脱原発・エネルギーシフトに向けて
「原発事故子ども・被災者支援法」のポイントと課題
[改訂]2013年 1月13日
原発事故被災者支援法(正式名称:東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律)が2012年6月21日、国会で成立しました。
本文の全文はこちら
>https://dl.dropbox.com/u/23151586/120617_shienho_bill.pdf
衆議院震災復興特別委員会での審議の速報 >https://togetter.com/li/323441
>共同声明「子ども・被災者支援法の成立を歓迎し、具体的な支援施策の早期実施を求める」
この法律のポイントと課題をQ&Aの方式でご紹介します。
Q1:なぜ、この法律が必要だったのでしょうか?
Q2:この法律のポイントはどのようなものですか?
Q3:医療費の減免は、子ども・妊婦に限定されるのですか?
Q4:子どもたちが成人したあとの医療費はどうなるのですか?
Q5:医療費の減免措置をうけるにあたり、被災者が被ばくとの因果関係の証明をしなければならないのでしょうか?
Q6:支援対象地域はどの範囲となるのでしょうか?
Q7:この法律の主務官庁はどこになりますか?
Q8:法律に書き込まれている理念はすばらしいのですが、絵に描いた餅に終わらないでしょうか?
Q9:市民団体の取り組みは?
Q1:なぜ、この法律が必要だったのでしょうか?
A1:原発事故の被害に苦しむ多くの人たちの救済や権利の確立が進んでいません。避難を余儀なくされた人の中には、経済的な苦境や生活の激変に直面し、多くの困難をかかえている人も少なからずいます。
災害救助法に基づく、住宅借り上げ制度が適用されていましたが、昨年いっぱいでその新規申込が打切りとなってしまいました。とどまっている方々も、子どもを外で遊ばせられない、被ばくが不安、将来的な健康への不安がある、保養プログラムが十分でないなど多くの問題に直面しています。
さらに、被ばく回避・低減政策は不十分であり、放射能被害により現在・将来にわたる健康被害が発生したときの医療保障や健康診断なども、福島県に限定したものです(福島復興再生特別措置法)。 とどまった方々や避難された方への支援が急がれています。
Q2:この法律のポイントはどのようなものですか?
A2:原発事故の被災者の幅広い支援、人々の在留・避難・帰還を選択する権利の尊重、特に子ども(胎児含む)の健康影響の未然防止、影響健康診断および医療費減免などが盛り込まれています。
○国の責任
「これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っている」として国の責任を明記しています(第三条)。
○「支援対象地域」
いままでの政府指示の避難区域よりも広い地域を「支援対象地域」として指定し(第8条第1項参照)、そこで生活する被災者、そこから避難した被災者の双方に対する支援を規定しています。
>「Q6 支援対象地域はどの範囲となるのでしょうか」参照
- 支援の内容は、第8条、第9条に定められています。
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支援の内容 |
支援対象地域に住む |
医療の確保、子どもの就学等援助、家庭・学校等における食の安全確保、自然体験活動等の施策、家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援、除染、学校給食等についての放射性物質の検査など |
支援対象地域から |
移動の支援、移動先における住宅の確保、学習等の支援、就業の支援、移動先の地方公共団体による役務の提供を円滑に受けることへの支援、支援対象地域の地方公共団体との関係の維持、家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援 |
帰還する被災者への |
移動の支援、住宅の確保に関する施策、就業の支援に関する施策、地方公共団体による役務の提供を円滑に受けることへの支援、家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援 |
・ 第十三条第二項では、被災者の定期的な健康診断、とくに子どもたちが生涯にわたっての健康診断を受けられることが規定されています。
「少なくとも、子どもである間に一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住したことがある者(胎児である間にその母が当該地域に居住していた者を含む。)及びこれに準ずる者に係る健康診断については、それらの者の生涯にわたって実施されることとなるよう必要な措置が講ぜられるものとする。」(第13条第2項)
第13条第3項では、医療費減免について規定しています。これについては、Q4、5で解説します。
Q3:医療費の減免は、子ども・妊婦に限定されるのですか?
A3: 「子ども・妊婦以外の医療費の減免については、認められるケースもある」というのが国会におけるこの法案を提案した議員からの答弁でした。
第13条の第3項には下記のように規定されており、子ども・妊婦については明確に規定されていますが、成人に関しては明確ではありません。
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なお、昨年5月、複数の市民団体が、本法案に関する要請書および署名を提出しましたが、その一つが医療費の減免範囲を成人にも拡大してほしいというものでした。
詳しくはこちら:医療費の減免措置の拡大を求める要請
>https://hinan-kenri.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-9a8b.html
Q4:子どもたちが成人したあとの医療費はどうなるのですか?
