エネルギー政策・温暖化対策への提言
【声明】Climate Justiceを実現する気候変動長期戦略を
原発を使わず「2050年までに脱炭素」が不可欠
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★5/9(木)14-16時 日本の2050年長期戦略―持続可能社会への具体的な道筋を https://e-shift.org/?p=3691
2015年に採択されたパリ協定の下、各国は2020年までのできるだけ早期に気候変動対策長期戦略(以下、「長期戦略」)を国連に提出することとなっており、4月23日にその案文である、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)」が示された。2016年度の環境省・経産省での議論を経て2018年8月に「パリ協定長期成長戦略懇談会(首相官邸)」が設置されたが、公開された会合は4回で、市民参加の機会も最終段階のパブリックコメントのみにとどまったことは極めて問題である。「長期戦略案」は産業・経済の視点が強調されすぎ、市民や環境・社会の視点が欠如している。
日本は、温室効果ガスの大規模排出国の一つとして、また先進国としての気候変動への歴史的責任から、野心的かつ具体的な長期戦略を提出する必要がある。
FoE Japanは、これに逆行する不十分な「長期戦略案」に反対し、気候正義「Climate Justice」の視点に立った修正を強く求める。
1. 1.5℃目標実現には「2050年に排出実質ゼロ」が不可欠。
2. 省エネルギーを大きく進めた上で、少なくとも電力分野においては、持続可能な形での再生可能エネルギー100%化が必要である。
3. 原発を低炭素電源とすべきではない。脱原発の明記を。
4. CCS/CCU(炭素回収・貯留/利用)等は気候変動対策として位置づけるべきでない。
5. 地元の状況に沿わないインフラ輸出はすべきでない。海外での支援事業は、持続可能で人権に配慮した形で進めなければならない。
6. 消費のあり方やライフスタイルを含め、抜本的なシステム・チェンジが必要である。エネルギー・資源自立型の地域づくりが標準となる社会に向けて方向転換を。
7. 1.5℃目標を実現する長期戦略のために、エネルギー基本計画・エネルギーミックスの見直しは不可避である。
1. 1.5℃目標実現には「2050年に排出実質ゼロ」が不可欠。
2018年10月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表した1.5℃目標に関する特別報告書(以下、「1.5℃特別報告書」)は、世界の平均気温が産業革命期以前の水準より1.5℃上昇した場合と2℃上昇した場合の影響には大きな差があり、また、1.5℃までに抑えるためには、世界全体の人為的なCO2排出量を2030年までに約45%削減、2050年頃までには正味ゼロにする必要があることを示した。
長期戦略案では「2050年までに80%削減、今世紀後半のできるだけ早期に脱炭素」にとどまるが、これでは不十分である。「2050年までに国内削減のみで実質排出ゼロ」を目指さなければならない。
温室効果ガスの排出量削減行動が遅れた場合、先進国と途上国の不公平をさらに大きくさせる可能性がある。全世界での取り組みが必要であることは当然だが、その中での日本の役割、すなわち先進国としてより踏み込んだ削減が必要であることを明確に示すべきである。
2.省エネルギーを大きく進めた上で、少なくとも電力分野においては、持続可能な形での再生可能エネルギー100%化が必要である。
パリ協定の実現のためには、温室効果ガスの排出が大きい発電部門での脱炭素化が必要である。特に石炭火力発電は最も多くのCO2を排出する。石炭火力発電所を今から新設した場合、平均的施設寿命(約40年)を考慮すると2050年を超えて稼働を続けることになり、長期間にわたりさらなる温室効果ガス排出を固定(ロックイン)し、パリ協定との整合性を欠くことになる。
長期戦略案は、火力発電については石炭も含めて「依存度の低減」にとどまっている。石炭火力発電については新規建設を即刻中止し、既存のものも2030年までに全廃する必要がある。石炭以外の石油やLNGなどについても、2050年までにはゼロにすべきである。
大幅な省エネを前提としたうえで、2050年には発電部門を100%再生可能エネルギーとすることを明記すべきである。再エネ推進に際しては当然、生態系に配慮し、地域分散型で市民参加が可能な形で行わなければならない。
3. 原発を低炭素電源とすべきでない。脱原発の明記を。
気候変動対策として重要な位置づけとされている「非化石電源・低炭素電源」には、現状、原子力と再生可能エネルギーが当てはまるとされているが、原発は低炭素電源に含めるべきではない。原子力発電がCO2を出さないのは運転時のみであり、それ以上に燃料輸送や通常運転、使用済核燃料の処理過程での放射能汚染、核のごみなど解決策のない深刻な問題を抱えている。すでに生じている放射性廃棄物も将来世代への大きな負担として残る。その上、事故のリスクと万一事故が起こった場合の被害損失は計り知れない。福島第一原発事故の痛切な反省に基づき、また環境・持続可能性の観点から、原子力は「気候変動対策」として位置づけるべきではないことは明らかである。長期戦略では、既存の原発の廃止を明記すべきである。
