エネルギー政策・温暖化対策への提言
Climate Justice Now!人々のくらしや人権を脅かす被害をとめるために
-日本の責任に見合う2050年長期戦略を-
2016年11月4日、パリ協定が発効し、気温の上昇を1.5℃抑えていくために世界は動き始めた。日本は一足遅れながらも11月8日に批准をしている。しかし先進国各国が現在約束している削減目標は、これまでの歴史的な累積排出責任に見合うものではなく、このままでは3℃以上の上昇が懸念される。2015年までに1℃の気温上昇が発生しているが、すでに極端現象(熱波、極端な降水、沿岸域の氾濫)によるリスクが高い状態となっており、FoE Japanでも調査・報告している人々の強制移転の増加や人権の侵害、さらには気候脆弱性に伴う国家安全保障政策への深刻な影響1が予測される。
パリ協定は、気温上昇をできる限り1.5℃までに抑えていくために、各国には目標の強化とともに、2020年までに長期戦略を提出することを求めており、COP21パリ会議後初めて開かれた2016年のG7伊勢志摩サミットの首脳宣言には「2020年の期限より十分に先立って」長期戦略を策定する文言が盛り込まれている。2016年度、経済産業省と環境省の審議会で議論が行われ、2017年3月中にそれぞれ中間報告が出される。またその後、2つの議論をもとに、日本政府の長期戦略としてまとめられる見通しである。
FoE Japanは、現在すでに起きている気候変動影響、とりわけ人々の基本的人権や生活を脅かす被害を止める観点から、先進国としての責任に見合う、また原子力と石炭火力からの脱却を明記した具体的な長期戦略の策定を求める。
先進国と途上国の削減目標とギャップ
出典:Civil Society Review, 2015
12月に示された経済産業省の「長期地球温暖化対策プラットフォーム中間整理案2」では、海外での削減が重視されている。「日本の優れた低炭素技術で世界の削減に貢献」として、JCMに加え、ODA、JBIC等の公的ファイナンスを活用していくとしている。しかし、ODAやJBIC等により進められている事業の一つに石炭火力発電技術の輸出がある。FoE Japanは特に、インドネシアやミャンマー、ベトナムなどへの石炭火力発電の輸出について、現地の状況や住民の声を調査しているが、現地の住民の強制的移住や土地収奪を伴い、環境技術も日本の水準よりも劣るものを輸出するなど問題をはらむ輸出事業も見られる。現地の住民やコミュニティを脅かし、大気汚染物質、長期的に大量な累積温室効果ガス排出量を伴う石炭火力の輸出は、気候変動対策にはならず、撤回すべきである。こうした事業も含んだ「海外での削減」は国内での削減努力を回避する口実となることも懸念される。
また国内でも、現在ある技術・取り組みでの削減について深掘りせず、石炭火力発電の新増設による新たな排出については許容しながら「イノベーション」に望みをかけることは、責任ある具体策とは言えない。
適応支援についても、日本の企業に対するビジネスチャンスとして捉えるだけでなく、現地住民の意思や主権を尊重し、自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意の原則(FPIC)などを盛り込んだ指針が策定されるべきである。
3月16日に示された環境省の「長期低炭素社会ビジョン3」は、気候変動問題を社会的脅威として、その影響への対峙を前提として掲げている。
「非化石電源」ではなく再エネのみとすべきであるが、その割合を9割に高めることは再生可能エネルギーの大幅な導入なしには達成できない。省エネや効率化を進め、石炭火力発電などに負荷をかけるカーボンプライシング(炭素の価格付け)の導入についても具体的に提案されている。環境団体も含む多様なステークホルダーとの意見交換が意識的に設けられた点も前向きにとらえられる。
しかし、審議会の中では反対意見も複数出され、また経済産業省の方針とも大きな隔たりがある。ビジョンを絵に描いた餅に終わらせず、日本の気候変動・エネルギー政策として具体化していくためには、産業界や電力業界も含めて、今後の日本が進むべき道を議論していくことが必要である。その際に、原発事故後の現実や人々の意識の変化、ビジネス・地域の変化、省エネルギーや再生可能エネルギーの進展など、ここ数年で国内各地でも実際に起きている大きな変化にも注目する必要がある。
世界の企業や自治体は、再生可能エネルギー100%調達や大幅な省エネルギーなど持続可能で人権に配慮した気候変動対策に向けて大きく舵を切っている。同ビジョンでも電力部門の脱炭素化や産業界他での省エネ投資の規模を考慮し「将来にわたる巨大な市場が現出しつつある」と認めている。
それは経済成長とのトレードオフではなく、経営の前提でありむしろ価値を高めることにつながる。このことを具体的に実現して示すビジネスの動きが各地に表れている。日本の歴史的責任や能力を十分に考慮し長期戦略を早急に策定することは急務である。同時に、同ビジョンでも触れている地域エネルキーの最大限の活用、各地で起こっているエネルギーそして社会のシステム・チェンジの流れをとらえ先導していく野心的な(2030年までの)国別目標の見直し、そして今すぐの行動が求められる。
- 1 2015年閣議決定された国家適応計画含め政府は、海外での影響による日本の気候脆弱性、安全保障への評価をまだ検討しておらず、他の主要国に遅れをとっている
- 2 経済産業省 長期地球温暖化対策プラットフォーム(第2回会合)(2016年12月26日)提示資料
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/ondanka_platform/002_haifu.html - 3 環境省中央環境審議会 地球環境部会 長期低炭素ビジョン小委員会(第14回)(2017年3月16日)提示資料
https://www.env.go.jp/council/06earth/yoshi06-18.html