脱原発・エネルギーシフトに向けて
声明:「子ども・被災者支援法」基本方針の見直しについて
~法を無視した「基本方針」は許されない~
国際環境NGO FoE Japan
本日、復興庁は、「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針の改定(案)」を発表しました。本案は、2015年8月8日までパブリック・コメントにかけられています。
https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=295150710&Mode=0
今回の改定案は、避難区域以外の地域でも線量が十分低減しているという状況ではないこと、避難の継続を希望する人が多くいることといった現状を踏まえていません。なによりも、「放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていない」「避難・居住・帰還という被災者の選択を国が支援する」「健康被害の未然防止」「一定の線量以上の地域を支援対象地域とする」「被災者の意見を基本方針に反映させる」といった「子ども・被災者支援法」の基本的な理念や規定を無視したものとなっています。
FoE Japanは、法の精神と被災者の意見を十分踏まえた基本方針案を策定すること、全国各地で被災当事者の意見をきき、基本方針に反映させるための「公聴会」の開催を求めます。
1.改定案では、線量が低減したとして、「避難指示区域以外から避難する状況にはない」としている。しかし、実際には、避難指示区域にも汚染は広がり、避難の継続を希望する人は多くいる
(出典:2015 年7 月10 日付復興庁「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針の改定(案)」
参考データのp.2)
同案に添付されている「参考データ」の「外部被ばく線量推計」をみる限り、避難区域以外の地域でも年間1mSv以上の地域が多く広がり、5mSv以上に達する場所も少なからずあり。線量が十分低減しているという状況ではない(上図)。
また、個人被ばく線量の測定値を持ち出し、「支援対象地域内での実施12市町村の直近の各平均は、既に年間1ミリシーベルト以下」としている。個人被ばく線量は、二本松市で最大5.22mSv/年、須賀川市で最大1.86mSv/年となっている。
・ 個人被ばく線量計は、避難や帰還、除染といった「場の線量」の管理に使うべきではない。「場の線量」の管理には、空間線量率や土壌汚染などの指標を使うべきである 。
・ 個人の生活パターンは差が大きいため、「平均値」を政策のめやすにすべきではなく、「最大値」を目安とすべきである(注)。
・ 個人線量計は、全方向からの照射を考慮すると、ガラスバッチは後ろからの照射が体が遮蔽してしまうため、低くめの数値を表す。
「南相馬避難勧奨地域の会」および元京都大学大学院工学研究科の河野益近氏が磐越自動車道のSAやPAでの土壌汚染状況を調査したところ、広い範囲で、40,000Bq/m2を超えており、放射線管理区域で10時間以上の滞在や居住を禁じられている地域の値を示していることが明らかになった(下図)。このことからも、避難区域以外の場所でも、避難する理由があることを示している。
(出典:「南相馬避難勧奨地域の会」および元京都大学大学院工学研究科の河野益近氏による調査をもとに、「南相馬避難勧奨地域の会」小澤洋一氏作成)
2.「支援対象地域」を福島県全域および年1mSv以上の地域に拡大すべき
「子ども・被災者支援法」に基づく「一定の線量」を決めるべき
改定案では「(空間線量等からは」支援対象地域は縮小又は撤廃することが適当」「当面、放射線量の低減にかかわらず、支援対象地域の縮小又は撤廃はしないこととする」としているが、まったく適当ではない。
そもそも、子ども・被災者支援法では、支援対象地域については、「一定の線量以上」の地域としており、多くの被災当事者および支援者が、「福島県および年間1mSv以上の地域」を支援対象地域とすることを主張してきた。
当初の基本方針の策定時に、復興庁は、「一定の線量」を定めることをせず、支援対象地域を「福島県の中通り・浜通り」と非常に狭く設定した。今回の見直しでは、国際勧告や国内の法令に基づく公衆の被ばく限度が年1mSvであることに鑑み、子ども・被災者支援法の理念にのっとって、「一定の線量」を年1mSvとし、福島県全域および汚染状況重点調査地域を支援対象地域とすべきである。
3.法第13条第2項第3項を実現し、福島県外でも健診や医療費の減免を行うべき
「子ども・被災者支援法」第13条第2項、第3項では以下のように規定しているが、現在これは実現されていない。
