原賠法見直しについて国会にて意見陳述
この矛盾を放置? 誰を守る原賠法?~原賠法見直しについて国会で意見陳述
原子力損害賠償法(以下、原賠法)の見直し法案が今国会で審議されています。
本日(11/29)、参議院文教科学委員会でFoE Japan事務局長の満田が参考人として意見陳述 いたしました。
多くの問題を放置したままの原賠法のうわべだけの見直しは、将来に大きな禍根を残すと考えられます。
ぜひ、ご一読ください。
>意見書(PDF)
アーカイブは以下の2018年11月29日の文教科学委員会からみることができます。
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php
ぜひ、みなさんからも、今国会で拙速に審議するのではなく、幅広く公聴会などを開催すべきという声を、国会議員に届けてください。
<内容> 1.政府案は「抜本的な見直し」からは程遠い |
参議院文教科学委員会
参考人:満田 夏花
(国際環境NGO FoE Japan事務局長)
FoE Japanは、国際的な環境NGOとして、2011年3月11日の福島第一原発事故を契機に、原発事故被害者の支援やその権利擁護のための活動に取り組んできた。また、2012年から、福島の子どもたちを対象とした野外活動や自然観察、親子の交流の場の確保、レクリエーションなどを内容とした保養に取り組んでいる。2013年からは、原発事故被害当事者や支援者のネットワークである「原発事故被害者の救済を求める全国運動」事務局、2016年からは原発事故避難者の支援を行う「避難の協同センター」世話人および事務局を務めている。
原発事故の被害当事者とともにさまざまな活動を行ってきた立場から、また原子力事業者や国の責任、原子力賠償のあり方に強い関心を持つ一国民として意見を述べたい。
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1. 政府案は「抜本的な見直し」からは程遠い
今回の見直しの出発点は、平成23年8月の「原子力損害賠償支援機構法」の附則六条第一項において、原賠法の「抜本見直し」が盛り込まれたこと、また、同法採択の際、衆議院・参議院ともに付帯決議において、「賠償措置額の在り方等国の責任の在り方を明確にすべく検討し、見直しを行うこと」とされたことにある。
しかし、それから7年以上経過したのにもかかわらず、今回の見直し案は、賠償措置額の引き上げ、ADRの実効性の確保などによる被害者保護の強化、事業者・国の責任のあり方など、多くの宿題を先送りにしたものであり、「抜本見直し」とは程遠い。今臨時国会で拙速に審議・採決するべきではない。
2. 守られているのは原子力事業者、株主、銀行
福島第一原発事故の賠償の状況をみてみよう。政府は、東電の破たんを避けるため、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下、支援機構)を設立し、交付国債、政府保証による融資、電力事業者からの負担金などを東京電力に支払う仕組みを作った。東京電力は法的整理を免れ、経営者、株主や東電に融資している銀行はその責任を果たしていない。
支援機構を通じて交付された資金のうち、東電が負担するのは最大でも4割程度に過ぎない(会計検査院平成30年3月「東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果についての報告書」)。
これは、原子力事業において、「儲けるときは儲けるが、事故を起こしても、最後は国がなんとかしてくれる」という悪しき前例をつくってしまい、東電以外の原子力事業者にも、そのようなメッセージを送ってしまった。
責任集中、無限責任といった原賠法の理念は、「支援機構」の設立により弱められてしまった。政府は、原子力賠償における「事業者の責任の徹底」「国民負担の最小化」をうたっているが、この支援機構の制度で守られているのは、被害者でもなく、国民でもなく、原子力事業者およびその株主や銀行となってしまっているのが実態である。
賠償措置額の引き上げなどの抜本見直しなしでは、この構造が固定化され、将来の原発事故にも適用されることになることを懸念する。
3. 原発事故被害者が原賠法の見直しプロセスに参加できたか?
国民の声が反映されたのか?
