放射性物質の拡散
【ファクトシート】除染土再利用・埋め立て処分…二本松、飯舘村長泥地区、栃木県那須町の実証事業
環境省は、8,000ベクレル/kg以下の除染土を飛散防止・覆土などをした上で公共事業や農地造成などで再利用を行う方針を策定し、実証事業を行っています。
また、 環境省は福島県外の汚染状況重点調査地域の除染土計 33万m3を埋め立て処分するため、現在、栃木県那須町、茨城県東海村で実証事業を進めています。 環境省はこの結果を踏まえて、「放射能汚染対処特別措置法」の施行規則・ガイドラインを策定しようとしています。
しかし、この方針は、放射性物質の集中管理が基本であるのにもかかわらず、環境中に拡散することを許容することにつながります。各地で進められている実証事業のファクトシートをまとめました。
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飯舘村長泥地区における除染土再利用実証事業(農地造成) | ||
栃木県那須町における除染土埋め立て実証事業 |
ファクトシート:福島県二本松市における除染土再利用実証事業
【背景】
環境省は、推定2,200万m3の除染土の全量を最終処分するのは困難とし、そのうち 8,000ベクレル/kg 以下の除染土を飛散防止・覆土などをした上で公共事業や農地造成などで再利用を行う方針を策定。 現在、実証事業を行っている。
【概要】
福島県二本松市で実施予定であった除染土を農道の路床材に使う実証事業が、市民の反対によって実質撤回となった。
二本松市原セ才木地区で約200 メートルの農道を掘削し、近くの仮置き場に積まれた除染土 500 袋を、袋から出して路床材として埋め、 50cm程度の覆土を行うというもの。放射線モニタリング、飛散・流出の防止等の環境対策を実施し、一定期間モニタリングする予定であった。
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環境省「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」( 2018年3月29日)資料より |
【契約】 委託先:除染・減容事業協同組合(のちに契約解除に) 金額: 3 億 5,208 万円 (注1)
【経緯】 (注2)
2016 年 11 月 環境省が二本松市における実証事業実施の可能性を聴取
2017 年 2 月 地元行政区から実証事業について「了承」→ 二本松市と環境省で事業内容の検討
10 月 6 日 地元行政区説明会において実証事業について了承
12 月 5 日 二本松市議会議員協議会において事業概要を説明
12 月 27 日 周辺行政区に事業概要を回覧(全 39 班、計 341 世帯)
2018 年 2 月 二本松市における実証事業の企画競争公示 3 月 29 日契約
2018 年 2 月 20 日 地元市民団体(東日本大震災・原発事故救援・復興二本松市民共同センター)が環境省福島県事務所に実証事業の白紙撤回を求める要請と質問を提出
3 月 地元市民団体(「共同センター」「みんなでつくる二本松・市政の会」)が、まさのあつこ氏を講師とした勉強会を開催
4 月 16 日 地元市民団体が「STOP!汚染土再利用」のぼり旗設置 チラシ 2 万枚を市内全域各戸に配布
4月 18 日 環境省 原セ行政区説明会
4月 26 日 岳下住民センターにて環境省が原セ・永田区長会の要請で事業説明会開催
5月 近隣で生産された家畜用発酵飼料の取引をキャンセルする動き =実害の発生状況も明らかに
5月21日 地元市民団体が実証事業の撤回を求める署名を環境省に提出
6月11日 FoE Japan が、除染土再利用方針の撤回を求める署名を環境省に提出。環境省交渉に地元市民団体からも参加
6月25日 環境省、二本松市長に対して「複数回の説明会において、風評被害への懸念など多数 のご意見をいただいたことを踏まえ…請負業者との 契約解除に向け調整することとしたい」と説明。実質撤回の意向表明。翌日、同様のお知らせを配布。
9月1日 「共同センター」「みんなの会」除染土利用撤回に関する報告集会開催
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写真左 実証事業が予定されていた農道 2018年7月27日 撮影 FoE Japan |
【住民があげた問題点】(注3)
・原セ才木地区の 21 戸の中で9戸しか参加していない中で、説明会が開催され、「地元了解」ということにされてしまった。
・透明性がなかった。場所が選定された経緯も不明。
・いまある除染土の仮置き場は、地元住民のたいへんな葛藤の中で決まった。”中間貯蔵施設に運ぶ”という約束であった。実証事業は、最終処分地になってしまう。約束違反になる。
・実証事業は、 800 億円をかけて除染した土を、また 3 億 5,000 万円かけてもとに戻すもので合理性がない。同じ距離の農道を舗装するのならば 100メートル当たり260 万円ですむ。
・周辺は農地。農道の脇には水も流れている。放射性物質の拡散が心配。
・土を全量はかるわけではない。袋の表面の汚染密度だけである。モニタリングとしても不足。
・このような実証事業により、全国展開することは問題である。
【主な参考資料】
FoE Japan 「市民の力で、<汚染土再利用実証事業>を撃退!~二本松より」( 2018 年 9 月 2 日)
