eシフト
【eシフト声明】「革新的エネルギー・環境戦略」とその扱いについて
「原発ゼロ」の棚上げは許されない!
使用済み核燃料再処理を放棄し、「原発ゼロ」の早期、確実な実現を!
パブリックコメントや各地の意見聴取会、討論型世論調査などの「国民的議論」の結果を受けて、関係閣僚による「エネルギー・環境会議」は、9月14日に「革新的エネルギー・環境戦略」を決定しました。
その内容は、「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」というものです。政府がはじめて、不十分ながらも「原発ゼロ」を掲げたという点は、これまでの原発推進路線からすれば大きな前進です。原発ゼロを望む多数の国民の声が、「国民的議論」を通じて可視化され、政府を動かしたためと言えます。それでも、パブリックコメントで約8割、および福島の意見聴取会でほぼ全員が「即時原発ゼロ」を支持したことを考慮すれば、大きく後退したものです。
ところが政府は、この「2030年代に原発稼働ゼロを可能とする」との文言の入った「革新的エネルギー・環境戦略」の全文は閣議決定せず、当戦略を「踏まえて」「国民の理解を得つつ、柔軟性をもって不断の検証と見直しを行いながら遂行する」との方針のみを決定しました。早くも「原発ゼロの」の「見直し」を示唆しています。一部の財界等の圧力や原発推進勢力の抵抗を受けたものと思われますが、それは、「国民的議論」において示された「原発ゼロ」や「即時原発ゼロ」を選択した、多数の国民の意向を無視するものであり、到底許されません。
私たちは、より確実かつ早期の「原発ゼロ」実現を求めます。政府は「原発ゼロ」の方針を明確にして、「原発稼働ゼロを可能とする」ための具体的な道筋を、新しい「エネルギー基本計画」や「グリーン政策大綱」などで具体的に示していくべきです。また、この脱原発の方針を、法改正や新法制定によって確定させるべきです。
「革新的エネルギー・環境戦略」については、下記に述べるような様々な問題点と不十分さがあります。これらを正しつつ、まさに「あらゆる政策資源を投入」して確実に遂行していくことこそが重要であり、「原発ゼロ」からの後退は許されません。
「革新的エネルギー・環境戦略」の問題点
【確定的かつなるべく早期の「原発ゼロ」実現に向けて】
「革新的エネルギー・環境戦略」では「原発に依存しない社会の一日も早い実現」を掲げながら、「2030 年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」とあり、あくまでも努力目標にすぎません。
原発ゼロは、確定的にかつなるべく早期に実現するべきものです。日本列島が地震の大活動期に入ったといわれる今日、「原発ゼロ」を曖昧な形で先送りすることは非常に危険な判断です。「安全性が確認された原発は、これを重要電源として活用する」「原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ、再稼働とする」としていますが、今回の原子力規制委員会人事をめぐる議論で明らかになったように、「安全性を確認」するための原子力規制委員会の委員の大半が、これまで原子力を推進してきた原子力ムラから選ばれています。私たちは原子力規制委員会設置法の立法主旨や国会論戦で政府側が答弁した内容をきちんと守って委員の選任がやり直されるべきであると思います。それなくして原子力規制委員会に判断を委ねることは、再稼働を後押しするものになります。
また「原発の新設・増設は行わない」としていますが、枝野経産相は、「経産省としては工事許可を出した原発について変更することは考えていない」と、建設中の原発の継続を容認しています。もし「40年運転制限制を厳格に適用する」と、その原発は2050年を超えて運転されることになり、2030年代までに原発ゼロを可能にするという方針とも矛盾します。枝野発言は、この不十分である「革新的エネルギー・環境戦略」からもさらに政策を後退させるもので、強く批判されるべきです。
【核燃料サイクル政策、再処理事業は放棄するべき】