今回の原賠法の見直しに当たっては、原子力委員会「原子力損害賠償制度専門部会」(以下専門部会)において21回の会議が行われ、賠償措置額やADRの実効性なども含めた包括的な議論が行われた。
しかし、この専門部会の委員構成やオブザーバーに、原発事故被害者を代表するような人は含まれておらず、どちらかというと原子力事業者の利害を代表する側の委員が多かったように思われる。少なくとも議事録で確認できた範囲では、福島県、関係団体等からのヒアリングは行われたが、原発事故被害者からのヒアリングは行われず、被害者の置かれた窮状が直接語られることはなかった。
実際には、今、この瞬間にも、ふるさとを失い、コミュニティーを失い、住宅提供などの支援も打ち切られ、苦しんでいる被害者がいる。区域外避難者への住宅提供は2017年3月に打ち切られ、家賃補助などもあいついで打ち切られようとしている。区域内避難者の住宅提供も来年3月で打ち切られる。避難継続せざるをえない避難者は生活苦に直面し、悲鳴のようなSOSが支援団体のもとに届いている。これは氷山の一角にすぎないだろう。これらはそもそも賠償制度の不備の問題ではないだろうか。
国民の声の聴取という意味でも、形式的なパブコメが1回行われただけであり、その内容はほとんど反映されなかった。また、公聴会も実施されなかった。また、文部科学省が法案を作る過程においては、公開の検討会等は行われず、パブリック・コメントは行われなかった。
福島第一原発事故という未曾有の人災を経験し、賠償等の費用は最終的には国民がその多くを負担させられる可能性があるのにもかかわらず、見直しプロセスに、原発事故被害者や国民がかやの外に置かれ、その声が十分に反映されなかったのは、問題が大きい。
4. 損害賠償措置額を引き上げるべき
福島第一原発事故における被害者への賠償費用は8兆円、除染費用は約6兆円となり、賠償に要する見込み額は総額14兆円となっている(経済産業省東京電力改革・1F問題委員会平成28年12月20日報告書)。賠償措置額の1200億円は、この100分の1以下に過ぎず、原賠法第6条でいう「原子力損害を賠償するための措置」としては全く不十分である。
何よりも問題なのは、原子力事業者が、これを超える賠償については、支援機構を通じて国が援助してくれると認識していることである。原賠法上,一見,損害賠償責任は電力会社にあるということで整理されているようにみえるが,「国が援助する」という文言が最終的な責任をあいまいにしている。電力会社は国が,国は電力会社が,それぞれ最終的な責任を引き受けるだろうと解釈することが可能になっている。この問題については,原賠法成立当時からすでに指摘されていた。しかし,国は一民間企業に資金を投入するのは不適切であるという姿勢を崩さず,電力会社は「国の援助」に楽観的な解釈を施したまま,原発事故を迎えた。このような責任の所在のあいまいさゆえに,電力会社は最終的な責任を引き受ける心づもりをしていない。
たとえば、以下は、本年7月20日に開催された島根原発3号機の新規制基準適合性申請に関する住民向け説明会の議事録より、中国電力の発言である。
現状この制度により,上限1,200億円を超えた場合は,国が補てんすることになるが,我々も一定額の拠出をしている。福島事故以降,原子力損害賠償・廃炉等支援機構という組織ができており,現状の東京電力の復興は,この機構に私たちが拠出するお金を使って進められている。東京電力はこの制度の中で復興の費用を拠出しているが,電力会社もこの制度に沿って,年間20数億円程度拠出している。補償はこの制度を使って電力会社と国が行うことになっている。 |
中国電力は、あたかも現在電力会社が払っている負担金が将来の賠償のためであるかのように説明しているが、実際は、現在の福島第一原発事故の賠償にあてるためのものである。
また、電力事業者が、支援機構に一定の負担金を支払っていることは確かであるが、それだけではなく、前述のように相当額を交付国債の形で国が交付し、また政府保証による借入を行っていることを忘れてはならない。
さらに、電力事業者による負担金は、電力料金へ上乗せされ、結局、電力消費者に転嫁されている。一部は、原発を使っていない新電力からも徴収される。さらに、過去に賠償措置を行わなかったためと「過去分」として託送料にものせられようとしている。
賠償措置を行わなかったのは原賠法の不備であったのにもかかわらず、将来の世代も含めた国民にコストが転嫁されようとしているのである。
