脱原発・エネルギーシフトに向けて
【声明】 3・11から3年:終わらない原発事故
東日本大震災から3年たちました。亡くなられた多くの方々に謹んで哀悼の意を表明させていただきます。また、いまもさまざまな困難に直面されている被災者のみなさまに心からお見舞い申し上げます。
FoE Japanを含む多くの市民団体が、被災者の支援や脱原発に取り組んできました。しかし、原発事故は終わらず、被災者は二重三重に分断され、健康に生きる権利さえ脅かされている状況が続いています。汚染水漏れはとどまるところを知らず、現場での収束作業に当たっている作業員の疲労は極限に達しています。
それなのに、政府はあたかも原発事故がなかったかのように原発再稼働・原発輸出推進に向けて舵をきっています。5つのポイントについて、私たちの現状認識および提言をまとめました。
1.ふるさとを失った人々の苦難~住民不在の帰還促進と賠償打ち切りをやめるべき
福島原発事故により、約16万人以上の人々がふるさとを失い、避難を強いられました。
さまざまな事情から、避難したくても避難できずにとどまっている方々もいます。家族がばらばらになって暮らしている方もいます。
5万人以上もの人たちが、賠償金もなく、自らの判断での避難を強いられました。避難先で、経済的な困難に直面されている方々も少なくありません。そればかりか、「心配しすぎ」「故郷を捨てた」というような声にさらされ、精神的にも疎外感を味わっている方もいます。
原発から20~30km圏の「旧緊急時避難準備区域」は2011年9月30日に解除になり、賠償は2012年8月に打ち切られました。しかし、2013年9月の段階で、避難者の75%、約21,000人(注1)の方々が帰還できずにおり、各地の仮設住宅などで、賠償金なしでの困窮した生活を強いられています。
川内村からの避難者で郡山の仮設住宅に暮らすある避難者は、「すでに賠償は打ち切られました。多くの人は帰還したいが帰還できない状況にあります。若い人たちは放射能の心配から帰還できません。地域の崩壊、教育の崩壊、医療の崩壊が進み、高齢者は村に帰っても単独で通院できないため、帰還できません」と語っています。田村市都路地区や川内村などの「避難指示解除準備区域」とされた地域の避難指示解除が、今後進むと考えられます。しかし解除後1年たてば、賠償は打ち切られてしまうのです。
今年4月の解除が決まった田村市都路地区の20km圏内。しかし、未だに多くの人たちが、さまざまな理由で「帰還できない」状況にあります。
(写真上)田村市都路地区 20 ~ 30km 圏内。すでに賠償が打ち切られている
ある住民によれば、政府主催の住民説明会で、住民がこうした状況を指摘し「全員が帰還できる環境を整えてから解除すべきではないか」と訴えたのですが、なし崩し的に解除が決められてしまったとのことです。
現在の帰還の線量基準は年20ミリシーベルト(毎時3.8μSv)。避難の基準も年20ミリシーベルト。国際的に勧告されている公衆の被ばく限度年1ミリシーベルトや、放射線管理区域(年換算5.2ミリシーベルト)と比してもはるかに高い基準であり、実際には意味をなさない基準である上、住民の意識からもかけはなれたものとなっています。
公衆の被ばく限度とされている年1mSvを下回るまで、帰還を促進するべきではなく、住民への賠償や行政支援を継続すべきです。 |
2.「子ども・被災者支援法」の理念の実現を
多くの被災者・市民の後押しで、「原発事故子ども・被災者支援法」が、2012年6月21日、全会派・全国会議員の賛成のもと、国会で採択されました。同法は福島原発事故被災者への支援策を包括的に定めた議員立法の法律で、「放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分解明されていない」と明記し、「居住」「避難」「帰還」の選択を被災者が自らの意思で行うことができるよう、移動、住宅の確保、就業、保養などを国が支援することを定めています。また、子どもの健康影響の未然防止、健診や医療費減免などが盛り込まれています。
しかし「子ども・被災者支援法」は、制定後、1年以上もの間実施されませんでした。
