開催報告:6月17日緊急院内セミナー
「公正な賠償の負担と新時代のエネルギー政策のために」
2011 年 6 月 17 日衆議院第 2 議員会館多目的会議室にて、【緊急院内セミナー 公正な賠償の負担と新時代のエネルギー政策のために原発損害賠償機構が意味すること】を開催しました。当日は約 90 名の参加がありました。
>開催案内
今回は、東電による巨額の損害賠償支払いを支援するために新設される原発損害賠償機構について、法律的見地から誰がコスト負担するのか、電力事業改革とどうつながるのかを 3 人の識者からご意見いただきました。
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その 1 https://www.ustream.tv/recorded/15441613
その 2 https://www.ustream.tv/recorded/15445931
その 3 https://www.ustream.tv/recorded/15478237
※以下、すべて文責は FoE Japan
●報告1 ◆「原発損害賠償機構の概要とポイント」
弁護士の福田健治氏からは、賠償を誰が支払うかという視点から解説いただきました。
(発言要旨)
原子力損害賠償法(原賠法)では、原子力事業者以外は賠償しないと定められています。つまり、今回は東電だけが責任を負うことになり、国や GE の責任は問わないことになっています。また、原発事業者の賠償責任が無限大になっています。しかし、賠償するための措置としては 1200 億円の保険に入ることとなっており、 1200 億円で払えなかった場合は政府が必要な援助を行うと定められています。
今回予想される莫大な賠償を負う東電を政府が支援するために出てきたのが、原子力損害賠償支援機構法案です。法案では、機構の組織、負担金、資金援助の方法の 3 つが定められています。組織については、主務大臣は政令で定めるとなっており、運営委員会が設けられることになっており、資金援助の方法は運営委員会に委ねられています。機構は、「負担金」を収納しますが、これはすべての原子力事業者、つまり電力会社が出すことになっています。リスクに基づいて保険料が決まる保険の仕組みとは異なり、負担金は、費用の長期的見通しに照らして十分な費用であることと、事業の円滑な運営に支障をきたさない額とすること、となっています。
最終的に誰が負担するのかですが、1.国からの交付国債、つまり税金、2.電力会社の負担金、つまり電力料金、3.東電の特別負担金が主なお金の出所です。政府の視点では、誰が負担することが公正か、誰に負担させるのが今後のエネルギー政策にとって効率的か、今後のエネルギー政策を可能にする賠償負担策は何か、の3つの視点が欠けており、現状では、東電の株主や債権者の責任は問われず、東電が温存され、納税者や消費者の負担だけが重くなる可能性があります。
報告2 ◆「原発賠償と東電責任~公的支援の正当性を確保するためには」
河野太郎衆議院議員からは、原子力損害賠償支援機構法案は、廃案にすべきと厳しい指摘がありました。
(発言要旨)
今度の事故の規模を考えると、この賠償は東電では支払い切れず、国民負担にならざるを得ないだろうが、納税者、消費者に負担をお願いする前に、まずは、東電の役員、株主、債権者が責任を取るべきでしょう。役員は総退陣、株主は 100 %減資すべきです。また、融資をしていた銀行は、融資実行の経営判断が問われ、その責任をとるべきです。債権は社債 5 兆円、融資 4 兆円、合計 9 兆円あります。ただ、電力債は一般担保付債権で、資産の中から優先的に弁済を受けることができる債権なので、損害賠償よりも優位になっているのが実状です。特別に立法すれば、賠償金を一般担保より弁済の優先順位を上にすることができますが、海外の債権者に対して日本に対する不信感が生まれる可能性があり、難しい状況です。
一方、東電は現在、満期が来たものから銀行に借金返済をしていますが、そのままにしておくと東電が借金を返し終えて、賠償金にお金が回らなくなる恐れもあります。そこで、国が資金繰りを保証した上で、資産保全をして、 3 月 11 日以降のものは一旦戻してもらうべきであること、そして最終的には東電は破綻処理をして国有化し、発電と送電の分離を行い発電を分割していき、国は資産売却で入ってきたお金を損害賠償に使うべきです
また、この法案がないと、被害者に賠償ができないような論がありますが、国が被害者に対して補償金の支払いを行い、それを東電に請求するようにするべきでしょう。
参加議員の一人、玉木雄一郎衆議院議員は、「私は与党だが今回の賠償スキームはまずい。相互扶助的な制度となっているが、相互扶助なら原賠法を拡充すれば良い。すでに起こった事故を相互扶助で対処するなんて法制度としてあり得ない。電気事業は地域独裁だ。潰れそうな会社が胸張って値上げを利用者に強要するのはおかしい。電気事業を監督する大臣が電気料金の設定にも絡むのは不適切だ。東電は原則法的整理を進めるべき。今回の法案は今の体制を温存する仕組みだが、電力はこれからイノベーションをしていかなければならない」と発言しました。
また、参加した東電株主の市民からは、「東電の決算の中に損害賠償は入っていない。損害賠償は純資産を上回るだろうから、ルールに則って破綻した方が良い。経営者はこれまでも事故隠しを色々やってきたが、事故を起こした責任を取らなくて良いのか。今回、東電が破綻していると分かっているので政府が支援しようという話になったが、保険料を決められないならこんな事業は行ってはいけない。電力料金だけ上げるのはおかしい」と訴えました。
報告3 ◆「新時代のエネルギー政策に向けて」
環境エネルギー政策研究所( ISEP )の飯田哲也氏は、新時代のエネルギー政策に向けて、賠償問題をどのようにしていくべきか発言しました。
(発言要旨)
莫大な賠償については1.東電、2.株主、3.債権者、4.国の順番で負担すべきであり、「原発埋蔵金」の電源特別会計もそのために使われるべきでしょう。考えるべきこととして、 4 つのポイントがあります。一つは、福島第一原発の 1 ~ 4 号機(からの放射能汚染)は数百年続くということです。二つ目は安定供給を確保することです。それから発電と送電は切り離した方が良いこと、最後にイノベーションが必要で、公共財としての電力事業のあり方を考えていくべきでしょう。
東電は一時国有化し、人材、知識を共有してから市場化すること、損害賠償をする機関と福島 1 ~ 4 号基を管理する国家機関に分けること、発電・販売事業と送配電事業に分割することが必要です。
原発を無限責任保険化し、原子力事業者には強制加入してもらうことで、結果として保険コストが割に合わなければ、原発はやめざるを得なくなります。
*関連情報*
e シフト発行『脱原発ロビーマニュアル』
「原発事故損害の公正な負担と自然エネルギーへの転換のための賠償体制構築を求めます」編
https://e-shift.org/?p=836#more-836