https://foejapan.wordpress.com/2018/09/02/0102/
みんなでつくる二本松・市政の会事務局「ふるさとを汚染土で汚すな! 環境省「放射性汚染土壌再生利用」実証事業に待った 広がった市民の声と運動でストップに」 ( 2018 年 9 月 1 日)
環境省「 除去土壌再生利用実証事業について 」( 2018 年 3 月 29 日)
注1)福島地方環境事務所 調達情報 https://fukushima.env.go.jp/procure/upload/18-1000074220.pdf
注2)環境省 「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」資料および 2018年9月1日付「みんなの会」事務局作成資料をもとに作成
注3) 2018年9月1日集会報告および住民との会合より作成
ファクトシート:飯舘村長泥地区における除染土再利用実証事業
【背景】
環境省は、推定2200万m3の除染土の全量を最終処分するのは困難とし、そのうち8,000ベクレル/kg以下の除染土を飛散防止・覆土などをした上で公共事業や農地造成などで再利用を行う方針を策定。現在、実証事業を行っている。飯舘村では「特定復興拠点区域復興再生計画」の一部である「環境再生事業」に先立ち実証事業を行っている。
【概要】 (注1)
飯舘村村内の除染土3万袋を長泥行政地区に設置されたストックヤードに運び込み、必要量を再資源化施設において破袋、異物除去、放射能濃度分別を行い、5,000Bq/kg以下のものを使って、比曽川沿いの農地を嵩上げし、50cmの覆土を行い、農地造成を行う。園芸作物、資源作物を栽培する。空間線量率や地下水等のモニタリングを行う。実証事業における農地造成は0.1ha。実証事業には、再生資材化施設建設、除染土の再生資材化、農地造成、試験栽培、計画策定・測量、モニタリングを含む。
実証事業のあと、より拡大したエリア(34ha)内で農地造成を行う(環境再生事業)。これらは、飯舘村「特定復興拠点区域復興再生計画」の一部として実施される。専門的・実務的見地から意見を聴取することを目的として、「飯舘村長泥地区環境再生事業運営協議会」(注2)が設置された。
【期間】実証事業は2018~2019年度。特定復興再生拠点事業は、2023年5月まで。
上左図:実証事業エリア 上右図:環境再生事業候補地 環境省説明資料より
上図:実証事業イメージ 環境省説明資料より
【モニタリング】
空間線量調査、土壌汚染調査(再生資材化ヤード、仮置き場)、水質調査(地下水の上流、下流に観測井戸を設置)、大気中の粉塵調査、作業員の個人被ばく線量、大型土のう袋についてはストックヤードで重量、表面線量率の測定。抜き取り検査で放射能濃度などを測定。
【契約】
金額:再生資材化・農地造成…7.2億円 試験栽培…2.1億円 計画策定…金額は未定
委託先:農地造成については、「除去土壌等減容化・再生利用技術研究組合」
協議会運営は、三菱総研。
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【経緯】
2017年11月11日 飯舘村 長泥行政区臨時総会において環境再生事業を了承
11月20日飯舘村が環境省に対し、環境再生事業の実施を要望
11月14日 飯舘村議会 全員協議会において環境再生事業を了承
11月20日 飯舘村から環境省に対し環境再生事業実施の要望書を提出
11月22日 飯舘村、同村 長泥行政区及び環境省で環境再生事業実施について確認
2018年1月28日飯舘村長泥行政区臨時総会において事業説明
3月25日飯舘村長泥行政区総会において事業説明
4月20日飯舘村特定復興再生拠点区域復興再生計画認定
6月3日飯舘村長泥地区を対象とした事業説明会
【問題点】
・ 実証事業が、居住地域の除染を含む特定復興拠点計画と「セット」で提案された。住民にとっては、実証事業自体のメリット・デメリットについて意見を言う状況にあったかどうかは疑問。
・ 実証事業の詳細が不明。
・ モニタリング計画不明。委託先任せになっている。
・ 実証事業で、どのように「安全性」を確認すのか不明である。放射線量や放射性物質濃度のバックグラウンド値の高い地域における実証事業により、「安全性」が確認できるのか。また、たった2年間のモニタリングで、長期にわたる放射性物質の拡散は捕捉できないであろう。
・ 河川沿いである。コンクリートの擁壁をたてる等の防護を行うとしているが、河川への放射性物質を含んだ土壌の流出が問題となる。
・ 実証事業・環境再生事業後、放射性物質が埋まっていることを前提とした長期にわたる管理体制がとれるのか。環境省は責任をとれるのか。
・ 「環境再生」事業と名付けているが、「環境再生」の定義、基準がない。
・ そもそも論であるが、農地造成事業に除染土を使うことにより、放射性物質の環境中への拡散を許容することになる。
【参考資料】
環境省「除去土壌再生利用実証事業について」中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会(第8回)資料
https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_180329_03.pdf