1年4か月近くもかけて策定された「基本方針」は、上記のような法の理念からはかけ離れたものでした。たとえば、「支援対象地域」は福島県内、浜通り・中通りの33市町村と限定されたものにとどまりました。自然体験活動が福島県外でも認められるようになるなど、前進した部分もありますが、多くの施策が既存の施策の寄せ集めになっています。
福島県県民健康管理調査に関しては、多くの専門家や市民は、甲状腺癌や生活習慣病のみをターゲットとした現在の福島県県民健康管理調査の見直しを求めてきましたが、これも無視されてしまいました。千葉県の自治体や住民が求めていた、福島県外における健診の実施などの健康管理については、「個人線量計の配布による外部被ばく量の測定」「有識者会合を設置して検討」とするにとどまりました。
(写真上)被災者・支援者による請願行動:「 1 ミリシーベルト以上の地域をすべて支援対象地域に」「幅広い健康支援を」
被災者や支援者たちは、各地で被災地の声をきくプロセスを踏むべきだと声をあげ、また内容面では、①福島県全域および少なくとも追加被ばく線量年1ミリシーベルト以上を含む幅広い地域を支援対象にすべき、②災害救助法に基づく住宅支援を継続すべき、③福島県外においても被ばくに対応した健診を行うべきなどをパブリック・コメントや要請書といった形で提出しましたが、これらの声は反映されていません。
「子ども・被災者支援法」の理念に基づき、災害救助法に基づく住宅支援の継続、避難先での就労の支援、幅広い健診の実施を行うべき。 |
3.汚染水・収束作業~現場は疲弊の極致
福島第一原発では、汚染水漏れが続いています。高濃度の汚染水がタンクから漏れ出したことが明らかになりました。
原子力規制委員会は、東電の管理体制を問い、新聞各紙でも、東電の責任を問うています。
私たちはこの「事件」は、現場の疲弊を如実にあらわしたできごととしてとらえています。
安倍首相は汚染水問題に関して、「国が前面に立って対策を実施する」としています。しかし、実際には、福島第一原発のサイトには、規制庁職員が12名ほどいるだけです。
また、原子力規制委員会での審議では、汚染水問題よりも再稼働の適合性審査を優先して審議している状況です(注2) 。
国として汚染水の対策を所管しているのは資源エネルギー庁と原子力規制委員会です。資源エネルギー庁の「汚染水処理対策委員会」は一般には公開されていません。第三者が検証できない不透明なやり方で、多額の税金が、時間がかかり実施可能性も検証されていない凍土壁方式に投入されています。
収束作業や除染作業にあたる作業員たちは、多次下請けの状況であり、身分保障もされておらず、健康管理や被ばく管理も十分とは言い難い状況にあります。
国が直轄で、原発事故の収束作業を行うべき。収束作業や除染作業に当たっている作業員の身分保障と被ばく低減を行うべき。 |
4.民意や福島の現状を反映していない「エネルギー基本計画案」
2月25日、政府は、原子力関係閣僚会議を開き、原子力発電を「重要なベースロード電源」と位置づけるとともに、安全と認められた原発の再稼働を進めることなどを盛り込んだ新たな「エネルギー基本計画」の政府案を発表しました。
この政府案に先立ち、政府は1カ月のパブリック・コメントを実施し、一般から1万9,000件の意見が寄せられました。しかし、市民たちが要請した、「各地での公聴会」はまったく実施されませんでした。多くのパブコメが集中した「原子力は即時ゼロにすべきである」「脱原発をめざすべき」「事故の収束を優先すべき」等の意見(注3)は、実質的に無視されています。
多くの批判の声があがった原発の位置づけについては、「基盤となる重要なベース電源」は「基盤となる」が削除され、「重要なベースロード電源」と書かれるにとどまりました。「再処理やプルサーマル等を推進する」としており、破たんが明らかな核燃料サイクルについても従来から基本的姿勢は変更していません。
再稼働については、「原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める」としています。
しかし、原子力規制委員会が何度も繰り返しているように、「規制基準」は安全基準ではありません(注4)。また、多くの専門家が指摘しているように、原子力規制委員会の規制基準は「世界で最も厳しい」とは程遠いものです(注5)。さらに、原子力規制委員会は、原子力防災計画を審査の対象外としており、過酷事故時の住民の安全は確保されません。
