脱原発・エネルギーシフトに向けて
ファクトシート:福島県の子どもたちの甲状腺がん 「悪性または疑い」137人に
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2巡目25人、うち前回「問題なし」23人
8月31日、福島県県民健康調査委員会で、福島県の子どもたちの甲状腺がんの最新の状況が明らかになりました。
それによれば、甲状腺がんの悪性または疑いと診断された子どもたちの数は、合計137人。2014年から始まった2巡目検査で甲状腺がんまたは疑いとされた子どもたちは25人。この中には、1巡目の検査で、問題なしとされた子どもたち23人が含まれています。
「疑い」とは、ここでは、細胞診において「甲状腺がん」と診断された人のことです。「確定」とは手術後に摘出した組織などを調べて診断した結果です。
国立がんセンターの統計データでは、甲状腺がんは10代後半で10万人に約0.9人とされています。現在、福島の子どもたちの甲状腺がんの率がそれをはるかに上回ることについては、「スクリーニング効果」、すなわち一斉に甲状腺エコー検査を行うことにより、通常よりも前倒しで発見されたことによるものと説明されてきました。しかし、すべてを「スクリーニング効果」とする根拠が不十分である上、2巡目の検査で前回問題なしとされた23人については、説明できません。
山下俊一氏プレゼン資料より 2013 年 3 月 11 日 米国メリーランド州ベセスダ
注) 2013 年 3 月当時においては、「甲状腺がんまたは疑い」は 10 万人中 16 人程度だった。
多いリンパ節転移や甲状腺外浸潤…破綻した「過剰診断」説
政府は、2巡目で甲状腺がんが見出されて以降も、「事故との因果関係は考えにくい」とし、一部の専門家たちが唱えている「過剰診断論」を盾にして新たな対策を取ろうとしません。
「過剰診断」とは、ここでは「生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんの診断」をさしています。すなわち、大したがんでもないのに、「甲状腺がん」と診断し、手術を行うことをさしています。
しかし、8月31日、手術を受けた子どもたちのうち96人の症例について、福島県立医大(当時)の鈴木眞一教授によるペーパーが公開され、リンパ節転移が72例にのぼること、リンパ節転移、甲状腺外浸潤、遠隔転移などのいずれかに該当する症例が92%にのぼることが明らかになりました。県民健康調査委員会の清水一雄委員も「医大の手術は適切に選択されている」と述べています。すでにこの「過剰診断論」は破綻しているのです。
術式は、甲状腺全摘 6 例( 6 %)、片葉切除 90 例( 94 %) 術後病理診断では、軽度甲状腺外浸潤のあった14例を除いた腫瘍径10㎜以下は28例(29%)であった。リンパ節転移、甲状腺外浸潤、遠隔転移のないもの(pT1a pN0 M0)は8例(8%)であった。 資料はこちらから>https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/129308.pdf |
鈴木眞一教授は、ずっと甲状腺がん検査の責任者でしたが、以前より、「過剰診断」という批判に対して、手術を受けた患者は「臨床的に明らかに声がかすれる人、リンパ節転移などがほとんど」として、「放置できるものではない」としていました。
1巡目と2巡目の比較
福島県立医大は、2011年10月から2014年4月まで行われた1巡目の検査を「先行検査」とし、事故前の状況の把握と位置づけています。また、2014年4月からはじまった2巡目検査を「本格検査」として事故後の状況の把握としています。この両者を比較してみましょう。
1巡目調査 | 2巡目調査 |
・対象:平成 23 年 3 月 11 日時点で、概ね 0 歳から 18 歳までの福島県民。 367,685 人。 ・受診者 300,476 人( 81.7% ) ・悪性ないし悪性疑い 113 人 ・男性:女性 38 人: 75 人 ・平均年齢 17.3±2.7 歳( 8-22 歳)、震災当時 14.8±2.6 歳( 6-18 歳) ・平均腫瘍径 14.2±7.8 ㎜( 5.1-45.0 ㎜)
細胞診等で悪性ないし悪性疑いであった 113 人の年齢、性分布(検査時の年齢) |
・対象:先行検査における対象者に加え、事故後、 2012 年 4 月 1 日までに生まれた福島県民にまで拡大。 378,778 人、 ・受診者 169,455 人 ( 44.7 %) 平成 26 年度実施対象市町村において ・悪性ないし悪性疑い 25 人 ・男性:女性 11 人: 14 人 ・平均年齢 17.0±3.2 歳( 10-22 歳)、震災当時 13.2±3.2 歳( 6-18 歳) ・平均腫瘍径 9.4±3.4 ㎜( 5.3-17.4 ㎜) |
< 第 20 回福島県県民健康調査委員会( 2015 年 8 月 31 日)資料をもとに作成>
受診率の低下~リスク・コミュニケーションという名の不安対策の弊害
心配されるのは受診率の低下です。1巡目検査の受診率は81.7%であったのに比して、2巡目の検査の受診率は激減し、44.7%です。
ただでさえ、被ばくによる健康リスクについて考えたくない心理がある上に、政府の「被ばくは大したことはない」「不安に思うことのほうが健康に悪い」といった放射線安全キャンペーンが効を奏していると考えられます。
政府は、リスク・コミュニケーションといった不安対策に巨額の予算を投じるのではなく、個々の症例についての分析と、県外への健診の拡大、甲状腺がんのみならず、甲状腺の機能低下やその他の疾病も見据えた総合的な健診のあり方を真剣に検討すべきでしょう。
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