飯舘村長泥地区環境再生事業運営協議会(第1回)資料(2018年8月27日)
https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/recycling/pdf/recycling_iitate_1808.pdf
注1)飯舘村長泥地区環境再生事業運営協議会資料(平成30年8月27日)および2018年10月9日における環境省との会合での説明、環境省提供資料による。
注2)設置要綱および名簿は、こちらから参照できる。
https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/recycling/pdf/recycling_iitate_1808.pdf#page=3
ファクトシート:栃木県那須町における除染土埋め立て実証事業
【背景】
環境省は福島県外の汚染状況重点調査地域の除染土計 33 万m 3 を埋め立て処分するため、現在、栃木県那須町、茨城県東海村で実証事業を進めている。この結果を踏まえて、「放射能汚染対処特別措置法」の施行規則・ガイドラインを策定予定。
【概要】
那須町伊王野山村広場内旧テニスコート内に地下保管してある除染土壌約 350m 3 を袋から取り出し、埋め直すもの。 30cm の覆土を行う。除染土の埋め立ての下部には集水砂層とその下に遮水シートを設置。浸透水を収集した上で測定。ゼオライト・活性炭などで処理し、側溝に放水する。
環境省は、福島県外の除染土壌の放射性セシウムの中央値は 800Bq/kg 、約 95 %は 2,500Bq/kg 以下としているが、実際に埋め戻す土に含まれているセシウム量は現段階では不明。
上図:実証事業計画図(断面図)
【期間】契約期間 2019 年 3 月まで。
【モニタリング】収集した浸透水の放射性セシウム濃度、周辺の空間線量率の測定、エアサンプリングなど。詳しくは以下仕様書の p.7 以降を参照
https://www.env.go.jp/kanbo/chotatsu/N8720si2.pdf
【契約】
株式会社環境管理センターが受託。 83,160,000 円
【経緯】 (注1)
2017 年年9月 第一回 除去土壌の処分に係る検討チーム開催 ・除去土壌の埋立処分の実証事業を実施することを決定
9 月~ 12 月 関係自治体に対し、埋立処分の実証事業について連絡し自治体の意向を確認
12 月 第二回 除去土壌の処分に係る検討チーム開催 ・埋立処分の実証事業において確認すべき項目について決定
12 月 那須町議会の災害対策協議会で、町から説明。
東海村、那須町から環境省に埋立処分の実証事業を受け入れる旨回答
2018 年1月 環境省から埋立処分の実証事業の実施場所を公表
2 月 下野新聞の報道で、近隣住民が実証事業について知る。 2 日後に回覧板がまわる。
5 月 10 日 住民が環境省に説明会の実施を申し入れ
6 月 8 日 住民説明会
7 月 10 日 那須町・環境省の間で「協定書」締結
8 月 7 日 住民たちは環境省に対して、再度の説明会を行うことを要請。しかし環境省は拒否。
9 月 16 日 実証事業を行う旧テニスコートで「作業説明会」開催。
9 月中旬 実証事業開始
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実証事業が行われる那須町伊王野山村広場内旧テニスコート (2018年7月21日FoE Japan撮影) |
【問題点】
住民への説明があまりに不十分で一方的。住民に事業の詳細が知らされず、意見もききいれてもらえていない。
実際に埋め戻す除染土中のセシウムなどの放射性物質の濃度・総量が明らかになっていない。全袋調査を行うべきではないか。
実証事業の契約期間は来年 3 月までであるが、長期のセシウムの動向や環境への影響を把握するには、モニタリング期間があまりに短い。
実質的に最終処分地となってしまいかねない。実証事業後、だれがどのような管理を行うか、モニタリング体制はどのようなものになるのか不明。長期的な管理・監視体制をつくるべきではないか。
豪雨対策など、放射性物質を含む土壌の拡散を防止するための措置をとっていない。
【参考資料】
FoE Japan 「住民無視 那須町の除染土埋め戻し実証事業~このまま全国展開?」( 2018 年 9 月 4 日)
https://foejapan.wordpress.com/2018/09/04/0904/
環境省除染チーム「除去土壌の埋立処分に係る実証事業の状況」( 2018 年 9 月 3 日)
https://josen.env.go.jp/material/disposal_of_soil_removed/pdf/003/mat01.pdf
環境省ウェブサイト「那須町での実証事業」
https://josen.env.go.jp/soil/demonstration_project_tochigi_nasu.html
平成 30 年度除去土壌埋立処分実証事業等業務に係る仕様書
https://www.env.go.jp/kanbo/chotatsu/N8720si2.pdf
注1)環境省資料、 2018 年 7 月 21 日住民ヒアリング、 9 月 25 日環境省との会合をもとにまとめた。
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