さらに、「イノベーション」の一環として新型原子炉の開発が言及されているが、これらも同様に選択肢ではない。開発の中止を明記すべきである。
4. CCS/CCU(炭素回収・貯留/利用)等は気候変動対策として位置づけるべきでない。
長期戦略案には、大きなリスクを孕み検証も不十分な技術が含まれている。CCS/CCU(炭素回収・貯留/利用)は、回収した炭素を貯留するために多くの土地を必要とする。次世代への負担となるほか、コストが高く商業利用には見通しが立っていない。また、これらの技術や水素が、化石燃料や原発の利用と表裏一体で推進されていることが大きな問題である。
1.5℃特別報告書では、こういったリスクを抱えた技術に頼らずに全体のエネルギー需要を下げることが可能であるシナリオも示されている。
5. 地元の状況に沿わないインフラ輸出はすべきでない。海外での支援事業は、持続可能で人権に配慮した形で進めなければならない。
これまで化石燃料をはじめ多くの資源を消費してきた日本を含む先進国には、より大きな気候変動への歴史的責任がある。この歴史的責任を果たすため、日本には国内における温室効果ガスの大幅削減だけでなく、途上国における緩和・適応策への支援、またすでに生じている損失や被害への資金・技術支援が求められている。それと同時に、資金の流れや開発支援も、人権や持続可能性の観点から見直されるべきである。
しかし、日本は現在、石炭火力を含め海外の多くの化石燃料事業に公的支援を行っており、環境・社会影響が問題となっている。化石燃料関連事業への公的支援は早急にやめ、持続可能でコミュニティのニーズやFPIC(自由意志による、事前の、十分な情報に基づく合意)に基づいた支援へと切り替えなければならない。長期戦略案で示されている「インフラ輸出の強化」は、これと逆行する大規模インフラの輸出が意図されており、抜本的に見直さなければならない。
6. 消費のあり方やライフスタイルを含め、抜本的なシステム・チェンジが必要である。エネルギー・資源自立型の地域づくりが標準となる社会に向けて方向転換を。
長期戦略案では技術の「イノベーション」が強調され、それに頼るかたちとなっている。しかし、述べてきたように不確実・持続可能でない技術開発は中止しなければならない。すでにある技術の深掘りや普及、古い機器の設備更新など、まだまだ省エネルギー・エネルギー効率化の余地は大きい。エネルギーの大量生産・大量消費を改めないまま新たな技術開発・イノベーションに頼るのは、根本的な解決にならない。1.5℃特別報告書では、今後20年でこれまでになかった規模でのシステム・チェンジが必要であり可能であるとしている。技術はすでにあり、今必要なのは長期にわたる抜本的な変革への強い政治的意思と政策である。
最大の排出部門である産業部門では、業界ごとの自主的取組のみが行われているが、これでは大幅な総量削減は担保されない。1.5℃目標を実現する長期戦略に沿った義務化や見直しが必要である。
交通部門についても、自動車の効率化だけでなく、自動車利用自体の見直しも合わせて必要である。公共交通や、徒歩や自転車等を優先するまちづくりを合わせて進めるべきである。
熱電併給やエネルギーの面的利用に代表されるエネルギーの効率化、建造物における断熱基準の義務づけなどの省エネルギーに加え、太陽エネルギーのパッシブ利用、オフグリッドの推進、熱利用の再生可能エネルギー化といったエネルギー・資源自立型の地域づくりが必要だ。
気候変動対策に取り組むことは、生活や幸福度の向上にもつながる。市民による消費やライフスタイルのあり方の変革とともに、産業界や経済界による経済活動のあり方も変革していく必要がある。
7. 1.5℃目標を実現する長期戦略のために、エネルギー基本計画・エネルギーミックスの見直しは不可避である。
1.5℃特別報告書によると、パリ協定の下で各国が策定した現状の緩和に関する国別目標(NDC)では、地球温暖化を1.5°Cに抑えることはできないだろうと言われている。また、2030年までの温室効果ガス排出量が少なければ少ないほど、2030年以降に地球の温暖化を1.5℃に抑えるための課題は少なくなることを指摘している。
1.5℃目標に向け、第5次エネルギー基本計画およびエネルギーミックスはまったく不十分であるにもかかわらず、長期戦略案の前提とされていることは大きな問題である。2030年に向けたエネルギー基本計画・エネルギーミックスは大幅に見直さなければならない。
以上
問い合わせ先:国際環境 NGO FoE Japan
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