脱原発・エネルギーシフトに向けて
セミナー報告「放射線による健康被害の未然防止と求められる社会制度
―ラリーサS.バーレヴァ博士を迎えて」
2月6日、ロシアの小児科医で、現在、ロシア小児放射能防護臨床研究センター長を務めるバーレヴァ博士をお迎えし、議員会館でセミナーを実施しました。
>開催概要・講師プロフィール・出席国会議員
チェルノブイリ事故後、ロシア保健省の下に設立された小児放射線防護臨床研究センターでの研究成果や、疾病の予防と治療のシステムについて有意義なお話を伺いました。
特に、子どもたちをいくつかのコホート(集団)に分け、第2世代(被ばくした親から生まれた子ども)、第3世代(その子ども)まで健康状態を追跡していること、総合的なデータベースを構築していること、予防のための健診と健診に基づく治療・リハビリテーションが行われていることは、日本でも参考にすべきところです。
発表の中では、小児の被曝登録者の全般的発病率が、ロシア全体と比べて総じて高いこと、そのうち、事故処理作業者の子ども、30kmゾーンから避難した人の子ども、放射能汚染地域に居住する子どもの3つのコホート毎の健康状態では、他の2つのグループに比べて、汚染地域居住の子どもたちの健康状態がよくなっていないこと、また悪性新生物(ガンや白血病など)の発生率、神経系疾患有病率、先天性発達異常と染色体異常のデータでは、事故処理作業者の子どもたちが他のグループの子どもたちやロシア全体と比べても高いことなどが明らかにされました。
また、谷岡郁子議員から、福島県で現在行われている小児甲状腺がんの検査に関する質問がなされ、バーレヴァさんからは、自分は日本で甲状腺検査を行っている専門家と話をしていないのでどのような考えの下そのようにしているのかわからないためコメントは控えたいとの前置きがありつつ、自分の考えでは、超音波検査で少しでも異常が見られた場合、甲状腺機能を調べる血液検査を行うべきであるとの見解が示されました。
>バーレヴァ博士発表資料はこちら
<質疑応答>
出席された国会議員や市民の皆さんから出された質問と、バーレヴァ博士の回答を要約しました。
○森ゆうこ議員
ウクライナにも視察に行った。一部学校給食の安全確保事業を実現できたが、どの範囲を
汚染地域とするかが重要である。子どもたちを守るための方針がまだ定まっていない。支援法の具体的な行動計画、その基となる基本方針を政府がまだ定めていない。改めて、早急に、長期にわたる子どもたちの健康確保に向けてわれわれが力をあわせなければいけない。質問は、資料の中で胎内被曝の被ばく線量は、累積線量か?
○川田龍平議員
コホート別にみると、避難した子どもたちへの健康影響も。全国に避難している子どもたちも継続的に見ていかなくてはいけない。
○谷岡郁子議員
川田議員などと共に、支援法、チェルノブイリ法にならって作った。まだ基本方針が定まっていない。
質問2つ。政府や地方自治体も含めて、(健康被害は)大したことはないと言い続けている。ロシアでもあったことではないかと思うが、どういう形で、政府を説得したのか?二つ目は、子どもたちに対して血液検査、染色体異常を調べるべきと言ってきたが、福島では、甲状腺超音波検査しかしない。遺伝子異常を検査するための血液検査を先にやる方がいいのではないかと思う。お考えを聴きたい。
○バーレヴァさん
(森議員の質問について)
・胎内被曝について。事故後最初の1か月、汚染された地域の妊婦一人一人を登録するようになった。妊娠中の女性は約2000人が妊娠週別に登録された。各グループ200人。その後なるべくしっかりしたデータを手に入れるように、汚染されていない地域の妊婦、事故前の妊娠例のデータもとった。コントロール含め、全体で約2000人を選んだ。
第一のグループ、事故直後生まれた(胎児として被ばく)1986年5月~8月生まれ
第二のグループ、1986年9月~12月生まれ
第三のグループ、1987年生まれ
モニタリングにあった三つのグループ+コントロールグループ。
線量測定学者が測った。2~9.5msvであった。
広島・長崎の経験から、胎内被曝の危険性を知っていた。
(以下は、あらためての回答)
「累積線量かどうか」という意味は、「妊娠中(子宮内で)の累積」という意味でお尋ねと思いますが、それはその通りです。
ロシアの場合は、汚染地域は30kmよりずっと離れていたので、妊婦はずっとその地域に住んでいた(避難はしていない)人たちです。
測定は妊婦を直接測定し、胎児の線量はそこからの計算によるもの(各グループ200人の平均)。
測定と計算は放射線学者によるもので、バーレヴァ博士たちは登録されているその統計データを使用しているということ。
(谷岡議員の質問について)
・1991年5月に初めて、移住すべき地域、権利地域などの汚染レベルと法的定めができた。スムーズにできたわけではない。社会団体、学者、企業、政府の間で討論が行われた。
・超音波検査だけでは正確な診断ができない。小さな異常やホルモンの状態を決定することができない。血液検査を行い、初めて甲状腺異常のリスクがどれほど高いか決定することができる。このような甲状腺検査に関するシステム(超音波検査+血液検査)ができて初めて、リスクグループを作ることができる。リスクグループというのは、①それほど問題がない子どもたち、②ちょっとした異常・トラブルがある子ども。年に2回とか、場合によっては3か月ごとに検査するようなグループ、③ハイリスクグループですぐに医師に相談しなければいけないグループ。
