声明: 原賠法の拙速な「見直し」は禍根を残す
FoE Japan声明:
原賠法の拙速な「見直し」は禍根を残す
被害者、国民を置き去りのまま、原子力事業者、株主、銀行を守る仕組みを維持するのか
>この矛盾を放置? 誰を守る原賠法?~原賠法見直しについて国会で意見陳述
本日(12/5)、原子力損害賠償法の見直し案が国会で可決・成立しました。
福島第一原発事故を踏まえ、本来、「抜本的」であるはずだった今回の原賠法の見直しが、被害者や国民を置き去りにして進められ、多くの課題をそのままにして可決されたことに私たちは強く抗議します。
とりわけ、賠償措置額を福島第一原発事故において必要とされる賠償の100分の1以下のレベルに据え置き、原子力事業者や株主や銀行を手厚く保護する「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」の仕組みをそのまま維持したことは、「儲けるときは儲けて、事故がおこれば国がなんとかしてくれる」というモラル・ハザードを許したこととなり、将来に大きな禍根を残しました。また、「被害者の保護」と「原子力事業の健全な発達」を同列にした目的規定もそのままです。
抜本的な見直し?
今回の見直しの出発点は、平成23年8月の「原子力損害賠償支援機構法」の附則六条第一項において、原賠法の「抜本見直し」が盛り込まれたこと、また、同法採択の際、衆議院・参議院ともに付帯決議において、「賠償措置額の在り方等国の責任の在り方を明確にすべく検討し、見直しを行うこと」とされたことにありました。しかし、今回の見直し案は、賠償措置額の引き上げ、事業者・国の責任のあり方、原子力損害賠償審査会指針への被害者の声の反映、ADRの実効性の確保などによる被害者保護の強化など、多くの宿題を先送りにしたものです
守られているのは原子力事業者、株主、銀行
政府は、東電の破たんを避けるため、2011年、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下、支援機構)を設立し、交付国債、政府保証による融資、電力事業者からの負担金などを東京電力に支払う仕組みを作りました。東京電力は法的整理を免れ、経営者、株主や東電に融資している銀行はその責任を果たしていません。支援機構を通じて交付された賠償資金のうち、最終的に東電が負担するのは最大でも45%に過ぎず、残りは何らかの形で国民負担になります(会計検査院平成30年3月「東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果についての報告書」)。
政府は、原子力賠償における「事業者の責任の徹底」「国民負担の最小化」をうたっていますが、この支援機構の制度で守られているのは、被害者でもなく、国民でもなく、原子力事業者およびその株主や銀行となってしまっています。
原発事故被害者・国民が原賠法の見直しプロセスに参加できたか?
今回の原賠法の見直しに当たっては、原子力委員会「原子力損害賠償制度専門部会」(以下専門部会)において21回の会議が行われましたが、個々の原発事故被害者からのヒアリングは行われず、被害者の置かれた窮状が直接語られることはありませんでした。
実際には、今、この瞬間にも、ふるさとを失い、コミュニティーを失い、住宅提供などの支援も打ち切られ、苦しんでいる被害者がいます。区域外避難者への住宅提供は2017年3月に打ち切られ、家賃補助などもあいついで打ち切られようとしています。区域内避難者の住宅提供も来年3月で打ち切られます。避難継続せざるをえない避難者は生活苦に直面し、悲鳴のようなSOSが支援団体のもとに届いているのです。これらはそもそも賠償制度の不備の問題ではないでしょうか。
国民の声の聴取という意味でも、形式的なパブコメが1回行われただけであり、その内容はほとんど反映されませんでした。公聴会も実施されませんでした。
福島第一原発事故という未曾有の人災を経験し、賠償等の費用は最終的には国民がその多くを負担させられる可能性があるのにもかかわらず、見直しプロセスに、原発事故被害者や国民がかやの外に置かれ、その声が十分に反映されなかったのは大きな問題です。
賠償への備えは、実際の賠償額の100分の1?
