- プレスリリース・意見書
- 出版物・発表資料
プレスリリース・意見書
【プレスリリース】
木材法施行開始と日本における規制:サラワクの重要性
サラワク州で長年環境保護活動に取り組んできたウォン・メン・チュオ氏が、マレーシア・サラワク州から来日したことに合わせて、減少・劣化する森林と先住民族の人権侵害の解決に向け、世界有数の木材輸入国である日本の取るべき行動について訴える記者会見を行いました。
>プレスリリース本文(PDF版)
輸出許可証の確認印だけで合法な木材と判断し、マレーシア・サラワクの木材を輸入する日本と、真に信頼できる合法性を求め、違法性のリスクの高い木材を市場から排除する EU 、アメリカ。サラワクで長年森林・先住民問題に取り組んでいるウォン・メン・チュオ氏は、来日セミナー及び院内勉強会でサラワクの森林と先住民族の権利をめぐる問題について話し、日本政府の違法伐採対策の強化を訴えている |
20年以上活動を続けるウォン・メン・チュオ氏(左) |
2010 年の成立以来、世界の注目を集めてきた EU 木材法の施行が今年の 3 月に開始された。 EU 木材法は、一足先に施行の始まっていた米国レーシー法と同じく、国内外を問わず違法に伐採された木材を市場から排除するための規制法である。 3 月より欧州連合の加盟 27 か国で一斉に施行が開始されており、欧州へ輸出する日本企業もスタンダードを合わせる必要が出てきている。
英国シンクタンクが事前に行った調査によれば、 EU 法の施行の準備は加盟国間でそれぞれに進められており、課題も浮き彫りになってきている(※1)。今後、各加盟国それぞれの担当省庁間、さらに加盟国間での調整がさらに必要となる。比較的準備がスムーズだった英国においては、立入検査、押収や没収、懲役を含む罰則規定を盛り込んだ実効性のある法律ができており、 EU 法が単なる理想に終わるという予想は間違っていることがわかる。
この EU 法とマレーシアのサラワク州は、切っても切れない関係にある。 EU 木材法はもともと、 2003 年から EU が行っていた FLEGT 行動計画(「森林の施行・ガバナンス・貿易に関する EU 行動計画)に遡る。この FLEGT においては途上国側の社会・環境問題の解決のための支援として、 VPA と呼ばれる二国間協定を特定の原産国と結んでいる。 VPA ではステークホルダー間のコンサルテーションを通し、真に信頼できる合法性の構築と法整備、キャパシティービルディングなどを経て、合法木材をライセンス化し EU 法のもと「合法材」として輸入される。
この VPA のもと、実際のライセンス材はまだ市場には出て来ていないが、すでにアフリカ諸国やインドネシアなど、いくつかの国では準備が進んでいる最中である。それにも関わらずマレーシアでは VPA の交渉が暗礁に乗り上げ、 EU が頭を悩ませていた。 VPA への参加に乗り気でないのがサラワク州である。前述の「真に信頼できる合法性」を問わない国、日本が最大の取引相手であるサラワク州は、 VPA に参加する意味を見出さずにいるというのがその理由である(※2) 。現時点でサラワク州は VPA から離脱することを決め、半島部、サバ州のみで VPA 交渉が進められようとしていることに、隣国のインドネシア等から批判が挙がっている(※3) 。
しかし実際にはサラワク州は、すでに多くの NGO が指摘するように(※4)多種多様な環境・社会上の問題を抱えている。中でも先住民族を含む現地住民が伐採会社や州政府に対して起こしている 100 件を超える訴訟は、プランテーションなどその他の開発行為において先住民族等の慣習的な土地利用権が侵害されていることを訴えるもので、違法伐採問題はその延長上にある。なぜならそうした開発行為によって伐採された木材こそが世界の木材市場を流通しているサラワク産材の多くを占めているからである。施行された EU 法には、合法性を判断するためのリスクアセスメントの際に、「伐採により影響を受ける土地利用や保有に関する第三者の法的権利」を侵害していないかどうかの確認が義務付けられている。そしてそれを証明する文書は、 EU 法の補足ガイダンスによれば「環境影響評価、環境管理計画、環境監査報告書、社会的責任契約、保有権などに関する申立・対立に関する個々の報告書」とされており、明らかにサラワクのようなケースを想定している。
つまり、 EU 法のもとではサラワク材は少なくともリスクが低いとは決して言えない木材であり、合法性を証明するためには単なる伐採許可証に加えて様々な情報が必要となる。対照的に、現在の日本の制度のもと、サラワク材は合法とされており、それは輸出許可証の裏面にサラワク州政府機関による確認印があることで証明されることになっている(※5)。
さらに、 6 月 17 日から英国で行われるアーン湖 G8 サミットにおいて、各国政府が G8 で過去にした約束がどの程度果たせているのかを示す「アカウンタビリティレポート」がロンドン時間の 6 月 7 日、公になった (※6) 。違法伐採対策は各国ができることから取り組むと約束した項目であり、それに従ってアメリカ、 EU は上記のような民間にも適用する法規制を導入している。このレポートにはしかし、日本政府が行ったこととして、「日本は国内合法性証明制度を導入し、これには民間調達が含まれる。」と記載されている。日本においては、民間調達は規制の対象外であり、あくまで自主的な取り組みであることから、このテキストについては海外 NGO が抗議のレターを日本政府に出している。
サラワクで長年、森林・先住民問題に取り組んでいるウォン・メン・チュオ氏は、来日セミナー及び院内勉強会でサラワクの森林と先住民族の権利をめぐる問題について話し、次のように日本政府の違法伐採対策の強化を訴えている。「サラワク州の森林伐採法と規制は、書類上は問題がないように見えます。しかし実際には、大規模な熱帯林の破壊が行われており、それが生物多様性と地球温暖化に悪影響を与え、同時に森林に依存している先住民族コミュニティの基本的人権を侵害することになっています。マレーシア国民そして、市民社会の一員として、私は日本の消費者と政府に対し、今後何世代にもわたる人類すべての利益のために、持続可能な森林環境を保全できるよう、私たちに手を貸していただくことをお願いします」。
(※1)Saunders, J. “EUTR Survey Paper”, Chatham House (January 2013), https://www.illegal-logging.info/uploads/EUTRSurveyPaperJadeSaunders.pdf
(※2) FoE Japan . 「マレーシア- EU 間 FLEGT-VPA 進捗調査報告書」 , 平成 21 年度林野庁補助事業報告書(平成 22 年 3 月)
(※3)FERN. “Forest Watch Special – VPA Update May 2013”, EU Forest Watch (May 2013)
(※4)Global Witness 「さあ、森のない未来へ」 (2012 年 11 月 ) ( 日本語版: https://www.globalwitness.org/sites/default/files/library/Global%20Witness%20-%20HSBC%20Report%20-%20JAPANESE.pdf)
(※5)全国木材組合連合会、違法伐採対策・合法木材普及推進委員会 . 「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のための合法木材ハンドブック(第二版)」(平成 23 年 3 月)
(※6)Department for International Development(DFID), Press Release 7 June 2013, ‘G8 accountability starts with transparency', https://www.gov.uk/government/news/g8-accountability-starts-with-transparency
【本件に関する問合せ】
国際環境 NGO FoE Japan (三柴、岸田)
TEL: 03-6907-7217 / FAX: 03-6907-7219
一般財団法人地球・人間環境フォーラム(坂本、飯沼)
TEL : 03-5825-9735 / FAX : 03-5825-9737