国は、被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について、必要な施策を講ずるものとする。この場合において、少なくとも、子どもである間に一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住したことがある者(胎児である間にその母が当該地域に居住していた者を含む。)及びこれに準ずる者に係る健康診断については、それらの者の生涯にわたって実施されることとなるよう必要な措置が講ぜられるものとする。(第13条第2項
国は、被災者たる子ども及び妊婦が医療(東京電力原子力事故に係る放射線による被ばくに起因しない負傷又は疾病に係る医療を除いたものをいう。)を受けたときに負担すべき費用についてその負担を減免するために必要な施策その他被災者への医療の提供に係る必要な施策を講ずるものとする。(第13条第3項)
福島県による調査で、甲状腺がん悪性と診断された子どもは、悪性疑いも含め126人となっている(うち確定が103人)。その多くが、リンパ節転移や浸潤などを伴っている。
政府は、「事故との因果関係は考えづらい」とし、その理由として、今回大規模な検査を行ったことにより、通常であれば、後になって発見された甲状腺がんが、前倒しで発見されたと説明している。しかし、昨年4月にはじまった2回目の検査で、1回目の検査のときに問題なしとされた子どもたちのうち15人が甲状腺がんないし疑いと診断されたことにより、この政府の説明は破綻している。甲状腺がん以外の疾病については、調査が行われておらず、全体像が把握されていない。
福島県外においても健診を拡大するとともに、健診の内容を充実させるべきである。
改定案では、環境省の「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」(以下「専門家会議」という。)の中間とりまとめを引用し、健康に関する対策については何も記述していない。
しかし、環境省の専門家会議の議論の進め方、土台にした文献、中間とりまとめの内容に関しては、以下のように多くの批判が出されている。
・ 現在、福島県県民健康調査において明らかになってきている事象、とりわけ甲状腺がんについての疫学的な分析や、個々の症例についての分析・考察が行われていない
・ 放射線による健康影響について、甲状腺がん以外のがんや、非がん疾患について検討していない
・ 県境で線引きをして、福島県内外で被ばく量を比較することは非科学的である。
・ 甲状腺の初期被ばく線量評価は、プルームや短半減期核種のデータが限られていることを前提とすべきである。「中間取りまとめ」では、甲状腺スクリーニング1080人のデータが非常に不確かなのにもかかわらずそれを採用している。
・ 国際機関の評価として、WHOとUNSCEARのみに依拠しているが、内容に関する検証を行っていないばかりか、原典に書いていない引用、恣意的な引用がある。また、WHOとUNSCEARにおける警告的な部分を十分踏まえていない
・ 低線量被ばくにおける発がんリスクの有意性を示す多くの論文を無視している
・ 会議に招聘した外部専門家の意見を検討していない
・ 被害当事者の聞き取りをしておらず、そのニーズを踏まえていない
※詳細は放射線被ばくと健康管理のあり方に関する市民・専門家委員会 2015年1月13日文書参照 https://www.foejapan.org/energy/news/150113.pdf
4.国の責任において、避難者への住宅支援を継続すべきである
改定案では、福島県が、避難指示区域以外からの避難者に対する応急仮設住宅の供与期間を「平成29年3月末まで」としていることを記述し、「空間放射線量が大幅に低減していること等とも整合的」としている。一方で、国としての施策については触れていない。
前述の通り、避難指示区域外にも年間1mSv以上の汚染が広がり、放射線管理区域レベルの汚染を示している場所も少なくないこと、多くの人たちが避難の継続を希望しており、避難先での生活再建のために、住宅支援は必要であることを考えれば、国の責任において、避難指示区域外からの避難者への住宅支援の継続を行うべきである。
注)2014 年 4 月 19 日開催された内閣府原子力被災者生活支援チームによる田村市と川内村、飯館村の3地域の個人被曝線量に関する最終報告書に関する記者会見にて、放医研専門家は下記のように発言している。( 26 分 23 秒あたりから)。
https://www.youtube.com/watch?v=X0n7ZifYVVc
「放射線の管理という私の立場からの見解だが、除染など、場所の管理をするという場合には、たとえば、 この場所が放射線が高いので入らないようにしようね、とか、そういう場所の管理をするときには、空間線量をベースにしてやらないと。あるときは人の線量、あるときは、とやっていくと管理の境界ができなくなってくる 。」
連絡先:国際環境NGO FoE Japan
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