原賠法の不備は国の重大なミスとして指摘されている。たとえば,東京電力改革・1F問題委員会は「原発事故への対応に関しては準備不足」(20頁)と明記し,経済産業省の「電力システム改革貫徹のための政策小委員会 中間とりまとめ」でも「原子力損害賠償法の趣旨に鑑みれば,本来,こうした万一の際の賠償への備えは,1F事故以前から確保されておくべきであったが,政府は何ら制度的な措置を講じておらず(=制度の不備)」(経済産業省(2017),18-19頁)と断言している。この不備を放置することは許されず,適切な対策(すなわち,十分な損害賠償措置額の導入)を採用するべきである。
今国会で賠償措置額を据え置いて、将来万が一事故が起こった時、「あのとき十分な備えをしていなかったから」として、さらなる負担を将来世代も被害者も、原発からの電気を選択しない人も含めた国民に強いるのだろうか。それはあまりに理不尽である。
政府は、賠償措置額を据え置く説明として、以下のように説明している。
① 民間責任保険については、国内外の保険市場の動向を勘案すれば、当面、現行の引受限度額を引き上げる状況にはないと考えられる
② 電力システム改革の進展(事業者間の競争関係の激化や総括原価方式の見直 し等)による原子力事業者の事業環境の変化を見極める必要がある
③ 東電福島原発事故後に導入された新しい安全規制への対応や事業者による自主的な取組等によって安全性が向上し、原子力発電所等での事故発生リスクの低減が見込まれており、その評価を見極める必要がある
②については、経営環境や競争が厳しいことは、事故の備えをしない理由とはならないし、そもそも原子力事業者のみを従来と同様手厚く保護することは、自由で公平な競争の妨げとなり、電力自由化の趣旨に反する。
③については、「新規制基準の導入や原子力事業者の自主努力により、十分事故が防げる」と保険会社が評価すれば、引き受け限度額の引き上げ可能だという意味だろうか。実際に保険市場がそのような評価をするかは疑わしいが、そうであれば、再度、評価を依頼すべきだろう。
①については、原子力委員会事務局の説明によれば「保険会社に査定を依頼したわけではないが、日本原子力保険プールからも委員になってもらっていただき、『引き上げられない』という意見をいただいた」とのことだった。
すなわち、保険市場が引き受けることができない、もしくは引き受け可能だとする限度額の100倍以上もの被害をもたらし、今後ももたらす可能性のある原発をこのまま続けるのか、ということになる。
これについては、狭い専門部会における議論では明らかに不十分であり、幅広い国民的議論が必要であろう。
仮に続けるのだとすれば、原子力事業者がそれに見合う額をあらかじめ準備し供託するしかないのではないか。
5. 原賠法の目的(第1条)から「原子力事業の健全な発達に資する」を削除し、 被害者の保護のみとすべき。また、国の援助(第16条)については、支援機構における資金の流れを明らかにした上で、国民的議論を行うべき
原賠法は、賠償について定めたものであり、本来、被害者保護に重点を置くべき内容である。「原子力事業の健全な発達に資する」という目的が「被害者の保護」と同列に扱われることはおかしい。この文言が、前述のように、本来、原子力事業者が担うべきコストを、将来世代も含めた国民全体で負担するという歪みを許すことにつながっているのではないか。
また、第16条(損害が賠償措置額を超えるときの国の援助)については、現在の支援機構における資金の流れをすべて明らかにした上で、国民的議論を行い、どのような場合に国が援助するのか社会的なコンセンサスを得る必要があると考える。
原子力事業者の経営者、株主、債権者はその責任を果たすべきであるという意味では、原子力事業者の法的整理を行い、ぎりぎりまでの賠償支払いを行った上で、国が残った分の賠償を行うべきではないか。原子力事業者の法的整理に当たっては、被害者が優先的に請求権を得るなどの措置を検討すべきであろう。
6. 原子力事業者以外への求償ができるようにすべき
現行の原賠法は、原子力事業者以外への損害賠償の求償に制限がかけられている。原子炉メーカーをはじめとする原子力産業が原子力損害賠償の責任を免じられている。求償できるようにすべきである。
7. 原子力事業者に原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)和解案の受諾義務を課すべき
