プレスリリース~IPCC横浜会合閉幕
政府の温室効果ガス排出削減対策の遅れで世界を危機にさらさないために
2014 年 3 月 31 日
国際環境 NGO FoE Japan
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横浜で 25 日から開かれていた国連の気候変動に関する科学者機関 IPCC は連日深夜までの作業の末、第二作業部会報告書の政策決定者向けサマリーを採択し閉幕した。これは 2013 年から 2014 年にかけ発表される四部からなる第五評価報告書の二番目のもので、前回から倍増した気候変動の影響の知見をもとに地域や部門ごとに自然環境や人間社会への影響がより詳細に記述されるとともに、影響への脆弱性を低減する適応策のきめ細かな評価を行っている。
日本を含む世界の政府が承認した政策決定者向けサマリーでは、新たに採用した気候変動がもたらす危険(リスク)評価のアプローチを、脅威にさらされた希少な自然・人間システム、極端気象現象、部門別リスク、地球規模の影響、大規模不可逆な現象の5つのリスクに分け評価している。 部門別の評価では、気候変動がすでに世界各地の水資源を圧迫し、熱波や干ばつ、洪水、森林火災の増大が生態系や食糧生産やインフラに悪影響をあたえている証拠がさらに明確になった。 1℃ の気温上昇でアジアを中心に沿岸部の洪水や、熱波、集中豪雨のリスクが増大し、水不足や河川氾濫にさらされる人口が増大する。農業では生産地の 2℃ の気温上昇で熱帯・温帯地帯いずれも主要穀類の生産量が減少し、毎年の収穫量が不安定となるなど食糧安全保障の障害となって行く。また社会的、経済的弱者やコミュニティーは気候変動の影響に脆弱で、すでにある貧困を悪化させ新たな貧困を生み出すことになる。
経済的影響を定量化する試みも取り上げられているが、 GDP でみると戦争がプラスに表されるように、経済指標で失われる命や文化の価値を測ることはできない。適応対策とコストを比較して排出削減を遅らせることがあってはならない。
本報告書は変動する気候に適応する施策にも大きな焦点をあてているが、サマリーは効果的な温室効果ガス排出量削減がなされない限り適応には限界があることを指摘している。
日本政府は現在中央環境審議会のもとで、来年夏の閣議決定をめざし国家適応計画を策定中である。 IPCC 会合直前の 3 月 17 日に日本の影響報告のこれまでの成果が発表されたが、日本への気候変動の影響は国内にとどまらない。貿易に依存している日本は途上国や資源・食糧輸出国に経済の根幹を依存している。 IPCC が明らかにしたこれらの国々が受けるであろう農業や経済への深刻な影響は将来の日本を直撃するということだ。適応計画づくりを進める一方で石炭火発建設を拡大し、世論が反対する原発の再稼働を口実に国内の真剣な排出削減対策を放置している現政権の姿勢は、日本のみならず世界の温暖化対策を後退させており、日本の将来世代に取り返しのつかない危機をもたらすものであることを認識すべきである。(小野寺)
本件問い合わせ先: FoE Japan 小野寺ゆうり (yurio@iea.att.ne.jp )