エネルギー政策・温暖化対策への提言
【声明】原発・石炭火力温存で方向転換なし
Climate Justiceに向き合わない日本の気候変動長期戦略
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6月11日、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(以下、長期戦略)が閣議決定された。
(環境省HP「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の閣議決定について:
https://www.env.go.jp/press/106869.html)
日本は、温室効果ガスの大規模排出国の一つとして、気候変動に対する大きな歴史的責任を果たす必要があるにも関わらず、この責務に見合う野心的な長期戦略となっていない。
また、G20大阪サミットを控える中、議長国である日本政府には気候変動対策のリーダーシップを発揮することが期待されていたが、到底その期待に応えたとは言えない内容となっている。
民意からも現実からも乖離した今回の長期戦略は、残念と言わざるを得ない。
1. 市民や環境・社会の視点が欠如した非民主的な決定プロセス
長期戦略は、2015年に採択されたパリ協定の下、各国が国連に提出することとなっているが、G7諸国がすでに提出する中、日本とイタリアが出遅れていた。「パリ協定長期成長戦略懇談会(首相官邸)」の議論は4回分の議事録公開のみであり、市民参加の機会は最終段階のパブリックコメントだけであったことは問題である。
パブリックコメントも、募集期間が3週間と通常より短く、日本の将来に関わる重要な政策であるにも関わらず、国会での議論等がなされず閣議決定されてしまった。
2. 石炭火力を使い続ける限り「実質排出ゼロ」は不可能。「CCS/CCUなどのイノベーション」は石炭火力温存の口実にすぎない。
長期戦略は、火力発電については石炭も含めて「依存度の低減」にとどまっている。 気温上昇を1.5℃に抑えるためには「2050年までに国内削減のみで実質排出ゼロ」を掲げる必要があるという現実に逆行している。特に石炭火力発電については新規建設を即刻中止し、既存のものも2030年までに全廃する必要がある。また、CCS/CCU(二酸化炭素回収・利用・貯蔵)などのまだ実用化していない技術のイノベーション・導入が強調されているが、CCS/CCUは化石燃料の消費を前提とした技術であり、石炭火力発電の温存と表裏一体である。
今、再生可能エネルギーのコストが下がっていくことが明確に予測されている。石炭以外の石油やLNGなどについても2050年までにはゼロとし、再生可能エネルギー100%を実現すべきである。
3. 原子力発電温存は、気候変動対策をも遅らせる。
福島原発事故の被害が継続している中、事故リスクや、被曝リスク、解決不可能な放射性廃棄物の問題をかかえ、経済合理性も失われた原発を「低炭素電源」に含めるべきではない。さらに、「イノベーション」の一環として新型原子炉や核融合が言及されているが、これらも非現実的かつ多くの問題をはらんでおり、選択すべきではない。
原発への依存は大規模集中型の電力システムを固定化し、省エネルギー対策を遅らせ、分散型の再生可能エネルギーの導入を妨げる。野心的な気候変動対策のためにも、原発は早期に廃止しなければならない。
そもそも、第5次エネルギー基本計画およびエネルギーミックスは、1.5℃目標を目指すものとはなっていない。2020年のパリ協定実施を目前とした今年度、長期戦略に加えて2030年に向けたエネルギー基本計画・エネルギーミックスの大幅な見直しが不可欠である。
4. 「誤った気候変動対策」を防ぐ制度設計の必要性
前述の通り、CCS/CCUは、化石燃料の消費を前提とした未確立な技術であり、原発についても解決策のない深刻な問題を抱えている。このような解決策の見えない技術に依存する政策は、一度実行すれば温室効果ガス削減が長期的に保証される再生可能エネルギーの導入や、エネルギーコスト削減に繋がる省エネルギー政策の予算を逼迫するおそれがある。
また、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出や、生物多様性の損失を考慮しない対策も推進すべきではない。私たちは、現在、FIT制度のもとに、国内各地におけるメガソーラー等による乱開発が生じ、海外で天然林や泥炭地の破壊を伴うようなパーム油や木質資源が、バイオマス発電のために日本に大量に輸入されようとしている現実に懸念をもっている。気候変動対策を推進する際、ライフサイクルにわたる温室効果ガス排出評価、十分な環境社会影響評価、人々の参加、情報公開を担保するための制度設計を行うべきである。
5. インフラ輸出偏重の支援策ではなく、すでに生じている損失や被害への資金・技術支援や、コミュニティのニーズに沿った支援策の提示を。
現在、日本は石炭火力を含め海外の多くの化石燃料事業に公的支援を行っており、環境・社会影響が問題となっている。
また、これまで化石燃料をはじめ多くの資源を消費してきた日本には、より大きな気候変動への歴史的責任がある。この歴史的責任を果たすため、国内における温室効果ガスの大幅削減だけでなく、途上国における緩和・適応策への支援、またすでに生じている損失や被害への資金・技術支援が求められている。しかし、今回閣議決定された長期戦略では、エネルギーインフラ輸出のみが強調されており、途上国における緩和・適応策への支援、またすでに生じている損失や被害への資金・技術支援について言及されていない。
日本は、化石燃料関連事業への公的支援は早急にやめ、持続可能でコミュニティのニーズやFPIC(自由意志による、事前の、十分な情報に基づく合意)に基づいた支援へと切り替えなければならない。
[注]Climate Justiceとは、Climate Justice (気候の公平性)とは、先進国に暮らす人々が化石燃料を大量消費してきたことで引き起こした気候変動への責任を果たし、すべての人々の暮らしと生態系の尊さを重視した取り組みを行う事によって、化石燃料をこれまであまり使ってこなかった途上国の人々が被害を被っている不公平さを正していこうという考え方。
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●「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」に係るFoE Japanの提言・声明等はこちら
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