福島第一原発事故における被害者への賠償費用は8兆円、除染費用は6兆円となり、賠償に要する見込み額は総額14兆円となっています(経済産業省東京電力改革・1F問題委員会平成28年12月20日報告書)。賠償措置額の1200億円は、この100分の1以下に過ぎず、原賠法第6条でいう「原子力損害を賠償するための措置」としては全く不十分です。
現在、東電による賠償は、交付国債による資金、政府補償による借入、および大手電力の電力料金へ上乗せで賄われています。一部は、原発を使っていない新電力からも徴収されます。さらに、過去に賠償措置を行わなかったためと「過去分」として託送料にものせられようとしているのです。
将来万が一事故が起こった時、「あのとき十分な備えをしていなかったから」として、さらなる負担を将来世代も被害者も、原発からの電気を選択しない人も含めた国民に強いるのでしょうか。それはあまりに理不尽でしょう。
賠償措置額をあげられない理由としては、政府は、保険市場が1200億円以上は引き受けられないと説明しています。
すなわち、保険市場が引き受けることができない、もしくは引き受け可能だとする限度額の100倍以上もの被害をもたらし、今後ももたらす可能性のある原発をこのまま続けるのでしょうか。
いずれにしても、原子力事業者が福島第一原発事故の賠償に見合う額(14兆円以上)をあらかじめ準備し供託することを義務付けるべきと考えます。
原賠法の目的(第1条)から「原子力事業の健全な発達に資する」を削除し、 被害者の保護のみとすべき
原賠法は、賠償について定めたものであり、本来、被害者保護に重点を置くべきものです。にもかかわらず、「原子力事業の健全な発達に資する」という目的が「被害者の保護」と同列に扱われることは誰がみてもおかしなことです。
また、第16条(損害が賠償措置額を超えるときの国の援助)については、現在の支援機構における資金の流れをすべて明らかにした上で、国民的議論を行い、どのような場合に国が援助するのか社会的なコンセンサスを得る必要があります。
FoE Japanは、原子力事業者の経営者、株主、債権者はその責任を果たした上で、国が残った分の賠償を行うべきと考えます。原子力事業者の法的整理に当たっては、被害者が優先的に請求権を得るなどの措置を講じるべきでしょう。
原子力事業者以外への求償ができるようにすべき
現行の原賠法は、原子力事業者以外への損害賠償の求償に制限がかけられており、原発メーカーは製造物責任法から免責されています。しかし、これもまた原子力事業を守るためとしか思えません。原発メーカーの免責は許されません。
原子力事業者に原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)和解案の受諾義務を課すべき
被害者に対して、迅速な賠償の支払いを行うために、原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)の役割は重要です。しかし、東京電力は、「ADRの和解案の尊重」を約束しているにもかかわらず、実際はADR和解案を再三にわたって拒否しているのが現状です。
浪江町住民1万5700人のADR集団申し立て(2013年1月31日申し立て、2018年4月5日打ち切り)では、東電が6度にわたり和解案を拒否しました。今年10月までに、申し立てを行った住民のうち高齢者など900人以上の住民が亡くなりました。
和解案が著しく不合理なものでない限り、原子力事業者にその受諾義務を負わせることが必要です。
政府は、「被害者が法的拘束力のある手続きを望まない場合がある」としていますが、果たしてそうでしょうか。むしろ東電がADR和解案を拒否したり、東電に拒否されることを恐れるADRが東電の顔色を窺い、東電に有利な和解案を提案したりすることに、苛立ちと苦痛、絶望を感じる被害者の方が多いのではないでしょうか。ここでも被害者が置き去りのままの法改正となっています。
原子力損害賠償紛争審査会に被害者の声を
東電福島第一原発事故において、被害者に対する現実の賠償は、原子力損害賠償紛争審査会が策定する指針にそって、実際に支払い額を決めているのは東京電力となっています。
賠償指針は、避難区域外からの避難者の賠償がごく一部しか認められない、自然的・社会的基盤が失われる「ふるさと喪失」損害や、放射性物質による汚染などの被害が含まれていないなど、不十分なものとなっています。
原発事故被害者が審査会に参加し、その意見を指針に反映するために、指針の定期的な見直しを行うべきです。
なお、放射性物質は長らく環境基本法の対象外となっており、他の公害原因物質と異なる扱いになってきました。放射性物質の拡散による汚染を規制する法律がないのが現状です。この点に関しては、別途立法が必要であると考えます。
損害賠償実施方針の作成・公表の義務付けについて
今回の見直し法案では、「原子力事業者は、原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施を図るための方針を作成しなければならない」(第17条の2)とのみ記されており、詳細については書かれていません。しかし、これでは、内容が十分であるかが問われないこととなってしまいます。文部科学省は省令で定めるとしていますが、損害賠償方針に盛り込むべき項目について法案で明記すべきです。それを第三者が確認し、不十分な場合は原発を運転してはならないという規定を盛り込むべきでしょう。