脱原発・エネルギーシフトに向けて
長期エネルギー需給見通しに対する声明
原発事故後の実態からかけ離れた議論-民意は原発ゼロ
国際環境NGO FoE Japan
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資源エネルギー調査会・長期エネルギー需給見通し小委員会で4月28日、2030年に向けて原発を20~22%、再生可能エネルギーを22~24%とする「骨子案」を提示しました。
この後、パブリックコメントにかけられ、5月中にも決定の見込みとされており、実質的に決定の一歩手前とも言えます。「震災前よりも原発比率を低減する」という政府の説明は詭弁であり、現在稼動している原発はゼロであることや、原発ゼロを望む多くの国民の声から乖離したものです。原発事故の終わらない被害を無視し、老朽化や安全対策の不備などの現実も踏まえていません。
1.「原発ゼロ」を導いた2012年の「国民的議論」を無視
2012年夏に行われた各地での意見聴取会や討論型世論調査など、大規模な国民的議論の結果、2030年代に原発ゼロを目指すという結論が導かれました。政権が代わったからといって、これらが無視されてよいものではありません。
最近の世論調査でも原発反対が圧倒的多数を占めている状況です。
また、今回の長期エネルギー需給見通し議論においても、審議会委員は原発維持・推進派が多数をしめるというバランスを欠いたもので、民意を反映した議論ではありませんでした。
2.「2030年に原発20~22%」は現実から乖離
2015年現在、1年以上にわたり原発は1基も稼働していない状態です。今後仮に、現存する48基から廃炉が決まった5基を引いた43基すべてが再稼働したとしても、40年運転制限のルールを守れば、2030年度に原発で供給できるのは震災前(28.6%)の半分以下です。さらに、東日本大震災や新潟地震でダメージを受けた原発や、直下に活断層があることが判明した原発があります。20~22%という案は、このように再稼働が事実上不可能な原発を含み、さらに合意のない60年運転や新増設・リプレースをも見込むものであり、あまりにも現実から乖離しています。
そもそも、福島原発事故の教訓を踏まえた見直しでありながら、事故前の2010年をベースとしていること自体が、合理性を欠いています。原発事故の終わらない被害をもまったく無視しています。
3.原発をベースロードとすることは持続可能性に逆行
上記のように、原発の維持・推進が現実的に不可能となっている中で、「ベースロード電源」と位置づけ続けることは、持続可能な社会の構築とはまったく逆行しています。この非現実的な位置づけにより、本来一刻も早く進めていくべき省エネルギーや再生可能エネルギーの推進にブレーキをかけています。現に2014年には、非現実的な原発利用想定に基づいて再生可能エネルギーの接続制限すら議論されています。
欧州やカリフォルニア州では、広域運用機関によって調整を行うことで再生可能エネルギーを中心としていく方針が立てられており、現に着実に割合を増やしています。日本でも、電力システム改革が決定され、広域連携も含む柔軟な需給体制にむけての変革を始めようとしている現在、原発を「ベースロード」とする前提は撤回すべきです。
4.省エネルギー想定は少なくとも30%以上(※1)とすべき
エネルギー政策・電源構成の検討にあたって、まずは省エネルギーを最優先すべきです。現状のエネルギー需要量想定(レファレンスケース)が2013年よりも高く想定されていることに加え、省エネルギーの想定(目標)が少なすぎます。震災後の電力消費量は、日本全体で約8%も減少し、省エネ・節電の定着も明らかになっているなかで、原案のレファレンスケース比で17%節電(電力)、13%省エネ(エネルギー全体)は不十分です。今後は高効率の空調・照明機器のさらなる普及や建築物断熱の普及、工場などの排熱利用などで、大きく削減が進む見込みです。加えて、無駄な利用の見直しについても、特に中小企業や家庭を中心に、政策浸透の必要性がまだ残り、具体的な情報普及を含め大きな余地があります。
5.再生可能エネルギーの割合は少なくとも30%以上(※2)とすべき
現行案では、コストの面でも拡大可能性の面でも、再生可能エネルギーについて過小評価しています。持続不可能な火力発電の割合を減らしていくためにも、国内・地域でお金がまわる再生可能エネルギーこそ、大幅に増強しなければなりません。日本でも、再生可能エネルギー固定価格買取制度の実施により、太陽光を中心として大幅に増えつつあります。風力や地熱なども含め、支援策の強化や障害の見直しにより、大幅な拡大を目指すべきです。
6.石炭火力発電増強は温室効果ガス削減責任に反する
ミドルロード電源として、石炭火力発電の増強が意図され、国内でも石炭火力発電所の新増設が相次いでいます。しかし、石炭は温室効果ガス排出係数が非常に高く、最新型でも天然ガス発電の2倍です。これから電力需要を減少させていかなければならないなかで、これからの新増設は不必要であるばかりか、温室効果ガス排出削減に逆行します。温室効果ガス削減に向けて世界が努力し、先進国として特に責任のある日本として、石炭火力発電の増強はただちに撤回すべきです。以上のように、長期エネルギー需給見通しに関する経産省事務局案は、現実性と妥当性、社会受容性を大きく欠いたものです。FoE Japanは、強く異議を唱えるとともに、原発をゼロとする社会の実現を目指した、省エネルギー・再生可能エネルギーによる持続可能なエネルギー政策を求めます。
また、このエネルギー需給見通しをもとに気候変動問題の国際交渉のため国連に提出する2030年の日本の温室効果ガス排出削減量が検討されます。エネルギー起源CO2排出量は2013年比で21.9%減になりますが、科学的知見や日本の国際的な責任に見合うものではありません(※3)。 国際的な貢献や野心的な再生可能エネルギー・省エネ対策の強化が図られるべきでしょう。
以上のように、長期エネルギー需給見通しに関する経産省事務局案は、現実性と妥当性、社会受容性を大きく欠いたものです。FoE Japanは、強く異議を唱えるとともに、原発をゼロとする社会の実現を目指した、省エネルギー・再生可能エネルギーによる持続可能なエネルギー政策を求めます。
図:原発の「40年運転制限」 資源エネルギー調査会・原子力小委員会事務局提示資料(2014年)より |
(※1)自然エネルギー財団(2015)「日本のエネルギー転換戦略の提案-豊かで安全な日本へ-」では2030 年度までに 2010 年度比で、産業部門約 3 割、業務部門、家庭部門で 4割近い削減が可能と指摘。
(※2)同提案では、30%の省エネルギーとあわせれば、自然エネルギー45%も実現可能と試算。
(※3)https://www.can-japan.org/advocacy/1795
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