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声明:福島原発事故から6年~国策が被害者を追いつめる
2011年3月11日の東日本大震災に端を発した東京電力福島第一原発事故。6年たった今も事故はまだ続いており、私たちは長期にわたる未曾有の原発災害に直面しています。
被害は多岐にわたり複雑です。広範囲にわたる放射能汚染により、自然のめぐみとともにあった人々の暮らしは失われ、様がわりしてしまった地域も多々あります。生業や生きがいの喪失、狭い仮設住宅での避難生活、家族やコミュニティの分断、健康リスクと不安の増大、避難先での偏見やいじめ…。
こうした中、「復興」の名のもとに進められる国策が被害者を追いつめています。
1.区域外避難者の住宅提供打ち切り
政府は被ばくによる健康リスクを否定し、年間20ミリシーベルトを基準として避難指示区域を設定。区域外の避難者は賠償のあてもなく、自力での避難を強いられました。社会的な認知が伴わない避難により、あたかも「勝手に逃げた人たち」というような見方をされ、避難先でもいわれのない誤解に苦しんでいる人たちも多いのです。これらの人たちへの唯一の公的支援ともいえる、災害救助法に基づく住宅提供が、この3月末で打ち切られます。しかし少なからぬ人たちが4月以降の住居が見つかっていません。
こうした事態に、人道的立場から、公営住宅への入居延長や、専用枠、家賃補助などを打ち出した自治体もありますが1、避難先によって対応に格差がでています。民間賃貸住宅に入居した避難者についてはその全貌が把握されていませんが、管理会社に高いハードルを課され、事実上追い出し圧力をうけているという事例もあります。たび重なる避難者たちの切実な訴えにもかかわらず、国も福島県も、「もう決まったこと」とばかりに住宅提供打ち切りの政策を撤回することはありませんでした。
「原発事故子ども・被災者支援法」では、被災者が居住・避難・帰還のいずれを選択することが可能なように国が必要な支援を行うこととされ、その中に避難先における住居の確保も明記されています。しかし、国はその責任を果たしていません。
2.帰還促進政策は「復興」ではない
国は、「復興加速化」の名のもとに、避難指示区域を続々と解除し、帰還促進政策を進めています。すでに田村市都路地区、南相馬小高地区、川内村、楢葉町、葛尾村の避難指示区域(帰還困難区域を除く)が解除され、3月31日には浪江町、飯舘村、川俣町が、4月1日には富岡町の政府指示避難解除準備区域、居住制限区域が解除になります。
しかし、避難指示解除にあたって、避難者の意見は反映されていません。そのせいか、すでに解除された地域でも帰還者は決して多くはありません2。
避難指示解除についての各地の説明会では、多くの人たちが、「解除は時期尚早」「解除すべきではない」と発言しています。一方で、生きがいがなくなり、狭い仮設住宅でじっとしている高齢者もおり、これ以上の「避難」は限界と感じている人も多いのも事実です。これは、長引く原発災害に対応した長期避難の体制が十分構築できなかったことを物語っています。
復興庁や関連自治体が避難区域の住民を対象に実施している、帰還に関する意向調査によれば、避難区域内の多くのの住民が「戻らない」、「まだ判断がつかない」と回答しています3。また、「帰還する」としているのは、高齢者の1~2人世帯が多く、若い世代は帰ってきません。避難指示が解除されても、空き家が多く、高齢者がぽつりぽつりと住む地域になってしまうでしょう。
「復興」を人々が元の暮らしを取り戻し、幸せにくらすことであるとするならば、現在政府が進めている拙速な帰還政策は、「復興」とは程遠いものです。
3.「被ばく」「健康リスク」を語れぬ空気
現在、福島県内で、「被ばく」「健康リスク」を語ることがタブー視され、不安を感じることがむしろ健康によくないという宣伝がなされています。
一方、県民健康調査においては、事故当時18歳以下の子どもたちで甲状腺がん悪性または疑いと診断された子どもたちの数は184人、手術し、がんと確定した子どもたちは145人となっています。
FoE Japanも設立に協力した「3・11甲状腺がん子ども基金」では、東日本の15の都県の甲状腺がんの子どもたちに療養費を給付していますが、福島県外でも、検診体制が不十分なため発見が遅くなり、肺転移など重症化しているケースが目立っています。
「事故との因果関係はない」とはじめから否定するのではなく、予防原則のもとで、国が責任をもって検診や医療体制の充実などが必要とされています。
人間のための復興を
現在、除染やインフラ、事故由来の放射性廃棄物の減容化施設などに多額の予算がふりわけられています。その中には効果が不明確なもの、環境への影響が甚大であるもの、住民の反対が多いものなどもあり、見直しが必要です。一方で、除染以外の被ばく対策はほとんど行われておらず、保養も民間団体がほそぼそと行っているにすぎません。
「復興」の名のもとに、避難者を減らし、被ばく影響を否定することによって、原発事故被害者はむしろ追いつめられています。被害を過小評価せず、事故の責任を明らかにし、被害者が生きがいと尊厳をもってくらせるような措置を講じることが、求められています。
注:
1 現在の公営住宅(無償)の入居期限の延長…北海道、札幌市、京都府、伊勢市、鳥取県、鳥取市、米子市など
公営住宅の無償提供…山形県など
公営住宅の「優先枠」「専用枠」の設定…東京都、埼玉県など
引っ越し費用の補助…秋田県、山形県、新潟県など
家賃補助…新潟県、沖縄県など
2 2015年9月5日に避難指示が解除された楢葉町においては、2017年3月3日現在、16.4%の帰還にとどまっている(楢葉町発表)。
3 2017年4月1日に避難指示解除が決まった富岡町では、2016年10月に発表された政府の意向調査(回答率46.3%)によれば、「戻りたいと考えている」は全体の16%。この割合は高齢者ほど高い。一方、「戻らないと決めている」は30代が最多。
「戻りたい」のうち、「時期は決めていないがいずれはもどりたい」が37.5%。さらに、解除後すぐに帰還する世帯の構成は、1~2人世帯がほとんどだ。
「帰還の判断がつかない」あるいは「戻らないと決めている」理由として「原子力発電所の安全性に不安があるから」「医療環境に不安があるから」「家が汚染劣化し、住める状況ではないから」などが上位にあがっている。