東電福島第一原発事故において、被害者に対する現実の賠償は、原子力損害賠償紛争審査会が策定する指針にそって東京電力が策定する賠償基準にもとづいて行われている。実際の賠償の支払い額を決めるのは加害者である東京電力となっている。
また、賠償指針は、避難区域外以外からの避難者の賠償がごく一部しか認められない、自然的・社会的基盤が失われる「ふるさと喪失」損害や、放射性物質による汚染などの被害が含まれていないなど、不十分である。
放射性物質は長らく環境基本法の対象外となっており、他の公害原因物質と異なる扱いになってきた。放射性物質の拡散による汚染を規制する法律がないのが現状である。この点に関しては、別途立法が必要であると考える。
このように被害者が不利な状況に置かれている中、被害者が裁判によらずして、短期間に東電との和解を達成できるように、 審査会の下に置かれた原賠ADRセンターが和解の仲介を実施している。
東京電力は、「ADRの和解案の尊重」を約束しているが、実際はADR和解案を再三にわたって拒否している(浪江町、飯舘村、相馬市 etc.)。
浪江町住民1万5700人のADR集団申し立て(2013年1月31日申し立て、2018年4月5日打ち切り)では、東電が6度にわたり和解案を拒否した。今年10月までに申し立てを行った住民のうち、高齢者など900人以上の住民が亡くなった。11月27日、浪江町住民109人は、東電と国を相手取り、福島地裁に提訴した。東電に対しては、早期解決を目的にした和解案を拒否されたことに伴う精神的苦痛に対する慰謝料も求めている。
長期の時間を要する裁判は、住民に多くの苦痛と負担を与える。
ADR和解案が著しく不合理なものでない限り、原子力事業者にその受諾義務を負わせることが必要と考える。
政府は、以下の理由で原子力事業者のADR和解案の受諾義務付けを見送ったとしている(衆議院文部科学委員会2018年11月21日柴山文部科学大臣答弁)。
①被害者が拘束力のある手続きを望まない場合がある
②原子力事業者の裁判を受ける権利が制限される
③原子力事業者に義務付ける賠償の実施方針の中に、「ADR和解案の尊重」を盛り込ませる
②については、日弁連の意見書にもある通り、「原子力事業者が一定期間内に裁判を提起しない限り、和解内容を受諾したものとみなす」という規定にすればよいのではないか。
③については、東電は、3つの誓いとして「ADR和解案の尊重」をうたっているが(「損害賠償の迅速かつ適切な実施のための方策」)、実際は前述のように和解案拒否を繰り返している。
①については、果たしてそうだろうか? 実際に政府は、原発事故被害者の意識調査をしたのだろうか。むしろ東電がADR和解案を拒否したり、東電に拒否されることを恐れるADRが東電の顔色を窺い、東電に有利な和解案を提案したりすることに、苛立ちと苦痛、絶望を感じる被害者の方が多いのではないか。
8. 損害賠償実施方針の作成・公表の義務付けについて
最後に、政府案の「損害賠償実施方針の作成・公表の義務付け」について意見を述べたい。
法案では、「原子炉の運転等を行う原子力事業者は、原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施を図るための方針を作成しなければならない」(第17条の2)、「第十七条の二第三項の規定による公表をせず、又は(新設) 虚偽の公表をした者は、二十万円以下の過料に処する。」(第27条)とのみ記されており、詳細については書かれていない。
しかし、これでは、内容が十分であるかが問われないこととなってしまう。第六条の原子力損害賠償措置と同様に、「原子力事業者は、損害賠償方針を作成・公表していなければ、原子炉の運転等をしてはならない」とし、損害賠償方針に盛り込むべき項目について明記すべきである。それを第三者が確認し、不十分な場合は原発を運転してはならないという規定を盛り込むべきと考える。
結論:現在の支援機構を介した賠償資金の流れを精査し、原賠法の目的、賠償措置額引き上げ、原子力事業者の責任、国の責任・援助のあり方、ADRの実効性の確保などに関して国民的議論を行い、法案の抜本的改正を行うべきである。
添付:原子力市民委員会「声明: 原子力事業者の責任を明確にし、被災者に対して適切な賠償を行うために原子力損害賠償法の抜本的見直しを求める」
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