「革新的エネルギー・環境戦略」では、核燃料サイクル政策について、「引き続き従来の方針に従い再処理事業に取り組」むと、「再処理事業」を継続することを述べていますが、「原発ゼロ」を選択するのであれば、もはや意味のない再処理は直ちに終わらせなければなりません。再処理事業は、原発の燃料であるプルトニウムを取出す作業で、原発の長期の継続という方針がなければ無意味な作業となります。再処理によって高レベル廃棄物そのものの体積は小さくなるかも知れませんが、その入れ物や、その貯蔵場所、さらに再処理過程で新たにつくり出される低レベル廃棄物の体積を合算すると、廃棄物のために必要な体積は巨大に膨れ上がっています。
放射線量も減ることはなく、高レベル廃棄物と貯蔵されるプルトニウムを合算すれば同じす。原発を運転すればするほど、この核廃棄物と放射能を増やし続けていることに、しっかりと目を向けなければなりません。既に大量に貯蔵するプルトニウムをさらに増やしていくことは、核兵器拡散のリスクも高めます。
【省エネ、再生可能エネ、温暖化対策の一層の強化・拡大を】
省エネについても、発電量は2030年までにわずか10%削減、最終エネルギー消費では19%削減という小幅な削減目標にとどまっています。省エネは、エネルギー政策としても温暖化対策としてももっとも重要であり、少なくとも2030年には発電量で15%以上、最終エネルギー消費では25%以上の省エネ目標を掲げることが必要です。
再生可能エネルギーについては、2030年に発電電力量で3,000億kWhを目指すとありますが、これは事実上、発電量の30%を再生可能エネルギーにすることに相当します。実際には50%、60%にすることも可能であるとのシミュレーションもあり、より意欲的な再生可能エネルギーの導入目標を掲げるべきです。
またエネルギー消費は電力に限ったものではなく、熱利用や燃料利用も含めた目標を提示するべきです。
地球温暖化対策については、温室効果ガス排出量を、1990年比で2020年までに5~9%の削減としていますが、これは従来の日本の削減目標である「2020年25%削減」を大きく下回っています。5%であれば、京都議定書の2008?2012年の間に6%削減という目標からも後退しかねない内容です。私たちの試算では、省エネと再生可能エネルギー導入加速により、脱原発と温暖化対策は両立することが示されています。これはすでに欧州各国が実践していることでもあります。日本の景気回復や雇用の創出のためにも高い目標を掲げ、省エネルギーや再生可能エネルギーの内需を活発につくり出すという政策を積極的に推進すべきです。
【海外への原発輸出や核廃棄物の押し付けをやめ、省エネ、再生可能エネの開発・普及支援を】
「革新的エネルギー・環境戦略」では「国際社会との連携」について、「諸外国が我の国の原子力技術を活用したいと希望する場合には相手国の事情や意向を踏まえつつ、世界最高水準の安全性を有する技術を提供していく」として、これだけの事故を起こしながらも「原発輸出」等を正当化しかねない表現になっています。事実、政府は、福島原発事故後も原発輸出を推進しようとしていますが、これだけの悲惨な原発事故を起こしながら、海外に原発を輸出することなど許されません。また核廃棄物をモンゴルなど海外に輸出するということも計画されましたが、核廃棄物を海外に押し付けることも許されません。日本は、省エネルギーや再生可能エネルギーの開発・普及、そして廃炉や除染の技術開発で、国際社会と連携・協力し、途上国や新興国に対しては、原発輸出ではなく、省エネルギーや再生可能エネルギーで協力すべきです。
eシフトでは、エネルギー基本計画はどうあるべきかを検討する委員会を立ち上げ、「市民版エネルギー基本計画」を作成しました。ここに示すように、脱原発と温暖化対策を両立し、将来に禍根を残さない、安全で安心なエネルギー社会の実現をめざす計画を策定することを私たちは強く訴えます。
*脱原発・エネルギーシフトの基本計画:市民版の「エネルギー基本計画」案
>https://e-shift.org/?p=2301
>https://e-shift.org/wp/wp-content/uploads/2012/08/120829_eshift_TheAlternativePlan.pdf