日本は超音波機械による検査は2年に1回と聞いたが、これはとんでもない話。つまらない(小さい)結節でも最悪の場合、がんに導くこともある。複合的な検査施策を取らなければならない。(2年に1回の場合)この2年の間に小さな異常は病気になりうる。この2年間に治療を始めないと悪い結果を導くこともある。子どもによって違うが、ちょっとしたトラブルがあれば治療しなければいけない。ロシアの場合は、当初は異常のある子どもたちは、1年に2回検査していた。今は、問題ない子どもたちはやらないが、ちょっとした疑問のある子どもたちは1年に1回検査を実施している。2013年、もちろんヨウ素は消えてしまっているが、超音波検査で異常がある場合、血液検査を必ずやっている。
日本で血液検査がいらないという専門家と意見交換していないので、どういう考えのもとでそうしているのかわからないが、自分の意見としては、甲状腺は重要な器官であるので、子どもたちにちょっとしたトラブルがあれば、やはり血液検査をすべき。どんな小さな結節でも、超音波検査では何の病気であるか導くことができない。甲状腺トラブルの場合、子どもの場合治療しなければならない。特に小さな子どもたち、思春期の子どもたちの甲状腺機能のトラブルを無視してはいけない。甲状腺は非常に大事な器官。何らかのトラブルがある子どもたちで、危機的な年齢である3歳以下の子どもたち、思春期の子どもたちは年に2回血液検査が必要。すべてが放射線による影響とは限らないが、いずれにしてもしっかりした検査を行うべき。
○川田議員
・セシウムの問題はどうか?ヨウ素の値は、最近調査が出てきて、たとえばこれまで注目されてきていない地域でも高いと言われている。日本ではセシウムの測定によって対象地域が決められようとしているが、他の核種の影響も大きいのではないだろうか。内部被ばくの影響も。汚染地帯の食品を流通させている日本の状況についてどう思うか。ロシアでは汚染地帯から持ち出すことを制限していたと思う。
○バーレヴァさん
・ブリャンスク州では、事故後、学校、幼稚園、児童施設などにおいての食品は100%非汚染地域から提供していた。そのおかげで子どもの内部被ばくはそれほど高くなかった。しかし5年後、放射能恐怖症は少なくなり、一般の人や地方の行政機関や医学者はそれほど注意を払わなくなった。汚染地帯の農産物、キノコ、リンゴなどを食べるようになり、内部被ばくの値が上がるようになった。
クリーンな食品は言うまでもなく重要である。セシウムだけでなく、様々な放射線核種は、子どもの健康に負の影響を及ぼしている。外部被ばくはなくなったが、内部被ばくのファクターはより重要。この意味で、セシウム、ストロンチウムは重要。処理作業者の子ども、胎内被曝を受けた子ども、汚染地域に住み続けている子ども。これらの子どもたちの一般発病率は高く、ロシア全体と比べて今もかなり高い。体細胞のゲノムの不安定性により引き起こされたあらゆるトラブル。言うまでもなくすべての現象を研究し、この子どもたちに注意を払うべき。これから生まれる子どもたちにも注意を払うべき。
○谷岡郁子議員
・今福島県立医科大学は20mm以下ののう胞は大丈夫と言っている。3mmや4mmが何個あっても大丈夫と言っている。これについて先生のお考えは?
○バーレヴァさん
・自分は内分泌の専門家ではなく、一般的な小児の医師である。すべての小児科病院においても、のう胞のサイズによってどんな対策を取らなければいけないかという文書ができている。今、3mm、4mmがどうか覚えていない。日本には日本のアプローチがあるかもしれないが、ロシアのスタンダードの資料を後で提供いたします。
○FoE Japan満田
・公明党などが中心となっている健康調査法案がまもなく国会に提出されるという。健康管理のあり方について提言を行う市民・専門家委員会を立ち上げた。今後とも県民健康管理調査などへの提言を行っていきたい。
委員会の中で、山田真先生は、「今A2判定について自分としても何か言うことができない、小規模でいいので、コントロール(対照グループ)を取って、小児科医や医師が何か言えるような調査が求められている」とおっしゃっていた。大規模な疫学調査ではなくても、個々の被災者の健康管理に役立つような健康調査が求められている。市民側は、個々の人たちの保健だ、健康管理だと主張しているが、だからといって調査をやらないでいいのではなく、個々の人たちに役立つ調査が必要。
開催概要・講師プロフィール・出席国会議員
◆日時:2013年2月6日(水) 12:30~14:30
◆会場:参議院議員会館
◆主催:原発事故子ども被災者支援法市民会議、「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク
◆ラリーサ S. バーレヴァ博士 プロフィール:
現在 ロシア小児放射能防護臨床研究センター長。
小児科医。1986年のチェルノブイリ原発事故の際は汚染地域に出向き、子どもたちへの放射線の影響を調査した。彼女の直接の参加や指導により被曝したこどもたちを支援するシステムが創設され、小児放射能防護臨床研究センターの設立につながった。ロシア保健省小児科部局長、ロシア小児医療・社会検診主任専門医、ロシア保健省小児専門リハビリテーション主任専門医などを歴任。長期にわたりロシア保健省医師・研究者会議小児科部門議長を務めている。主たる臨床・研究として、発達する子どもの身体への放射線の影響やその最小化を意図した診療、治療、リハビリテーション方策の作業、放射線誘発性疾患形成の病因メカニズムの究明、小児人口の健康状態の改善や、予防医学的健康管理を行ってきた。
◆出席国会議員
阿部とも子(未来の党/衆議院議員)
川田龍平(みんなの党/参議院議員)
谷岡くにこ(みどりの風/参議院議員)
玉城デニー(生活の党/衆議院議員)
福島みずほ(社民党/参議院議員)
森ゆうこ(生活の党/参議院議員)
吉川はじめ(社民党/衆議院議員)
渡辺孝男(公明党/参議院議員)
その他多くの秘書の方の出席・資料請求をいただきました。