A4:国会審議においては、一定の線量以上に居住または居住したことのある子ども(胎児含む)に対しては、生涯にわたって医療費を減免するとの答弁が得られています。ただし法文上はそのように明記されていないため、今後明文化していくことが必要です。
Q5:医療費の減免措置をうけるにあたり、被災者が被ばくとの因果関係の証明をしなければならないのでしょうか?
A5:被ばくと疾病の因果関係の立証責任は、被災者が負わないことになりました。広島・長崎の被ばく問題や、水俣病の被害者が長年苦しめられてきた経験を踏まえてのことです。
その疾病が、「放射線による被ばくに起因しない」ということであれば、国側がその立証責任を負います。
第13条第3項において
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とされていますが、この「東京電力原子力事故に係る放射線による被ばくに起因しない負傷又は疾病に係る医療を除いたもの」であることを理由に医療費の減免措置を行わないということであれば、これについては国が立証責任を負うということです。
Q6:支援対象地域はどの範囲となるのでしょうか?
A6:第8条第1項において、支援対象地域は、下記のように定義されています。
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現在の政府の避難指示の基準が年間20ミリシーベルトですので、支援対象地域は、「一定の基準」以上、年間20ミリシーベルト以下となります。
国会の審議では、この「一定の基準」に関しては、ICRP(国際放射線防護委員会)が公衆の被ばく限度を年1ミリシーベルトとしていることなどをあげ、「1ミリシーベルト以下を目指していく」「再び被災者を分断することがないよう、被災者の意見や地域の実情を踏まえてきめていく」(谷岡郁子議員、2012年6月14日、参議院東日本大震災復興特別委員会)、「福島県は全地域含まれる」(森雅子議員、6月15日、衆議院東日本大震災復興特別委員会)との答弁でした。
今後、第5条に規定されている実施方針の中で規定されていきます。
なお、チェルノブイリ原発事故後、周辺国で制定された「チェルノブイリ法」では、年間の追加被ばく量1mSv 以上の地域を「避難の権利ゾーン」、5mSv以上の地域を「避難の義務ゾーン」として規定しました。
今年5月に来日したチェルノブイリ法の立役者アレクサンドル・ヴェリキン氏が、このチェルノブイリ法の精神や理念、人々がこれをかちとっていった過程などについて講演しています。
アレクサンドル・ヴェリキン氏来日講演~権利を勝ち取った苦難の歴史
「チェルノブイリ法」への道のり ~年1ミリシーベルト以上を「避難の権利ゾーン」に~
>https://hinan-kenri.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/a-c939.html
Q7:この法律の主務官庁はどこになりますか?
A7:幅広い省庁が関与します。基本方針は復興庁、放射線に関する調査は文部科学省、除染や健康管理支援は環境省、住居の確保や移動の支援は国土交通省、就労支援は厚生労働省などです。
Q8:法律に書き込まれている理念はすばらしいですが、絵に描いた餅に終わらないでしょうか?
A8:この法律には以下の課題があります。
・ いわゆる「プログラム法」であり、理念や枠組みのみを規定し、そのあとに政省令やガイドラインなどで実際の施行を規定していくことを想定。 政府は、支援対象地域の範囲や被災者生活支援計画などを含む「基本方針」を定め、その過程で、被災者の声を反映していくことになっている。
・ 支援対象地域の定義がされていない。これについても「基本方針」の中で規定される。
・ 復興庁が中心的な役割を担うが、関連省庁が多いことにより、責任の所在があいまい。
・ 地方公共団体との連携が必須。
・ 具体的な予算措置がなされていない。
これらの点を踏まえて、国、国会議員、地方公共団体、被災当事者、支援団体、市民など幅広い連携により、法律を活かしていかなければなりません。
Q9:市民団体の取り組みは?
A9:この法律の制定を受け、被災当事者、支援団体などからなる幅広い市民のネットワークである、「原発事故子ども・被災者支援法市民会議(以下、市民会議)」が立ち上がりました(2013年1月現在、38団体)。事務局は、FoE Japanと、福島の子どもたちを放射能から守る法律家ネットワーク(SAFLAN)が担っています。
市民会議では、国会議員と歩調を合わせ、政府との対話を通じて、一刻も早い支援の具体化に向けて、働きかけを行っています。
2012年11月28日には、復興大臣と会合を持ち、「原発事故子ども・被災者支援法」の基本方針に関する提言を提出しました。また、政府交渉を実施しました。
>「原発事故子ども・被災者支援法」基本方針に関する要望:2頁[PDF]
>基本方針に対する提言:18頁[PDF]
また、災害救助法に基づく住宅借り上げ制度の打ち切り問題にあたっては、厚労省、福島県に緊急署名を提出し、交渉を行いました。
(文責:満田夏花)