脱原発・エネルギーシフトに向けて
Q&A なにが問題?原発事故子ども・被災者支援法 復興庁の基本方針
8月30日、復興庁は、「原発事故子ども・被災者生活支援法」実施のための基本方針について、福島県内の33市町村を「支援対象地域」に指定し、個々の施策ごとに「準支援地域」とするという案を発表、9月13日までパブリック・コメント(一般からの意見聴取)にかけています。
Q.「子ども・被災者支援法」ってなに? |
A:「居住」「避難」「帰還」の選択を被災者自らできるように国が支援
「原発事故子ども・被災者支援法」は昨年6月、国会で成立しました。「放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分解明されていない」ことに鑑みて、「居住」「避難」「帰還」の選択を被災者が自らの意思でできるよう、国が支援を行うことになっています。具体的には、医療の支援、移動の支援、移動先における住宅の確保、学習等の支援、就業の支援、保養などです。
特に子ども(胎児含む)の健康影響の未然防止、健康診断および医療費減免などが盛り込まれています。しかし制定以来1年2か月も実施に移されていませんでした。
法律の条文はこちら
>https://law.e-gov.go.jp/htmldata/H24/H24HO048.html
Q.「基本方針」ってなに? |
A:支援法実施に向け、被災者の声を反映して、支援の方向性、支援対象地域や支援の具体的内容を規定するもの
「子ども・被災者支援法」は、いわゆる「プログラム法」であり、理念や枠組みのみを規定したものです。政府は、支援対象地域の範囲や被災者生活支援計画などを含む「基本方針」を定め、その過程で、被災者の声を反映していくことになっています(第五条)。
「支援対象地域」は、それまでの政府指示の避難区域より広い範囲を指定し(第八条第一項参照)、そこで生活する被災者、そこから避難した被災者の双方に対する支援を規定しています。
市民団体や弁護士グループ、心ある専門家は、少なくとも追加線量年1mSv以上の場所を支援対象地域に含めるべきだと要請してきました。
Q.なぜ、「少なくとも1mSv」なの? |
A:国際的な勧告で示され、日本で採用されている基準値
国際的な勧告では、一般の人の被ばく限度は年間1mSvとしいます。日本国内で、原子炉設置運転規則に基づく告示等、この勧告を踏まえて1mSv基準が採用されています。
低線量被ばくの健康影響については、閾値なしの線形モデルが国際的に広く採用されています。これは、放射線被ばくと、その健康リスクは正の比例関係にあり、一定値を下回れば影響はないという閾値は存在しないというモデルであり、たとえ低線量被ばくの影響が不明でも、この仮定に基づいた政策とすべきというものです。年1mSvは、原子力利用者・原子力を推進してきた政府と社会との約束事とみなすことができるのです。
福島第一原発事故により、福島県をはじめ、多くの地域が追加被ばく線量1mSvを上回っている状況にありますが、この社会的な約束が反故にされている状況です。この地域に居住せざるをえない住民、同地域から避難せざるをえなかった住民、双方に対して国が支援を行っていくべきでしょう。
Q.復興庁が「基本方針案」を発表したね |
A:発表された基本方針案には多くの問題があります
①「支援対象地域」は狭すぎる上、これに対応した具体的施策はほとんどありませんく(※1)。「準支援対象地域」は既存の政策の適用地域を呼び換えただけです
。
※1
支援対象地域向けの施策は、(1)子ども元気復活交付金(原発事故により人口が流出している地域 において、全天候型運動施設等の整備、プレイリーダー養成などソフト事業実施を支援)、(2)公営住宅の入居の円滑化、(3)高速道路の無料化(本年3月に国土交通省発表の施策と同じ)
②施策のほとんどが、今年3月に復興庁が公表した被災者支援パッケージと同様、既存の施策の寄せ集めになっています(※2)。「帰還」を促す施策が目につく一方、避難者向けの具体的な施策が欠落しています。さらに健康分野では、放射線に関する「安心キャンペーン」ともとれる施策が並び、市民が切実に求めていた、幅広い疾病の可能性に対応した健診の拡充は含まれていません。
※2
全120のうち87施策が、3月公表の被災者支援パッケージと全く同じ。これに入っていなかった施策も、少なくとも7施策が以前からある施策。残り26施策も大半は除染と健康不安の解消に関わるもので、同法で最も重要な「避難の権利」を保障する避難者支援策は全くありません。
>OurPlanetTV「支援法の基本方針~線量基準なく既存政策寄せ集め」
③「放射性物質が広く拡散していること、当該放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないこと」を踏まえ、被災者一人ひとりが、居住・避難・帰還のいずれを選択した場合も、自らの意思で選択できるよう保障する支援法の目的や理念は無視されています。
もっとも大きな問題は、被災者の直面する深刻な問題や切実なニーズが反映されていないことです。
Q.復興庁は、被災者の声をきいたの? |
A:被災者の声は実質的にはまったく反映されていません
基本方針案には、切実な状況に置かれている被災者や、支援を継続している民間団体や市民の声が一切反映されていません。たった2週間のパブリック・コメント期間はあまりに短かすぎ、形式的です。
復興庁は、「市民団体主催の集会に出席。各団体からの要請書を受け取った。それを反映させたのがこの基本方針案。特にニーズが高かった避難者への住宅支援、県外での健康管理支援を反映させた」と言っています。しかし、復興庁はたしかに市民団体主催の集会にきていましたが、そのときに出た被災者の意見にはきちんと答えず、基本方針案の内容にも反映されていません。
Q.基本方針に盛り込まれた「住宅支援」の内容は? |
A:既存の公営住宅法を避難者向けに一部緩和しましたが、限定的です
基本方針には、避難者への「住宅支援」として、①災害救助法に基づく住宅支援の延長(2015年3月まで)、②「公営住宅」への入居の円滑化――が盛り込まれています。
①については重要な点ですが、すでに決まっていた話しである上、細切れの延長ではなく、避難者が将来が見通せるような長期の延長が必要です。
②については、公営住宅の数に限りがあるうえ、入居の円滑化といっても、既存の公営住宅法の二つの要件のうち、「住宅確保が困難な人」を避難者向けに緩めるというだけの限定的なものです。
Q.「県外での健康支援」はどういうもの? |
A:「有識者会議」を開催する、としています。
Q.私たちにできることは? |
A:こんな基本方針ではダメ!と声をあげよう
このままでは、「子ども・被災者支援法」は骨抜きになってしまいます。これはおかしい!こんな基本方針ではダメ!の声を、市民の側から上げていきましょう。
●パブコメを出そう! (9/13まで) <例文> |
【関連情報】
>「子ども・被災者支援法」実体のない基本方針案に抗議―27団体が共同声明
>【緊急署名】子ども・被災者支援法の基本方針案の見直しを!
>9/8 東京緊急集会「原発事故子ども・被災者支援法」を守ろう-被害者の声を反映して実行を!
>9/9 京都集会 「原発事故子ども・被災者生活支援法 基本方針の撤回を求める緊急集会
被災者支援の基本方針案を批判(8/30・NHK報道)
>https://www3.nhk.or.jp/news/html/20130830/k10014162771000.html
9/11 福島にて復興庁による説明会
>https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat8/sub-cat8-1/20130904152914.html
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