声明:東京電力・福島第一原発事故から8年
国際環境NGO FoE Japan
進む被害と責任の「見えない化」~真の復興を
2011年3月11日の東日本大震災に端を発した東京電力福島第一原発事故。8年たった今も事故の被害はまだ続いています。
原発事故の被害は多岐にわたり複雑です。広範囲にわたる放射能汚染により、自然のめぐみとともにあった人々の暮らしは失われ、様がわりしてしまった地域も多々あります。避難指示はどんどん解除されていますが、ふるさとの形は失われてしまいました。
多くのものが失われました。「生業」、「生きがい」、「友人と過ごすかけがえのない時間」、「平穏な日常」…。いわば、原発事故により、人が人として生きてきた基盤が失われてしまったのです。
一方で、家族やコミュニティの分断、健康や人生に対する不安が生じ、「復興」のかけ声のもとに、被害や不安を口にだせない空気が醸成されています。
被害の「見えない化」
時間の経過に伴う風化に加え、被害の「見えない化」が進んでいます。
たとえば、避難者数。福島県からの避難者は41,299人(2019年2月現在、福島県発表)とされていますが、ここからもれている避難者も大勢います。
たとえば、避難者の困窮。避難継続をしている人たちの中には孤立化し、経済的に困窮化している人たちがたくさんいます。東京都の調査では、都内の避難者世帯の月収は10万円以下の世帯が2割以上、20万円以下の世帯が約半数にのぼっています。新潟県や山形県の調査でも、とりわけ区域外避難者の経済的な困窮が明らかになっています。「避難の協同センター」などの民間団体には、避難者の生活困窮と孤立、精神的な苦しみを物語る避難者からのSOSが届いています。しかし国は、実情の把握をせぬまま、避難者に対する支援を次々に打ち切っています。今年3月には、ほそぼそと続いていた低所得者向けの家賃補助、旧避難指示区域からの避難者への住宅支援が、また来年の3月には、帰宅困難区域からの避難者に対する住宅支援が打ち切られることになっています。国や福島県による早期帰還政策は、避難者に経済的な困窮を強いるのみならず、「もはや事故は終わった。避難者は帰還すべき」という空気を作り出し、それが避難者をさらに追いつめています。
事故後に甲状腺がんに罹患した青少年の数ははっきりとわからず、手術症例や患者がおかれている状況は明らかにされていません。2018年までの福島県発表資料によれば、福島県で事故当時18歳以下の子どもたちで甲状腺がん悪性または疑いと診断された人の数は206人、うち手術してがんと確定したのは164人になります。しかし、少なからぬ患者がこの数字から漏れている上、福島県外の状況はまったく把握されていません。国や福島県は、事故との因果関係は「考えにくい」としています。
除染土もまた、「見えない化」されようとしています。環境省は最大2,200万m3とされている除染土を公共事業や農地造成に「再利用」する方針を打ち出しています。しかし、福島県二本松市の農道でおこなわれるはずだった実証事業は、住民の猛反対で撃退されました。環境省は、南相馬市小高区の常磐自動車道の4車線化の盛り土に除染土を使う実証事業を計画していますが、地元行政区の区長たちが全員反対している状況です。
被害額は青天井、「責任」も「見えない化」
政府は、東電の破たんを避けるため、2011年、「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」(以下、支援機構)を設立し、交付国債、政府保証による融資、電力事業者からの負担金などを東京電力に支払う仕組みをつくりました。さらに、一部は託送料を通じて、原発からの電気を選択しない新電力や将来世代からも徴収されようとしています。
手厚い保護により、東京電力は法的整理を免れ、経営者、株主や東電に融資している銀行はその責任を果たしていません。支援機構を通じて交付された賠償資金のうち、最終的に東電が負担するのは一部に過ぎず、残りは何らかの形で国民負担になります。すなわち、東電の責任も「見えない化」されているのです。
東電の救済は、原発事故の賠償を貫徹させるためという名目で行われました。しかし、実際には東電は、被害者への賠償を値切り、切り捨てているのです。とりわけ、住民による集団でのADR申し立てに対しては、ことごとく和解案を拒否しています。浪江町住民1万5,700人のADR集団申し立てでは、東電が6度にわたり和解案を拒否しました。2018年10月までに、申し立てを行った住民のうち高齢者など900人以上の住民が亡くなりました。
現在の原子力損害賠償紛争審査会には、被害者の声が反映されているとはいえません。ふるさとの喪失、区域外避難者の避難費用、放射性物質による汚染や被ばくなど、重要な損害が含まれていません。
国は2016年12月、東京電力福島第1原発事故に伴う廃炉、賠償などの費用の総額が21.5兆円に上るとの試算を公表しました。これはそれまでの見積額の約2倍にあたります。しかし、民間シンクタンク「日本経済研究センター」の試算では、最大81兆円ともなっています。ここに含まれていない被害があることは言うまでもないことです。
被害者の生活再建と尊厳を取り戻す真の復興を
核なき世界を
現在、除染やインフラ、事故由来の放射性廃棄物の減容化施設などに多額の予算がふりわけられています。その中には効果が不明確なもの、環境への影響が甚大であるもの、住民の反対が多いものなどもあり、見直しが必要です。一方で、除染以外の被ばく対策はほとんど行われておらず、保養も民間団体がほそぼそと行っているにすぎません。
「復興」の名のもとに、避難者を減らし、被ばく影響を否定することによって、原発事故被害者はむしろ追いつめられています。
私たちは、日本政府に対して、現在の被害を直視し、原発事故被害者全員への完全な賠償と、被害者の生活再建と尊厳を取り戻す真の復興のための政策を実施することを求めます。
私たちは、また、世界中の人たちと手をとりあって、原発事故の惨禍を二度と繰り返さないために、被害者とともに立ち、原発も核もない平和な世界に向けて、歩みを進めたいと思います。
国際環境NGO FoE Japan
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9
TEL: 03-6909-5983 / FAX: 03-6909-5986