2012年の夏には、大々的にエネルギー問題に関する「国民的議論」が行われました。9 万件近く寄せられたパブリック・コメントのうち 87%が原発ゼロシナリオを支持、各地の意見聴取会でも圧倒的多数が原発ゼロシナリオを支持しました。この結果を受けて「革新的エネルギー・環境戦略」に「原発ゼロ」をめざす方針が示されました。今回のエネルギー基本計画に関する検討は、こうしたプロセスを経て導かれた結果をすべて無視しています。
福島原発事故の教訓と徹底的な社会的議論を踏まえ、エネルギー基本計画案をつくりなおすべき。また、再稼働に注力する前に、原発事故の収束と被害者支援に全力をつくすべき。 |
5.「原発輸出」どころではない日本の現状
原発輸出が、原発関連企業の利益のために、相手国の住民の安全を犠牲にして、国税を使って推進されています。
安倍政権は発足当初から、精力的に原発輸出のためのトップセールスを行っています。
そればかりか、国税を使って、日本原電に発注し、トルコやベトナムの原発建設計画のための事前調査を行っています。ベトナムでは、国税25億円をかけた実施可能性調査が実施されましたが、その調査報告書が、ほとんど開示されていません。第三者が検証できない状況になっているのです。
さらに、原発輸出が本格化した場合、その資金は、国際協力銀行などが、日本の公的資金を使って融資することになります。
現在、原発輸出が計画されているトルコは世界有数の地震頻発地帯で、1999年のトルコ北西部地震では、1万7000人以上の死者が生じる大惨事となりました。重要な変電所が数日間にわたり停電する事態も発生しています(注6)。このような地震国において、原発を導入することは、たいへん大きなリスクを相手国の住民に負わせることになります。
(写真上)ベトナム原発建設予定地周辺。魚を干す女性たち。
さらに、原発輸出は、相手国のエネルギー政策に大きな影響を与えます。原発は、大規模集中的なエネルギー供給を行うものであり、大量エネルギー生産・大量エネルギー消費の社会を生み出す原動力となります。
加えて、原発事故被害者の置かれた状況、汚染水問題をみれば、原発輸出どころではないのが日本の現状です。現在の国の体制は、原発輸出の安全審査ができるような状況ではありません。
従来から、原発関連機器の審査は、企業の提出した書類を、資源エネルギー庁などが机上で審査を行うものでした。安全審査に関しては、原子力安全保安院が、相手国の安全規制体制などについて確認を行うだけでした。しかし、原子力安全保安院が廃止され、原子力規制委員会が発足してから、その確認ですら宙に浮いている状況です。
原発輸出の促進をやめるべき |
注1) 内閣府原子力被災者生活支援チーム「避難指示区域の見直しについて」(平成25年10月)
注2) 原子力規制委員会における汚染水ワーキングは、昨年10月24日に開催され、11月12日は延期になり、その後1月24日に開催されるまで3か月間開催されなかった。この間、適合性審査会合は35回、開催されている。
注3) 資源エネルギー庁 「新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた パブリックコメントの結果について」(p.29-37)
https://www.enecho.meti.go.jp/topics/kihonkeikaku/140225_2.pdf
注4)日経新聞(2013年4月3日付)「原発新基準の呼称「規制基準」に 規制委が変更」
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS03024_T00C13A4EE8000/
注5) 原子力市民委員会 2013年6月19日付声明「緊急提言 原発再稼働を3年間凍結し、原子力災害を二度と起こさない体系的政策を構築せよ」
https://www.ccnejapan.com/2013-06-19_CCNE_01.pdf
注6) 経済産業省・平成15年度地球環境・プラント活性化事業等調査「トルコ国電力流通設備の耐震補強及び設備更新による耐震リハビリ事業に係るF/S調査」
https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/.../y2003_05.pdf
We are Friends of the Earth ! |