脱原発・エネルギーシフトに向けて
[セミナー報告]脱原発世界会議2 チェルノブイリから学ぶ
昨年12月15~17日、郡山にてIAEA(国際原子力機関)・日本政府共催による「原子力安全に関する福島閣僚会合」が開催されました。「除染と健康管理」に関してIAEAと福島県が共同で実施するプロジェクトの覚書の締結、福島原発事故の教訓の共有、原子力安全強化に向けた議論が国際会議の目的でした。
15日、福島県と国際原子力機関(IAEA)は、覚書に署名し、放射線モニタリング及び除染、健康の分野で両者が協力する事項について取り決めました。
この国際会議開催に合わせて15・16日、市民の手でつくる「脱原発世界会議2」を開催し、郡山でのアクション、市民のカウンター会議とともに、東京で国際会議やイベント、デモを行いました。東京で開催された2つのセッションを報告します。
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「チェルノブイリから学ぶ① 「低線量被ばくとIAEA・WHO」
2012年12月15日10:00-12:00/東商ホール
登壇者(敬称略):
阪上武 …福島老朽原発を考える会
アレクセイ・ヤブロコフ …ロシア科学アカデミー
中手聖一 …子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク
吉田由布子 …「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク
渡辺瑛莉 …国際環境NGO FoE Japan
放射線による健康影響に関するIAEAの立場・考え方を明らかにし、チェルノブイリ事故後、どのような健康影響が現れたのか、IAEAやWHOは事故による放射線の健康への影響をどのように評価していたのか、私たちはそこからどんな教訓を得られるのか話し合いました。
はじめに日本の状況共有として、政府の避難基準である年20ミリシーベルトの問題点、続く汚染の状況、また、原子力規制委員会が検討していた緊急時の放射線基準にIAEA基準が参照されることの問題点を阪上武さんにお話いただきました。
事故後、原子力安全委員会(当時)は、年1ミリシーベルトを目指すと表明した一方で、避難基準には年20ミリシーベルトが用いられ続けていること、これはチェルノブイリの避難基準と比べても非常に高いことが確認されました。
また、年20ミリシーベルトに届きそうな地域であっても、特定避難勧奨地点への指定が見送られ、除染で対応する政策が続いていること、ところが除染のさまざまな限界により、いまだ深刻な汚染のなかで子どもたちや住民が普通に暮らしていることについて問題提起されました。(毎時4.4マイクロシーベルトの福島市渡利地区の例など。政府が除染基準に掲げる年1ミリシーベルト=毎時0.23マイクロシーベルトの約20倍)
さらに、原子力規制委員会が新しい緊急時の放射線基準を検討する際、IAEAの基準を参照することの問題点が指摘されました。IAEAの基準は、日本の現行の基準よりはるかに緩く、国際放射線防護委員会(ICRP)の基準よりもずっと緩いものだからです。
現行の国内法令における事故発生時の避難基準が50ミリシーベルトであるのに対し、IAEA基準は7日間100ミリシーベルトであり、また、事故後の緊急時におけるICRP基準が年20~100ミリシーベルトに対して、IAEA基準は年100ミリシーベルトであることが指摘されました。
続いて、アレクセイ・ヤブロコフ氏からは、著書の膨大なデータのほんの一部をご紹介いただき、日本の市民社会に向けたメッセージを発せられました。
IAEAやWHOの専門家が、個人の被ばく量と疾患の間の「有意な相関関係」を求めることについて、実際には個人被ばく量は不確かな計算に基づいているため、科学的な正当性を欠いていると断じ、代わりに、同一の地理的、社会的、経済的背景をもち、かつ放射能汚染レベルが異なる住民の罹患率/死亡率や、同一集団の健康状態が大災害後の特定の期間でどうだったか、といった方法を紹介。
チェルノブイリ原発事故の放射線による疾患として、ガンや白血病のみならず、血液・循環器系、内分泌系、免疫系、呼吸器系、泌尿生殖路と生殖障害、骨格系、中枢神経系、眼球、消化管、先天奇形・異常などのあらゆる疾患が見られることや、早期老化、多発性の体細胞および遺伝変異、多疾患などの健康被害についても紹介しました。一方で、心理的要因(放射線恐怖症)については、チェルノブイリ事故後、放射能への人びとの不安は減少しているのに、罹患率は増加を続けていることから、放射線による影響と見られるとしました。
また、遠く離れたフィンランド、スイス、スウェーデンにおいても事故後5年程度の間に乳幼児死亡率が上がっているデータも示されました。死亡者数については、2005年のWHOとIAEAによる9000人という発表に対して、1987年~2004年までのチェルノブイリ事故による死亡者数は少なく見積もっても全世界で82万4000人(ベラルーシ、ウクライナ、ロシアの汚染地域で23万7000人、その他のヨーロッパ、アジア、アフリカで41万7000人、北アメリカで17万人)としました。
WHOはIAEAと協定を結び、原子力産業にとって都合の悪い情報を隠ぺいしてきたこと、私たちは、原子力産業から独立の立場から、食物や個人の被ばくレベルをモニタリングし、得られたデータを公開していくことが重要であると締めくくりました。
福島市から北海道に避難されている中手聖一さんからは、政府やIAEAが低線量被ばくの健康影響について無視している状況の中で、病気の未然防止、早期発見、早期治療のために総合的健康調査が必要であること、一方で、IAEAが福島県に深く関与しようとしていることについて強い不信感が示されました。
会場からは、チェルノブイリ事故後に現れた疾患の種類、放射線の確率的影響についての考え方、放射線核種ごとの健康影響、現在の線量管理の問題点、国際的な医師や専門家同士の連携など、多くの質問を頂きました。時間や通訳などの制約で、十分にお応え出来ないものも多くありました。
>[報告]チェルノブイリから学ぶ② 「放射線防護のための被災者支援のあり方とは」
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