源に対する先住民族および地域コミュニティの法的ならびに慣習的権利を尊重し、その自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)の検証を義務とするような森林経営による木材の使用を求めること。
オリンピック会場となるいくつかの恒久施設の建設はすでに始まっており、新国立競技場は今月に着工予定です。よって私たちは、IOCが緊急の課題としてこれらの対応をとるよう求めます。
同様の違法性、森林減少、人権侵害のリスクを抱える商品は、木材のほかにも存在します。例えば紙・パルプ、パーム油、大豆、ゴム、牛肉などがそうです。私たちはこれらの商品の調達においても同様に包括的なデューデリジェンスが行われるよう、IOCが対策をとることを求めます。
私たちは、東京2020オリンピック大会がオリンピックの価値を堅持し、将来の世代に有益な恒久的レガシーを残せる大会になるよう、今後もIOCと協力していきたいと考えます。
(署名団体)
ARA, Germany - Wolfgang Kuhlmann, Director
Avobo, Japan - Youki Mikami, Managing Director and President
Biofuelwatch, UK/US - Almuth Ernsting, Co-director
Blue Dalian, China - Sun Li, Office Manager
Bob Brown Foundation, Australia - Jenny Weber, Campaign Manager
Bruno Manser Fund, Switzerland - Lukas Straumann, Executive Director
Center for International Environmental Law, US - Melissa Blue Sky, Senior Attorney
Centre for Environmental Law & Community Rights / Friends of the Earth Papua New Guinea, Papua New Guinea - Peter Bosip, Executive Director
Denkhausbremen, Germany - Peter Gerhardt, Director
Environmental Investigation Agency, US - Alexander von Bismarck, Executive Director
FERN, Europe - Rudi Kohnert, FLEGT SE Asia campaign
Friends of the Earth Australia, Australia - Franklin Bruinstroop, International Liaison Officer
Friends of the Earth Japan, Japan - Junichi Mishiba, Executive Director
Friends of the Siberian Forests, Russia - Andrey Laletin, Chair
Global Environmental Forum, Japan - Yuki Sakamoto, Director of Planning and Research
Greenpeace - Yuko Yoneda, Executive Director, Greenpeace Japan
Haburas Foundation / Friends of the Earth Timor-Leste, Timor Leste - Virgilio da Silva Guterres, Executive Director
HaKi, Indonesia - Deddy Permana, Program Director
Japan Tiger and Elephant Fund, Japan - Masayuki Sakamoto, Executive Director
Japan Tropical Forest Action Network, Japan - Akira Harada, Director
Jaringan Masyarakat, Gambut Jambi, Indonesia - Rudiansyah, Coordinator
Jikalahari, Indonesia - Woro Supartinah, Coordinator
Keruan, Sarawak, Malaysia - Balang Nalan, CEO
Link-AR Borneo, Indonesia - Agus Sutomo, Executive Director
Markets For Change, Australia - Peg Putt, CEO
More Trees, Japan - Ryuichi Sakamoto, Representative
National Wildlife Federation, US - Barbara Bramble, Vice President, International Conservation and Corporate Strategies
Padi, Indonesia - Ahmad Sja, Director
Pro Public/ Friends of the Earth Nepal, Nepal - Prakash Mani Sharma, Executive Chair
Pro REGENWALD, Germany - Hermann Edelmann, Coordinator
Rainforest Action Network, US - Lindsey Allen, Executive Director
Rainforest Foundation Norway, Norway - Nils Hermann Ranum, Head of Policy and Campaigns Department
Rainforest Rescue / Rettet den Regenwald, Germany - Reinhard Behrend, Director
Russian Social Ecological Union / Friends of the Earth Russia - Andrey Laletin, Co-chair
Sahabat Alam Malaysia / Friends of the Earth Malaysia, Malaysia - Meenakshi Ramen, Honorary Secretary
Sarawak Campaign Committee (SCC), Japan - Tom Eskildsen, Steering Committee Member
Sarawak Dayak Iban Association (SADIA), Sarawak, Malaysia - Nicholas Mujah, Secretary General
SAVE Rivers, Sarawak, Malaysia - Peter N. J. Kallang, Chairman
Scale Up, Indonesia - Hary Oktavian, Executive Director
Wahana Lingkungan Hidup Indonesia (WALHI) / Friends of the Earth Indonesia, Indonesia - Khalisah Khalid, Head of Campaign and Network Development
WALHI East Kalimantan, Indonesia - Fathur Roziqin Fen, Executive Director
WALHI West Kalimatan, Indonesia - Anton P Widjaya, Executive Director
Wetlands International, Netherlands - Jane Madgwick, CEO
Yayasan PUSAKA, Indonesia - Y.L. Franky Samperante, Director
添付資料 「新国立競技場 違法伐採木材 排除できない仕組みに」毎日新聞、2016年10月6日付
cc:
IOC副会長、東京2020調整委員会委員長 ジョン・コーツ様
IOC持続可能性・レガシー委員会委員長モナコ大公アルベール2世様
IOC持続可能性・オリンピックレガシー部長 ミシェル・ルメトル様
ICOアドバイザー デイヴィッド・スタッブス様
日本スポーツ振興センター理事長 大東和美様
東京都知事 小池百合子様
東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣 丸川珠代様
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長 森喜朗様
東京2020オリンピックスポンサー様
1)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、東京都、日本スポーツ振興センター
2)東京2020招致ファイルhttps://tokyo2020.jp/jp/games/plan/data/candidate-section-5-JP.pdf.次も参照。https://tokyo2020.jp/jp/games/sustainability/
3)例えば次を参照:グローバル・ウィットネス「衝突する二つの世界」2014年12月www.globalwitness.org/olympicsjp/; Indonesian Anti-Corruption Commission, Preventing State Losses in Indonesia’s Forestry Sector, October 2015, https://acch.kpk.go.id/images/tema/litbang/pengkajian/pdf/Executive-Summary-Preventing-State-Loss.pdf
4)調査によると、大成建設のある現場で使われている合板の製造工場は、ハート・オブ・ボルネオ(訳注:貴重な生物多様性が残るボルネオ島の中心部にある地域)に存在する2つの伐採許可地を含むマレーシア・サラワク州の6つの伐採許可地から木材を調達している。グローバル・ウィットネス「マレーシアの熱帯林破壊と日本:持続可能な2020年オリンピック東京大会へのリスク」2015年12月www.globalwitness.org/en/reports/shinyang/
5)東京 オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「持続可能性に配慮した木材の調達基準」2016年 https://tokyo2020.jp/jp/games/sustainability/data/sus-wcode-timber-JP.pdf
6)同上。基準2(例外規定は再使用されている型枠合板に適用される。通常、型枠合板は2~3回使用されてから廃棄される)
7)次で入手可能: www.env.go.jp/policy/hozen/green/g-law/index.html
8)例えば次を参照:グローバル・ウィットネス「違法行為の黙認」2016年5月www.globalwitness.org/en/reports/wilful-ignorance/; TRAFFICジャパン「Goho-wood:日本における木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明制度の運用と課題」2015年12月
9)東京都の調達方針は熱帯木材の使用を制限すること、もしくは使用する熱帯木材が合法かつ持続可能な管理の行われている森林から調達したものであることを確保すること、と定めている。次を参照。www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/seisaku/recy/pdf/recy_10.pdf. しかし実際は、東京都はその調達基準を満たすためにグリーン購入法に全面的に依拠してきた。
10)「オリンピック・アジェンダ2020」2014年12月、提言4および5。